日本輸血細胞治療学会誌
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65 巻, 6 号
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Picture in Transfusion Medicine & Cell Therapy
総説
  • 佐竹 正博
    2019 年 65 巻 6 号 p. 847-850
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    物理化学的な処置を施すことが困難な輸血用血液製剤も,その製法や保存法を改良して,より臨床で使いやすいものにする試みが続けられている.解凍血漿(thawed plasma)は,FFPを解凍後1~6℃で5日間保存可能としたもので,第VIII因子等の活性低下は30~40%で,そのほかの因子はほぼ正常域にある.融解に必要な時間が不要で早期に投与できるため,急性大量出血の際の輸血に有効である.冷蔵血小板製剤は血小板を[35%血漿+65%血小板添加液]に浮遊させたもので,保存中の血小板の凝集はほとんどなく,血小板凝集能も15日間良好に維持できるものである.ただし輸血後の生体内寿命は短く,更なる技術開発が必要である.ヘモグロビンを脂質膜で包んだ人工赤血球(Hemoglobin vesicles)は室温で2年間保存が可能で,実用化できる段階にある.緊急の輸血や島嶼・へき地などでの輸血に威力を発揮することが期待される.iPS細胞由来血小板は,不死化した巨核球株のマスターバンクを作製しておき,そこから適宜細胞を取り出して拡大培養・分化させ,成熟血小板の製剤とするものである.正常の血小板に近い止血機能を持つことが確認されており,血小板輸血不応状態の患者への輸血などが適応として考えられる.

  • 赤塚 美樹
    2019 年 65 巻 6 号 p. 851-857
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor,CAR)-T細胞療法は遺伝子改変T細胞による養子免疫療法の一つであり,急性リンパ性白血病,悪性リンパ腫,慢性リンパ性白血病などのB細胞性腫瘍や多発性骨髄腫に対する新規治療法として近年非常に注目されている.CD19抗原を標的としたCAR-T細胞による国際共同第2相試験において,難治性B細胞性腫瘍に対して高率な寛解導入効果が示された.CAR-T細胞は短期間で調製でき,T細胞が持つT細胞受容体より高い親和性をもった抗体を抗原受容体として利用したことが成功に寄与した.また抗体を抗原受容体とすることでT細胞のHLA拘束性を考慮する必要がない.CARの構造は細胞外ドメインとし抗体のFab部分と,細胞内ドメインとしてT細胞のシグナルドメインから成る.T細胞の活性化や機能増強,体内での長期生存能を付与するために細胞内ドメインにはさまざまな工夫が施されてきた.ただし治療後にサイトカイン放出症候群などの重篤な副作用が高頻度に起こりうる他,長期的には一部に再発も認められ,今後解決すべき課題も残されている.

原著
  • 飯田 樹里, 小林 悠, 坂田 秀勝, 松林 圭二, 佐藤 進一郎, 生田 克哉, 紀野 修一
    2019 年 65 巻 6 号 p. 858-864
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    E型肝炎ウイルス(HEV)はE型肝炎の原因ウイルスである.北海道では高病原性である4型株の検出頻度が高く,また2例の輸血後感染事例が確認されたため,献血者におけるHEV核酸増幅検査を試行的に実施している.HEV陽性検体についてはRNAの定量に加えて分子系統樹解析による遺伝子型決定を行っているが,これには数日を要する.そこで3型と4型の迅速鑑別法としてマルチプレックスreal-time RT-PCR法(鑑別PCR)を開発した.3型,4型株検出用特異プローブの標識には異なる蛍光色素を用いた.鑑別PCRによる遺伝子型決定までの所要時間は約4.5時間であり,現行のHEV RNA定量検査との同時測定が可能であった.鑑別PCRの平均検出感度は,血漿1ml使用時において,3型で38IU/ml,4型で68IU/mlと推定された.またHEV陽性検体340本中297本について鑑別PCRで決定された遺伝子型は,分子系統樹解析の結果と一致した.今回開発した鑑別PCRにより,献血者本人への受診勧奨や,医療機関に対するE型肝炎に係る有用な診療情報提供が早期に可能になると考えられる.

  • 山田 麻里江, 山田 尚友, 中尾 真実, 久保田 寧, 木村 晋也, 末岡 榮三朗
    2019 年 65 巻 6 号 p. 865-869
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    交差適合試験は輸血をする上で,受血者と供血者の適合性を確認する重要な検査であり,主試験と副試験がある.「輸血療法の実施に関する指針」では,供血者の血液型検査を行い,間接抗グロブリン試験を含む不規則抗体スクリーニングが陰性であり,かつ患者の血液型検査が適正に行われていればABO同型血液使用時の副試験は省略してもよいとされ,日本赤十字社血液センターから供給される血液製剤はこれに該当する.したがって交差適合試験時に副試験を実施している施設は少ないと思われる.

    当院では,感染症患者でまれに検出される汎血球凝集反応や血液製剤中の不規則抗体の存在が,病態にあたえる影響が大きいと思われる5歳以下の患児において,間接的な血液型確認も兼ねて交差適合試験の副試験を実施している.

    今回,5歳以下の患児で血液製剤中の不規則抗体により,交差適合試験の副試験が陽性となった症例を経験し,使用済み血液製剤725本の血漿における不規則抗体スクリーニング陽性件数の割合について検討を行ったところ,11本がPEG-IAT陽性(1.52%)であった.血液製剤中の不規則抗体検出率を考慮し,副試験を実施するのであれば影響を受けやすいと思われる乳幼児を対象とすることが現実的と考えられた.

症例報告
  • 阿部 操, 大西 修司, 北 睦実, 北畑 もも香, 大澤 眞輝, 井上 まどか, 吉田 由香利, 山岡 学, 伊藤 量基, 野村 昌作
    2019 年 65 巻 6 号 p. 870-875
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    われわれは造血器疾患に対する輸血療法中に,患者とRh血液型が同型の赤血球製剤(RBC-LR)を輸血したにも関わらず,不規則抗体産生もしくは再活性化された2症例を経験したので報告する.

    症例1は2013年3月,RBC-LR輸血後に酵素法で抗Eが同定された.以降のRBC-LRはE抗原・c抗原陰性で対応していたが,2014年12月,間接抗グロブリン試験(IAT)でも抗Eが検出された.

    症例2は初回の不規則抗体検査で抗Eが同定され,RBC-LRはE抗原・c抗原陰性で対応した.抗EはIATで陰性化したが,血小板製剤(PC-LR)輸血後に再度陽性となり,さらに抗cも同定された.輸血されたPC-LRにE抗原・c抗原陽性が含まれていた.

    不規則抗体産生もしくは再活性化の原因は1例目は不明であった.今後も症例の蓄積により原因究明に努めたいと考えている.2例目は,PC-LRに含まれる微量の赤血球が関与したと考えられた.今回の2症例を経験して,RBC-LR輸血前後だけでなく,定期的に不規則抗体検査を実施する重要性を再認識した.

    当院では臨床的意義のある不規則抗体保有患者に不規則抗体カードを発行しており,不規則抗体が陰性化した状態で患者が転院した際の輸血療法の一助になればと考えている.

Open Forum
活動報告
論文記事
  • 及川 伸治, 峯岸 正好, 遠藤 希美加, 川島 航, 小砂子 智, 大山 正則, 鈴木 光, 清水 博
    2019 年 65 巻 6 号 p. 887-898
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    重炭酸リンゲル液にACD-A液を添加することにより調製できる血小板保存液BRS-A(bicarbonated Ringer's solution supplemented with ACD-A)と,血小板洗浄のための自動血球洗浄装置が新たに開発されている.本研究では,洗浄と保存にBRS-Aを用いて,自動血球洗浄装置(自動法)または用手法で調製した洗浄血小板の品質を評価した.

    ABO型が一致したアフェレシス血小板を2本プールした後,等量に分割し,コントロール群(非洗浄または用手法による洗浄)及びテスト群(自動法による洗浄)のための試験血小板とした.自動法で洗浄した血小板の7日間保存中の品質を,非洗浄血小板(Study 1)または用手法で洗浄した血小板(Study 2)と比較した.

    (Study 1)コントロール群とテスト群の7日間保存中における低浸透圧ショック回復率,凝集能,ミトコンドリア膜電位,ATP,及びCD42b平均蛍光強度は同程度であった.テスト群の3日目及び7日目のCD62P発現率は,コントロール群よりも低かった.テスト群の1日目及び2日目の血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)レベルは,コントロール群よりも高かった.対照的に,テスト群の可溶性CD40リガンド(sCD40L)及びregulated on activation,normal T cell expressed and secreted(RANTES)レベルは,コントロール群よりも低かった.(Study 2)血小板数以外の品質試験項目で統計学的有意差は認められなかった.テスト群のPDMPレベルはコントロール群よりも高かった.

    BRS-Aを用いて自動法で洗浄したアフェレシス血小板の品質は保存中も維持されること,また血小板洗浄工程の違いはPDMPレベルに影響を与えるが,sCD40LとRANTESレベルには影響を与えないことが示された.

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