日本輸血細胞治療学会誌
Online ISSN : 1883-0625
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ISSN-L : 1881-3011
66 巻, 6 号
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総説
  • 小林 博人, 石田 英樹
    2020 年 66 巻 6 号 p. 687-694
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    近年,免疫グロブリン静注療法(IVIG)の適応疾患・病態は拡大し,2019年に「抗ドナー抗体陽性腎移植における術前脱感作」が適応となった.導入時免疫抑制療法の進歩により,移植早期の細胞性拒絶反応は著明に減少したが,レシピエントがドナー特異的抗体(donor specific antibody:DSA)を有する場合,脱感作を行わないと抗体関連拒絶反応(antibody mediated rejection:AMR)を引き起こし,移植腎機能障害や機能廃絶を来す.

    IVIGは,血漿交換やリツキシマブとの併用で,クロスマッチ陽性,DSA高感作症例に対する有用性が示されている.しかし,脱感作を実施する明確なカットオフ値や最適な投与量,スケジュールは示されておらず,標準化された検査方法もまだないのが現状である.また,脱感作に成功し,移植が実施できても,AMRが生じた場合の治療方法や術後に新たに生じたDSAが関与するAMRについての治療方法も確立されていない.

    まだ残された問題は多いが,脱感作により今まで移植実施の適応外であった慢性腎不全患者に腎移植という根治療法が提供できるようになったのは意義があることである.

ガイドライン
原著
  • 水村 真也, 吉井 真司, 森 有紀, 成田 円, 関 紀子, 高橋 里奈, 櫻井 梨恵, 芳野 達弘, 髙橋 みどり, 府川 正儀, 内田 ...
    2020 年 66 巻 6 号 p. 718-726
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    再発所見のない51例のABO副及び主副不適合臍帯血移植後のレシピエント血液型抗原(R抗原)陽性の原因を解析し,R抗原吸着熱解離試験陽性及びオモテ試験弱陽性の臨床的意義を考察した.

    R抗原吸着熱解離試験陽性21例では,レシピエント由来の血漿中型物質が認められ,型物質量が多いとオモテ試験も弱陽性を呈した.また,オモテ試験弱陽性(レシピエント血液型:A型14/21例,B型0/20例,AB型1/10例)は全て抗A試薬との反応であり,試薬の種類により反応が陰性となるものがあった.型物質抑制値はB抗原よりもA抗原で有意に高かった.R抗原吸着熱解離試験陽性及びオモテ試験弱陽性例とドナー血液型変更可能例の間で,再発率や生存率に差は認められなかった.

    以上より,レシピエント由来の血漿型物質は,ドナー赤血球に吸着し抗血清と反応するが,その反応は用量依存的であること,B型物質は量が少なくかつドナー由来赤血球に吸着しづらいため抗B試薬との反応性が認められないことが示唆された.R抗原吸着熱解離試験陽性の臨床的意義は低く,移植後精査に吸着熱解離試験は不適と考えられ,また試験管法用抗A試薬は型物質の影響が少ないものを用いることが望ましい.

短報
  • 丸橋 隆行, 岩原 かなえ, 須佐 梢, 西本 奈津美, 石川 怜依奈, 関上 智美, 横濱 章彦
    2020 年 66 巻 6 号 p. 727-729
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    自己抗体陽性患者の輸血検査において血漿中の自己抗体の特異性や同種抗体の有無を確認することは極めて重要である.その際に必要となるのが赤血球に結合している自己抗体を除去することであるが,解離試薬としてクロロキン(ガンマクイン:イムコア)やZZAP(イムコアW.A.R.M.:イムコア)などが市販されている(従来法).一方,成書にはグリシン・塩酸/EDTA法が紹介されているが1),煩雑な自家調整が必要である.我々は,この解離法を市販されている類似の緩衝液を用いて行い(本法),自己抗体検査法としての可能性を検討した.同意が得られた自己抗体陽性の3症例について検討を行った.この3検体を用いて従来法と本法を実施し,解離処理前後の直接抗グロブリン試験,および自己抗体を解離した後の赤血球を用いた同種抗体の検索の結果を比較した.その結果,直接抗グロブリン試験では従来法と同程度に減弱,同種抗体の検索においても従来法と同様に同種抗体を否定することが可能であった.また,処理に要する時間も極めて短時間であった.以上のことから本法は自己抗体検査法として有用である可能性がある.

症例報告
  • 遊佐 貴司, 奥田 誠, 町田 保, 栗林 智子, 日髙 陽子, 舘野 友紀, 藤原 ゆり, 田中 美里, 瀬崎 晴美, 石橋 瑞樹, 名取 ...
    2020 年 66 巻 6 号 p. 730-734
    発行日: 2020/12/25
    公開日: 2021/01/14
    ジャーナル フリー

    自家末梢血幹細胞移植は多発性骨髄腫の治療方法のひとつである.強力な化学療法により骨髄抑制となった後にG-CSF製剤を投与,あるいはG-CSF製剤単独で投与して骨髄から末梢血に動員された幹細胞を採取する.患者は47歳男性で多発性骨髄腫と診断され,自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法が適応であり末梢血幹細胞採取を実施した.採取中に顔全体と四肢末梢の痺れを訴え,次第に増悪したため抗凝固剤ACD-A液によるクエン酸中毒を疑いカルシウム製剤を投与し,生化学検査の採血をした.しかし症状は改善しないため予測処理量に達していなかったが採取を終了した.検査結果では無機リン濃度が0.5mg/dlと重度低リン血症であった.ただちにリン酸製剤を投与し,症状は軽快した.患者は採取前から骨病変治療に投与されたビスホスホネート製剤が原因と考えられる無症候性低リン血症であった.そこにG-CSF製剤投与による白血球の急激な増加がリンの細胞内シフトを起こし,血液中リン濃度がさらに低下したことで重度低リン血症を発症したと考えられた.本症例より多発性骨髄腫患者の末梢血幹細胞採取は低リン血症のリスク要因であることが示唆された.

活動報告
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