日本輸血細胞治療学会誌
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63 巻, 5 号
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ガイドライン
原著
  • 秋山 友子, 岸野 光司, 大槻 郁子, 武井 生成, 進藤 聖子, 尾島 佐恵子, 小林 美佳, 小幡 隆, 菅野 直子, 中木 陽子, ...
    2017 年 63 巻 5 号 p. 674-682
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/22
    ジャーナル フリー

    心臓血管外科手術における自己血回収装置を用いた術中回収式自己血輸血(回収式)の同種血削減の有効性を検討した.対象は2012年4月1日から2015年3月31日までの3年間の心臓血管外科手術1,075例.回収式は77.3%(831例)で実施され,術式別では12術式中の11の回収式実施率の平均値は98.8%であった.出血量別では,出血量が増加するほど回収式実施率は高値となり,出血量4,000ml以上では100.0%となった.返血量は出血量に応じて増加するが,回収率は低値となる傾向がみられ,全体の回収率は52.1%であった.術式別の回収率に大きな差は認められなかった.出血量と返血量の相関関係はr=0.9であった.

    回収式実施群におけるRBC,FFP,PCの使用量は出血量に比例して高くなる傾向を示した.FFPとALBの使用量は,回収式実施の有無による有意差は認められなかった.RBC同種血回避率は,回収式実施手術全体では15.6%であった.3年間の回収式の返血量の合計は1,302,135mlであり,140mlを1Uに換算すると3年間で約9,301UのRBC同種血が削減されたことになる.

  • 川俣 豊隆, 衡田 経子, 阿部 結花, 尾上 和夫, 東條 有伸, 長村(井上) 登紀子
    2017 年 63 巻 5 号 p. 683-690
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/22
    ジャーナル フリー

    輸血療法を行なう上で,正確な血液型の判定は重要である.赤血球表面抗原検査であるオモテ検査と,血清中の抗A・抗B抗体の検出を行なうウラ検査の両方の結果によってABO血液型が確定される.しかし,ABO亜型など特殊な血液型以外にも,血液疾患をはじめとする各種悪性腫瘍や免疫異常など様々な病態による影響を受け,オモテ・ウラ検査不一致を認める場合がある.

    2003年1月から2015年9月までの期間中に当院輸血部にて血液型検査を受け,ABO不適合造血幹細胞移植後症例を除きオモテ・ウラ検査不一致を1度でも認めた症例の疾患背景について後方視的解析を行なった.2,455症例中61症例が,オモテ・ウラ検査不一致症例であり,その基礎疾患として,造血器腫瘍患者が多くを占めていた.判定不能の原因は,オモテ検査が20症例,ウラ検査が35症例,オモテ検査・ウラ検査両方が4症例,特定不能が2症例であった.オモテ検査では骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病,ウラ検査ではリンパ系腫瘍を基礎疾患に有する症例が多かった.オモテ・ウラ不一致症例における疾患背景を理解し,慎重に判定する必要がある.

  • 鈴木 啓二朗, 小田原 聖, 高舘 潤子, 佐々木 さき子, 後藤 健治, 木村 美代子, 村松 協子, 諏訪部 章
    2017 年 63 巻 5 号 p. 691-699
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/22
    ジャーナル フリー

    自己血採血後の遅発性副作用(delayed reactions,DRs)は,採血室外での失神や転倒につながる採血後副作用として認識されているが,その詳細は明らかではない.本研究は当院で自己血採血を行った患者(294名)のDRsの発生率と危険因子を後方視的に調査した.DRsは,採血から1週間以内に採血室外で発生し,原病と合併症以外の症状と定義した.初回自己血採血後のDRs発生患者群と非発生患者群を比較し,また多変量によるロジスティック回帰分析により,DRsの発生率と危険因子を解析した.初回自己血採血後のDRs発生率は33.7%で,症状は採血当日に最も多くみられた(26.9%).DRsを発生した患者の多くは,頭重感・頭痛,ふらつき,倦怠感,眩暈を訴えたが,ほとんどの症状は採血後4日目までに軽快した.DRsの有意な危険因子は,女性,低推定循環血液量(<3,900ml),および軽度な頻拍(75~89/分)であった.本研究は,当院の自己血採血後DRsは決して頻度の少ない副作用ではなく,その発生には自己血採血による循環動態の変化および自律神経系の変調が関与している可能性を示した.

  • 坊池 義浩, 須山 絵里子, 渡辺 嘉久, 岩本 澄清, 国分寺 晃, 杉本 健, 永井 朝子, 藤盛 好啓, 甲斐 俊朗, 三木 均
    2017 年 63 巻 5 号 p. 700-707
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/22
    ジャーナル フリー

    ハプトグロビン(Hp)抗体を保有するHp欠損患者に,血漿タンパク質成分を含有した血液製剤を輸血後,重篤なアナフィラキシーショックを起こすことがいくつか報告されている.我々は,Hpdel遺伝子ホモ接合体のHp欠損患者2人を経験した.これら2人の患者は,2回洗浄した赤血球の輸血により副作用を起こさなかった.そこで我々は,洗浄回数と血液製剤中に残ったHpの濃度を検討した.洗浄赤血球(WRC),解凍赤血球(FTRC),洗浄血小板(WPC)の各5製剤中のHp濃度を測定した.洗浄前の赤血球製剤(RBC)のHp濃度の平均値は98.800μg/ml,1回洗浄WRCの平均値は3.044μg/ml,2回洗浄WRCの平均値は0.233μg/ml,3回洗浄WRCの平均値は0.038μg/mlであった.1回,2回,3回洗浄後WRCの有意差は,それぞれp=0.0089,p=0.0019,p<0.0001であった.FTRCのHp濃度の平均値は5.116μg/mlであった.血小板製剤(PC)の血漿Hp濃度の平均値は656.600μg/ml,1回洗浄WPCの平均値が7.262μg/ml,2回洗浄WPCの平均値が0.463μg/mlであった.1回,2回洗浄後WPCの有意差は,それぞれp<0.0001,p=0.0016であった.これらの結果に基づき,我々はHp抗体を保有するHp欠損患者には,2回洗浄のWRCやWPCを輸血することが望ましいと考える.

  • 平 力造, 三輪 泉, 後藤 直子, 石野田 正純, 松山 宣樹, 保井 一太, 渡辺 嘉久, 中島 文明, 平山 文也, 佐竹 正博
    2017 年 63 巻 5 号 p. 708-715
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/22
    ジャーナル フリー

    日本赤十字社では,非溶血性副作用にかかる患者検体等の調査として抗血漿タンパク抗体検査,血漿タンパク欠損検査,IgE検査,トリプターゼ検査及び抗HLA抗体検査を実施してきた.

    患者の抗血漿タンパク抗体陽性率は,副作用分類と重篤度に関連性はなく,患者のIgA,ハプトグロビン(Hp)の欠損は,副作用発症のリスクとなることが示唆された.トリプターゼ検査は,アレルギー反応を示す副作用で有意に高い陽性率を示したが,検体の採取時間によっては陽性率が低下することが示された.一方,IgE検査と抗HLA抗体検査は,副作用分類別に陽性率に有意な差がなく,副作用との関連性は認められなかった.

    これらの検査結果を踏まえ非溶血性副作用における患者検体の検査項目は,IgAとHpは抗血漿タンパク抗体検査及び欠損検査を継続し,トリプターゼは検査値の信頼度向上を目的に副作用発症後6時間までに採取した検体の検査を継続することで輸血の安全性向上に寄与する.

    また,調査対象としては重篤な症状を示した患者を対象とし,より効率的な検査体制を構築するとともに新たな検査項目導入の可能性を探求する.

症例報告
  • 細川 美香, 中山 小太郎純友, 櫻木 美基子, 中尾 まゆみ, 森川 珠世, 清川 知子, 青地 寛, 永峰 啓丞, 加藤 恒, 冨山 佳 ...
    2017 年 63 巻 5 号 p. 716-722
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/22
    ジャーナル フリー

    低力価寒冷凝集素症(Low titer cold agglutinin disease:Low titer CAD)は,低力価の寒冷凝集素が22%アルブミンを用いた測定法により著明に上昇し,30℃以上でも活性を示す特徴を有する.本論文では37℃条件下でも強い自己凝集を認めたLow titer CADの症例を経験し,その解析法を検討した.寒冷凝集素が引き起こす赤血球の自己凝集は,ABO血液型オモテ検査やRhD血液型検査を実施する上で障害となった.対処法として37℃あるいはそれ以上の加温条件下での検体管理や,温生食による血球洗浄を試みたが,自己凝集が強く自己凝集の抑制は困難であった.そこで我々は0.01M Dithiothreitor(DTT)を用いてIgM型抗体のジスルフィド(S-S)結合を還元的に切断し,自己凝集を抑制し,A型RhD陽性と判定した.Flow cytometryでの解析にて患者赤血球上のIgM型抗体が不活化されたことを確認した.また,輸血の際には同種抗体の有無も重要となるが,寒冷凝集素の作用温度域が広いため同種抗体の有無を判定出来なかった.そこで,患者血漿をDTT処理しIgG型の同種抗体は存在しないことを確認した.以上より,強い自己凝集を誘導する寒冷凝集素への対処法としてDTT試薬は操作が簡便であり,管理しやすく有用であると思われた.

短報
  • 金子 なつき, 田中 一人, 玉井 佳子, 小山内 崇将, 久米田 麻衣, 阿島 光, 村上 知教, 柴崎 至, 伊藤 悦朗
    2017 年 63 巻 5 号 p. 723-726
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/22
    ジャーナル フリー

    将来的医療構想が小規模・在宅医療機関へシフトする方策を勘案すると,小規模施設における安全で適正な輸血療法の担保は重要だが,その実態は不明な点が多い.今回,2015年度に青森県内の赤血球輸血実績を持つ全医療機関144施設にアンケート調査をした.【結果】118施設から回答(回収率81.9%)があった.診療所(0~19床)の検査技師在籍施設は49施設中10施設(20.4%)に留まった.ABO血液型検査に問題がある施設が8施設(6.8%),交差適合試験が不適切である施設が11施設(9.3%),4施設(3.4%)が両者ともに不適切であった.不規則抗体スクリーニングは20施設(16.9%)が不適切であった.輸血に関する検査不備は,診療所に多く,年間輸血袋数を勘案すると,特に有床診療所(1~19床)が問題となることが分かった.【まとめ】複数の小規模施設で輸血検査が不適切である現状が明らかになった.今後,日本輸血・細胞治療学会から公表が予定されている「在宅赤血球輸血ガイド」等を利用して,県合同輸血療法委員会による小規模施設への正しい輸血検査法の情報提供や教育介入を予定している.

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