日本輸血細胞治療学会誌
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69 巻, 4 号
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総説
  • 小湊 慶彦, 佐野 利恵, 早川 輝, 高橋 遥一郎, 小笠原 健一
    2023 年 69 巻 4 号 p. 513-522
    発行日: 2023/08/25
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

    ABO血液型は,赤血球上のA抗原・B抗原と血清中の抗A抗体・抗B抗体からなるシステムであり,その型判定は安全な輸血医療に必須である.ABO血液型は20世紀初頭に発見され,1960年代に抗原の糖鎖構造が解明され,A抗原・B抗原合成に関わる糖転移酵素の精製や特異抗体作製等の研究が行われ,ワシントン大学バイオメンブレン研究所(所長箱守仙一郎博士)の山本文一郎博士らが遺伝子構造を報告した.その後,転写調節機構の解明が進められ,細胞非特異的プロモーター,赤血球系細胞特異的転写活性化領域,上皮系細胞特異的転写活性化領域が同定され,それらの変異が亜型を惹起することが明らかにされた.この総説ではABO遺伝子の転写調節に焦点を当て,その視点から亜型やABO血液型に関わる現象の分子基盤について述べる.

原著
  • 板垣 浩行, 中塩屋 千絵, 今泉 満明, 吉川 千尋, 杉本 達哉, 豊﨑 誠子
    2023 年 69 巻 4 号 p. 523-529
    発行日: 2023/08/25
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

    当院では末梢血幹細胞採取中に採取バッグ内CD34陽性細胞数(中間値)を1回測定し,以降同等の採取効率が得られると仮定し,目標CD34陽性細胞数を確保するための処理血液量を決定している.本研究は中間値による処理血液量決定が,適切な細胞採取と患者負担軽減に寄与しているかを検証した.対象は2019年1月から2020年12月までに実施した自家末梢血幹細胞採取75回で,中間値と採取後バッグ内CD34陽性細胞数(最終値)の相関関係が確認された(r=0.953).また,回帰式と中間値より予測した最終値に対し,実測の最終値が何%に相当するかを確認した結果,59回(79%)が80%以上であり中間値の信頼性が確認された.採取時間短縮については対象期間に1日で採取終了した59例で解析した.処理血液量250ml/kgで採取した場合と比べ,53例(90%)で中央値95分の時間短縮が認められた.250ml/kgを超えて採取した6例(10%)では中央値で19分延長したが,1日で目標細胞数を採取できた.以上より,中間値の測定により効率的かつ的確に目標細胞数を確保することができ,患者負担軽減に繋がると考えられた.

  • ~ウィズコロナ時代の血液製剤の使用について~
    藤原 慎一郎, 岡本 好雄, 北澤 淳一, 佐藤 智彦, 牧野 茂義, 安村 敏, 山本 晃士, 横濱 章彦, 米村 雄士, 菅野 仁, 田 ...
    2023 年 69 巻 4 号 p. 530-537
    発行日: 2023/08/25
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

    2021年度の日本における輸血用血液製剤,血漿分画製剤の使用実態を調査した.日本赤十字社から血液製剤が供給された施設の51%から回答が得られ,総血液製剤量は供給された血液製剤の81%が登録される調査となった.コロナ禍の前後で,輸血実施施設数は減少し,特に小規模施設の減少がみられた.自己血輸血全体では,推定輸血患者数,実施施設数,年間使用単位数は減少傾向を示したが,希釈式自己血使用施設は増加傾向を示した.輸血用血液製剤は各製剤の一病床当たりの年間使用単位に大きな変化はなかったが,大規模施設では一病床当たりのグロブリン製剤の年間使用量の増加傾向を認めた.血液製剤の廃棄率は赤血球製剤および血漿製剤で減少を認めた.輸血管理体制では,小規模施設における輸血管理体制の整備,臨床輸血看護師の配置,グロブリン製剤や回収式自己血輸血への輸血部門の関与が課題であった.血液製剤の適正使用の評価やそれを業務として認識している施設は少なかった.

  • 宮﨑 卓, 白木 喜子, 中村 仁美, 相良 康子, 松﨑 浩史
    2023 年 69 巻 4 号 p. 538-546
    発行日: 2023/08/25
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

    血小板(PC)輸血に起因する細菌感染症は,輸血の安全性確保にとって長年の課題となっている.細菌汚染PCによる輸血副作用を低減化する試みとして,混入細菌の検出法の開発や細菌不活化の技術開発が進められてきた.これらの方法は細菌あるいは細菌に汚染された製剤の排除に有効であるものの,その多くには判定までに日数を要する,操作が煩雑である,特殊な装置を必要とするといった難点がある.輸血後細菌感染症の致死的な症例では高い確率でグラム陰性菌がその原因菌となっている.グラム陰性菌による細菌感染症では多臓器不全やショックの原因物質としてエンドトキシンが検出されるが,我々はグラム陰性菌とエンドトキシンの関係に着目し,リムルス試験のゲル化転倒法によりエンドトキシンを測定し,PC中のグラム陰性菌汚染を迅速に検出する方法を考案した.本法は操作が簡便で短時間で実施でき,輸血直前にエンドトキシン試験を行うことにより,重篤な症状を引き起こす可能性のあるグラム陰性菌汚染PCを高い確率で検出・排除することが可能である.

活動報告
  • 中川 智裕, 嶋 裕子, 高橋 幸博, 赤井 靖宏, 松本 雅則, 櫻井 嘉彦
    2023 年 69 巻 4 号 p. 547-552
    発行日: 2023/08/25
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

    【背景】奈良県赤十字血液センターは,奈良県立医科大学臨床研修センターと提携し,臨床研修医全員に健診医師としての献血業務研修を実施している.研修後の,血液製剤に対する安全対策および血液事業に関する理解度について検討する.【方法】研修修了後に輸血用血液の安全対策についてレポート提出を課しているが,感想の自由記載も認めている.過去3年間に提出されたレポートを対象にKH Coderを用いて計量テキスト分析を行った.【結果】レポート150本を対象とした計量テキスト分析により,感染対策としての問診や検査の重要性が認識されていることが確認された.93本に自由記載を認め,血液製剤が献血者の善意と血液センターによる安全対策から成り立っていることへの理解が明らかとなった.【考察】臨床研修医が健診業務を経験することは,血液製剤に対する安全対策および血液事業についての理解の向上につながる意義のあるものと思われた.

論文記事
  • 渕崎 晶弘, 保井 一太, 林 智也, 田中 光信, 永里 朋香, 大西(和田) 朋子, 細川 和也, 藤村 吉博, 下垣 一成, 平山 文 ...
    2023 年 69 巻 4 号 p. 553-561
    発行日: 2023/08/25
    公開日: 2023/09/08
    ジャーナル フリー

    【背景と目的】現在,血小板(Platelet:PLT)製剤の品質評価は,検査材料としてのPLTのみを分析する一連のin vitro試験で行われている.しかしながら,連続的な止血過程に近い条件下でPLT生理機能を評価することが理想的である.そこで本研究では,マイクロチャンバーを用いて,一定のせん断応力(600/s),赤血球(Red blood cell:RBC)および血漿の存在下,PLT製剤の血栓形成能を評価するin vitroシステムの開発を試みた.

    【材料と方法】血液サンプルは,PLT製剤,標準ヒト血漿(Standard human plasma:SHP),標準RBCを混合して再構成した.各成分は,他の二成分を定値とし連続的に希釈した.このサンプルをフローチャンバーシステム(Total Thrombus-formation Analysis System[T-TAS])に供して,大動脈せん断応力条件で白色血栓形成(White thrombus formation:WTF)を評価した.

    【結果】試験サンプルのPLT数とWTFは良好な相関性を示した.SHP 10%以下含むサンプルのWTFは,SHP 40%以上含むサンプルより有意に低値であり,SHP 40%~100%の範囲では差を認めなかった.赤血球非存在下においてWTFは有意に低下したが,赤血球存在下においてWTFはヘマトクリット値12.5%~50%の範囲で差を認めなかった.

    【結論】再構成血液を用いてT-TASで評価されたWTFは,PLT製剤の品質を定量的に判断するための新しい生理学的血栓試験として役立つと考えられる.

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