日本輸血細胞治療学会誌
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69 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 大戸 斉, 秋野 公造, 牧野 真太郎, 碓氷 章彦
    2023 年 69 巻 5 号 p. 563-569
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    日本ではかつてフィブリノゲン製剤を使用した患者が,C型肝炎ウイルスに感染する被害を受けたことにより,1998年以降の効能・効果は先天性無(低)フィブリノゲン血症のみに限定され,危機的出血への適応は除外されてきた.その後,一部医学会等による適応拡大に向けた取組は,審査当局より歴史的経緯を理由に見送られてきた.閉塞した状況の中,輸血・細胞治療学会,産科婦人科学会,心臓血管外科学会の三学会は薬害HIV訴訟原告団の大平氏,花井氏,秋野参議院議員の協力を得て,製剤が危機的出血にも使用できるよう活動を開始した.公開討論と秋野議員による国会質疑を経て,厚生労働省がようやく動き,「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の審議を経て,2021年産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症に対する保険適用が実現した.産科婦人科学会はフィブリノゲン製剤の適正使用について全数調査を行い,心臓血管外科学会は,フィブリノゲンを高濃度で含むクリオプレシピテートを代替として使用しつつ,適正使用に向けて観察研究を実施している.医療者は議論を後押しした被害者の意に背かぬよう適正使用を徹底し,薬害を二度と繰り返さないことが肝要である.

  • 大戸 斉, 内川 誠, 伊藤 正一, 和田 郁夫, 川畑 絹代, 徳永 勝士
    2023 年 69 巻 5 号 p. 570-579
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    日本からは初めて国際認定登録されたKanno血液型(ISBT 037)は現時点では1抗原(KANNO1)から成る.KANNO1抗原はあらゆる人類集団・地域において高頻度抗原であるが,東アジアと南アジアではデータベースから理論上KANNO1抗原陰性者とヘテロ接合体保有者が存在する.KANNO1抗原はGPIアンカー糖蛋白であるプリオン蛋白にあり,20番染色体短腕上にある遺伝子PRNPによって規定される.抗KANNO1は現在まではほぼ日本人に限定して見出されている.抗KANNO1は主に妊娠中または妊娠歴のある女性に検出され,輸血歴を有す男性では少ない.臨床的に明らかな溶血性輸血反応や胎児・新生児溶血性疾患をきたした抗KANNO1保有症例は報告されていないが,輸血赤血球寿命の短縮や血小板輸血不応への関与の可能性はある.また,未発見のKANNO2,3,..抗体保有者も存在すると予想する.

原著
  • 山田 千亜希, 石塚 恵子, 杉村 明璃, 大石 美月, 桑原 碧, 高木 唯衣, 猪野 楓, 根本 直紀, 榛葉 隆人, 古牧 宏啓, 芝 ...
    2023 年 69 巻 5 号 p. 580-588
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    採血前や輸血前での患者照合システムの運用状況と,システムの院内採用後に発生した患者誤認のインシデントおよびアクシデントに関し,多施設アンケート調査を実施した.2020年10月から2022年3月までに26施設より調査票が提出された.採血前は15施設(58%),輸血前は25施設(96%)で患者照合システムが採用されていた.手術室,救急外来,血管造影室等では,システムが導入できていない施設が報告された.システム採用後のインシデントおよびアクシデントは12施設より70例が報告され,うち52例(74%)はシステムを導入している場所で発生した.内容は,別患者から採血した(17例),患者照合せずに輸血した(8例),別患者の血液製剤を輸血した(7例)等であった.52例中41例(79%)では,事例発生時に患者照合システムが適切に使用されていなかった.理由は,患者照合の必要性を知らなかった(9例),患者照合を忘れた(5例),緊急対応のため患者照合をスキップした(3例)等であった.患者照合システムの導入を推進し,確実に患者照合してもらうため,システムの有用性を輸血部門が積極的に臨床側に発信する必要がある.

  • 藤原 満博, 金敷 拓見, 布施 久恵, 有澤 史倫, 若本 志乃舞, 生田 克哉, 秋野 光明, 紀野 修一
    2023 年 69 巻 5 号 p. 589-598
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    全血から調製されるプール血小板濃厚液(PC)は,少子高齢化による献血者不足対策の一つとなる可能性がある.本検討では,自動血液分離機能を持つ欧州仕様大容量遠心機TACSIを用い,400ml全血から,血漿の一部を血小板保存液(PAS)に置換したプールPAS-PCの調製を行い,21日間にわたる室温(22℃)または冷蔵(4℃)保存における品質を比較した.

    バフィーコート(BC)4バッグのプール(n=4)では10単位以上,BC 5バッグのプール(n=4)では15単位以上のプールPAS-PCが得られ,それぞれ本邦のPCの基準を満たした.プールPAS-PCの室温保存では,血小板凝集能,低浸透圧ショック回復率(%HSR),血餅形成能が保存5日目まで良好に保たれた.冷蔵保存では,%HSRが保存後早期から低下したが,凝集能や血餅形成能は14日目まで,室温保存5日目と同等に維持された.

    以上より,欧州仕様TACSIを用いることにより,400ml採血全血から良好な品質をもつプールPAS-PCが得られることが確認された.また,冷蔵により14日間までは保存できる可能性が示唆された.

症例報告
  • 米元 めぐみ, 紺谷 圭奈美, 岡島 さやか, 伊佐 和美, 常山 初江, 宮崎 孔, 渡邉 理香, 藤川 奈央, 中邑 幸伸, 平田 康司 ...
    2023 年 69 巻 5 号 p. 599-604
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    Kell血液型抗原は,そのほとんどがKEL遺伝子のミスセンス変異によることが明らかにされており,現在,国際輸血学会において,37種類の抗原が登録されている.その中で,26番目の抗原として登録されているKEL26(TOU)は,1995年にネイティブアメリカンの男性とラテン系の女性から検出された高頻度抗原に対する抗体が発端である.

    今回,血清学的検査でKell関連抗体が示唆され,遺伝子解析により抗体の特異性が推定できた症例を経験した.

    症例のKEL遺伝子は,KO(Kellnull)型に対応するKEL*02N.24とKEL26陰性に対応するKEL*02.-26のヘテロ接合型と推測された.KEL*02.-26は,c.1217G>Aの置換によりKEL26の抗原活性を担う406番目のアルギニンがグルタミンへ置換することが報告されており,抗KEL26の保有が推定できた.

  • 鷲尾 佳奈, 塩飽 孝宏, 爲房 宏輔, 越智 元春, 石田 悠志, 金光 喜一郎, 藤原 かおり, 塚原 宏一
    2023 年 69 巻 5 号 p. 605-609
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    小児がん患者における輸血後鉄過剰症については,海外からは報告が散見される.成人と同様,白血病等における同種造血細胞移植患者において,移植前の血清フェリチン値と合併症の相関等が議論されているが,日本国内からはまだまとまった報告はない.我々は,肝障害を来し,輸血後鉄過剰症と肝移植片対宿主病(GVHD)との鑑別に磁気共鳴画像(MRI)が有用であった2例を経験した.2例とも急性骨髄性白血病であり,肝GVHDとして免疫抑制療法等を行ったにもかかわらず遷延する肝障害を呈していた.高フェリチン血症を認めたためMRI撮像したところ,高度鉄沈着を示唆する所見を呈した.輸血後鉄過剰症として鉄キレート療法を行って肝障害が改善した.小児がん患者において,骨髄抑制期間が長く頻回の輸血を要するような症例では,急性期に臓器障害を伴う輸血後鉄過剰症を示す可能性があるが,治療介入の指針や時期については明らかになっていない.今後日本国内でも大規模な調査が必要と思われる.

  • 水村 真也, 高橋 里奈, 関 紀子, 櫻井 梨恵, 芳野 達弘, 吉井 真司, 海堀 いず美, 府川 正儀, 田矢 祐規, 髙橋 敦子, ...
    2023 年 69 巻 5 号 p. 610-614
    発行日: 2023/10/05
    公開日: 2023/10/25
    ジャーナル フリー

    治療抵抗性急性骨髄性白血病(AML)の30代女性患者に対して初回の臍帯血移植(CBT,有核細胞数1.72×107個/kg)を行ったところ,輸注時に呼吸困難,SpO2低下,血圧低下を伴うアナフィラキシーを認めた.直ちに輸注を中止し,エピネフリン筋注+補液で対処した.輸注は80%以上が完了していたため再開しなかった.移植後25日目に生着を確認した.その後AMLの再発を認め,移植後18カ月の時点で2回目のCBTを検討,実施にあたりアナフィラキシー予防として臍帯血の洗浄を実施した.有核細胞数3.20×107個/kgの臍帯血を37℃の恒温槽で急速解凍後,アルブミン・生食加デキストラン(ALB/D)液を急激な浸透圧変化を避けるため低温で緩徐に混和した.冷却遠心後に上清を捨て,再びALB/D液を加え最終容量50mlとした.洗浄後の生細胞率は89.8%,有核細胞回収率は80.5%であった.明らかな副反応は認めず移植後13日目に生着,91日目に退院となった.

    臍帯血の洗浄は,輸注時のアナフィラキシー予防として,有核細胞回収率及び生細胞率共に良好かつ生着も担保され得る有用な手段であることが示唆された.

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