日本輸血細胞治療学会誌
Online ISSN : 1883-0625
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69 巻, 3 号
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原著
  • 北川 順一, 福永 景子, 大島 有美, 木下 聖次郎, 渡邉 宜典, 臼田 直美, 笠原 千嗣, 池本 純子, 池亀 和博
    2023 年 69 巻 3 号 p. 411-417
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    【目的】難治性造血器腫瘍に対して,ステロイドを用いた血縁者間HLA不適合造血幹細胞移植は有効な手段であるが合併症も多い.移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)は特に治療に難渋する合併症だが,血漿交換療法(PE)が時に奏効する.TA-TMAに対するPEの臨床的意義について,血縁者間HLA不適合造血幹細胞移植での報告は少なく,今回検討した.【方法】2016年10月から2021年9月に,血縁者間HLA不適合造血幹細胞移植後にTA-TMAを発症しPEを施行した22例を,後方視的に検討した.【結果】年齢中央値は36歳.非寛解期21例,両方のHLAハプロタイプが異なる移植4例.移植回数2回目10例,3回目以上9例.GVHD予防はタクロリムス+メチルプレドニゾロンを用いた.PEは15例(68.2%)において有効で,有効例ではTA-TMA発症からPE開始までの期間がやや短かった.PE中に3例で心不全徴候を認めたが可逆性であった.同種移植後100日生存率は50.0%,1年生存率は9.1%であった.【結論】血縁者間HLA不適合造血幹細胞移植後のTA-TMAに対しPEは有効かつ安全である可能性がある.

  • 古川 良尚, 大木 浩, 宮下 幸一郎, 野村 秀洋, 大塚 眞紀, 砂原 伸彦, 時村 洋, 宮園 卓宜, 高山 千史, 田畑 千穂子, ...
    2023 年 69 巻 3 号 p. 418-426
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    鹿児島県離島における輸血医療に関して院内血(warm fresh whole blood)の使用を含めて実態調査を行った.

    鹿児島県赤十字血液センターから120km~160kmと比較的近距離にある種子島,屋久島では,輸血必要患者に自施設で対応できない場合,島内中核医療機関へ搬送され,必要に応じて本土の医療機関に搬送されていた.

    一方,約390km~600kmと遠距離にある奄美大島,喜界島,徳之島,沖永良部島では,自施設で対応できない場合,当該離島中核医療機関,又は奄美大島の医療機関へ搬送され,輸血目的のみで本土医療機関への搬送は行われていなかった.

    日本赤十字社の赤血球在庫を5離島の6施設で保有していたが,3年間で6離島,44人に院内血が使用されていた.大量出血時に血液が緊急に入手困難であることが1つの要因と考えられた.

    院内での輸血管理体制改善を進めると共に各離島の中核医療機関への輸血供給備蓄体制の充実が求められる結果となった.また奄美大島は本土からの距離,人口の多さ,島内に搬送先となる医療機関が複数あることを考慮すると血液供給体制への更なる配慮が必要と考えられた.

  • 吉岡 章, 櫻井 嘉彦, 嶋 裕子, 中川 智裕, 高橋 幸博, 藤村 吉博, 石指 宏通, 若月 幸平, 須崎 康恵, 赤井 靖宏, 松本 ...
    2023 年 69 巻 3 号 p. 427-433
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    血液事業は日本赤十字社が担当する国家的な重要医療インフラの一つであるが,一般的に医師の血液事業に対する認識は表面的理解にとどまることが多い.また,本事業においては,安全で良質な血液の確保に関わる献血健診医の役割は大きいが,血液センター専任医師と献血健診医師は質量ともに不足状態が続いている.我々が実施している「奈良方式」は,奈良県立医科大学医学科学生への卒前教育としての附属病院輸血部における“教育・実習(14時間)”と奈良県赤十字血液センターにおける“献血ドナー体験を含む実習(3時間)”,および同附属病院臨床研修医への卒後研修としての奈良センターでの1週間の“On-the-Job Trainingによる献血業務研修”で構成されている.健診医師数を中心にその成果について検討したところ,奈良方式履修医師の献血健診への貢献が明らかになった.血液センターにとっては業務上負担感のある医学生と研修医への実習と研修であるが,これらを積極的,継続的に実施する「奈良方式」は,医師の血液事業に対する認識を深めるとともに,血液事業に資する献血健診医の育成と確保に有効かつ効果的に機能するものと考える.

  • 吉政 隆, 松本 真実, 池田 洋平, 蕎麦田 理英子, 小島 牧子, 松林 圭二, 佐竹 正博
    2023 年 69 巻 3 号 p. 434-441
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    本邦において,血液製剤中の細菌汚染による副作用は未だに発生しており,血液事業上,新たな細菌汚染対策は必須である.今回,細菌接種後に振盪保管した血小板製剤(PC)試料を用いて,血液培養自動分析装置BacT/ALERT VIRTUO(VIRTUO)による培養法と細菌16S rDNAリアルタイムPCRによる遺伝子検査法(PCR法)の細菌検出能を比較した.4菌種8株の細菌を用いた比較試験の結果,細菌接種後40時間振盪保管したPC試料において,寒天塗抹培養法によって検出限界以下(<10CFU/ml)となった試験検体以外は,二法ともすべて陽性と判定され,PCR法でもVIRTUOと同等程度に混入した細菌を検出できることが示された.しかし,極低濃度の細菌がPC中に存在し続ける場合,PCR法はVIRTUOに比べて検出能が低い可能性が示唆された.一方でPCR法はVIRTUOに比べて検査時間が約3時間と短く,内部標準DNAによるPCR反応阻害のモニタリングも可能である.今後細菌DNAのコンタミネーションに対応した核酸増幅検査試薬や自動化機器が開発されれば,細菌スクリーニング検査法の一つとして期待できる.

  • 横田 晶子, 高梨 丈治, 比嘉 聖菜, 原 優子, 中山 一隆, 佐藤 真由美, 田近 賢二
    2023 年 69 巻 3 号 p. 442-447
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    妊産婦は児赤血球抗原に対するIgG型同種抗体を産生することがあり,胎児・新生児溶血性疾患(HDFN)の原因となりうるため,妊産婦の不規則抗体検査は重要である.当院の不規則抗体検査数は10年間で延べ9,029件に達し,妊産婦6,516名中47名に抗体が確認された.全員RhD陽性者であり,検出された抗体は抗Eが全体の29.8%を占め,次いで抗Lea 23.4%,抗Jra 12.8%の順であった.6名が複数抗体を保有し,内3名は抗E+抗cであった.37名において,妊娠回数と検出抗体との関連性の解析ができ,妊娠1回目の妊産婦(16名)では,62.5%が冷式抗体やLewis関連抗体を保有していたが,全例で抗体価が8倍以下であった.妊娠2回~4回以上の妊産婦(21名)では,Rh関連抗体が76.2%を占め,42.9%が抗体価16倍以上であった.今回検討した抗体保有妊産婦のうち,1例がHDFNを発症した.本症例の第2子妊娠時に検出された抗C+抗e抗体価は,第三子出産時に検出感度以下となっていたことから,これら以外の抗体の関与が考えられ,ABO血液型不適合が原因であることが確認された.以上より,不規則抗体検査及び抗体価測定を定期的に実施することにより,HDFN症例に迅速な対応ができると考えられた.

  • 奥田 誠, 舘野 友紀, 田中 朝志, 紀野 修一, 岡崎 仁, 松下 正, 遠藤 輝夫, 松浦 秀哲, 松本 雅則
    2023 年 69 巻 3 号 p. 448-456
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    血液製剤の保管に必要な保冷庫は,自記温度記録計付きおよび外部警報付きの保冷庫である.小規模医療施設や在宅治療を行うクリニックなどでは,血液製剤の一時保管として家庭用冷蔵庫を使用している施設が散見されており,血液製剤保管管理マニュアルに適さない状態で使用されている.そこで,血液製剤が安全に保管できるかを検証するために,各種保冷庫で模擬血液製剤を用いて保管中の袋内部温度の調査を行った.検討は,日常使用の条件下で実施した.各種保冷庫内の模擬血液の袋内部温度は,血液専用保冷庫で最低温度3.4℃,最高温度で5.7℃であった.4℃設定の薬品保冷庫では最低温度1.0℃,最高温度3.9℃であった.「強」設定の家庭用冷蔵庫では,最低温度-4.8℃,最高温度10.0℃であった.血液専用保冷庫以外でやむを得ず一時的に輸血用血液製剤を保管する場合は,過冷却を防止し庫内温度の安定した位置で保管するなどの策を取ること,さらに,経時的な記録が可能な自記温度記録計や警報装置を備えておくことが必要と考えられた.

活動報告
  • 堀 良子, 抜迫 雄大, 上野 伸広, 牧 紀仁, 瀬戸山 志穂, 入江 良彦, 大木 浩
    2023 年 69 巻 3 号 p. 457-463
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    2018年奄美大島にあった血液備蓄所が撤退し,血液需給に悪影響を及ぼしたことを2019年,2020年に本学会で報告した.報告以後の4つの事象の検証を行った.1.喜界島血液緊急融通を構築し,血液到着所要時間を最大12時間短縮できることが確認された.2.「鹿児島県内離島における緊急時の血液搬送体制」を検証したが,天候,条件,運用の観点から現実的な利用が困難であることが確認された.3.台風時航空機運航・欠航情報のリアルタイム情報共有システムを構築し,運航状況を予測した血液製剤の発注が可能となった.4.奄美大島緊急時供血者登録制度による供血者登録を献血バス来島時の年1回から2回に増やした.また,島内すべての医療機関に輸血医療に対するアンケート調査を実施した結果,奄美大島の医療機関は備蓄所設置を渇望していることが明らかになった.離島の血液需給の困難は解決できず,内地との格差が現存している.

  • 難波 寛子, 柴田 玲子, 吉田 琴恵, 池田 洋子, 國井 典子, 牧野 茂義, 武田 航, 小島 稔, 福田 隆浩, 上田 恭典, 日野 ...
    2023 年 69 巻 3 号 p. 464-469
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    学会認定・アフェレーシスナース(ApheNs)の末梢血幹細胞採取(PBSCH)への関与と,院外からの人的支援の必要性についてアンケート調査を行った.非血縁者間末梢血幹細胞採取認定施設に在籍しているApheNsの大多数がPBSCHに貢献していたが,7割弱の施設でApheNsが不在で,人的支援を希望する職種としてはApheNsが最多だった.人的支援の必要性は施設間で状況が異なることがわかった.

    また,穿刺や採取中のモニタリングを医師が多く担当しており,アフェレーシス需要の高まりの中,医師の働き方改革施行を目前に控えて更なるタスクシフトの必要性が明らかになった.

    ApheNsの68.3%を占める血液センター所属ApheNsは,豊富なアフェレーシス経験および健常人対応,手順遵守能力をもってPBSCHの質向上に寄与する素地がある.一方で,実際にPBSCHに貢献するためには,法的問題を含めて課題が多く残る.

  • 山川 朋世, 篠原 茂, 簗瀬 直樹, 小林 歩, 神長 亮平, 髙野 友香, 櫻井 梓帆里, 池田 紀彦, 高柳 玲子, 高橋 渉, 三谷 ...
    2023 年 69 巻 3 号 p. 470-475
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    輸血用血液製剤は,自動記録計と警報装置が付いた輸血専用保冷庫に保管する必要がある.当院手術部では手術部内での血液製剤取り違え防止のため,輸血部から出庫した赤血球製剤はナースステーション内保冷庫には一括保管せず,各手術室の埋込型保冷庫に保管し,未使用赤血球製剤は全て廃棄となっていた.今回我々は輸血温度監視システムを導入し,手術室埋込型保冷庫の温度を遠隔で監視することにより,一時保管可能な保冷庫とした.これに伴い手術室からの返品運用を開始した.その他,24時間輸血専任技師体制の開始や分割出庫の強化などの取り組みにより,2016年度に1.38%だった全製剤の廃棄率が2021年度は0.29%に減少した.また,輸血温度監視システム導入後の4年間で3,666単位の赤血球製剤が院内で有効利用された.

  • 大木 浩, 浦元 智司, 松浦 甲彰, 園田 大敬, 中野 秀人, 田中 朝志
    2023 年 69 巻 3 号 p. 476-483
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    奄美大島は鹿児島市から南に380km離れた場所に位置し,喜界島は更に20km離れた距離にある.輸血用血液製剤は奄美大島,喜界島ともに鹿児島市から民間航空機により搬送される.日赤へ血液製剤を発注する際には航空機の初便・最終便の時間が製剤到着までの律速段階となり,かつ到着まで最短でも5時間を要する.我々は血液緊急融通のために奄美大島から喜界島に血液搬送する仕組み「喜界島血液緊急融通」を構築した.1.奄美大島から喜界島までの血液緊急搬送に航空機を用いる場合,2.患者搬送を前提としてドクターヘリを用いる場合,3.フェリーを用いる場合の要請可能最終時刻はそれぞれ午前5時35分,16時10分,19時40分でありフェリーを用いる場合が最も有利であった.フェリーとATRを用いた「喜界島血液緊急融通」構築によって緊急時血液入手時間は平時の日勤帯に比較して51%(8.1時間)減少させることが可能となった.

  • 内藤 友紀, 秋野 光明, 清水 香織, 増子 和尚, 関本 達也, 生田 克哉, 紀野 修一
    2023 年 69 巻 3 号 p. 484-490
    発行日: 2023/06/26
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル フリー

    非血縁者間造血幹細胞移植における臍帯血移植数は年々増加し,2020年は全体の約58%であった.一方,移植用臍帯血の公開登録数は低迷しており,原因として臍帯血バンクの認知度の低さが考えられる.我々は,産科医療機関,妊婦や子育て世代,一般市民の各々を対象とした普及啓発活動に取り組んだ.既に採取協力を得ている医療機関には定期訪問数を増して情報提供を強化し,未協力の産科施設には医師らと面談し新たに3施設から協力を得た.妊婦に対しては母親教室での講話やパンフレット配布を始めたが,コロナ禍で参集が困難となり,代わりにダイレクトメールやウェブメディアを活用した.2021年度には46企業(598カ所)の協力を得て地下鉄駅構内やスーパー等にポスターを掲示し,一般市民への認知度向上に努めた.当バンクの臍帯血到着数は2018年度718本であったが,2019年度は920本,2020年度は1,117本,2021年度には1,400本と増加し,普及啓発活動の成果と考えている.

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