日本輸血細胞治療学会誌
Online ISSN : 1883-0625
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ISSN-L : 1881-3011
69 巻, 6 号
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Picture in Transfusion Medicine & Cell Therapy
総説
  • 古田 里佳
    2023 年 69 巻 6 号 p. 617-623
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/01/11
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルスの大流行は世界に大被害をもたらしたが,輸血感染症を引き起こさなかった.このパンデミックがこれまでの新興再興感染症と大きく異なっていた点は感染力の強さや変異の速さというウイルス学的側面に加えて,宿主である人間側の科学技術力であった.病原体の高感度検査法は迅速に開発・製品化され,ワクチンや抗ウイルス薬も目を見張る開発スピードで利用可能となった.今回の状況から,今後のパンデミックにおいても同様な対応が期待されている.

    近年,ヒト共生微生物について次世代型大量並列シーケンシング(Next Generation Sequencing/Multi-Parallel Sequencing:NGS/MPS)技術を用い,次々と新規微生物が報告されている.NGS/MPS技術を用いた解析から,ヒトの種々の臓器・組織の細胞に多様なウイルスが感染している事実も報告され始めている.ウイルス感染症や菌血症の場合を除いては無菌とされていた血漿もそのような組織のひとつであり,健康人の血漿中にはほぼ100%何らかのウイルスが循環している.この事実を踏まえ,より安全な血液製剤とは何かを考えてみたい.

原著
  • 布施 久恵, 若本 志乃舞, 金敷 拓見, 藤原 満博, 内藤 祐, 生田 克哉, 秋野 光明, 紀野 修一
    2023 年 69 巻 6 号 p. 624-633
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/01/11
    ジャーナル フリー

    2023年3月より,赤血球製剤の有効期間は採血後21日間から28日間に延長されたが,諸外国の36,43日よりも短い.さらなる有効期間延長により廃棄血の低減が期待される.輸血によるGVHD予防のために導入された血液に対する放射線照射は保存による赤血球製剤の品質低下の一因にもなる.今回,赤血球製剤の照射日を遅らせることが保存による品質低下を低減し,有効期間延長に寄与するか検討した.採血後2日目に照射した赤血球製剤の28日間保存の品質データを基準とし,採血後7,14,21日目に照射した群の28,35,42日間保存のデータと比較して35日間保存以降に基準の値が維持されるか検証した.保存に伴う溶血率の上昇及びATP濃度の低下は照射を遅らせても低減されなかった.上清K濃度は採血後21日目に照射した群のみ,35日間保存まで基準範囲内で維持された.赤血球変形能は採血後14及び21日目に照射した群で,35日間保存以降でも良好に維持された.以上より,赤血球製剤の照射日の遅延による35日間保存以降の品質保持または低下を抑制する効果は少なく,有効期間延長対策としての有用性は低いと考えられた.

  • 中林 咲織, 小島 稔, 竹岡 咲穂, 岩下 奈央, 坪倉 美里, 加瀬 由貴, 笠根 萌美, 髙橋 典子, 竹内 紗耶香, 林 智晶, 前 ...
    2023 年 69 巻 6 号 p. 634-640
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/01/11
    ジャーナル フリー

    末梢血幹細胞採取(PBSCH)では効率よく目標とする造血幹細胞を採取することが重要である.そこで我々はPBSCH中に産物中CD34陽性細胞濃度で処理量を調節することが最適な採取に繋がったかを後方視的に検討した.対象は同種PBSCH28件,自家PBSCH24件の計52件で,PBSCH中の産物中CD34陽性細胞濃度(中間値)と終了後の産物中CD34陽性細胞濃度(最終値)の相関は,全体(R=0.986),同種(R=0.973),自家(R=0.996)で強い相関を認めた.中間値と最終値がどの程度変化したのか(CD34変化率)は同種PBSCH群では中央値101%(範囲79~129)であったが,自家PBSCH群では123%(85~192)であり,自家PBSCH群で有意に高値を呈した(p<0.001).また,単核球(MNC)採取開始までの時間が11分以上だった群で有意に中間値よりも最終値が高値であった(p=0.025).中間値を用いて適切なPBSCHが可能であったが,自家PBSCH例,MNC採取開始までに長時間を要する例などでは中間値より最終値が高値となる可能性があり測定時には考慮が必要である.

  • 藥師神 公和, 吉原 哲, 池本 純子, 池田 和彦, 石田 明, 大戸 斉, 小原 明, 梶原 道子, 菊田 敦, 原口 京子, 藤原 慎 ...
    2023 年 69 巻 6 号 p. 641-647
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/01/11
    ジャーナル フリー

    同種および自家の末梢血幹細胞採取(PBSCH)はすでに一般診療として確立されたものであるが,近年の医学の進歩により,造血幹細胞移植,採取は多様化している.本邦の現状を把握し,問題点を抽出すべく,細胞治療に関する実態調査を行った.159施設(診療科)より回答を得た.自家PBSCH年間件数では48%の施設で11~25件,37%の施設で1~10件,血縁同種PBSCH年間件数では60%の施設で1~10件,非血縁者で50%の施設で1~10件と回答があった.採取場所は病棟(40%),輸血部門内(36%),透析室(26%)であった.アフェレーシス装置を主に操作するスタッフは臨床工学技士(67%),医師(23%)であり,主に医師(96%)が末梢血管の穿刺を行い,37%の施設で採取中に医師が常駐していた.分離装置はSpectra Optiaが多く用いられ,89%の施設でプログラムフリーザーを用いずにCP-1を用いて凍結していた.多様化する採取方法に関して本邦の実態が明らかになった.「働き方改革」におけるタスクシフトはこの領域でも重要な課題である.

症例報告
  • 小西 達矢, 山之内 純, 齋藤 玲, 重松 恵嘉, 秋田 誠, 岡本 康二, 土居 靖和, 谷口 裕美, 高須賀 康宜, 竹中 克斗
    2023 年 69 巻 6 号 p. 648-652
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/01/11
    ジャーナル フリー

    フィブリノゲン(Fibrinogen:Fbg)異常症は,Fbg抗原量の低下はないが,その機能異常を有する疾患である.一般的なFbg測定法であるClauss法はFbgの質的異常が存在すると,量的異常がなくてもFbg低値を呈するが,その凝固波形から質的異常であるかの判断が可能である.症例1は蛋白尿が持続する50歳代の女性で,腎生検を受ける前に低Fbg血症が指摘された.これまでに止血困難の既往はなく,Clauss法の凝固波形をみると抗原量は保たれており,Fbg異常症と診断した.その後,補充療法を行うことなく腎生検を実施可能であった.症例2は止血困難の既往のない30歳代の女性で,第2子の出産前の検査で低Fbg血症を指摘された.凝固波形はフィブリン生成開始時間の遅延がみられるも,抗原量は保たれておりFbg異常症と診断した.その後,補充療法を行わずに正常分娩で無事出産した.両症例とも遺伝子解析にて,Fbg γ鎖のヘテロ接合性変異(γArg301His)を同定した.出血傾向や止血異常がない低Fbg血症の患者では,Fbg異常症の診断と補充療法の必要性について,Clauss法の凝固波形が参考となる.

  • 北 睦実, 大西 修司, 山岡 学, 北畑 もも香, 大澤 眞輝, 吉田 由香利, 阿部 操, 佐竹 敦志, 伊藤 量基
    2023 年 69 巻 6 号 p. 653-657
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/01/11
    ジャーナル フリー

    血液型抗原に対して特異的な反応を示す抗体が,対応抗原陽性・陰性どちらの赤血球にも吸着される場合,この抗体はmimicking抗体と呼ばれる.Mimicking抗体は,同種抗体様のmimicking抗体と自己抗体様のmimicking抗体に分類することができると考えられる.同種抗体様mimicking抗体は同種抗体と同様の反応を示すため,輸血歴や妊娠歴を正確に把握する必要がある.一方で,自己抗体様のmimicking抗体は患者の保有抗原に対し特異性を示すため,非常にわかりやすいが,RBC輸血時は同種抗体産生のリスクや,自己抗体様のmimicking抗体の臨床的意義の有無を考慮しなければならず,血液の選択に苦慮する.

    今回,抗E保有のためR1R1赤血球の長期な輸血の実施後に同定された同種抗体様のmimicking抗cの症例と,輸血や妊娠歴がなく,初回検査で自己抗体様のmimicking抗Eを同定した症例を経験したので報告する.

活動報告
  • ―日赤薬剤師会会員所属施設へのアンケート調査―
    佐々木 大, 竹林 恒平, 大坪 正道, 中村 定生, 河村 朋子
    2023 年 69 巻 6 号 p. 658-666
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/01/11
    ジャーナル フリー

    輸血のチーム医療は,安全で適正な輸血医療に重要であると考えられており,医療従事者である薬剤師もその役割が期待されている.日赤薬剤師会会員が所属する施設の薬剤部門に対し,薬剤師の輸血医療に対する関与の状況や,タスクシフトへの考えを明らかとする目的でアンケート調査を行った.対象となった施設内で,専任の薬剤師は配置されていないものの,多くの施設で血漿分画製剤の管理を中心に輸血への関与が認められた.病棟薬剤師の配置は認められるが,輸血医療への関与は少なく,他剤との相互作用や疑義照会などを実施している施設は限定的であった.タスクシフトでは,疑義照会や有害事象/副作用関連への積極的な回答が得られたが,直接的な患者への接触となる行為については消極的な回答だった.有害事象確認や疑義照会,併用薬との相互作用確認などへの薬剤師の積極的な関与により,安全で適正な輸血が向上すると考えられた.

  • 加藤 静帆, 林 恵美, 市川 潤, 二村 亜子, 片井 明子, 松浦 秀哲
    2023 年 69 巻 6 号 p. 667-673
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2024/01/11
    ジャーナル フリー

    【はじめに】公益社団法人愛知県臨床検査技師会輸血検査研究班では愛知県内の輸血検査技術向上および標準化を図るため,毎年実技研修会を開催してきた.今回,コロナ禍で実施した新しい実技研修会の内容およびその効果について報告する.

    【方法】2021年度は開催形式をWebに変更した.2022年度は事前に検体を送付し検査を実施してもらうことにした.いずれの研修会でもグループワークの時間を設け,受講生全員が発言できるように工夫した.

    【結果】アンケートの結果,2021年度と2022年度はそれぞれ「満足」が81%,85%であった.また実技研修会に対しては好意的な意見が多数寄せられた.

    【考察】コロナ禍において感染拡大を防ぐ社会の要請と輸血検査技術の維持,向上への貢献という狭間で新様式での研修会を開催した.既存の形にとらわれない柔軟な発想をもって受講生に有益な実技研修会のあり方を継続して検討していきたい.

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