日本輸血細胞治療学会誌
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最新号
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総説
  • 内田 直之
    2024 年 70 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2024/02/26
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    同種造血幹細胞移植は,難治性造血器悪性疾患を根治できる強力な抗腫瘍効果を有する一方,移植片対宿主病を始めとする同種免疫反応に関連する重篤な合併症を伴う.近年,細胞自体を培養・遺伝子導入して「製品」化した再生医療等製品の開発が進み,2015年に造血器疾患領域で初めてヒト骨髄由来間葉系幹細胞(テムセル™)が承認され,2019年~2021年にCAR-T細胞療法製品が5つ承認された.テムセル™は免疫修飾能を有し,また全身の免疫抑制を引き起こさないなど従来のGVHD治療薬と異なる特徴を有する.CAR-T細胞療法は,これまでは同種移植以外有効な方法が無かった再発・難治性の患者集団に対しても長期生存を含む一定の効果が示されると同時に,同種移植と比べて治療関連毒性が少ない利点を有し,全体としての難治性造血器悪性疾患治療成績の向上につながることが期待される.共に高額な製品であり,今後適切な患者集団やタイミング等最適な使用法を明らかにする必要がある.

ガイドライン
原著
  • 小林 博人, 藥師神 公和, 阿南 昌弘, 池田 和彦, 奥山 美樹, 藤原 慎一郎, 菅野 仁, 田野﨑 隆二, 中山 享之, 長村(井上 ...
    2024 年 70 巻 1 号 p. 12-19
    発行日: 2024/02/26
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    2022年に実施した「院内細胞治療製品取扱実態調査」についてのアンケート回答結果について報告する.調査は,全国大学病院と附属病院,国立・公立・公的病院,日本骨髄バンク移植認定病院,こども病院・総合周産期母子医療センター等の203施設を対象とし,140施設(69.0%)から回答を得た.41施設が細胞培養加工施設を有し,そのうち19施設(46.3%)が輸血部門で管理していた.全施設における14種類の再生医療等製品の導入状況は,ヒト細胞加工製品では,テムセルHS注が80.7%,キムリア点滴静注が28.6%と多く,遺伝子治療用製品ではゾルゲンスマ点滴静注が18.6%で多かった.輸血部門は11種類の再生医療等製品で原料細胞の採取や管理等に関与していたが,3製品には全く関与がなかった.3製品のうちネピックとオキュラルは,指定再生医療等製品であり,院内における投与記録の保管が血液製剤同様に義務付けられている.一部専門部署の関与があったが,ほとんどは当該診療科と薬剤部門の管理であった.院内における再生医療等製品の管理及び取扱への輸血部門の関与という観点からは,課題があることがわかった.

  • 岩﨑 潤子, 中村 仁美, 相良 康子, 熊川 みどり, 松﨑 浩史
    2024 年 70 巻 1 号 p. 20-26
    発行日: 2024/02/25
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    成分献血では,献血ごとに検査採血および採血装置の回路内残血により血液が失われるため,頻回献血や回路内残血の多い採血機種の使用は鉄欠乏のリスクになり得る.我々は,1年以内に全血献血歴のない523名の成分献血希望者のフェリチン値を1年以内の成分献血回数別,採血機種別に検討した.成分献血を13~24回/年行った男性の33.3%,女性の61.1%がフェリチン値12ng/ml未満であった.1年以内に回路内残血の少ない採血機種のみを使用したC群41名,回路内残血の多い採血機種のみを使用したT群61名の男性献血者の検討では,12回/年以内の成分献血であれば採血機種の違いによるフェリチン値の差はなかった.13~24回/年献血を行ったC群と,7~12回/年のT群では年間血液喪失量は同等であったが,平均フェリチン値はC群がT群の約1/2であった.C群では総献血回数がT群の2倍であったことから,鉄欠乏には生涯献血回数の多さも影響していると考えられた.頻回成分献血は鉄欠乏を来すことが示唆され,フェリチン値の測定や鉄補充,献血回数の制限,採血回路の生理食塩水リンスバックの導入等の対策が必要と思われる.

症例報告
  • 川島 雅晴, 郡司 匡弘, 大場 理恵, 勝部 敦史, 塚本 公瑠美, 平野 慧, 塩田 祐子, 薄井 紀子, 石井 謙一郎, 土橋 史明, ...
    2024 年 70 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2024/02/26
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    患者は65歳男性で,白血球増多・貧血・血小板減少を契機に当院入院,フィラデルフィア染色体陽性急性骨髄性白血病の診断となった.輸血前のHBs抗原・HBs抗体・HBc抗体は陰性だった.入院後第3病日に血小板製剤が輸血された.同製剤は輸血前のスクリーニングの4価核酸増幅検査(NAT)が陰性であったため供給された.当該製剤の献血者が2週後の再献血時にNAT陽性となり追加でB型肝炎ウイルス(HBV)DNAが検査されたが陰性であり,遡及調査に至らなかった.約1カ月後の再献血時に献血者のHBVDNA陽性が判明し,患者への輸血時にはHBVのウインドウ期と考えられた.輸血によるHBV感染の可能性があり患者は遡及調査の対象となり,第44病日以降は3~6週おきにHBs抗原・HBVDNAのフォローアップが行われた.第44病日・第84病日・第129病日のHBVDNAは陰性であったが,輸血6カ月後の第149病日にHBs抗原,HBVDNAが陽性化した.患者と献血者検体HBVのDNA塩基配列が一致し輸血による感染と確定した.先制攻撃的にエンテカビルによる治療を行い,HBVDNAは陰性化し急性肝炎は発症していない.

  • 天本 貴広, 山口 真紀, 吉永 英子, 栁場 澄子, 柏木 美紀, 溝上 真衣, 藤好 麻衣, 内藤 嘉紀
    2024 年 70 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2024/02/26
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    69歳,女性.Evans症候群の既往があり,直接抗グロブリン試験(direct antiglobulin test:DAT)陽性の患者において,人工股関節置換術周術期に貯血式自己血輸血を実施した.貯血された赤血球製剤の保管期間中の経時的溶血所見は,日本赤十字社より供給される赤血球製剤成分の変化と差が認められなかった.また,貯血1回目の自己血赤血球のDAT強度は35日間変化なく,解離液抗体価は21日目までは16倍,28日目以降は8倍と減衰した.貯血2回目の自己血赤血球DAT強度は14日間変化せず,解離液抗体価は4倍まで減衰した.術後48時間までに,DAT陽性である自己血赤血球4単位と自己血新鮮凍結血漿2単位を投与したところ溶血を疑う所見は認めず,臨床経過は良好であった.DAT陽性患者における貯血式自己血輸血の有効性については,報告例が少なく不明な点が多いが,適切な事前評価と製剤モニタリングを行うことで有効な輸血効果を得られた症例を経験した.

活動報告
  • ~香川県精度管理委員会輸血部門の取り組み~
    鬼松 幸子, 平岡 希実子, 渡邊 良, 細川 早織, 山地 瑞穂, 宮川 朱美
    2024 年 70 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 2024/02/26
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    香川県臨床検査技師会は香川県から委託を受け外部精度管理調査を実施している.直接抗グロブリン試験(direct antiglobulin test:DAT)については,県内複数施設からの要望で,検査の標準化・統一化を図る目的で調査項目としている.今回の報告は県内29施設を対象とした2021年度と2022年度の調査となる.香川県では調査試料における各施設の検査結果を評価するとともに,使用試薬などの検査体制についても調査している.調査により香川県下では抗IgG試薬単独でDATを判定している施設があることが判明した.抗IgG試薬単独での検査は,補体感作の有無が検査できておらず,DATとして不十分である.2021年度,抗IgG試薬単独施設は補体のみ陽性の調査試料を「陰性」と判定し不正解評価となった.これを機にDATの臨床的意義が理解され,当調査が参加施設における検査体制の是正に効果的であった.

  • 東山 しのぶ, 松浦 純平, 蘒 ゆかり, 小幡 衣子, 中村 文彦
    2024 年 70 巻 1 号 p. 45-49
    発行日: 2024/02/26
    公開日: 2024/03/15
    ジャーナル フリー

    輸血開始時の電子認証は重大な過誤の回避に有用である.さらに輸血開始5分後,15分後,輸血終了時もタイムリーに電子認証を実施することにより,副反応の入力により患者観察の証明が可能となる.しかし輸血記録監査を実施すると各認証機会における認証実施率は十分ではなかった.そこで電子認証阻害要因を検討するため全看護スタッフを対象にアンケート調査を実施した.その結果,携帯端末の不足という物理的要因,輸血に関する知識不足という知識的要因,輸血実施方法の特殊性というシステム・環境的要因,急変時対応といった優先順位的要因といった要因の存在が判明し,部署によりその頻度は大きく異なっていた.阻害要因の解析により携帯端末の追加,新システム導入といった対応をとることができた.今後も臨床輸血看護師を中心とした輸血医療チームによる監査・指導といった活動を継続し,部署に合わせた対応をとっていく必要がある.

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