人医領域で院内感染菌として重要視されているメチシリン耐性
Staphylococcus aureus(MRSA)が動物から分離される例が近年増加している。一方,犬の常在性ブドウ球菌は
S. pseudintermediusであり,メチシリン耐性
S. pseudintermedius(MRSP)が問題となっている。
S. pseudintermediusの同定には遺伝子検査が必要なため,臨床検査機関ではその同定に対応できていない。そこで本研究では膿皮症罹患犬のうち過去に臨床検査機関でMRSAの感染が同定された10症例について原因菌を再検討することとした。各症例よりスワブで検体採取し,臨床検査機関2社(A社,B社)への提出と同時に,我々はブドウ球菌を分離しコアグラーゼ陽性ブドウ球菌菌種同定のためのmultiplex-PCR(M-PCR)法を用いた菌種同定を行い,結果を比較検討した。M-PCRの結果,10症例はいずれも
S. aureusではなく,8症例は
S. pseudintermedius,2症例は
S. schleiferiであり,遺伝子検査によって9症例がメチシリン耐性と判定された。一方臨床検査機関2社の検査結果は,A社が9症例をMRSAと同定し,B社は7症例で属レベルの同定(
Staphylococcus sp.)にとどまり,全症例でメチシリン耐性判定未実施であった。ブドウ球菌感染症において必須の検査項目であるメチシリン耐性判定の基準は菌種によって異なるため,菌種同定の不備が治療方針に影響を与えることが示唆された。
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