本研究は,国内でオクラシチニブにより加療された85例の犬アトピー性皮膚炎の治療成績について回顧的に検討した。オクラシチニブを推奨用量・用法(0.4–0.6 mg/kg,1日2回,最大14日間,以降0.4–0.6 mg/kg,1日1回)で加療された症例を調査対象とした。組入症例はオクラシチニブ投与14日後以降,0.4–0.6 mg/kg,1日1回あるいは隔日投与で6ヶ月以上良好に管理ができた症例(A群,n=43)と管理が困難であった症例(B群,n=42)に群分けし,ロジスティック回帰分析を実施した。その結果,品種や性別,年齢,Favrotの診断基準で群間差は認められなかった(p>0.05)。単変量解析では皮疹が中等症以上,腋窩や腰背部の病変分布,脂性脂漏が認められる場合,B群と比較してA群でオッズ比が有意に低かった(p<0.05)。多変量解析では腋窩や腰背部に病変が分布する場合,B群と比較してA群でオッズ比が有意に低かった(オッズ比:腋窩0.388,腰背部0.298,p<0.05)。以上,本研究より犬アトピー性皮膚炎の症例に対してオクラシチニブで加療する場合,病変の分布や皮疹の重症度,また皮膚性状や局所病変の有無などが治療成績に影響を与える可能性が示唆された。
犬アトピー性皮膚炎と診断され,長期間プレドニゾロンによる治療を受けていた8歳齢,避妊雌のチワワが,左後肢を中心に複数の黒色丘疹を呈した。プレドニゾロンを休薬し,オクラシチニブに変更したが病変に改善は認めなかった。病理組織学的検査より皮膚乳頭腫症と診断した。アジスロマイシン併用後14 日目に病変の改善は認めなかったが,1ヶ月後に縮小傾向を示し,5ヶ月後には著明に縮小した。管理困難な皮膚乳頭腫症に対し,アジスロマイシンが治療選択肢の一つになる可能性が示されたが, 最低1ヶ月の投与が必要と考えられた。