原子力バックエンド研究
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10 巻, 1-2 号
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研究論文
  • ‐variabilityとignoranceを考慮した不確実性解析の方法論の構築および東濃地域への適用‐
    柳澤 孝一, 大澤 英昭, 武田 精悦, 高瀬 博康, 青山 裕司, 古市 光昭, 戸井田 克, 須山 泰宏, 若松 尚則, 西垣 誠
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 5-20
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     地層処分の長期的安全性の評価は, 不確実性存在下での意思決定問題として捉える必要があり, 性能評価はそのための判断材料を提供することが目標となる. したがって性能評価に至る各プロセスにおいて不確実性を低減するための合理的な方策が採られていることが重要であり, 地質環境調査においても各段階の不確実性を明確に把握する手法が不可欠である. しかしながら, 従来行われていたように, 調査の各段階で最良と考えられる単一のモデルやデータセットのみを想定するというアプローチでは, これに付随する不確実性を把握することは難しい. 本研究では, 想定し得る(あるいは否定できない)モデルやデータセットの全体集合を考えることによって調査の各段階における不確実性を明示しつつ, さらに不確実性を低減するために次段階の調査計画を立案するという新たなアプローチを提案した. 本報文では, 不均一な水理場における不確実性解析の基本的な方法論についてまとめ, さらに, この方法を東濃地域における例題に適用した結果を紹介する.
  • 若杉 圭一郎, 牧野 仁史, 小尾 繁
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 21-30
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     第2次取りまとめの安全評価では, 掘削影響領域 (EDZ)内の移行遅延効果を保守的に無視したモデルを用いて評価を行い, システムの性能に重要な影響を及ぼすプロセスの1つとして, EDZ内の地下水流れが挙げられた. このため本研究では, EDZ内の核種移行に着目し, そのモデル化の違いが評価結果に与える影響を定量的に把握することを目的として, EDZの概念モデルおよび数学モデルのバリエーション (0濃度境界モデル, ミキシングモデル, 多孔質モデル, 亀裂モデル) を設定し, 各モデルを用いて核種移行解析を実施した. この結果, 0濃度境界モデルは最も保守的な結果を与えること, 亀裂モデルは用いる境界条件により評価の保守性に幅を持つことなどがわかった. さらに, 「簡単さ/複雑さ」と「現実性/保守性」の程度を勘案して, EDZの各モデルの特徴を定性的に整理し, 今後の EDZのモデル開発の方向性について検討した.
  • ―人工バリア内のガス移行解析手法とデータ取得―
    山本 幹彦, 三原 守弘, 大井 貴夫
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 31-46
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     放射性廃棄物の地層処分場において発生するガスは, 処分場内の圧力上昇によるバリア機能の低下, 気相飽和度の上昇にともなう処分場内間隙水の排出等により, 処分の長期安全性に対する潜在的影響を有すると考えられている. 本稿ではこれらガス影響の評価に必要となる人工バリア内でのガス移行に着目し, その評価手法, 解析モデルと移行特性試験, および移行特性パラメータの評価・設定に関する研究成果について報告する. 本研究では粘土系材料およびセメント系材料に対するガス透過試験を実施し, ガス侵入圧力, 透過係数等のガス移行挙動を把握するとともに, ガス移行評価に適用しうるモデルパラメータの評価を行った. 間隙に水を含む固相中をガスが移行する際の機構は, 固相の間隙構造, 鉱物特性により大きく変化しうるが, ここでは現時点で多次元多相流解析において唯一実用化されている連続媒体2相流モデルを適用し, 固液間の相対的に強い相互作用等を反映した特性曲線を設定することにより, 粘土系材料およびセメント系材料に対する移行特性を評価し, 試験結果との良い一致を見た.
     本研究により, セメント系材料に対する連続媒体2相流モデルの適用が可能であることが確認されたが, 今後は粘土系媒体に対する応力条件による影響を反映したモデルの開発と適用, 岩盤を含む個々のバリア構成材料に対する長期のガス透過試験による移行特性データの信頼性向上, 環境因子による影響の把握, さらに各種媒体に対して最適な移行モデルを統合した複数媒体解析ツールの開発と, 実規模試験結果による確証を段階的に進めることが必要である.
  • 畑 明仁, 井尻 裕二, 細野 賢一, 澤田 淳
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 47-56
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     高レベル放射性廃棄物地層処分の安全評価においては, モデルやデータの不確実性を評価することが重要な課題の一つとなっている. とくに, 天然バリア中核種移行評価においては原位置の調査結果に基づきモデルやデータが設定されると考えられるが, 天然バリアは本来不均質であるにもかかわらず調査数量は限られ, 調査結果には多くの不確実性を伴う. したがって, 天然バリア評価において, 原位置調査結果から推定されるモデルやデータの不確実性を定量的に評価する手法を確立する必要がある.
     このような観点から, 著者らは, 原位置トレーサー試験結果から逆解析により同定されたパラメータ値が持つ不確実性の評価手法の検討を実施してきた. 本研究は, スイスのNAGRAによりGrimsel Test Site(GTS)において実施されたトレーサー試験結果に対して, 逆解析を実施し, パラメータ値を同定するとともに, そのパラメータが持つ不確実性を定量的に評価, 検討した結果を示すものである. 本検討では, パラメータ値の持つ不確実性を, 観測値と計算値の誤差に起因する不確実性と, トレーサーの移行経路数のモデル化の違いに起因する不確実性とに分類し, それぞれの定量化方法について検討を行った. その結果, パラメータ同定は精度よく行えること, 観測値と計算値の誤差に起因する不確実性は, モデルの設定条件に起因するパラメータの不確実性に比べてきわめて小さいこと, モデルの良否を選択する基準としての情報量基準の有用性を示した.
  • 久米田 正邦, 加藤 和之, 青山 裕司, 高瀬 博康
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 57-68
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     地層処分システムの安全評価は, 我々の経験や歴史をはるかに超えた時間スケールに対する安全性を検討するとともに, 天然の地層が有する不均質な空間領域を取り扱うという特徴がある. 近年の国際的な経験の蓄積により, 地層処分に対する知識や長期的な将来予測に対する信頼性は著しく向上しているものの, 現状は必ずしも知見が十分ではなく, システムの将来予測には, シナリオ, モデルおよびデータに不確実性が内在する. 安全評価の観点からは, これらの不確実性を考慮しても十分な安全裕度が確保されていることを示すことが重要であり, そのためには, 現実的に予想されるシナリオや考慮すべき不確実性を含んだシナリオを明らかにする必要がある. また, 安全性が担保される範囲内で合理的な設計を行うためには, 好ましいシナリオに至るパラメータの範囲を明らかにし, シナリオ分岐に影響を与える因子を把握することが重要となる.
     本研究では, ニアフィールド過渡期に生起し得る現象を効率的に解析する手法として, 複数の解析手法 (セルラーオートマタ, 大規模数値解析およびニューラルネットワーク) を組み合わせた複合解析システムを検討した. これらを例題演習に適用し, セルラーオートマタにより生起し得る複数のシナリオを抽出し, 大規模数値解析により代表的なケースでの詳細な解析を実施, さらには詳細解析の結果をもとにニューラルネットワークを用いた包括的な感度解析を行った. これにより, システム全体挙動を効率的に評価でき, シナリオ分岐に関する情報が得られる可能性が確認できた. これらは人工バリア仕様の合理的かつロバストな設計への寄与が期待される.
総説
  • -現状と信頼性向上にむけて-
    稲垣 八穂広, 三ツ井 誠一郎, 牧野 仁史, 石黒 勝彦, 亀井 玄人, 河村 和廣, 前田 敏克, 上野 健一, 馬場 恒孝, 油井 三 ...
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 69-84
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     地層処分における高レベルガラス固化体の性能評価の現状について, その信頼性向上の観点から総説した. ガラス固化体の水への溶解および核種浸出に関する現象理解は過去20-30年で大きく進展し, 現在までの成果を充分に活用することで保守的な性能評価は可能であると考えられる. しかしながら, 評価の信頼性向上の観点からは, 長期の処分期間におけるガラス溶解反応メカニズムや各国で異なる実際の処分環境の影響についての基礎科学的理解をさらに深めるとともに, それらの成果を充分に反映した性能評価モデルの構築が望まれる. これら基礎研究の進展は処分システム全体の性能評価の信頼性向上, さらには処分システムの合理性や経済性の向上にも寄与できるものと期待される. 我が国におけるガラス固化体の性能評価研究は, 米国, フランス等における多角的な研究と比較して充分なものとは言えず, さらなる拡充が望まれる.
研究論文
  • -科学情報と受け手の知識基盤の分析を中心に-
    雨宮 清, 村上 陽一郎
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 85-92
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     高レベル放射性廃棄物の扱いにおける「地層処分の選択」は, 「自然科学を基盤とした手法の選択《Scientific based action plan》」である. 処分事業の社会的受容を考えるとき, 「科学的な検討結果を公衆は正確に理解するか」という課題があり, そこには, 科学言説を理解する能力 (リテラシー) に加え, 「科学知識の文脈依存性の問題」がある. これは, 公衆に, 教育, 専門, 地域などによる複式構造が存在する以上, 生産される知識も異なることを意味するものである. 本研究では, 建設分野の教養を持つ階層を対象に, 与えられる科学言説に応じた意識形成の特徴を調査し, 社会的受容において大学での高等教育の持つ役割について考察を加えた. そして, このような「高い知識レベルの集団」においても, 危険/安全の意識は送り手にからの情報に強く影響されること, 一方で処分事業の必要性や可否に対しては冷静な判断がなされることを示した.
技術報告
  • 星 亜紀子, 中塩 信行, 中島 幹雄
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 93-102
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     日本原子力研究所で計画されている雑固体廃棄物のプラズマ溶融処理に資するための技術的検討の一環として, 融点が高いものやハンドリングが難しいと思われるものに着目し, アルミナるつぼ, マグネシアスピネルるつぼ, セラミックフィルタエレメント, アスベスト, 模擬焼却飛灰についてプラズマ溶融試験を行い, 溶融方法の検討を行った. その結果, るつぼ, アスベストは, 装荷条件や廃棄物組合せを工夫することにより均質な溶融固化体を製作できた. また, セラミックフィルタエレメントは, 還元性雰囲気の溶融炉ではSiC成分が酸化されにくいため揮発しやすいこと, 模擬焼却飛灰は, 低沸点重金属成分の揮発を抑制し溶融固化体中に安定化することが課題であることが分かった.
資料
  • 杉田 裕, 川上 進, 油井 三和, 牧野 仁史, 澤田 淳, 三原 守弘, 栗原 雄二
    2004 年 10 巻 1-2 号 p. 103-112
    発行日: 2004年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     高レベル放射性廃棄物の地層処分における処分場の閉鎖技術に関しては, 個々の技術のみでなく, 処分技術と安全評価の両者の観点から, 処分場としての閉鎖性能の検討が必要である. そこで, 第2次取りまとめで示した閉鎖概念に基づき, 閉鎖後の処分場における閉鎖性能に関する評価の一例として, 処分場から大規模な破砕帯を伴う断層に至るまでの核種移行に関する閉鎖性能について検討した.
     本検討では, 閉鎖要素 (埋め戻し材, 止水プラグ) の止水性能, 掘削影響領域や支保工の水理特性等の閉鎖性能に影響を与える因子について現在の知見を整理し, 母岩以外の移行経路を経由する支配的な核種移行の可能性として「連絡坑道から小規模の破砕帯を伴う断層を経由する支配的な核種移行の可能性」に着目してfaultツリーを用いた分析を行い, 閉鎖性能を論じるためのシナリオの検討を行った.
     検討の結果, 閉鎖要素においてその機能が発揮されること, 支配的な移行経路となるためにはいくつもの条件を同時に満たすことが必要であることから, 「連絡坑道から小規模の破砕帯を伴う断層を経由する支配的な核種移行が存在する」というシナリオの可能性は低く, 第2次取りまとめの「母岩を経由して大規模な破砕帯を伴う断層に至る」とするシナリオが妥当であることを示すことができた.
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