セメント系材料が地下水に溶解し,放射性廃棄物処分施設の環境を高アルカリ性に保つことによって,多くの放射性核種の溶解度を低くすることができる.本研究では,セメント系材料の高アルカリ性環境の保持機能を長期間にわたって評価するために,セメント構成鉱物のひとつであるC
3S (C
3S:3CaO・SiO
2) を合成し,その水和物の溶解に伴う液相と固相の変化を評価した.
溶解試験は浸漬水のC
3Sの水和物に対する比 (液固比) を10~2000(wt/wt) まで変化させる方法で実施した.C
3Sの水和物とイオン交換水を容器に入れ密封し,所定期間経過後,固液分離した.分離後,液相のpH,Ca,Si濃度を測定するとともに,固相に対してはXRD,DTA/TG,
29Si-NMRによる分析を実施した.
液相のpHとCa濃度は浸漬時間が長くなると一定値に収束し,その値はGreenbergら[1]のカルシウムシリケート水和物の溶解度データと良く一致した.液相のCa濃度と固相のXRDとDTA/TG測定結果から,液固比10(wt/wt)と100(wt/wt)の試料ではCa(OH)
2が溶解していること,液固比500(wt/wt)以上の試料ではCa(OH)
2の溶解と共にC-S-Hが溶解していることがわかった.また, NMR測定結果から液固比500(wt/wt)以上の試料ではC-S-Hのシリケートアニオン鎖が長くなっていることがわかった.溶解したC
3Sの水和物が再結合したものと考えられるC-S-H構造の変化とこれに伴う比表面積の変化は溶解挙動や核種の吸着に影響を及ぼすことが想定され,本研究は処分施設の長期安全評価の高度化に有効であると考えられる.
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