原子力バックエンド研究
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11 巻, 2 号
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総説
  • -日本列島のネオテクトニクスと地質環境の長期安定性-
    梅田 浩司, 大澤 英昭, 野原 壯, 笹尾 英嗣, 藤原 治, 浅森 浩一, 中司 昇
    2005 年 11 巻 2 号 p. 97-112
    発行日: 2005年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     地層処分の長期的な安全性を確保するためには, システム性能が著しく損なわれないよう長期にわたって安定な地質環境を選定すること, 地層処分システムが備えるべき固有の性能を確保するため, 想定される自然現象の変動を見込んで人工バリアや処分施設を適切に設計・施工すること, 構築された地層処分システムの安全性を評価すること等が重要となる. そのためには, 数万年以上の長期にわたって, 評価の対象となる地域において, 火成活動等のように地層処分システムの性能に著しい影響を及ぼす可能性, 地殻変動等に伴う地質環境条件の変動幅等を示すための調査技術および評価手法等に係わる研究開発を進めていくことが必要である. 本報では, わが国の地質学的な特徴を地質環境の長期安定性の観点から概観するとともに, 当該分野における事業化段階での研究開発の展望とサイクル機構において現在取り組んでいる研究課題や最新の研究成果について報告する.
  • 藤原 治, 柳田 誠, 三箇 智二, 守屋 俊文
    2005 年 11 巻 2 号 p. 113-124
    発行日: 2005年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     日本における地層処分の観点から, 隆起運動や侵食作用の捉え方とその研究の重要性について整理した. 隆起・沈降・侵食の速さ, 規模 (時間・空間的広がりなど), メカニズムなどを地形や地層から読み出す方法論の整備を含めた基礎研究が, これらの地質現象の予測をする上で不可欠である. また, 科学的な根拠に基づいて隆起・沈降・侵食の発生 (時期や規模) と, それらによる地質環境への影響 (程度と範囲) を予測する技術の開発も重要である. 基礎研究から応用技術まで, 学際的な研究分野が相互に理解し合い, 成果をフィードバックしていくことがバックエンド研究の進展に重要である.
研究論文
  • -長期安定性の評価・予測における地域特性の考慮-
    新里 忠史, 安江 健一
    2005 年 11 巻 2 号 p. 125-138
    発行日: 2005年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     本論では, 幌延深地層研究センターで実施している地質環境の長期安定性に関する研究について, 文献および現地調査の結果を示す. 幌延地域は, 新第三紀から第四紀にかけての堆積層が広く分布する天北堆積盆に位置する. 年代層序学的検討から, 天北堆積盆内における堆積域は東部から西部へ移動したことが推定された. また, 微小地震の震源, 活構造, および第四系の分布は, 現在地殻変動の活発な地域が幌延地域の西部であることを示す. 加えて, 幌延地域とその周辺において実施された反射法地震探査の結果を踏まえると, 幌延地域西部では, 約300~200万年前から現在に至るまで, 東から漸次西へ向かって成長するfold-and-thrust帯をなす地質構造が発達してきたと推定される. 幌延地域に広く分布する海成段丘面を利用して解析をおこなった結果, 幌延地域西部に位置するサロベツ背斜では, 軸部における旧汀線高度が翼部におけるそれよりも高い. また, MIS 1とMIS 7の海陸分布を比較した場合, MIS 1における陸域は幌延地域の活褶曲分布とほぼ一致する. このため, 幌延地域において地質環境の変化を評価・予測するに当たっては, 約300~200万年前以降の期間を対象として, 地殻変動場の移動および活断層や活褶曲など活構造の履歴と地殻変動場の移動, およびそれらの影響等に関する資料を十分検討する必要がある.
  • -海成段丘を対象とした侵食速度の推定を例に-
    藤原 治, 柳田 誠, 三箇 智二, 守屋 俊文
    2005 年 11 巻 2 号 p. 139-146
    発行日: 2005年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     日本列島では最新の地質時代である第四紀において, 活発な地殻変動と大きな侵食速度のために, 大きな地形・地質布の変化が生じてきた. そして今後もこうした変化は継続し, その結果, 動水勾配や水理地質構造を通じて地下水の流動や水質にも影響が生じると考えられる. その影響の評価が安全で現実的な高レベル放射性廃棄物の地層処分の実現可能性を考える上で重要な問題である. そのためにまず, 将来数万年間について評価対象地域の最大侵食深や平均侵食深を予測する必要がある. 過去に生じた侵食の特徴を詳しく統計的に解析することが, 将来の侵食量を予測する上で基礎データである. しかし, こうしたデータを得るためには, 調査手法の開発も含めて課題が多い.
     将来の侵食量の予測可能性を検討する一例として, 初期形状が比較的正確に推定できる海成段丘を対象に, 開析谷の体積から計算した侵食速度と隆起速度との関係を解析した. また, 丘陵などの侵食に関するデータも併せて検討した. これらのデータからは, 隆起した陸地の体積のうち侵食される割合は, 一般に離水時 (段丘化) から最初の12.5万年間では10~20%程度である. この比率は, その後の10万年では数十%程度に増加し, 最終的に隆起速度と侵食速度は, 丘陵では数十万年, 山地では100万年程度で平衡状態に達する.
  • -鬼首・鳴子火山地域および紀伊半島南部地域への適用-
    浅森 浩一, 梅田 浩司
    2005 年 11 巻 2 号 p. 147-156
    発行日: 2005年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     火成活動が地層処分システムに及ぼす影響として, マグマの貫入や熱水対流の発生等が考えられる. そのため, 対象とする地域の地下深部にマグマや高温流体等が存在する可能性をあらかじめ確認しておくことが不可欠であり, そのための調査技術を整備しておくことが重要となる. 本報では, 地下深部のマグマ・高温流体等に関する調査技術として核燃料サイクル開発機構が取り組んでいる地震波トモグラフィー法, 地磁気地電流法を紹介する. また, 鬼首・鳴子火山地域および紀伊半島南部地域における適用事例について述べる.
  • 坂川 幸洋, 梅田 浩司, 浅森 浩一
    2005 年 11 巻 2 号 p. 157-166
    発行日: 2005年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     わが国では1957年以降精力的に地殻熱流量 (伝導熱流束) の測定が行われ, 日本周辺での分布が明らかにされている. これに対して, 火山地帯等での熱輸送評価に必要な伝導熱流束と移流熱流束の総熱流束についてはその分布の特徴を明らかにするほど調査が進んでいない. 本報では, 日本全国のボーリングデータから総熱流束および流体流動速度を計算した. その結果, 総熱流束が東北日本では太平洋側で低く日本海側で高い傾向があり, 西南日本では, 瀬戸内海周辺で相対的に低い値であること, 総熱流束の高い地域が第四紀火山付近に集中していること, 1W/m2 以上の高総熱流束は熱源により流体対流系中に局所的に発生する速い上昇流がもたらした可能性が考えられること等が明らかになった.
     本報では, さらに島原半島の雲仙火山を事例に, 三次元非定常熱・水連成モデルによって火山下の熱輸送や温度構造の感度解析を行うとともに, この火山周辺のボーリングデータから得られた総熱流束とシミュレーション結果との比較を行った.
  • -ウラン鉱床での隆起・沈降の変遷と隆起速度の見積もり-
    笹尾 英嗣, 天野 健治, 太田 久仁雄
    2005 年 11 巻 2 号 p. 167-180
    発行日: 2005年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     東濃ウラン鉱床はその形成時 (約1千万年前) から隆起・侵食の影響を受けてきたにもかかわらず, 大部分のウラン系列核種は移行せずに安定に保持されている. 隆起・侵食によって生じる地質環境の水理学的・地球化学的な変化によって, 放射性核種の化学的挙動が変化する可能性があるため, 東濃ウラン鉱床が被った隆起・侵食に伴う地質環境の変化とその変化がウランの移行・保持に及ぼした影響を示すことにより, 隆起・侵食を考慮した地層処分システムの信頼性の向上に資することができる. そこで, 隆起・侵食が地質環境にどのような影響を及ぼすかを評価する研究の一環として, 現在認められる地層の厚さから, 海水準変動と不整合期の侵食量を考慮して, 東濃ウラン鉱床の隆起・沈降量と過去約150万年間の隆起速度を見積もった.
     見積もりの結果, 隆起量としては約150万年前と考えられる瀬戸層群の堆積後, 現在までの期間が約340mと最も大きく, この間の平均隆起速度は約0.2~0.3mm/年と見積もられた.
     ただし, 隆起・沈降量の見積もりには, 海水準変動と侵食量の見積もりが影響するため, これらを精度よく復元する必要がある. また, 隆起速度の見積もりには隆起に要した期間の決定精度が大きく影響し, 瑞浪層群と瀬戸層群の不整合期を例とすると, 現在得られている放射年代値を用いると, 見積もり結果に最大で10倍程度の差が生じることが明らかになった.
  • 大谷 晴啓, 鹿園 直建
    2005 年 11 巻 2 号 p. 181-192
    発行日: 2005年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     黒ボク土, ローム層の化学分析を行うことで, 玄武岩ガラスの風化作用, 土壌化作用に伴う希土類元素 (REE) (Am, Cmの化学的類似元素), ウラン, トリウムの長期的挙動について調べた. 黒ボク土中では, 玄武岩ガラスは変質し, 粘土鉱物, 水酸化鉄へと変化していく. これらに伴うアルカリ元素, アルカリ土類元素の溶脱率は大きい. REEは玄武岩ガラスより溶脱するが, その移動度は小さい. ウラン, トリウムも若干溶脱するが, その溶脱率は小さい. 黒ボク土の下部のローム層では, REEの溶脱率は小さく, むしろ蓄積される場合もある. 黒ボク土の堆積速度と, 溶脱率より, REEと U, Thの玄武岩ガラスからの最大溶脱率が3000年間でそれぞれ約 50%, 30%, 30%と推定された. しかし, 溶脱した REE, ウラン, トリウムは, 下部のローム層中で溶脱されにくいので, より長期間の黒ボク土やローム層からのこれらの元素の溶脱率は小さいといえる.
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