原子力バックエンド研究
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9 巻, 1 号
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研究論文
  • 斉藤 拓巳, 長崎 晋也, 田中 知
    2002 年 9 巻 1 号 p. 5-14
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     フミン酸(HA)は不均質な天然有機物質の一種であり, その錯体形成は複雑なものとなる.本研究では, HAと放射性廃棄物処分等で問題となるUO22+の錯体形成に関して, HA中の複数の錯体形成サイトの存在に着目して評価を行った.HAは幅広い分子量分布を有しており, また, その構造が分子量によって異なることが報告されていることから, このような不均質性の寄与に関する知見を得るために, Gel Permeation Chromatography (GPC) によって得られた分子量の異なるHAフラクションとUO22+の錯体形成量を限外ろ過法によって評価し, 得られた結果と蛍光クエンチング実験の結果との比較を行った.未分画のHAに関して得られた錯体形成の安定度定数は6.25であり, 既往の研究で得られた値(6.13~6.75)と同様であることがわかった.一方, HAフラクションとUO22+の錯体形成では, 安定度定数において, フラクション間の相違がほとんどないのに対して, 錯体形成に寄与するサイトの割合は低分子量のフラクションにおいて大きく, フラクションの構造の違いが錯体形成量に変化を及ぼしていることが示唆された.また, クエンチング実験の結果との比較から, HAの蛍光に関与しない錯体形成サイトがすべてのフラクションに含まれており, このようなサイトが安定度定数において, UO22+と間でより安定な錯体を形成するサイトに対応していることが明らかになった.
  • 長崎 晋也
    2002 年 9 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     腐植物質の1種であるフミン酸は, 土壌中や地下水中において有害化学物質や重金属イオンの主要な輸送担体であることが知られている.本研究では, Aldrich社製フミン酸をC-14でラベリングして, 珪砂充填カラム内での移行挙動を測定し, カラム内でのフミン酸の濃度分布を求めた.バッチ実験によって求めたフミン酸の珪砂への吸着分配係数を用い, またラテックス粒子から評価したフィルトレーション係数がフミン酸のフィルトレーション係数と同じであると仮定をすることで, フミン酸のカラム内における濃度分布を定性的にシミュレーションすることができた.このことは, 本モデルが, 将来の精緻化を通して, 腐植物質に結合した化学物質や重金属の環境挙動の予測に利用できることを示唆している.
  • ブディ・セティアワン , 田中 紘一 , 新堀 雄一 , 杤山 修
    2002 年 9 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     地下水中のフミン物質は, 放射性核種と可溶性コロイド錯体を形成することにより, それらの移行挙動に影響を与えると考えられている.核種とフミン物質の相互作用を理解するためには, 地下水中にもともと含まれている競争イオンによる影響をも評価しておくことが必要である.この目的で, Fe(II)とアルドリッチ社製フミン酸との錯生成をイオン交換法により検討した.フミン酸の組成不均質性と高分子電解質性による影響を分離して評価するために, 組成が均質な高分子弱酸であるポリアクリル酸(分子量90000)についても同様の検討を行い, pH, イオン強度, 金属イオン濃度が錯生成に及ぼす影響を比較した.みかけの錯生成定数をβα = [ML]/([M][R])([M]:遊離Fe2+イオン濃度, [ML]:錯生成しているFe2+イオン濃度, [R]はCRαで, CRはプロトン交換サイトの全濃度でαは解離度である)と定義し, pcH 4.6 から5.5, イオン強度 0.1 および 1.0 M NaCl Fe(II) 濃度 ~10-8 から~10-4 Mの溶液条件でlogβαの値を求めた.ポリアクリル酸錯体およびフミン酸錯体のいずれについてもlogβαは解離度とともに増加しイオン強度とともに減少した(I = 0.1 M NaCl でポリアクリル酸錯体では2.26 (α = 0.32) から2.59 (α = 0.47), フミン酸錯体では, 4.66 (α = 0.58) から4.83 (α = 0.70), I = 1.0 M NaCl でポリアクリル酸錯体では0.53 (α = 0.49) から0.98 (α = 0.71), フミン酸錯体では, 3.31 (α = 0.59) から3.62 (α = 0.71)).logβαのlogαに対する依存性は両者で同程度であり, イオン強度依存性はフミン酸錯体の方がやや小さい.ポリアクリル酸錯体のlogβαはFe(II)濃度の変化によらず一定であるが, フミン酸錯体のlogβαは, フミン酸の組成の不均質性のために, Fe(II)濃度が低くなると著しく上昇した(I = 0.1 M NaCl, α = 0.68で3.21 (CFe = 4×10−4 M) から4.79 (CFe = 6×10−8 M), I = 1.0 M NaCl, α = 0.68で2.35 (CFe = 4×10−4 M) から3.58 (CFe = 6×10−8 M)).
技術報告
  • 田中 忠夫, 坂本 義昭, 小川 弘道
    2002 年 9 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     金属イオンとの錯形成に関わる腐植物質官能基についての情報を赤外吸収スペクトルから得るため, 赤外光の全反射を利用するATR(Attenuated Total Reflection)法を用いることにより, 水溶液に溶存させた状態での赤外吸収スペクトル測定について検討した.
     ATR法により, 金属イオンとの錯形成によって腐植物質の赤外吸収スペクトルに生じる変化を確認できた.また, 粉体試料を用いる従来の赤外吸収スペクトル測定では困難であった錯形成速度についての情報, pHや元素濃度など液性の変化に呼応した官能基の情報が取得できた.これらの結果から, 錯形成に伴う腐植物質官能基の状態変化に関する赤外吸収スペクトル情報をin situで得るために, ATR法が適用できる可能性が見出された.
総説
  • -研究の現状と今後の課題-
    大貫 敏彦
    2002 年 9 巻 1 号 p. 35-42
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     様々な微生物が地下環境中に生息することが分かってきた.これら微生物の高レベル廃棄物処分への影響について明らかになっていない.本報告では, これまで行われてきた研究を紹介するとともに, 将来の研究課題について検討した.微生物代謝による還元, 酸化及び代謝産物は, 処分施設使用材料の劣化, 錯体生成, アクチノイド沈殿物の可溶化, nmスケールのコロイドの生成などをもたらし, 処分施設の長期的な閉じこめ性能に影響を与えるとともに, 放射性核種の移行を促進する可能性がある.一方, 微生物の活動により, 微生物による鉱物化, 吸着, 細胞内への取り込み, 沈殿作用により, アクチノイドの閉じこめ能を増す可能性もある.これらの結果は, 処分施設の性能への微生物の影響を明らかにするための研究を行う必要があることを示している.
研究論文
  • 佐藤 治夫
    2002 年 9 巻 1 号 p. 49-60
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     高レベル放射性廃棄物の地層処分において, 緩衝材として使用が検討されている圧縮ベントナイト中の粘土粒子の配向性および核種拡散移行経路に及ぼす粘土鉱物の含有率および圧縮方向の影響について評価することを目的として, 走査型電子顕微鏡(SEM)によるベントナイトの構造観察および非収着性核種のトリチウム(HTO)を用いた透過拡散実験を行った。SEM観察および透過拡散実験は, ベントナイトの乾燥密度をパラメータとして, 圧縮成型方向に対して同軸方向および鉛直方向について行った。ベントナイトは, 主要構成粘土鉱物のスメクタイト含有率の異なるクニピアF®およびクニゲルV1®を使用した。スメクタイト含有率が50wt%のクニゲルV1®では, 圧縮成型方向に対して両方向とも粘土粒子の構造に変化が見られなかったが, スメクタイト含有率がほぼ100wt%のクニピアF®では, 圧縮成型方向に対して鉛直方向に粘土粒子が配向する様子が観察された。この結果は, 拡散実験より得られたHTOの実効拡散係数の傾向とも調和的であり, ベントナイト中のスメクタイト含有率は粘土粒子の配向性に影響を及ぼすと共に, 核種の拡散移行経路にも影響を及ぼすことを示している。
  • 山口 徹治, 中山 真一, 川田 千はる
    2002 年 9 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     稲田花崗岩についてBa2+イオンの透過拡散実験を行い、有効拡散係数(De)と分配係数(Kd)を取得した。岩石試料をはさんで2つの溶液槽に同じ濃度の安定BaCl2溶液を満たし、放射性の133Baを用いてBaの自己拡散を観察した。溶液として10-1, 1, 10 mol m-3 BaCl2溶液を用い、25℃においてそれぞれ3ランを行った。10 mol m-3 BaCl2溶液を用いた実験で得られた有効拡散係数は細孔拡散モデルから予想される値と一致していた。これに対して塩化バリウムの濃度が低い場合ほど、分配係数が高く、有効拡散係数も高くなった。バリウムの溶存形態は同じであり、同時に拡散させたI-の挙動から花崗岩試料による間隙構造にも差がないことが明らかになった。それにもかかわらず、有効拡散係数が分配係数に対して正の相関を持っていることは、表面拡散(吸着状態での拡散)の寄与を強く示すものである。
  • Zhang Zhanshi, Zhou Wenbin, Fan Xianhua
    2002 年 9 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
      Speciation of radioactive nuclides is one of the most important factors in the study of migration and precipitation of the nuclides related to deep geological disposal of high level radwastes (HLW). Theoretical speciation analysis with thermodynamic equilibrium codes is an effective method. The authors have employed the EQ3NR, a computer program for geochemical aqueous speciation-solubility calculation, to evaluate the speciation of the key nuclides in the groundwater of Beishan Area, a potential area for hosting the HLW Repository of China. The calculated results showed that pH value as well as chemical composition of the water had a great impact on the speciation of key nuclides, such as Np, Pu, Am, U and Th, which would be released from HLW to the groundwater of Beishan Area. In addition, it was found that the speciation of nuclides varied from one to another. However, under alkaline conditions, the speciations were relatively simpler and hydroxyl complexes and carbonate complexes were dominant.
  • 丸岡 邦男, 甫出 秀, 大園 勝成, 久利 修平, 松岡 寿浩, 浅田 和雄, 斎田 富兼, 坂口 康弘, 赤松 哲朗, 名島 憲治, 太 ...
    2002 年 9 巻 1 号 p. 73-80
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     輸送貯蔵兼用キャスクとしてより高性能かつ信頼性向上を図ったMSFシリーズキャスクを開発した.特に貯蔵の観点から, 経年劣化が少なく長期間高い信頼性を確保するため, 本キャスク向けに新材料を開発, 採用した.また, 経済性の観点から, 様々な構造上の工夫を行いキャスクへ収納できる燃料集合体数の増加を図った.主な特徴は以下である.
    ①バスケット
     粉末冶金製法により均質で, 熱処理による強化行わないことで長期劣化の少ないボロン添加アルミニウム合金を採用した.また, BWR向けでは, 角パイプ集合型のバスケットとし構造の簡素化を図った.
    ②中性子しゃへい材
     中性子しゃへい材に含まれる原料を見直し, 長期耐久性を向上した.
    ③胴
     底付き一体型鍛造法を開発し, 溶接線を排除することで信頼性向上を図った.また, 内面をバスケットに沿うよう角型とすることでバスケットと胴とのギャップを小さくして除熱性能を向上させた.
     これらは, 実証試験を行い, 健全性を確認している.
  • 丸岡 邦男, 松永 健一, 阿部 岩司, 入野 光博, 有川 浩, 玉木 光男
    2002 年 9 巻 1 号 p. 81-88
    発行日: 2002年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     コンクリートキャスク貯蔵方式では, 使用済燃料をキャニスタに密封収納し, 更にキャニスタをコンクリートキャスクに収納し貯蔵する.本報告では, コンクリートキャスクの除熱性能について, 実物大除熱モデルを用いた除熱特性試験の評価結果を報告した.
     実物大除熱モデルとして製作したコンクリートキャスクの仕様は, PWR用の17×17UO2燃料の中間貯蔵を想定したものであり, キャニスタの発熱量は1基あたり約20kwである.
     実験に先立ち行った三次元熱流動解析による事前解析では, キャニスタ及びコンクリートキャスクを構成する鋼板材料の部材温度は, 最も高温となる部位でも200℃程度であり, 部材強度は解析評価上問題が無いことを確認した.
     定常時の除熱性能確認試験では, 実機で想定されるキャニスタの発熱量変化を考慮して設定したキャニスタ発熱量10~30kwの範囲に対して, コンクリートキャスクが十分な冷却性能を持つことを確認した.また, コンクリートキャスク本体の冷却機能喪失時の特性評価として, 給気口の半数閉塞を仮想して除熱性能確認試験を実施した.試験では, コンクリートキャスク温度は, 閉塞側で全体に10~15℃程度高くなり, キャニスタ側の表面最高温度は約90℃となるが, 部材の健全性に関わるような温度上昇ではないことを確認した.
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