本研究では,山岳トンネル覆工に関して,従前の連続体力学に基づくアプローチと異なり,新たな力学的アプローチとして,不連続体解析手法の適用を試みた.山岳トンネル覆工の,健全な状態からひび割れ,うき・はく離,はく落等を伴いつつ構造物全体が破壊しそれが進行する一連の挙動について,個別要素法によるシミュレーションを試行した.軸力と曲げが作用する条件,および,曲げが卓越する条件に対する山岳トンネル覆工を対象とした実大載荷実験について,ブロック体個別要素法解析,粒状体個別要素法解析を実施し,ひび割れ,うき・はく離等の構造的な分離,覆工構造全体の破壊やその進行に対する再現性を検討した.そして,構造的な分離,覆工構造全体の破壊やその進行の評価での有用性について論じるとともに適用性における課題も明らかにした.
山岳トンネルや地下発電所などの施工では,切羽の観察や変位の計測結果に基づき,設計や施工方法を適宜修正する情報化施工が採用されている.数値解析により設計変更が検討されることもあるが,地山の構成モデル,力学パラメータ,初期・境界条件など,多くの不確実性を扱わなければならない.本論文では,線形弾性モデルによるトンネル施工および弾完全塑性モデルによる岩石の載荷試験を対象にデータ同化を活用した数値実験を行い,地山や供試体の変形挙動の予測性能の向上に寄与する解析手順や計測データの条件などを示した.そして,弾塑性モデルを扱う山岳トンネル施工時の地山の変形挙動の予測にデータ同化手法を展開していく上での研究課題について整理した.
海底トンネルは,海水による高水圧が作用する等,特殊な条件下にあり,維持管理段階においても止水や地盤強化を目的に注入した注入材や地山の状態を継続的に評価していくことが求められる.そこで,本研究では,地山および注入材の状態を把握する手法を構築することを目的に,測定された間隙水圧に関するデータ分析およびシミュレーションを実施した.その結果,間隙水圧が潮汐の影響を受けて変動していることを示し,準静的な多孔質弾性論に基づくシミュレーションにより間隙水圧応答をよく説明する注入域の範囲とその透水性を推定した.さらに,注入域の透水性が変化した場合に発生しうる間隙水圧応答の変化の特徴を整理し,間隙水圧データの維持管理上の活用方針を検討した.
動画式粉じん計測システムは,浮遊粉じんを動画撮影し,トンネル坑内の粉じん濃度を測定することを目的としている.本研究では,撮影した動画から深層学習を用いて粉じんを自動検出・計数する検出器の構築を行った.坑内での粉じん飛散を模擬した室内実験を実施して動画を撮影し,深層学習に供する粉じん画像データセットを整備し,YOLOを用いて粉じん検出器を作成した.室内粉じん飛散実験について,YOLOによる粉じん検出結果とデジタル粉じん計による濃度の実測結果とを比較し,検出器の性能を評価した.その結果,YOLOによる検出結果はデジタル粉じん計の測定値と高い相関を示し,その比例係数は両手法の評価する大気の体積比率とおおむね一致することを確認した.この比例係数を較正値として,粉じん相対濃度を推定できる可能性が示唆された.
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