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石井 一英, 野見山 漂, 落合 知, Ham Geun-Yong
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26001
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
脱炭素達成を目指しながら,人口減少と3R推進に伴う焼却ごみ減少に対処した廃棄物管理システムを構築する必要がある.本研究は,2050年時点の北海道の一般廃棄物中の焼却対象廃棄物に対して,焼却施設と中継施設の規模(施設数から決定)と配置を,コストまたはエネルギーの観点から最適化することを目的とした.コスト最適の検討では,焼却施設が10施設までは中継施設数の増加はコスト削減に効果的であり,焼却施設数が19,中継施設数が9の場合のコストが最小であった.エネルギー最適の検討では,焼却施設数が1,中継施設数が20の場合が最適であった.これらの結果は,今後2050年までに更新すべき焼却施設の集約化・広域化を促進する際の合意形成のために共有されることが期待される.
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平山 修久, 白川 博章, 山下 奈穂, 谷川 寛樹
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26002
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
本研究では,社会経済シナリオであるSSP(共有社会経済経路)別の洪水氾濫解析による浸水深データを用いて,気候変動と土地利用変化による災害廃棄物ポテンシャル量への影響評価を行った.その結果,気候変動によって,1981年から2000年の基準気候と比較して,2031年から2050年では1.10〜1.30,2081年から2100年では1.06〜1.43と災害廃棄物ポテンシャル量が増大しうることを示した.また,人口分布の変化による災害廃棄物ポテンシャル量への影響について分析した結果,人口減少により気候変動による災害廃棄物ポテンシャル量は減少するが,一人当たりの災害廃棄物ポテンシャル量という災害リスクは増大しうると示した.
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盛本 怜太郎, 橋本 征二
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26003
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
南海トラフ巨大地震を想定し,関西圏の府県・市区町村を対象に,住宅耐震化による災害廃棄物発生量の削減効果について検討した.このため,現状の耐震化率にもとづく現状シナリオ,耐震改修促進計画の目標耐震化率にもとづく耐震化計画シナリオ,耐震化率100%とする全耐震化シナリオを設定して分析した.その結果,現状シナリオに対して,耐震化計画シナリオ,全耐震化シナリオにおける災害廃棄物の削減量は,それぞれ約6.6百万ton,約10.6百万tonと推計された.全耐震化シナリオにおける削減量は,大阪府が最も多く3.4百万ton,次いで和歌山県の2.1百万ton,兵庫県の1.9百万tonであった.大阪府や和歌山県において災害廃棄物を40-50%程度削減できるのは、予想震度が6強以上を示す地域で耐震化が進んでいない市区町村を多く含むからである.
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山本 悠久, 稲葉 陸太, 小口 正弘, 田崎 智宏, 河井 紘輔, 小川 佳代子, 根本 康男
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26004
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
容器包装・製品プラスチックの一括回収がプラスチック循環へ与える影響や悪影響への対策について,ヒアリング調査を行い,関連性を構造化した.一括回収によって,電池を含む製品や黒色の製品プラなどの製品が混入し,循環工程の停止や残渣量の増加などの様々な悪影響が生じ,リサイクル量と自治体・MR事業者の処理費用の2つのエンドポイントに影響が及ぶ可能性が示された.悪影響への対策として,一括回収の対象製品を制限して混入量自体を低減することや,循環工程を追加・強化して製品の混入による悪影響の発生率や程度を低減することなどが確認された.対策が直接的・間接的に影響を与える変数の変化を把握した上で,トレードオフを考慮しつつ,複数のエンドポイントに基づき定量的に一括回収や追加対策の効果を評価することが重要と考えられた.
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鎌田 理玖, 藤山 淳史, 松本 亨
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26005
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
本研究では,福岡県三井郡大刀洗町に設置されている資源回収ステーションを対象に,「利用者へのポイントの還元方法」と「自宅から回収場所までの所要時間」,「回収場所の利用時間帯」,「回収拠点に求める機能」を属性として選好を問うアンケート調査を実施し,選択型コンジョイント分析を用いて,ステーションの効用値を定量的に評価した.その結果,「自宅から回収場所までの所要時間」が重要度の中で最も大きなウエイトを占めることがわかった.さらに,主成分分析とクラスター分析を行いて,回答者を4つのクラスターに分け,それぞれの傾向を定量的に分析した.その結果,資源回収ステーションの利用を促進させる要因に,拠点の地理的・時間的特性,別用途(地域コミュニティ活動,買い物等)との組み合わせによる多機能性が存在することが明示された.
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平松 隼人, 河口 洋一, 佐藤 雄大, 高石 武英
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26006
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
本研究では,徳島県鳴門市のレンコン田において減農薬栽培と慣行栽培の各圃場における水生生物の生物量を比較することで,農薬の使用量による水生生物群集への影響を明らかにすることを目的とした.調査は2023年5~8月に計4回行った.解析の結果,動物プランクトン,すくい採り・ペットボトル調査におけるそれぞれの総個体数・総湿重量には農法間で有意な差が認められなかった.ヌマガエル・アメリカザリガニの生物量は減農薬栽培にて農法間もしくは時期間で有意差が認められた.このことから,種によって減農薬栽培は正の影響をもたらしているが,群集全体には回復効果が見られないことが示唆された.これは,減農薬栽培は開始してから6年と比較的短いため,生物多様性の回復効果が見られなかったのではないかと考えられる.
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宮本 善和, 高畑 晃子, 日置 佳之
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26007
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
水源地域で増加傾向にある放棄農地において,ネイチャーポジティブの観点から適切な自然再生の手法を明らかにすることを目的として事例調査を行い,環境要素と人為的働きかけの要素を考慮し14サイトの自然再生の類型化を試みた.その結果,主に乾燥~湿潤の条件,及び人為的働きかけ~遷移を考慮することによって,事例サイトは9タイプに類型化された.そして,各タイプのハビタット機能を高めるための手法とそれによって創出されるハビタットについて提示した.加えて,放棄農地の自然再生の適用にあたって考慮すべき事項として6項目を関係者の聴き取り調査から抽出し,それらで9タイプを評価することで各々考慮すべき事項を示した.
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髙橋 佑太, 清野 聡子, 鵜木(加藤) 陽子
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26008
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
外来珪藻であるミズワタクチビルケイソウ(Cymbella janischii)は侵入した河川で爆発的に繁茂することがあり,その河川の生態系や景観に多大な影響を与えることが報告されている.本研究では解析ソフトMaxentを用いて,植生図や傾斜度,土地利用面積といった地理的要因から,筑後川上流域にて対象珪藻の生物分布予測モデルを形成し,またモデルへの寄与率,重要性,応答曲線から,対象珪藻の分布に大きな影響を与える要因を推定した.その結果C. janischiiが生息する確率は,傾斜度が大きいほど,また周囲の建物用地が少ないほど高まることが分かった.また表層地質について,砂礫・粘土の時が最も正の影響が大きく,次いで安山岩の影響が強かったが,これはバイアスがかかっている可能性があるため注意が必要である.今後は現地調査を通じて精度を高めていく必要がある.
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奥山 忠裕
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26009
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
本研究の目的は,新型コロナウィルスによる主観的死亡リスクから発生する観光客の不安を対象とした支払意志額(WTP)分析を通じて,感染症対策の有効性および効率性に関する検証方法を開発することである.WTP調査では旅行費用が36,000円と45,000円の場合の東京から北海道への仮想的な観光と観光中の死亡リスクを20%から80%削減するという政策効果を想定した.WTPの中央値の最大値は旅費36,000円かつ80%削減の場合の4,719円,最小値は旅費45,000円かつ20%削減の場合の1,266円である.計測の結果,「アルコール消毒」や「密閉空間を避ける」は36,000円と45,000円で観光客のリスク認知を減らす有効かつ効果的な政策と考えられ,「手洗い・うがい」は45,000円の場合で有用であることが示唆された.
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田近 柊, 木下 朋大, 川村 柊太, 尾﨑 平
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26010
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
本研究では,環境ボランティア活動に参加している大学生を対象にインタビュー調査を実施し,テキストマイニングを用いて環境ボランティア活動への参加と継続の要因を明らかにすることを目的とした.第一に,仮説構造として,環境ボランティア活動に対する参加動機にレクリエーション,利他主義,理念の実現,イメージ,特に目的意識なし,知識・技能の取得,社会的つながり,職業上の成功,負担感の9因子を設定したが,分析の結果,職業上の成功を除く8因子と,加えて「親からの影響」が抽出された.第二に,継続の促進要因として人間関係の形成や利他心の強さが,阻害要因として活動内容が活動前に十分に想起されていないことが示唆された.
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落合 知, 新井 義輝, Ham Geun-Yong , 石井 一英
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26011
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
第五次環境基本計画にて提唱された地域循環共生圏において,特に小規模自治体において自地域内での資源循環を把握し,かつ他地域との連携を図ることが重要であるとされている.そこで本研究では小規模自治体である北海道興部町を対象として,地域事業者への直接ヒアリングにより地域内資源循環を表現する「資源循環マップ」を作成する手法の提案と実践を行った.各町内産業に入る資源の品目,それが町内・町外のどこから来たのか,そしてその産業から何の資源がどこへ出ていくのかといった構造を可視化することができた.また,各産業のミクロな資源の動きだけでなく,町内全体としてのマクロな資源循環構造も可視化することができた.さらに中心性指標やクラスター検出といったネットワーク分析により,現状の興部町の地域資源循環構造の特徴として,酪農関係のバリューチェーンが発達していることや,家畜ふん尿および生ごみ等を処理・活用するバイオガスプラントを中心に複数の資源循環が起きていることが客観的指標を用いて明らかになった.
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川西 亮太朗, 中山 裕文, 島岡 隆行
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26012
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
近年,農業分野から排出される廃プラスチックの適正処理に関する多くの研究が進められている.しかしながら,農産物の品目別にみた詳細なプラスチック資材の分類に着目して使用量,排出量を整理した研究は十分とは言えない.そこで,本研究では,農産物を,果実的野菜,葉茎菜類,根菜類,穀物類に大別し,使用されるプラスチックのマテリアルフローを推計することを試みた
その結果,単位作付面積当たりの使用量は,果実的野菜が850g/m2/年,葉茎菜類は330g/m2/年,根菜類は0.97g/m2年,穀物類は2.5g/m2/年であった.単位作付面積当たり排出量は,果実的野菜が350g/m2/年,葉茎菜類は63g/m2/年,根菜類は0.97g/m2/年,穀物類は0.64g/m2/年であった.
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荒巻 俊也, 菰田 理紗, 大塚 佳臣, 平松 あい, 後藤 尚弘, 花岡 千草
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26013
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
日本全国を対象とした市民へのアンケート調査を実施し,個人属性や気候変動に対する意識と,対面あるいはオンラインでの気候変動に関する市民討議会への参加意向やその理由との関係について考察した.アンケートは調査会社のオンラインモニターを対象に実施し,9,000件の回答を得た.気候変動に関する市民会議への参加意向は年齢が高いほど高く,年齢が低いほど「参加したくない」よりも「参加できない」という回答が多かった.またオンライン討議会については,特に高年齢層で慣れていないことから参加意向が低くなった.地球温暖化に対する意識・態度によって回答者を4つのセグメントに分類したところ,各セグメントで参加意向が異なったが,気候変動やその取組に比較的懐疑的であるセグメントの中にも参加意向を示す回答者は一定数存在した.
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大塚 佳臣, 平松 あい, 後藤 尚弘, 花岡 千草, 荒巻 俊也
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26014
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
本研究では,北九州市民を対象として戸建住宅の脱炭素対策に関するシナリオ選択型の市民討議会を実施し,討議中に実施したアンケート調査データと討議中の会話データをもとに,情報提供や討議を通じた参加者のシナリオ選択プロセスを定量的に評価した.その結果,参加者全体において,討議前は,対策設備のコストパフォーマンスを,設備導入補助金による社会的負担の情報を提供した後の討議では,社会的負担を重視してシナリオを選択していた.「温暖化対策積極層」と「温暖化対策消極層」は主にコストパフォーマンスを重視してシナリオを選択していたが,前者は社会的な負担の低減を,後者は費用削減を重視するという違いがみられた.「温暖化懐疑層」「温暖化無関心層」は対策技術の成熟度や信頼性の不安から,討議後には現状維持のシナリオを選択していた.
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松橋 啓介, 徳田 太郎, 村上 千里, 尾上 成一
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26015
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
脱炭素社会への転換を実現するため,消費者側の行動転換とその転換を促すしくみが必要であり,気候市民会議を通じて,広く受け入れ可能な脱炭素化のしくみを明らかにすることが有用である.自治体の気候市民会議の国内4事例と英国2事例を参考に,つくば市を対象に,現時点での国内で最良の気候市民会議を目指した詳細設計を行い,実施した.政策反映を事前に約束したこと,謝礼の金額を増やしたことにより,ミニ・パブリックスを構成するため多くの参加希望者を獲得することができた.また,広く多様な意見を収集する機会を設けたこと,行動の転換としくみの転換を同時に考えることなどの工夫により,市民の意見を十分に踏まえた提言が得られた.提言はもれなく実施の時期を示すロードマップの形に整理され,地球温暖化対策実行計画等に反映される.
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勝島 大, 林 徹, 中谷 隼, 藤田 壮
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26016
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
近年,運輸部門における環境負荷低減の手段として,電気自動車やカーシェアリングの利用が推進されている.本研究では埼玉県東南部6市町を対象にケーススタディを実施し,電気自動車シェアリングを面的に導入した場合のCO2排出量と事業性を,アンケートによる利用意向調査を用いて評価した.分析の結果,電気自動車シェアリング導入により,CO2排出量が最大で4.3%程度,事業性を考慮した場合は最大で3.2%程度削減されることが明らかになった.また,人口密度が低いエリアでは,事業性が低いことが明らかになった.
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井原 智彦, 多積 遼, 河野 重行
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26017
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
カーボンニュートラルの達成に向けて持続可能な航空燃料(SAF)の導入が期待されるが,廃棄物残渣由来のSAFだけでは需要を賄いきれない.微細藻類由来のSAFが有望視されるが,そのライフサイクル温室効果ガス(GHG)排出量は不明であった.本研究では,微細藻類由来のバイオケロシン(航空燃料の主成分)のライフサイクルGHG排出量を初めて評価した.その結果,凝集による回収や破砕後にヘキサンを溶媒とする抽出の採用がGHG排出量を低減させることがわかった.また,化石燃料からCO2を生産した場合のGHG排出量は447.06kgCO2e/MJとなるが,大規模排出源からGHGフリーのCO2を入手できた場合には140.13kgCO2e/MJとなった.さらに,2030年の電源構成では42.63kgCO2e/MJと,石油由来のケロシンの半分のGHG排出量となることがわかった.
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中村 洸太, 中尾 彰文, 吉田 登
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26018
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
労働集約的な作業の担い手不足といった生産活動を阻害する要因が顕在化する状況下で,農林水産業には脱炭素化が求められている.こうしたなか,食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を目指す,「みどりの食料システム戦略」が策定された.この戦略では,施設園芸分野において,2050年までに脱化石燃料への完全移行を目指すことが示されている.それに対応する技術革新までの短期的なトランジション戦略として,環境効率の優れた被覆資材を選択することが重要といえる.本研究では,被覆資材における外張り資材と内張り資材の組み合わせの違いが,環境制御型施設園芸のGHG排出量と事業性に及ぼす影響を分析し,環境効率に優れた組み合わせを評価した.その結果,透明度が高く光透過率の経時的変化が少ないが高価な被覆資材であるETFEを外張り資材とし,熱貫流率が小さい農ビを内張り資材とする組み合わせが,もっとも環境効率が高いことを明らかにした.
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岡寺 智大, 小野寺 崇, 花岡 達也, 土屋 一彬, 仁科 一哉
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26019
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
反応性窒素の過剰利用が国際的に懸念されており,持続的な窒素管理には定量的評価が必要である.欧州で先行して定量化研究が進められる一方でアジアでは限定的で,特に排水処理部門の科学的知見の不足が共通課題である.そこで本研究では過去15年の日本の基礎自治体の処理系統別窒素流入量を推計し,既存研究や下水処理場への流入窒素量との比較により結果の検証を行った.その結果,日本では504~540GgN/年の窒素が排泄され,333~411GgN/年が下水処理場へ流入し,水洗化の進展で浄化槽への窒素流入も増えている事がわかった.また,公共下水道への流入は原単位や定義の違いから既存研究に比べ2~3割過少となる事も明らかとなった.加えて,下水処理場への流入窒素量との比較では都道府県で状況が異なり,下水道接続率やその他排水の流入等の要因が推察された.
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清水 康生
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26020
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
多摩川の河川水中には,下水の再生水として利根川・荒川の水が含まれている.その割合は,流量の豊富な2018年における年間平均で17.2%,最大日では43.1%と推計された.多摩川の流量が通常の場合には,年間平均は24.0%,豊水・平水・低水・渇水の各流量時は18.6%,26.3%,29.9%,41.9%と推計され,最大日では44.7%となった.利根川・荒川を起源とする再生水は,多摩川の河川流量を維持するために重要であり,水道や下水道という人工系の水循環によりこの状態が維持されている.さらに,正常流量,災害時の用水及び水環境健全性指標など,水環境の分析や調査においても水循環の視点が重要であることを論じた.水循環の実態を踏まえ,水循環基本法や同計画では,人工系の水循環の位置付けを明確にすることが望まれる.
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久郷 明空, 林 光夫, 平山 修久
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26021
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
切迫する巨大地震での効率的な災害対応を実現するためには,応急復旧戦略の高度化が求められている.しかしながら応急復旧戦略の検討に要求される水道管路被害予測はこれまでのところ実用化されていない.本研究では既往地震災害での管路被害形態データをもとに水道管路被害を考慮した管網解析に活用できる離散的水道管路被害推定手法を構築した.具体的には,被害形態推定モデル構築において,既往の管路被害形態データを漏水と逸脱に分類し,管種ごとに発生比率を明らかにした.そのうえで,既往管路の統計学的検討を踏まえ,最尤推定法を用いて管種別の水道管路被害関数を作成し,水道管路被害を考慮した管網解析に活用することができる離散的水道管路被害推定モデルを構築した.
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奥村 晃弥, 西間木 千智, 酒井 宏治
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26022
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
水源として以外にも様々な役割を持つ貯水池は,閉鎖的な空間であるため,流入河川や周辺の森林土壌から流入する雨水による水質の影響を大きく受けるという特徴を持っている.森林の水源涵養機能は水資源の貯留,洪水の緩和,水質の浄化等の様々な役割を果たしており,良質な水道原水を得るためには森林の管理が必要不可欠である.そこで本研究では,植生データと流入河川の溶存イオン,森林土壌の構成元素を森林の状態と比較し分析することで,それぞれの関係性を明らかすることを目的とした.さらに,小河内貯水池の流入河川の溶存イオンのデータを用いて主成分分析を行い,水質を流入河川ごとで比較することで,各流入河川の集水域の特色や性質を明らかにし,より良い水道原水のための水源林の管理手法を提案した.
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細川 莉来, 永田 聡太, 白川 博章, 谷川 寛樹
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26023
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
洪水ハザードエリアの建設資材ストック・フローを把握することは,将来の洪水被害予測や洪水ハザードエリアの土地利用規制を検討する際に重要である.本研究では,日本全国で建築物一棟単位から建設資材ストックの推計を行い,洪水ハザードエリアの建設資材ストック・フローを明らかにした.結果,洪水ハザードエリア内の建設資材ストックは2003年から2020年にかけて増加しており,全国の建設資材ストックの約42%を占めていた.浸水深3m以上のハザードエリア内の低層木造建築物由来のストックは2020年に全国で1.95億トンであった.全国的にハザードエリア内外で建設資材ストックの更新率が同程度となった.洪水被害を受ける可能性の高い建設資材ストックが年々増加しており,建物立地を決定する際に洪水リスクが考慮されていない可能性が示された.
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池田 裕ー, 飯村 耕介
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26024
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
近年,気候変動による水害の激甚化が課題となっており,河道だけでなく堤内地の整備も含めた流域治水による適応が提唱されている.田んぼダムは優れた治水要素として注目されており,その効果を適切に評価する手法が求められている.本研究は,水田の総面積だけでなく水路網の状況が貯留特性に与える影響を室内実験により検討した.実験では,面積の異なる3種類の田んぼ模型を使用して室内実験を実施し,田んぼダムの有無と水路網の複雑性が流出抑制に与える影響を検討した.その結果,田んぼダムによって水田からの流出が確実に抑制されるが水路網の貯留量が低下すること,水路網が複雑なほど水路網で貯留量が増加することが示された.
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上田 杏樹, 和田 彰, 白尾 豪宏, 瀧 健太郎
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26025
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
本研究では,「小さな自然再生」を通じた“わくわく”の発生・伝播のメカニズムを明らかにすることを目的に,「小さな自然再生」活動に能動的に参加した参加者及び受動的に参加した参加者を対象にアンケート調査を実施し,共分散構造分析を行った.その結果,能動的参加者は川について学ぶ「知る楽しさ」を,受動的参加者は手作り作業を行うなどの「つくる楽しさ」が“わくわく”の発生に大きく影響することが明らかとなり,“わくわく”が発生すると自然と“わくわく”の伝播に繋がることが明らかになった.これより,能動的参加者が“わくわく”するためには新しい知識を得ることができるイベントづくりを行い,受動的参加者が“わくわく”するためには手作り作業を中心としたプログラムとすることで、より良い「小さな自然再生」活動になることが示唆された.
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玉井 昌宏
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26026
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
冷気流が発生するのは,比較的大きい河川流域において形成された低温位の気塊が,河川沿いに集中して流下する場合であると考えられる.大阪平野では,淀川沿いに比較的規模の大きな冷気流が発生することが期待される.本論では,数値計算を実施して,淀川冷気流の主流であると想定される木津川流域で形成される冷気流の流動構造を検討した.上野盆地から京都盆地に至るまでの木津川本流に沿って西向きの冷気流が形成されること,この気流が京都盆地流入後,三川合流地点経由で,あるいは生駒山地北端部を越えて大阪平野に流入すること,大阪平野の気温を局所的に2K程度低下させることがわかった.
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國實 誉治, 野﨑 七愛, 小泉 明, 荒井 康裕, 茨木 延和, 和田 正豊, 須藤 高志, 田村 光四郎
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26027
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
本論文では,ポリエチレンスリーブ(以下,「PS」とする)が被覆されたダクタイル鋳鉄管の供用年数に関する分析を行った.先行研究では,ダクタイル鋳鉄管の劣化の主な原因の一つである孔食に着目し,PSが被覆されていない管(以下,「PS無し」とする)に於いて,孔食深さ予測式により供用年数との相関関係が確認できた.一方,PSが被覆された管(以下,「PS有り」とする)については,データのバラつきが大きいなど孔食深さ予測式の適用には課題が残った.そこで,最新のデータを追加し,孔食深さ予測式による新たな検討およびPSの物性試験結果なども活用し複数の分析を重ね,PS有りについて供用年数を推定した.その結果,PS被覆により20~40年程度供用年数を延長できることが実測データの分析によって確認された.
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張 運徳, 鵜木(加藤) 陽子, 清野 聡子
2024 年 80 巻 26 号 論文ID: 24-26028
発行日: 2024年
公開日: 2025/02/27
ジャーナル
認証あり
福岡市瑞梅寺川河口域にはカブトガニやクロツラヘラサギなどの希少種が生息する今津干潟が広がっている.今後の干潟環境の修復と管理に備えるため,流入河川の従来の形態観察による底生動物の状況把握と環境DNAからの検出を試みた.調査の結果,形態観察からはヤマトシジミ,ウミニナ,トビハゼなどの希少種を確認することができ,非計量多次元尺度法による比較解析からは,干潟部の多い測点と河川への移行域との間で生物相の違いを確認することができた.環境DNAからの検出種数は少なかったものの,形態観察では確認することができなかったゴマツボの存在と出現種内の遺伝的な多様性,さらに外来種タイワンシジミの侵入の情報を得ることができ,環境DNA調査の有効な一面を確認することができた.
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