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森川 拓洋, 日高 平, 野村 洋平, 藤原 拓, 蓮中 勇也, 藤原 雅人, 坪井 博和
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25001
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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下水処理場での無加温嫌気性消化の積極的な導入可能性の検討に資する基礎的知見を得ることを目的として,現場維持管理データを解析するとともに,消化槽温度を変化させる室内実験を行った.TSおよびVS濃度から算出した消化率に基づき嫌気性消化の状況を推定し,消化槽温度の上昇に伴い消化率が上昇することを確認された.中温(35℃)から低温(15℃)に運転を切り替える室内実験では,馴致期間を確保することでバイオガス発生が観察され,低温条件で反応速度定数は低下するものの,最大限得られる消化率は中温条件と低温条件で同等であることが確認された.室内実験の微生物群集解析により,温度低下後300日程度馴致させた場合に,Methanosarcina属の増加が確認された.これらより,無加温や低温条件下での嫌気性消化が適用可能であることが示された.
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桑原 遥香, 羽深 昭, 木村 克輝
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25002
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では下水汚泥をメタン発酵する際に添加剤として鉄鋼スラグを使用し,鉄鋼スラグ添加がメタン発酵性能へ与える影響を調べた.組成の異なる転炉スラグと高炉スラグをそれぞれ添加して回分式メタン発酵実験を行った.その結果,転炉スラグを添加することでスラグに含まれるCaとバイオガス中CO2が炭酸化反応し,バイオガスからCO2が除去され,CH4濃度が上昇した.混合生汚泥を基質として転炉スラグ2g/L添加した際には,CH4濃度が66%から71%に上昇し,対照系に比べてCH4収率が1.8倍に増加した.一方で高炉スラグ添加によるメタン発酵促進効果はみられず,阻害効果もなかった.転炉スラグは高炉スラグと比較してFe含有量が高く,転炉スラグ中のFe化合物がCH4収率増加に寄与した可能性が示唆された.
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王 旭, 任 媛媛, 田 豊, 李 玉友
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25003
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究の目的は,食品廃棄物のメタン発酵における微量元素の欠乏による酸敗過程を再現しつつ,メタン発酵と環境条件の各指標の変化パターンを特定してモニタリング指標の相関関係を検討することで,制御方法と自動監視を実現するための基礎を提供することである.中温とHRT 30日の完全混合反応槽を用いて,微量元素を添加しない食品廃棄物を基質としたメタン発酵の長期連続実験を行い,2回の酸敗過程を再現したとともに各パラメータを連続的に監視し,関連性を解析した.その結果,微量元素の欠乏による酸敗過程を有機物分解率,バイオガス生成,有機酸の蓄積およびpHとアルカリ度の変動などの指標で把握し2回再現させた。また自動検出可能なパラメータの中,CO2割合,pHおよびORPの線形相関性を特定したとともに,ガス生成率,CO2割合,pHとアルカリ度6.5,TVFAs,TVFAs/アルカリ度6.5間にも著しい相関性があることを明らかにした.
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西山 拓海, 稲垣 誠吾, 羽深 昭, 橋本 悠司, 倭 常郎, 木村 克輝
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25004
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究は脱水汚泥を水熱処理後,加水・脱水して得られる脱水分離液を基質とし,嫌気性MBRを用いてバイオガス化する新たな集約消化プロセスを提案する.脱水汚泥の水熱条件を検討した結果,150℃,1時間で汚泥の可溶化率は20.9%まで上昇し,脱水残渣の含水率は76.6%まで低下した.得られた脱水分離液を嫌気性MBRに供給し,段階的にHRTを短縮してバイオガス化した.その結果,VFAsの蓄積等を起こすことなく,HRTを5日まで短縮可能であった.このときのバイオガス生成速度は1.74L/L/d,メタン収率は0.25L/g-CODであった.HRTを2日に短縮すると.膜ファウリングによる膜間差圧の上昇が発生し,膜間差圧は50kPaに達した.運転終了後の膜洗浄の結果,可逆ファウリングが支配的であった.
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佐藤 岳哉, 米田 一路, 古山 遥, 本間 伸栄, 佐々木 貴史, 西山 正晃, 渡部 徹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25005
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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褐藻アカモクの培養において下水汚泥コンポストを栄養源として利用することの可能性を検討するため,下水汚泥コンポストとろ過海水を混合し,振とう後に静置した上澄み液をコンポスト溶出液として回収した.この溶出液を海水に重量比で0%から20%の割合で添加し,アカモクの室内培養を7週間に渡って水温20℃で実施した.その際,コンポスト溶出液と海水は1週間ごとに交換した.溶出液1%の処理区ではアカモクは順調に生長し,全長と湿重量の最大値はそれぞれ0%の処理区の最大値の1.2倍と2.1倍に達した.一方,10%と20%の処理区ではアカモクの生長が著しく阻害された.培養後の藻体に含まれる光合成色素濃度は,処理区間で有意な差は見られず,コンポスト溶出液の添加はアカモクの光合成能に影響を与えなかった.
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松永 透馬, 本間 亮介, 大下 和徹, Matěj Hušek , 竹内 悠, 西村 文武, 高岡 昌輝
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25006
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では日本のPFAS汚染実態を明らかにすることを目的に,全国34カ所の下水処理場の脱水ケーキについて30種類のPFASを分析した.30種類のPFAS合計濃度は4.6~370ng/g-dryであり,PFOSが最も顕著に検出され,PFHxA,PFNA,PFUnDAなどの長短鎖PFASも多く検出された.PFOS濃度は近年の欧米諸国の既報値と大きな違いは見られず,同様の状況にあると示唆された.PFOSについては嫌気性消化汚泥で有意に濃度が高くなる傾向が見られ,PFOA,PFNA,PFUnDAについては無機系脱水助剤によって濃度が高くなる傾向がわずかに見られた.肥料利用拡大においては欧米と同様の対応を見据え,PFOS濃度やその推移に注目する必要があると考えられた.
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米澤 璃穂, 本間 亮介, 高岡 昌輝, 神田 英輝, 大下 和徹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25007
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では,高分子凝集剤による2種類の微細藻類の凝集・濃縮・脱水を,各微細藻類の乾燥粉末を用いたスラリーを対象に実験的に検討し,凝集剤による凝集特性や,各プロセスにおける含水率変化,種による差異を評価した.その結果,攪拌速度が大きく,攪拌時間が長いほど回収率が高くなり,98%以上の回収率を示す場合も見られた.ただし,分子量の大きい凝集剤は,比較的攪拌速度が小さい条件における凝集効果が高かった.本研究で最もカチオン度が高い凝集剤は,各藻類に対して添加率2%で約90%,添加率3%で95%以上の高い回収率を示した.遠心脱水後の含水率は,C. sorokinianaは約65%,C. simplex var. calcitransは約72%に低下し,藻類表面の構成物質により脱水性が異なることが示唆された.
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髙島 正信
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25008
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究は,下水汚泥焼却灰からの灰酸抽出に基づくリン回収について,無機薬品と固液分離を組み合わせる方法を基礎検討したものである.また,リンとともに鉄とアルミニウムの回収も対象とした.本法は三段階からなり,一次工程で酸溶出液のpHを3.0,3.5,4.0および5.0に調整して沈殿分離した後,最終的にリン酸カルシウム,水酸化鉄およびアルミニウム溶液の画分に分別した.リンについては,69~82%の回収率がリン酸カルシウムの画分で得られ,一次工程pH4.0で最大に達した.鉄とアルミニウムの画分では,それぞれ回収率55~90%,75~82%であった.得られたリン酸カルシウムは重金属類の含有量が十分に低かったが,鉄とアルミニウムについては純度および濃度について不十分であった.
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鬼束 幸樹, 河野 純祈, 夏山 健斗
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25009
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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ダムや堰の取水口にウナギが迷入すると高確率で死に至る.迷入防止対策として魚の忌避色を取水口付近に塗装する手法が挙げられる.色は色相,彩度および明度の三属性を有する.杭水制の明度の低下に伴いニホンウナギの杭水制利用率が増加するとの知見は存在するものの,色相および彩度がニホンウナギの遊泳挙動に及ぼす影響は未解明である.本研究では円形プールを2等分割し,片側壁面色の三属性を固定し,もう片側壁面色の二属性を固定して一属性のみを変化させてニホンウナギの挙動を観察した.その結果,色相および彩度はニホンウナギの遊泳挙動に影響を及ぼさないこと,また,明度の増加に伴い高明度領域を忌避する傾向が顕著となり低明度領域の遊泳時間が増加すること,さらに,低明度から高明度領域への進入速度が減少することが解明された.
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原田 祥, 伊豫岡 宏樹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25010
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では近年10年間における室見川汽水域のシロウオの産卵環境の変化について,現地調査による産卵状況と一般化線形モデルによって求めた産卵適性度の推移から評価することを試みた.産卵が確認された地点,区画はともに減少傾向にあるが,室見新橋の橋脚周辺と産卵場造成が行われている場所は,一貫して主要な産卵環境として機能していた.また砂州の形状の変化などは認められるものの,産卵可能な場所は堰下流500mで大きく変化していなかった.しかし近年の産卵地点は産卵適応度が特に高い場所に限られていることから,河川に遡上するシロウオの資源量そのものが減少していることが考えられた.
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米田 一路, 鹿納 陽平, 佐藤 岳哉, 今野 昭博, Dung Viet PHAM , 西山 正晃, 渡部 徹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25011
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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天然アユは,摂食した藻類の分解により,キュウリやスイカのような香りを発するが,養殖アユは,飼料に藻類を含まないため,この香りが少ない.本研究では,栄養塩が豊富な下水処理水で藻類を培養し,それを人工飼料に0~30%の重量割合で混合した飼料を養殖アユに給餌する試験を行った.処理水での藻類培養の結果,緑藻綱(特にChlorococcales sp.)が優占した.この培養した藻類を養殖アユに給餌した結果,キュウリやスイカの香り成分の濃度は,アユの身では藻類を給餌しても変化しなかったが,内臓では藻類を給餌した条件で高く,処理水で培養した藻類の給餌によって,これらの好ましい香りをアユに付与できた.一方で,藻類の給餌により,処理水由来のカビ臭とムスク臭成分の濃度も,アユの内臓で高まる課題が残った.
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高荒 智子, 大竹 美緒, 西山 正晃, 渡部 徹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25012
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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アルテミアの長期飼育のための餌料として,標準活性汚泥法の下水処理水を基質に用いて培養した微細藻類を活用し,その成長と生存率を調べた.屋外における培養によって,Scenedesmus quadricaudaを優占種とする緑藻綱が増殖した.その栄養成分の割合は,灰分(36%)が最も高く,クロレラに比べてタンパク質や脂質の割合は低かった.脂肪酸の種類は処理水由来微細藻類の方が多様であり,EPAや低い割合であるのもののDPA等の不飽和脂肪酸も検出された.処理水由来微細藻類を与えたアルテミアの飼育実験では,クロレラを与えた個体よりも初期の成長に遅れがみられたものの,70日以上の期間に渡って生存し,成体まで成長した.生殖活動やノープリウスの誕生も確認され,処理水由来微細藻類がアルテミアの長期飼育の餌料として有効であることが示された.
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郭 広澤, 陳 玉潔, 久保田 健吾, 李 玉友
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25013
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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濃縮浄化槽汚泥の再生処理に適した創エネルギー・低炭素型資源化システムを確立するため, 近年の革新的技術シーズを考慮した濃縮浄化槽汚泥のエネルギー化・資源化の最新システムとして, エネルギー回収に対応する嫌気性膜分離法(Anaerobic membrane bioreactor, AnMBR)による高効率メタン発酵とHAP(Hydroxyapatite)型一槽式部分亜硝酸化アナモックス(Partial nitritation and anammox, PNA)法による窒素除去とリン回収を行った. 実際の汚泥を用いたAnMBRの長期連続運転実験を行い, 濃縮浄化槽汚泥から高いメタン収率を得ることができた. 一槽式HAP-PNAプロセスによる膜ろ水の平均窒素除去率は81.6%, リン除去率は73.2%であり, 窒素とリンの同時除去を実現できた. 本研究で開発したAnMBRと一槽式HAP-PNA法の処理システムは, エネルギー自給率が146–203%と高かった.
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哈 俊彤, 宋 柳瑩, 曽 慶康, 覃 宇, 李 玉友
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25014
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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CO2の排出削減と資源化は,世界的な課題として認識されており,バイオメタネーション技術がその解決策の一つとして注目されている.実際のバイオメタネーション反応槽においては,微生物の多様性や相互作用が複雑であり,その変動が発酵効率に大きな影響を与えるので,定量的に解析を行う必要がある.本研究では,効率的な脱炭素とCH4生成を目指して,総容積15Lの嫌気性膜分離リアクターを用いた長期連続実験を行い,炭素負荷の変化に伴う脱炭素効率および微生物群集構造の変化を評価した.その結果,炭素負荷が1.0g-C/L/dの場合,脱炭素率は85%以上に達することが確認された.炭素負荷の向上に伴い,反応槽における優勢菌種はメタン生成古細菌であるMethanosarcina(17.7%)から,水素資化メタン生成古細菌であるMethanobacterium(39.4%)に変化し,高いCH4生成速度(67mL/gVSS/h)が得られた.ろ過膜を用いた固液分離により,メタン生成古細菌を反応槽内で高濃度に保持することで,脱炭素効率の向上および高速のCH4生成が可能になることが分かった.
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若狭 拓人, 王 健斉, 髙橋 尚暉, Le Thi Uoc , Warunee Limmum , 笹本 誠, 石川 奈緒, 伊藤 歩
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25016
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では,農業廃棄物であるドリアンの果皮を原料としたバイオチャー(BC)を用いて水試料および下水処理水に含まれる9種類の抗菌性物質の吸着除去を検討した.BCによる水試料中の抗菌性物質の吸着能は,市販の活性炭(AC)に比べて劣るが,BC濃度を増加することで抗菌性物質濃度を低減できた.水試料中のクラリスロマイシン(CLM)のBCへの吸着はLangmuirモデルの吸着等温式と擬2次速度モデルに適合し,CLMの最大吸着量は5.16mg/gであり,他の研究報告と比較しても妥当な結果であった.下水処理水に残留する抗菌性物質についてもACの方が高い吸着能を示したが,BC濃度を増加することでスルファメトキサゾール(SMX)以外の抗菌性物質の吸着率を80%以上に向上できた.
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横山 律, 西山 正晃, 松山 裕城, 渡部 徹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25017
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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肥育後期(月齢 5~6 ヶ月)に下水処理水栽培米を給餌された肥育豚(試験区)から分離した大腸菌株の薬剤耐性を,同期間に慣行栽培米を給餌された肥育豚(対照区)と比較した.18頭の肥育豚から43株(試験区の8頭から21株,対照区の8頭から22株)の大腸菌株が分離された.分離菌株について薬剤感受性試験を行った結果,24株(試験区の5頭から10株,対照区の7頭から14株)がテトラサイクリン,クロラムフェニコール,アンピシリン,スルファメトキサゾール/トリメトプリム,カナマイシンのいずれかの抗菌薬に耐性を示したが,5種類のいずれについても試験区と対照区で耐性率に有意差はなかった(p > 0.05).耐性菌株のST型と保有していた耐性遺伝子は試験区と対照区で類似しており,肥育後期に下水処理水栽培米を給餌した影響は見られなかった.
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吉本 龍晟, Sorn SOVANNLAKSMY , 井原 賢
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25018
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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高知県の浦戸湾に流入する感潮河川8河川と湾外の海岸の計15地点で晴天時、降雨時に採水を行い大腸菌、薬剤耐性大腸菌の存在実態を調査した。その結果、晴天時に比べ降雨時に菌数が増加した。降雨パターンと菌数、水試料の塩分の関係から、降雨時には河川上流部からの微生物負荷の増大と湾の海水が負荷源になっている可能性が考えられた。合計降雨量が多いほど河川での菌数の増加が大きい傾向も見られた。さらに、浦戸湾の海水が遡上する川の地点において晴天時と降雨時に連続採水を行い菌数の変動を詳細に調査した。その結果、晴天時には浦戸湾の海水が遡上すると希釈等によって河川の大腸菌数、薬剤耐性大腸菌数が減少することが確認された。降雨時には浦戸湾の水が負荷源になる場合と河川上流から流下する水が負荷源になる場合の両方が考えられた。
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高橋 真司, 水村 凌大, 笹本 誠, 鳴海 貴之, 竹花 和浩, 石川 奈緒, 伊藤 歩
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25019
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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認証あり
本研究では農畜産業が盛んな地域を集水域に持つ岩手県北部の新井田川水系上流域の2河川,各3地点の計6地点を対象に,河川水及び河川内有機物(流下微粒状有機物(SFPOM),付着藻類,堆積微粒状有機物(BFPOM))に含まれる抗菌性物質等を分析し,抗菌性物質等の河川環境内分布の解明を行った.計4回の現地調査を実施し,河川水中からは14種類中10種類の抗菌性物質が検出された.また,河川内有機物を対象に74種類の抗菌性物質等の網羅的解析を実施した結果,微量濃度ではあるもののSFPOM,付着藻類,BFPOMからはそれぞれ11種類,38種類,24種類の抗菌性物質等が検出され,河川中の抗菌性物質は有機物の種類や調査時期,調査地点ごとに異なる分布挙動を示すことが示唆された.
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齋藤 静香, Siti Asah Md Ali , Luc Duc Phung , 松山 裕城, 渡部 徹, 西山 正晃
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25020
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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下水道資源を施用した農地で薬剤耐性大腸菌の検出とその特徴付けをした.6~9月にかけて,下水汚泥コンポストと消化汚泥脱離液を施用した処理区から21株,豚ふん堆肥,化学肥料等を施用した対照区から27株,計48株の大腸菌が検出された.土壌試料から,作物の生育初期と収穫後に下水道資源の施用の有無に関係なく大腸菌が検出された.48株に対して18薬剤に対する薬剤感受性試験を行った結果,CIP(13.2%),AMK(13.2%),ABPC(7.5%)に対し耐性を示した.同じ大腸菌株に対する系統解析の結果,15株が環境中からの分離が報告されているST720に分類された.以上のことから,下水道資源の施用による大腸菌汚染は確認されず,調査農地の大腸菌汚染は周辺の農場や野生動物といった外部環境の影響が示唆された.
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許 玉銓, Niva Sthapit , 原本 英司, 八重樫 咲子
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25021
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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近年,環境DNA(eDNA)を利用した水生生物多様性調査が行われているが,eDNAの挙動には未解明な点も多い.そこで,本研究では,魚類アユ(Plecoglossus altivelis)と底生動物(Stenopsyche marmorata)を対象としてeDNA濃度の時間変動を調査した.その結果,アユのDNAは1日を通して検出できたのに対し,ヒゲナガカワトビケラのDNAは夜間から朝にかけてのみ検出された.これは,ヒゲナガカワトビケラの生態と関連していると推察された.また,一般的なeDNA分析に用いられる孔径(0.65µm)よりも小さい孔径(0.20µm)のフィルターでろ過を実施することで,ヒゲナガカワトビケラのDNA検出頻度が高まった.効果的なeDNA分析を行う際には対象種の生態に合わせた採水戦略を検討する必要がある.
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三上 優貴, Xu Chen , 糠澤 桂
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25022
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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環境DNA(eDNA)の検出精度は生物・環境的な条件に左右されるが,濁水中のeDNAの動態は深く理解されていない.本研究では,濁水条件の違いが存在形態の異なるeDNAの挙動に与える影響を評価した.蒸留水およびコイの水槽水と河川で採取した土砂を混合して目標濁度0,20,50,100,200ppmの濁水条件の水試料を作成した.孔径の異なる2種類のガラス繊維ろ紙を用いてeDNAの濃縮を行い,デジタルPCRによりeDNA濃度を定量した.結果として,濁度の増加に伴いeDNA濃度が高まっていたが,高濁度条件下においてはeDNA濃度が低下する傾向が確認された.これらの事実は,eDNAの吸着とPCR阻害物質の影響により,中程度の濁度においてeDNA濃度が高まることを示唆する.
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西山 正晃, 米田 一路, 渡部 徹, 佐藤 高広, 渡邉 一哉
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25023
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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水産資源であるサクラマスの生息状況を把握するために,環境DNA(eDNA)を用いてサケ科魚類の中から対象魚を検出する分析手法を開発した.開発したTaqMan-probe法による定量PCRでは,6種のOncorhynchus属と異なるサケ属(Salvelinus属,Salmo属,ならびにHucho属)から,サクラマス(O. masou spp.)を特異的に検出できることを確認した.また,飼育水槽内の個体数密度を反映したeDNAが検出され,存在量の把握に有効な検出系を確立することができた.現地調査を,2021年7月から11月にかけて,山形県内の赤川水系9地点を対象とした月一回行い,本手法を検証した.その結果,調査期間におけるサクラマスのeDNA量は,10月に有意に高くなり(p = 0.016),降海型の移動を反映していた.以上のことから,本研究で開発したeDNA分析手法は,サクラマスの生息分布や河川内での行動生態を把握することに利用可能であることが示された.
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鬼束 幸樹, 月岡 洸斗, 渡邊 杏咲
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25024
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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ダムや堰による魚の遡上阻害を解消するため,魚道が併設されてきた.既往の魚道研究では主に遊泳魚が対象であったが,近年,ウナギのような底生魚も対象になりつつある.欧米では魚道底面にブラシや突起物を設置したウナギ用魚道が提案されている.ただし,遡上に適した突起物の規格は必ずしも明確ではない.本研究ではウナギ用魚道の底面に設置される円柱突起物の直径を12~60mm,ニホンウナギの全長を150~300mmの範囲で変化させ,遡上に適した突起物直径を求めた.その結果,本実験条件下では,遡上に適した突起物直径はニホンウナギの全長の約1~2割と判明した.今後,同規格の他の全長のニホンウナギへの適用性を検証し,河川に生息する全サイズのニホンウナギが遡上可能なウナギ用魚道の規格を提案したい.
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窪田 恵一, 見島 伊織, 渡邉 智秀
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25025
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では,鉄電解式リン除去型浄化槽の嫌気槽内に微生物燃料電池(MFC)を適用し,その処理性能への影響を評価した.装置はラボスケールで2.1Lの嫌気槽と1.4Lの好気槽を有し,嫌気槽にMFCを,好気槽に鉄電解装置を設置して模擬排水の連続処理試験を行った.MFCの最大電力密度はカソード面積あたりで31W/m2を発揮した.有機物及び窒素除去能は開回路系と同程度であったが,リン除去能はMFC系で15%程度高くなった.放射光分析による鉄の化学形態解析の結果,MFCを適用した嫌気槽汚泥では鉄電解法により形成されるFePO4が減少しており,鉄が還元されていた可能性が示唆された.一方で,リンはFePO4以外の形態で汚泥に保持されている可能性が示唆され,これがリン除去能向上に寄与していたと考えられた.
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中祖 惟月, 羽深 昭, 北島 正章, 木村 克輝
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25026
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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膜分離活性汚泥法(MBR)の処理水中のウイルス濃度は検出限界値(LOD)を下回ることが多く, 従来の検出技術では MBR のウイルス除去率の実測が困難である. 本研究では, 下水中ウイルスの高感度検出技術であるEfficient and Practical Virus Identification System with ENhanced Sensitivity for Membrane(EPISENS-M法)をMBR処理水に適用するためのプロトコル(低濃度版EPISENS-M法)に改良することで, LODを0.1copies/Lまで下げることに成功し, 実下水を原水とするMBR処理水中のウイルスの定量を可能にした. また, 実測値をもとに算出したMBRによる除去率は各ウイルスに対して4 log10以上であることが確認され, CASと比較して有意に高い除去性能を示した. 本研究で開発した低濃度版EPISENS-M法は, MBRのウイルス除去性能を定量的に評価する上で有用である.
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小澤 諒三, Luc Duc PHUNG , 渡部 徹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25028
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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都市下水処理水を灌漑利用して飼料作物を栽培することは,肥料と家畜飼料を輸入に依存する我が国の食料安全保障に貢献できる。本研究では,下水処理水で灌漑する水田(試験田)で,飼料用米の栽培時に排出される温室効果ガスを調査し,化学肥料を使用した慣行栽培を行う水田(対照田)と比較した。その結果,両水田で大きなメタン排出が観測された一方,亜酸化窒素の排出は著しく少なかった。両ガスを合計した温室効果ガスの総排出量は試験田で7506±3588kgCO2-eq/haであり,対照田(7035±3207kgCO2-eq/ha)と有意差はなかった。ただし,対照田で使用された化学肥料の製造や輸送,および両区画で生産された飼料の輸送まで考慮すると,試験田での処理水灌漑は819kgCO2-eq/haだけ排出を削減できた。
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藤井 大地, 杉山 春弥, 齋藤 利晃
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25029
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では,アンモニア酸化細菌(AOB)による亜酸化窒素(N2O)生成を制御する上で有効な指標であることが明らかになりつつある一酸化窒素(NO)に関して,NOを工学的指標としたN2O生成抑制技術の開発に資する基礎理論の範囲をAOBのみならず脱窒細菌等を含む複雑な微生物系へと拡張し,下水処理場でのN2O生成抑制技術の開発に繋げることを目的に実験的検証を行った.注射器を用いた簡易的なNO及びN2Oの生成・分解能試験法を考案し,下水処理場で採取した活性汚泥を試験に供した結果,嫌気槽,好気槽及び無酸素槽のいずれについても,NOがN2Oの転換率や生成速度の支配因子であることが確認された.本研究結果により,NOを介して活性汚泥微生物の相互作用を包括的に観察することが,N2O生成の推定や抑制に資する可能性が示された.
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外川 弘典, 石井 淑大, 安倉 直希, 重村 浩之
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25030
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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下水道事業の脱炭素化のため,下水処理工程から排出されるガス態の一酸化二窒素(N2O)の削減が求められているが,その排出量の変動は実態解明が進んでいない.本研究では,生物反応槽が覆蓋であり,硝化促進運転を実施している下水処理場の2種類の処理系列において,ガス自動測定器を用いた下水処理工程の排気ガス中N2O排出量の連続モニタリングを実施した.約4月間の連続モニタリングの結果,N2O排出量の長期・中期・短期的な変動や流入水質の影響を評価することができた.生物反応槽の水温や流入窒素濃度の影響でN2O排出量が変動する可能性が示され,排出量に影響を与える因子の解明に連続モニタリングが有効であることが示された.これらの結果をもとに,N2O排出係数の見直しや,N2O排出量を低減する運転方法の検討が必要である.
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吉田 有希, 酢谷 大輔, 小澤 諒三, Luc Duc PHUNG , 渡部 徹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25031
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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DNDC-Riceモデルを用いて,下水処理水を水田に灌漑した場合の温室効果ガス排出量の変化及び温室効果ガス削減に有効な灌漑条件について解析を行った.モデルによる感度解析を行ったところ,中干しの頻度を2回,3回と増加させることにより亜酸化窒素の排出量は大きくなるものの,メタンの排出量は逆に減少し,地球温暖化係数を乗じた温室効果ガス総排出量は河川水を灌漑した場合と比べて減少した.また,下水処理水の窒素形態がアンモニア態窒素から硝酸態窒素となった場合も,メタン排出量が減少することにより温室効果ガスの総排出量は減少した.下水処理水を飼料用米の栽培に利用する場合は,灌漑方法を工夫することにより,水田からの温室効果ガスの排出量を削減できる可能性が示された.
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上田 純平, 佐野 航士, 羽深 昭, 木村 克輝
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25032
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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茨戸川は漁業やレジャー等に利用されており水質への関心が高い.閉鎖性の高い三日月湖である茨戸川は,富栄養化が深刻だった時代と比較して水質は改善した.しかし,近年の茨戸川の水質を詳細に調査した研究はない.また,底泥からのリン溶出や関連する底泥中金属元素も定量されていない.そこで本研究では,湖水と底泥コア試料を高頻度でサンプリングし,茨戸川における内部リン溶出を調査した.その結果,夏季において湖沼成層化が確認され,内部リン溶出が促進されていた.夏季における底泥からのリン溶出速度は7.89mg-P/m2/dであった.底泥中には鉄が多く含まれており,泥炭地に存在する湖沼の特徴を有していた.底泥中には鉄結合リンが多く含まれていることが考えられ,底泥からのリン溶出に寄与していることが示唆された.
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杉原 幸樹, 管原 庄吾
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25033
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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硫化水素を含む無酸素塩水に溶存酸素を供給したときの水塊への影響を把握するため,硫化水素を強制的に酸化させた後の水質変化を化学分析により長期間追跡した.溶存酸素供給および光の明暗を条件として90日間の水質追跡を行った結果,光に依存しない硫黄酸化が起こり,嫌気条件中で炭酸を酸素源としていること,栄養塩も消費されることが明らかとなった.また硫黄と炭素の物質量比は1:1であることが明らかとなった.また硫化水素を完全に酸化した場合でも,約2週間の無酸素状態が継続する挙動が確認された.その後,光照射した場合には緑藻の増殖と溶存酸素が光合成供給されることを確認した.プランクトンの増殖時には栄養塩や炭酸の消費が確認された.無酸素底層水の再利用を考慮すると,硫化水素を無害化することで栄養塩の除去や二酸化炭素削減が可能であることが示唆された.
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吉門 遼大, 鹿島 千尋, 中谷 祐介
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25034
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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低次生態系モデルによる出力値には不確実性が含まれているため,水域特性に適したモデル構造とモデル式,パラメータ設定が必要である.本研究では,低次生態系モデルで作成した水質状態変数の時系列データを基にスパース同定を行い,その適用性を評価した.その結果,植物プランクトン,懸濁態有機物,溶存有機態窒素,溶存有機態炭素に関しては,正しい式形と良好なパラメータが同定された.実観測データにスパース同定を適用することで,水域特性を反映したモデル式・パラメータが同定され,不確実性を低減できる可能性が示唆された.一方で,溶存有機態リン,リン酸態リン,アンモニア態窒素,硝酸態窒素に関しては,現時点では適用は困難であった.適用性には,ライブラリを構築する候補関数と,状態変数の時間変化量が影響を及ぼすと考えられた.
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石井 淑大, 松橋 学, 重村 浩之, 鮫島 正一, 髙倉 正佳, 中田 昌幸, 酒井 孝輔, 増屋 征訓, 信川 貴紀, 長谷川 翔一
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25035
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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下水処理場における運転管理者の減少に対応するため,熟練技術者の運転を再現し技術継承に寄与するAI技術の開発と導入が求められている.本研究では,下水処理におけるAI技術の需要や活用可能な操作項目を把握するためにアンケート調査を実施した.その結果,特に送風量や余剰汚泥引き抜き量の設定値変更にAI技術が活用できる可能性が示され,運転管理者からの需要が一定程度あることが分かった.さらに,実際の下水処理場に運転判断の支援を行うAI技術を導入し,実証試験を行った.12個の操作項目においてAIによる推論と当該下水処理場の熟練技術者の判断を比較した結果,約90%で判断が一致し,AIによる推論が実際の下水処理場の運転判断支援に活用可能であることが示された.
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大石 若菜, 中里 悠人, 水谷 大二郎, 佐野 大輔
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25036
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究は,生活排水処理システムの集合処理と個別処理の最適配置を,多面的な評価軸から数理的に見出すことを目的とした.世帯あたり年間の整備・維持管理コスト,温室効果ガス排出量,消化ガスポテンシャル,及びリン回収ポテンシャルが集合処理と個別処理で均衡する人口密度は,これまで収益分岐点とされてきた1ヘクタールあたり40人よりも低いことが示唆された.仮想居住地区を対象に,上記4指標の重み付け合計値(消化ガス及びリン回収ポテンシャルは負の重み付け)が最小となる集合処理と個別処理の割り当てを数理最適化により求めた結果,世帯密度が1ヘクタールあたり2.4世帯の地区の集中分散ベストミックスが明らかになり,全世帯集合処理の場合及び全世帯個別処理の場合よりも温室効果ガス排出量及びコストを抑えられる結果となった.
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福嶋 俊貴
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25037
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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処理能力5~10万m3/日の中規模下水処理場4ヶ所を対象に省エネ施策・創エネ施策による使用電力量とGHG排出量の削減効果を下水処理場シミュレータにより評価した.曝気風量削減を目的とした省エネ施策の導入では省エネ効果は4.5~18.6%と2割以下であった.一方,創エネ施策では消化ガス発電を導入することにより自給率は11~50%が期待され,余剰汚泥可溶化とMLSS低減策との組合せでは自給率が21~88%へと向上すると計算された.省エネ施策と創エネ施策の同時実施では自給率は24~99%へと更に向上し,年間でもほぼ同様の効果が期待された.GHG削減効果をCO2オフセット率(100%でカーボンニュートラル)で評価すると,ほぼ電力自立に近づいていたA処理場でも水処理からの直接排出量の影響でCO2オフセット率は57%であった.硝化抑制運転のB処理場は26%であった.汚泥焼却のあるC処理場は創エネのために導入した嫌気性消化槽の効果で処理すべき汚泥量が減少し43%と二番目に高かった.高度処理のD処理場は19%であった.中規模下水処理場でも大規模下水処理場と同様に個別処理場の運転状況の影響が大きかった.
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山口 健太
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25038
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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我が国では脱炭素社会を目指し再生可能エネルギーが導入されているが,電力需給バランスの維持が課題である.これに対し,デマンドレスポンスを活用した調整力の市場調達が検討されている.本研究では,ビル用マルチエアコンのデマンドレスポンスによる調整力を評価し,特定の実験条件下で追従誤差が大きく,市場での活用が困難であることが示唆された.また,蓄電池や換気量調節を組み合わせることで追従誤差を補う方法を検討し,追従誤差の補完が可能であることが示された.ただし,この結論は本研究における制御方法および機器特性に依存しており,一般的なビル用マルチエアコン全体に適用できるかについては更なる検討が必要である.
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寺畠 正悟, 赤尾 聡史, 前田 守弘
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25039
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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キトサンは,土壌改良資材やコンポスト化における防臭剤としての利用例がある.しかし,キトサン施用後の土壌への影響は必ずしも明らかではない.ここでは,キトサン施用土壌と非施用土壌の2系を培養し,土壌の化学特性と生物特性を検討した.キトサン施用により,硝酸態窒素含量が増加し,硝化作用の促進が確認された.キトサンはDNA抽出を阻害するが,リン酸緩衝液の前処理により同施用土壌からDNAを回収できた.キトサン施用により細菌叢は大きく変化し,Streptomycetales,Sphingobacteriales,Xanthomonadales,Cytophagalesなどの存在量が増加した.機能予測解析では,キトサン代謝の過程でキトサン中のアミノ基が脱離し,土壌中にアンモニアが供給されることが推測された.
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飯野 愛未, 藤原 莉久, 武邊 勝道, 山田 光陽, 幡本 将史, 山口 隆司, 山口 剛士
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25040
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では, 微生物を用いたセメンテーション技術で必須である尿素分解菌をdown-flow hanging sponge(DHS)リアクターとisolation chip (ichip)法を用いて単離することを目的とした. 本実験で構築した尿素供給DHSリアクターでは, ほぼ全ての尿素がアンモニウムに分解されることが明らかとなった. また, 16S rRNA遺伝子に基づく微生物群集構造解析によって, 多種の尿素分解菌が生息していることが明らかとなった. ichip法で単離できた微生物は, バイオセメンテーションによく利用されるSporosarcina pasteurii(旧Bacillus属)と同程度のウレアーゼ活性を有していた. 単離株の16S rRNA遺伝子を解析した結果, S. pasteuriiと同種(遺伝子相同性99.57%)であった. さらに, S. pasteuriiが属するSporosarcina属やBacillus属は微生物群集構造解析の結果, 1%であったことから今回の方法によってDHSリアクター内の存在割合が少ない微生物の単離が可能であることが示唆された.
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山田 灯乃助, 川上 周司, 渡利 高大, 松浦 哲久, 角野 晴彦
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25041
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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Complete Ammonia Oxidation (Comammox)細菌は, アンモニア酸化と亜硝酸酸化の2段階の硝化反応の両方を担う細菌群であり, 新たな排水処理技術への応用が期待される. 一方, Comammox細菌が属するNitrospira属のグループには, Comammox細菌と従来型の亜硝酸酸化のみを行う細菌が混在しており, rRNAアプローチに基づく同定法では両者を区別できない. 本研究ではこの問題を解決するために, rRNA-FISH法によりNitrospirae門を, CARD-FISH法によりamoA-mRNAをシングルセルレベルで同時に多重染色することでComammox細菌を同定する技術を確立した. またComammox細菌のamoA-mRNAをFISH法で検出するために, 本研究ではPCRに用いられている既報のプライマーをFISHプローブに転用する検討を行った. 結果, 多くのComammox細菌のamoA遺伝子を標的とするNtsp-amoA-359rプローブにおいてΔGoverallが-15.01kcal/molと高く, 得られた蛍光強度も高かったことから, Comammox細菌のamoA-mRNAの検出に有用なプローブになる可能性を示した.
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永妻 志問, 幡本 将史, 山口 隆司, 山口 剛士
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25042
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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本研究では, 内在性ペルオキシダーゼ活性を有している微生物の機能遺伝子を視覚的に検出する方法を開発することを目的として, horseradish peroxidaseによる酵素反応を用いない高感度fluorescence in situ hybridization (FISH)法であるHybridization Chain Reaction (HCR)-FISH法とalkyne-azideの特異的な結合が可能なclick chemistryを組み合わせた微生物の高感度検出法の開発を行った. 本研究では, 内在性ペルオキシダーゼ活性を有しているアナモックス細菌特有の機能遺伝子を挿入したプラスミドを組み込んだ組換え大腸菌を用いて, 本手法に用いるclick chemistryの濃度や反応時間の最適化を行った. その結果, click chemistryの反応時間を延長することで特異的な検出が可能であった. さらに, バイオリアクター内の汚泥とメタン生成アーキアを混合させて, アナモックス細菌の機能遺伝子の視覚的検出を試みた. その結果, アナモックス細菌のみを視覚的に検出することに成功した.
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齋藤 輝, 小保方 直輝, 堀尾 明宏, 宮里 直樹
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25043
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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マイクロプラスチック(MPs)は難分解性であり長期間水環境中に残留するため,水圏生態系に悪影響を及ぼすことが懸念されているが,日本では水生生物を対象とした研究事例は少ない.本研究では,淡水魚類消化管中MPsの存在実態および,消化管中MPsと魚類の生息環境中MPsの関係性の把握を試みた.タモロコ消化管中から検出されたMPsは,6月と10月で個数に有意な差がみられ,産卵期における摂餌行動の活発化の影響が示唆された.底泥中のMPはPolyester繊維が最多であり,洗濯排水に由来する繊維状MPsが正観寺川と正観寺沼に流入し,底質に堆積することが示唆された.消化管中MPsと底泥中MPsの成分を比較した結果,タモロコは底生動物などを捕食する際に,底泥中MPsも体内に取り込んでいることが確認された.
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西尾 結衣, 樋口 真帆路, 市木 敦之
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25044
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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高速道路塵埃は,交通量の多さから自動車由来のPAHs(多環芳香族炭化水素類)など微量有害物質による汚濁ポテンシャルが高いと考えられており,これらによる生態毒性が懸念されている.本研究では,高速道路塵埃を対象としてセスジユスリカを用いた生態毒性試験を実施するとともに,新たな生態毒性評価指標の考え方を提案し,これを用いて高速道路塵埃毒性の変動を算定した.高速道路塵埃の毒性は,冬季と冬季以外によって異なり,平均して冬季では塵埃比率11.2%,冬季以外では同55.1%程度より有意な毒性が現れる.また,NOEC(最大無影響濃度)に替わる新たな毒性評価指標として,C-NOEC(Confidence Interval Based NOEC)とF-NOEC(Cumulative Frequency Based NOEC)の概念を示し,これらの有用性について検討した.さらに,これらと微量有害物質含有率を用いてリスク比を算定することにより,高速道路塵埃の毒性変動特性を示した.
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吉田 謙司, Jibao Liu , 權 垠相, 藤井 学
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25045
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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水中の天然有機物(NOM)は塩素消毒によって消毒副生成物(DBP)を生じうる.また,水処理プロセスはNOMの化学特性を変化させ,結果としてDBP生成に影響を及ぼす可能性がある.本研究では,超高分解能質量分析により異なる水処理操作を施したNOM試料の分子組成を同定し,NOMの分子特性変化とDBP生成への影響を解明することを目的とした.また,NOMの分子特性からDBP種の生成を予測する機械学習モデルを構築した.Pycaretを用いたモデル比較の結果,catboostが高い予測精度を示し,分子量とC/O比がDBP生成への影響が大きいことが示された.また,紫外線処理において十分にNOM除去がなされない場合,NOMの飽和度や芳香族性等の分子特性が生成されるDBPの種数に影響することが示唆された.
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石川 颯, 増田 周平, 金 主鉉, 大友 渉平, 西村 修
2024 年80 巻25 号 論文ID: 24-25046
発行日: 2024年
公開日: 2025/03/06
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田沢湖(秋田県)は電源開発のために玉川水系から強酸性水が導入された結果,酸性化が進行し現在は自立した生態系は機能していない.その対策として,1991年から玉川中和処理施設での中和対策が開始されているが,田沢湖のpHは5.2付近で推移しており,中和処理施設の効果も未解明である.そこで本研究では,玉川-田沢湖水系の酸性区間における玉川中和処理施設,玉川ダム,田沢湖の3地点について水生生物を用いた短期慢性毒性試験を行い,現状及びpH 6.7調整後にて比較検討を行った.その結果,玉川中和処理施設,玉川ダム,田沢湖の流下方向における毒性単位TUは低下の傾向を示し,特に玉川ダムまでのTU値の著しい減少,即ち毒性の改善が大きかった.pH調整効果については中和処理施設の処理水において顕著にみられたため,現状の中和処理対策による水生生物への毒性低減効果は不十分であった.
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