起重機船を使用した海上工事では,吊荷の動揺低減技術が工事の安全性・稼働性の向上に大きく寄与する.実用化されている吊荷の動揺低減手法としてはヒーブコンペンセータがあるが,Surge,Sway方向の吊荷動揺は低減できない.吊荷の動揺低減にはクレーンの旋回・起伏・巻き上げ動作を用いることが望ましいが,起重機船は重量物吊り上げのために,旋回・起伏動作が小さく設計されておりクレーンが吊荷の動揺に追従できない.そこで本研究では,パラメータ励振の原理から位相差を使用し,巻上げ・巻下げ動作のみによる吊荷の動揺低減手法の検討を行った.その結果,ワイヤロープ長さを変化させることによって吊荷振れ角を約25%ないしは約40%低減できる可能性があることがわかった.
破砕性土分布地域が地震により被災した場合,斜面崩壊や液状化などが多発するため,被災メカニズムの検証において粒子破砕による影響がしばしば論じられる.本研究では,破砕性を有する火山灰質粗粒土の非排水繰返しせん断中の粒子破砕の有無,並びに繰返し載荷履歴を受けた試料の単調せん断強度の把握を試みた.粗砂分のみに調整した火山灰質粗粒土は,非排水繰返しせん断により粒子破砕を生じるが,破砕は載荷初期ではなく,載荷後半,過剰間隙水圧の上昇により有効応力が低下し,変相線を超え,破壊線に接しながら有効応力ゼロ(液状化)と剛性回復を繰返すサイクリックモビリティ現象下において多量に発生した.また,繰返しせん断履歴により粒子破砕を生じた試料は,その後の単調せん断において残留強度が低下した.
シールドトンネルの応答値の算定において,セグメント継手の回転ばね定数の設定方法は,従来から用いられてきたボルト継手を基本とした方法が整理されてきたが,近年はボルト締結によらない継手の開発や施工事例が増えている.本研究では,ボルト締結によらない継手を対象とし,許容応力度レベルを超えた領域のセグメント継手部の挙動のモデル化に資することを目的に,継手鋼材が降伏する荷重レベルにおいて,実物大継手曲げ実験とその三次元有限要素解析を行った.影響因子として継手面の隙間と継手の降伏・すべりを抽出し,それぞれが継手部の挙動に与える影響とそのメカニズムを検討した.
地方中核都市では公共交通のサービスレベル向上と運行効率化のために幹線・支線化などの路線再編の取組が検討されることがある.しかし,乗換えによる乗客の減少などの懸念からスムーズに路線再編の計画が進まない例も多く,その原因に路線再編の効果や影響を十分に分析できていない可能性があると考えた.また,近年注目されるウォーカブルなまちなかのための道路空間再編の検討とバス路線再編の関係を考慮した統合的な分析も有益と考えた.本研究では,水戸市を対象にバスの乗降データを活用した遅延実態把握と路線再編の効果について,道路空間再編の視点も加味して分析を行い,主体別に路線再編のメリットデメリットを定量的に明らかにし,道路空間再編のためのバス交通量負荷軽減効果についても試算した.
本研究では,江戸幕府の正史である『徳川実紀』をすべて読み解き,主として江戸府内における社会基盤整備や諸制度に関する事項を抜き出し,その実態を明らかにすることを目的とした.その結果,頻繁に発生していた火災を防ぐための法制度が出されていた.江戸幕府の享保年間以前は瓦葺きを禁止していたが,享保年間に入ると,それまでとは逆行して瓦葺きの奨励に舵を切るようになった.さらに,牡蠣殻を屋根に葺くことを推奨したが,使用されなくなった.火除地の新設も実施され,関連する法制度も継続して発出されていた.舟運等で使用していた水路(堀)は,新規開削に関する事項は江戸時代前期に集中し,その後は維持管理に関するものであった.そして,不法投棄の禁止や水路の浚渫に関する法制度が定期的に発布されたことを明らかにした.
構造物における性能の変化を,シームレスに把握するための新たな概念である余裕率による性能把握の方法が提案されている.本論文では,その有用性を確認するために,改築および補強がなされた鉄道高架橋を対象とした各部材の安全性余裕率(MS)と耐久性余裕率(MD)を把握することにより,性能の変化に伴う対策の要否判定から選定に至るまでの過程を示した.部材系のMSとMDの相関図を用いることで,要求性能を満足する補強方法のうち,耐震壁を増設する方法では各部材のMSが過剰になることを,また,鋼板を用いた補強方法がMSおよびMDを最小化する適切な方法であることを確認した.採用する設計概念や要求性能の水準に応じた補修および補強方法の選択に際して,余裕率の相関図を有効に活用し得ることを示した.
コンクリート構造物の塩化物イオンの浸透挙動は,コンクリート表面の塩化物イオン濃度C0と見かけの拡散係数Dapを用いた拡散方程式で予測される.本研究は,実際の海洋暴露環境におけるC0およびDapの時系列データを用いて,材料や環境条件による違いが本式の予測精度に与える影響について調査し,数値シミュレーションを援用して要因を分析した.その結果,C0の初期の時系列挙動が式の予測精度に影響する機構が明らかとなり,特に,C0が緩やかに増加するケースにおいては,本式による予測が過小評価,すなわち危険側となる可能性があることが判明した.本式による過小評価は,C0の時系列変動影響を考慮した拡散係数を用いた予測により改善することを示し,より適切な設計や維持管理に資すると考えられる.
本研究では,一般環境下にある背面から水が供給される既設RC構造物への表面処理工法の適用が鉄筋腐食環境に及ぼす影響を把握することを目的とし,各種条件を想定したモルタル試験体を用いて電気化学モニタリングおよびモルタル中の水分,塩化物イオン量を測定し,鉄筋の腐食の可能性を評価した.その結果,中性化なしのケースでは,環境条件および表面被覆工の有無に関わらず腐食の可能性が低いことが確認できた.一方,中性化ありのケースでは,表面処理工の種類の違いにより腐食抑制効果が異なり,環境条件に依らず表面被覆工のケースでは腐食抑制効果が確認できなかった.
特に小規模な基礎自治体では,高度化する政策課題への対応のため外部人材任用のニーズは大きい.しかしながら,我が国では地方創生人材支援制度が創設されたものの,任用が成果をもたらす要因は整理されていない.上記制度によって外部人材として京都府久御山町で従事した筆頭著者自身の経験を踏まえ,本研究では,小規模基礎自治体の政策推進プロセスにおける外部人材任用が成果をもたらす要因を整理し,今後に必要な点を明示した.具体的には,人材自らの能力に関する要因と,制度運用や受入態勢に関する要因がそれぞれ存在することに加え,受入の前提となる政策面の意思決定状況の確認が必要である.
気候変動の影響により,短時間に極端な雪が降る可能性が高くなっている.このため,日常生活を維持するためには除雪が重要であることが改めて認識されている.しかし,建設業の人手不足に伴って除雪の体制は脆弱になっており,特に多くの降雪量が必ずしも毎年観測されるわけではない地域や人口規模が小さな自治体では,すべての道路を一律に除雪することが困難である.この背景のもと,大雪を想定して,今後に見込まれる降雪量に応じてどの道路を除雪し,また,どの道路の除雪を先送りするのかを示した対応方針を事前に決めておくことが有効である.そこで本研究では,混合整数計画法を用いて除雪の対応方針を策定する方法を提案する.その上で,実際の地域を対象として対応方針の策定を試みる.
構造物は日射による熱エネルギーを受け,構造部材間では日射条件や熱容量の違いから温度差が生じる.本研究では,この熱エネルギーに着目し,特に温度差が生じやすいとされる鋼床版橋梁を具体的な対象として,舗装と鋼床版の温度差を利用した環境発電を試みた.実物大の鋼床版橋梁の試験体における温度環境の計測と,有限要素モデルを用いた熱伝導解析によって,熱電モジュールに効率的に熱を伝達するデバイスの構造形式を検討した.そのうえで,鋼床版橋梁における発電に有利な設置位置について実験と熱伝導解析をもとに検討し,発電シミュレーションを実施した.制作した熱電発電デバイスによる検証実験を行い,構造物の熱エネルギーを利用した温度差発電の可能性を示した.
障害者等の円滑な移動環境確保のため,我が国では,路上に適用される都道府県公安委員会所管の制度と,路外に適用される地方公共団体所管の罰則のない任意制度がある.本研究ではこれらの制度をパーキング・パーミット制度と総称し,諸外国との制度比較を通し,課題の明確化と制度改善等を検討した.路外について,少なくとも,イギリス(イングランド)とドイツ(NRW州)では適用される制度・罰則がないこと,アメリカ(カリフォルニア州等)とフランスでは商業施設等の公共性のある施設に適用される制度・罰則があるが必ずしも有効に運用されていないことから,障害者等用駐車区画の不適正利用は共通課題であることを明らかにした.一方,我が国の路外駐車場について,法令的・実務的な課題はあるものの,罰則等の手段が適用できる可能性を示した.
「みどりの食料システム戦略」では,農林水産業の生産力を高め,サプライチェーン全体の環境負荷を軽減するイノベーションを推進している.施設園芸での炭酸ガス施用は,生産力向上と持続性の両立に不可欠であり,収量増加と品質向上に焦点を当てた実証試験は数多く実施されてきたが,GHG削減効果を分析した事例の蓄積は乏しい.本研究では,施設園芸における炭酸ガス施用方式と栽培管理がGHG削減効果に及ぼす影響を定量的に評価した.その結果,1) 炭酸ガス施用は未施用時に比べ単位収量あたりのGHG排出量を削減できること,2) 化石燃料を多段階で利用する炭酸ガス施用方式は,その他の方式(燃焼式・気化式)よりもGHG削減率が高いこと,3) 炭酸ガス施用と温室内の温度管理によりGHG排出抑制効果が高まること,などが明らかとなった.
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