土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
81 巻, 4 号
通常号(4月公開)
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
構造工学,地震工学,応用力学
論文
  • 菅原 法城, 福永 勇介, 宮田 正史, 竹信 正寛, 住岡 直樹
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 23-00296
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     本稿では,耐力側(構造物側)の特徴をより柔軟に取り込める地震時フラジリティ曲線(FC)の構築法を提案する.その事例として,耐力側の特徴である構造形式の種別(重力式岸壁,控え矢板式岸壁)の情報を対象に,種別間で共通する特徴(被災メカニズム,照査用震度の算定法,地震時土圧の算定法)と,種別に固有の特徴(水平方向外力への抵抗機構)が混合された問題と捉え,それらの特徴の効果を別のパラメータとして評価する混合モデルとして取り扱い,それを階層ベイズモデルで表現するFCの定式化を行った.また,MCMCを用いたパラメータとベイズ信頼区間の推定法を提案した.その上で,港湾分野で蓄積された過去の地震での被災記録,再現した地震動を基に,地震後即時に得られる速度 PSI 値から岸壁の被災判定が行えるFCを構築した.

河川・海岸・海洋工学と水文学
論文
  • 仲座 栄三, 小原 功聖, 田中 聡, 大城 洋貴, 前森 大輔
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00211
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     合田の越波流量算定図表は,提案以来,日本国内外における護岸設計に用いられて来ている.しかし,その妥当性の検討は必ずしも十分ではない.本研究は,規則波の浅水変形及び砕波変形,そして越波流量の算定にCADMAS-SURFを用いた数値計算を行い,不規則波の個々波の波高分布にレイリー分布を適用して,不規則波の期待越波流量を求めている.本数値計算結果と合田の与えた越波流量算定図表の示す期待越波流量との比較が行われ,直立護岸及び消波護岸に対して,両者は海底勾配が1/10の場合にある程度の一致を示すものの,1/30では両者に大きな相違のあることが示されている.

  • 石木 健士朗, Lee S. CUNNINGHAM , Benedict D. ROGERS
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00227
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     本論文では,防潮堤背後の鉄筋コンクリート建物に津波が作用した際の動的応答をSPH法とFEMで予測することを試みた.まず,既往の物理模型実験を対象として,解析で予測された水理量を計測結果と比較することで,SPHモデルの越波問題に対する妥当性を確認した.次に,当該実験の陸上構造物を原子炉建屋の外壁としてFEMでモデル化し,SPH法から得られた圧力時刻歴を用いて非線形時刻歴応答解析を実施した.一連の検討を通して,(1) 構造物の応答を求める際は,津波の不確実性を考慮する必要があること,(2) たとえ防潮堤を設置しても,その高さが十分でないと波力低減効果が期待できないこと,(3) SPH法とFEMによる片方向弱連成解析は,耐津波設計を高度化するうえで有用な手法であることが示された.

地圏工学
報告
  • 佐藤 新二, 野城 一栄, 橋本 浩市, 菅原 拓朗
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00283
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     青函トンネル防災システムは,湧水,覆工ひずみ,地震の3観測システムから構成されており,1988年津軽海峡線開業以来,2016年北海道新幹線開業を経てこれまで3回の更新を行いながら,稼働を続けている.本システムの開発によって得られた知見は,新幹線早期地震防災システムの仕様決定の判断に活かされている.本システムは,これまでの経験をもとに開業以来センサおよびネットワーク仕様を大幅に刷新した次世代システムを構築中である.また今後は通常時のモニタリングという機能だけでなく,異常時においても列車の安全性確保に貢献できる機能を実装する予定である.

土木計画学
論文
  • 松本 純也, 山田 圭二郎, 精山 明敏, 川﨑 雅史
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 23-00282
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     本研究は,景観評価のプロセスに情動理論を基盤とした共通性の存在を仮定し,景観画像提示時の前頭前野の脳血流変化を近赤外分光法を用いて時系列に計測し,快不快評価,SD法を用いた心理評価と比較を行い,快不快情動に対応した脳血流変化の傾向,心理評価との経時的な対応関係を見出すことを目的とする.本研究の結果,(1)快画像は提示終期に酸素化ヘモグロビン濃度低下,不快画像は提示初期及び中期に同濃度上昇,(2)提示初期は,整然とした/開放的な/賑やかな等で相関,提示中期及び終期は,整然とした/綺麗な/美しい/柔らかい/暖かい/歴史的な等で相関が確認され,景観画像に於いても情動に対応した変化が生じ,覚醒度又は活動性,感情価又は評価性,その他の情動特性の順序で情動理論を基盤とした対応関係が存在すると考えられた.

  • 勇﨑 大翔, 岡田 智秀
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00083
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     わが国の沿岸各地で「地域性」に配慮し,津波防護と避難を組み合わせた津波対策を検討することの重要性が高まっている.これを受け,伊豆半島沿岸地域では,地域の特色に合わせて沿岸地域を50地区に分割し,津波対策を検討する「津波対策地区協議会」を立ち上げ,地区ごとに「地域性」を考慮した“津波防災まちづくり”の実現にむけた取り組みが展開されている.そこで本研究では,「地域性」を考慮した津波防災まちづくりに資する計画指標を導くため,伊豆半島沿岸地域を対象に,各地区の「整備方針」と「地域特性」の関係性を捉え,「地域特性」に応じたそれぞれの整備タイプおよびその特徴として景観面や地域産業への配慮等が大きく影響している実態を明らかにした.

  • 横山 楓, 佐藤 啓輔, 綾 貴穂, 小池 淳司
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00140
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     救急搬送時間が年々増加傾向にある中,道路に求められる医療施設アクセス機能はナショナルミニマムを保障する観点から重要である.しかし,国土交通省の道路事業評価では定型化された医療アクセス評価手法は示されていない.計測事例は複数報告されているが,その大半が経過時間と死亡リスクの目安を示したカーラー曲線を用いているため,我が国の救急搬送データを用いて搬送時間と救命率の関係性を推定する必要がある.そこで,本研究は国内救急搬送の個票データ(救急搬送人員データ・ウツタインデータ)を用いて,疾患別に搬送時間と救命率の関係性を推定し,道路整備による救命率向上便益を試算した.そして,試算結果をふまえてナショナルミニマムを確保する観点から便益計測の意義を整理し事業評価における取り扱い方針を示した.

  • 島田 孝司, 中尾 聡史, 塩見 康博
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00160
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     長さ・総重量などが制限値を超える特殊車両(特車)の通行許可制度は,煩雑な認可プロセスを要し,許可取得に多大な時間がかかる.これによる運送事業者・道路管理者双方の負荷は大きく,その改善は喫緊の課題となっている.本研究では,許可審査に必要な道路情報データベースである道路情報便覧の収録・更新や審査などを担当する都道府県を対象に,特車行政に関するアンケート調査を行った.加えて,関係するステークホルダーとして許可申請業務を行う行政書士,および運送事業者へのインタビュー調査を行った.その結果,ラストマイルに相当する市町村道の道路情報便覧収録において,市町村担当者の業務体制が不十分であることなどを明らかとした.また,この課題を社会的ジレンマと捉え,有効な改善策を提示した.

  • 鈴木 渉, 中村 文彦, 田中 伸治
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00165
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     昨今の鉄道利用の変化は,個人ごとに異質であると考えられる.加えて,ビッグデータによって,既存の公的統計では捉えきれていなかった知見を得ることが期待されている.そこで,COVID-19の流行による人々の鉄道利用の変化について,複数時点での改札通過データから,個人ごとの利用頻度の経年的な変化を分類し,その変化は多様で異質なものであることを明らかにすることを,本研究の目的とする.

     弾性図の概念を用いて分析を行い,あまり変化しなかった,変化した中でも元に戻った,あるいは戻らなかったという個人ごとの利用頻度の経年的な変化のパターンを,その総量とともに明らかにした.これが交通行動の多様性や異質性であり,利用者数の平均的な変化だけでは分からない部分を可視化したことが,本研究の意義である.

  • 柴田 涼, 宇野 伸宏, 松中 亮治, 田中 皓介
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00181
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     ドライバー不足等を背景にトラックの隊列走行技術が注目され,実用化に向けて制度整備等が進められている.一方,危険が想定される“高速道路走行中のトラック隊列近傍に一般車が合流する状況”に対しては十分な検討がなされておらず,安全性向上に資する対策の提案が望まれる.本研究では,当該状況をドライビングシミュレータで再現し,トラック塗装を警戒色(黄色)とする対策及び注意喚起の情報板を設置する対策の効果を統計的に検証することを目的とした.上記合流における安全性評価には“合流瞬間PICUD”及び“累積ジャーク”という指標を用いた.その結果,初めて隊列遭遇に遭遇した際に衝突危険性が有意に高くなることが示された.また,上記対策の両方で合流車の累積ジャークが有意に減少し,合流挙動の安定性が向上する可能性が示唆された.

報告
建設材料と構造
論文
  • 下村 匠, 近藤 洋介, 田所 裕
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00201
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     北陸地方の日本海沿岸の飛来塩分や海洋飛沫による厳しい塩害環境において,コンクリート中にステンレス鉄筋を埋設した供試体の暴露試験を行った.毎年の外観調査と3年目,10年目に解体調査を行った.普通鉄筋は,鋼材位置の塩化物イオン濃度が示方書に示された腐食発生限界塩化物イオン濃度に到達したと推定される頃に腐食が開始した.その後,腐食ひび割れが発生,経時的に成長する様子が観察された.ステンレス鉄筋は,土木学会指針に示されている腐食発生限界塩化物イオン濃度に達しても腐食が発生しなかった.ステンレス鉄筋,エポキシ樹脂塗装鉄筋,普通鉄筋を併用使用した際の異種金属接触腐食による腐食の促進は確認されなかった.

  • 小川 智之, 佐々木 貴信, 高梨 隆也, 澤田 圭
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00288
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     構造用合板の短辺寸法を段階的に変化させ,Timoshenkoの理論に基づいたGoens-Hearmonの回帰法(TGH法)による弾性係数の評価を行うことで,試験体形状の影響を検討した.面内加振・面外加振共に,幅が広い試験体では固有振動数の測定が困難であったが,幅が長さの4分の1以下となる試験体では容易に固有振動数を測定することが可能であった.面内加振では試験体の幅が小さくなるにしたがって曲げヤング率は増加し,せん断弾性係数は低下する傾向がみられた.面外加振では形状の変化の影響は小さかったが,弾性係数の測定値が大きくばらつく試験体がみられた.また,TGH法で求めた面内せん断弾性係数と静的ねじり試験で求めたせん断弾性係数を比較した結果,幅が長さの8分の1となる試験体では両者の値に明確な差は見られなかった.

環境と資源
  • 平岡 喜代典, 大道 優平, 田村 直也, 前川 勇孝, 吉田 吾郎, 岡田 光正
    2025 年81 巻4 号 論文ID: 24-00185
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/04/20
    ジャーナル 認証あり

     山口県岩国市門前川河口周辺のアマモ場は,分布面積の変化から回復期(2009-2014年)と漸減期(2015-2020年)に区分できた.調査期間中,降水量は増加傾向にあり,水温と葉上浮泥量は漸減期に高く,濁度は逆に低かった.生育限界温度はアマモで28℃,コアマモで29℃と推定され,これを超えた積算時間を高温ストレスの指標とすると,2015年以降,積算時間とアマモ場面積は負の相関を示した.葉上浮泥量は,積算降水量(1-9月)と正の相関を示し,アマモ場面積とは負の相関が認められた.これは,高温ストレスと葉上浮泥の増加によるアマモ場への複合的影響を示唆し,河口周辺では降水量の増加に伴って沈降物が増え温暖化の影響を受けやすい可能性を示す.

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