土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
80 巻, 11 号
通常号(11月公開)
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構造工学,地震工学,応用力学
論文
  • 杉山 裕樹, 金治 英貞, 渡邉 裕規, 丸山 祥平
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 23-00192
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
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     3主塔以上を有する多径間連続斜張橋は従来からある1主塔や2主塔の斜張橋と比べ,側径間による拘束効果が小さく,鉛直荷重に対してたわみやすい特徴を有している.そのため,活荷重による主桁の鉛直たわみや主桁応力,ケーブル張力,主塔下部の曲げモーメントが増大する傾向にあり,設計時の課題になる場合が多い.本稿では,3連の主径間(支間長650m)を有する4主塔多径間連続斜張橋を対象に,たわみ抑制効果を期待するタワーサポートケーブルを提案し,既存のケーブルシステムによる改善手法と比べ,改善に必要となるケーブル数量に対する改善効果が高いことを示した.また,タワーサポートケーブルに対して,定着位置などをパラメータとして最適化検討を行うとともにそれを設けた場合の地震動に対する橋梁構造への影響を確認した.

  • 廣畑 幹人, 中原 智法, 古市 亨
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 24-00173
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     鋼構造物の防食塗装更新において,誘導加熱(Induction Heating: IH)を利用した塗膜剥離の適用が注目されている.高力ボルトの塗膜剥離にIHを利用する場合,加熱がボルト軸力に及ぼす影響について不明な点が多い.本研究では,IH塗膜剥離に伴う加熱による高力ボルト軸力の変動機構を明らかにするため,一連の実験および数値シミュレーションを実施した.塗膜剥離に要する温度(200℃程度)に達するまでの時間が短いほど,ナットとボルト軸部の温度差が大きくなった.この温度差によりナットとボルト軸部の膨張,収縮量が異なり,篏合にずれが生じるために軸力が低下することを明らかにした.200℃までの加熱時間を15~30秒とすることで,加熱前の状態に対し軸力が4~6%低下する可能性を示した.

河川・海岸・海洋工学と水文学
論文
  • 大野 哲之, 山口 弘誠, 中北 英一
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 24-00168
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     本研究では線状対流系の組織化を診断する指標を提案し,大気場のマルチフラクタル性の観点から組織化を議論する.雲解像モデルを用いた2012年亀岡豪雨,2014年広島豪雨の再現実験を行い,降水域近傍を対象に3次元的な上昇流域のフラクタル次元,対流性質量フラックスの時系列を解析した.その結果2つの指標が顕著に増大し始めた時間帯に,地上で帯状の降水域が形成されたため,これを組織化の時間帯と定義した.水蒸気フラックス及び乱流運動エネルギーのマルチフラクタル解析の結果,豪雨開始の約1時間前から組織化後に至るまで,対流の発達に伴うマルチフラクタル性の増大が確認された.以上の性質は線状対流系のアンサンブル予報実験でも確認され,マルチフラクタル性による線状対流系発生の早期探知手法への応用可能性が示唆された.

地圏工学
論文
  • 佐野 和弥, 伊藤 和也, 田中 剛, 末政 直晃, 小浪 岳治, 谷山 慎吾
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 24-00014
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     宅地擁壁の中でも空石積擁壁の地震時被害が多く発生している.擁壁天端から下向きに補強材を打設する擁壁補強方法は,宅地擁壁への活用の機会が見込まれている.しかしこの補強は必要となる補強材本数が多く,施工費が高くなることから個人所有の宅地擁壁への適用に課題がある.そこで補強材に斜杭のみを用い,補強材頭部と最上段の擁壁ブロックを一体化させる擁壁補強方法を考えた.本研究ではその提案する補強方法に関して,補強材本数の違いによる補強効果の変化の確認に加えて,単杭と組杭の違いによる擁壁頭部との一体化における補強メカニズムの変化について,遠心模型実験装置を用いた背面地盤載荷実験を行い検討した.その結果,補強材本数の減少は補強材の曲げ変形を抑制し,補強材に大きな引張方向の軸力を加えることができることが示された.

  • 平野 萌果, 西岡 英俊, 山栗 祐樹
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 24-00088
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
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     昨今の局地的豪雨や台風災害の増加に伴い,河川橋脚基礎の周囲の地盤が流出する局所洗掘被害が増加しており,被害規模の事前予測および被災後の支持性能評価の精度向上が求められている.本研究では,地盤の支持性能の観点から橋脚が倒壊する大規模被害に至る洗掘規模条件の推定手法と倒壊には至らずとも残留沈下・傾斜が生じた中規模被害後の残存支持性能の評価手法を提案することを目的とし,洗掘現象から支持力実験までの一連の流れを取り扱うアルミ棒積層体を用いた模型実験を行った.その結果,大規模被害に至る限界洗掘深さを橋軸直角方向基礎幅と橋脚の重心高さの関係から推定可能であること,中規模被害後の傾斜角から推定した残留偏心比が1/10以内であれば再利用可能な支持性能を有している可能性が高いと評価できることがわかった.

土木計画学
論文
  • 小林 泰輝, 稲垣 航大, 谷口 守
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 23-00108
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     近年,フレキシブルオフィス(賃貸借契約を行わず他利用者と共有して使用するオフィス,以下FO)の拠点数が急増している.今後の都市政策を考える上で,FOの実態を明らかにすることが必要である.本研究では独自に調査を実施し,利用パターンによってFOの利用者を類型化し,地域別での比較,満足度の比較を行った.その結果,1) FOはオフィスとしての機能だけではなくサードプレイスとしての機能も持つこと,2) 利用パターンは地域間で差異が存在すること,3) 利用パターンの異なる類型間で満足度に差異が存在し,勤務地,自宅,通勤経路周辺で業務を実施している類型では会議室やロッカー,料金の安さの満足度が低く,サードプレイスとして利用している類型は全体的に満足度が低いということが明らかとなった.

  • 新田 直人, 谷口 守
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 23-00303
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     農地関連法の規制緩和により,大都市圏で民間市民農園が増加している.民間市民農園は従来の公設市民農園に比べ,施設・サービスが充実し,高い料金が設定されている.その料金を重回帰分析した結果,設備・サービスのほか,鉄道でのアクセス,都心からの距離,周辺人口等,都市的土地利用の視点で設定されていることが分かった.これは,農業的土地利用と都市的土地利用の付け値曲線の違いから,都市の中に農業は存在しないとしていた従来の議論では見過ごされていた土地利用である.都市農地に都市的土地利用の付け値を設定することができれば,農地転用の抑制や,都市の未利用地の農業的利用に貢献する可能性がある.また,民間市民農園と競合する公設市民農園は,農福連携農園など,より公共性の高い農園に重点化することが期待される.

  • 室岡 太一, 松浦 海斗, 谷口 守
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 23-00307
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     人口減少下では複数市町村で共通の認識をもった広域的拠点計画が重要となる.一方で,コロナを契機としてx-minute cityの世界的注目をうけ,これからのプランニングにおいては公平性の視点も主流となる.そこで,拠点の乱立を防止しつつ,生活サービス施設へのアクセス弱者を救済する政策の実践に向け,本研究では市町村横断的に抽出した拠点候補地を対象として分析を行った.その結果 1)拠点への施設誘導に伴う周辺居住地のアクセス改善可能性の指標の提案と妥当性を示し,2)到達圏人口に基づいた施設の維持可能性を明らかにしたうえで,3)「誘導」の計画的位置づけをもつにもかかわらず,1)2)どちらも両立できない拠点が存在することが明らかになり,居住地ベースで現行の誘導方針を広域的に見直す重要性が示された.

  • 森 俊勝, 溝上 章志
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 24-00032
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     オンデマンド乗合タクシーである熊本県荒尾市の「おもやいタクシー」に対して,選好意識調査データを用いて推定されたおもやいタクシーへの転換モデルを内挿したマルチエージェント型メソ交通シミュレータ MAUMS(Multi Agent-based Urban Mobility Simulator)とリアルタイム・オンデマンド最適配車システム SAVS(Smart Access Vehicle Service)を連携させたシミュレーションモデルを用いて需要予測を試みた.その結果,利用者数の推計値は観測値より過大となった.

     本研究では,予約ログデータから得られる時間帯別利用者数の観測値を用いたデータ同化によって転換モデルのパラメータを非逐次的に更新する方法を提案した.この方法をおもやいタクシーの需要推計に適用した結果,時間帯別利用者数の推計値と観測値との精度を向上させることに成功した.

  • 佐々木 愛, 円山 琢也
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 24-00159
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     交通調査の外出率の低下が報告されているが,回答負荷を避けるため実際には外出したが外出していないと回答するsoft refusalが発生している可能性がある.本研究は,まず2021年全国都市交通特性調査と社会生活基本調査,2022年の内閣府実施調査による外出率を比較し,その可能性を確認する.さらに大学生を対象に歩数回答依頼を含む休日外出行動調査を実施し,soft refusalの実態把握と,歩数回答がその抑止につながるかの検証を行う.外出有無のみを尋ねる調査形式と比べ,外出時の詳細な交通行動を尋ねる形式では外出率が低下し,非外出回答者に高い歩数の報告があり,soft refusalの存在が確認された.また歩数未回答者の外出率は低い傾向にあり,提案した抑止法の有効性が示唆された.

土木技術とマネジメント
論文
  • 石川 大智, 貝戸 清之, 小林 潔司, 小松 慎二, 笹井 晃太郎, 岩切 昭義
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 23-00288
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     斜面・法面のような自然公物の場合,劣化に介在する不確実性の影響が大きく,専門技術者であっても異常を早期に検知することが難しい.このような状況下においては,斜面・法面に生じた変化を空間的に高密度な点群データを用いて異常検知する方法が有効である.土木工学では,MMSに代表される点群データ計測のためのレーザー計測技術が発展している.しかし,点群データは地物ごとの変状や時系列変化を容易に把握できないために,未だ実務における意思決定に十分に活用されていない.本研究では,点群データを入力とする点群深層学習に基づいた斜面・法面の局所的な異常検知手法を提案する.さらに,実際の法面を対象として,変形やはらみ出し等の局所的異常を有する法枠の検知を試み,本研究で提案する手法の有効性を実証的に分析する.

  • 小林 巧, 大住 道生
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 23-00294
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     道路橋の震災復旧では,時間・機材・人材等が限られる制約条件の中で膨大な数の道路橋の損傷の有無を迅速に把握し,それぞれに対して措置の必要性の判断を行うことが求められる.その制約条件の中で道路管理者等がアカウンタビリティを示すことができ,かつ,ある程度の知識をもった技術者であれば手続き的な方法により効率的で効果的な判断を行うことができることを企図し,論理学的なルールに則り形式知を論拠とした判断の過程を表現する方法についての研究を行った.その結果,道路管理者等の通行可否の判断のアカウンタビリティが示され得る文脈が示された一方,形式知のみに基づく論理的な判断の限界が明らかとなるとともに,論理において暗黙知で構成される範囲が明らかとなった.

  • 澁谷 宏樹, 小澤 一雅
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 24-00104
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     我が国の慢性的なIT人材不足を背景に,中規模組織は限られた人員でDXを進める工夫が求められる.本研究は,中規模組織である睦沢SWTを対象に,システム開発未経験者が組織的な支援を受けながらリスキリングを行い,3次元モデルを活用したFM支援システムを開発したプロジェクトの評価を目的とした.システム規模,工期,工数,品質,費用の観点から,JUAS統計調査の平均値と比較した結果,工期は標準より約3ヵ月長く,特に要件定義フェーズの工期比と工数比が高い割合を示した一方で,リスキリングの費用を含めても平均的な費用でユーザが満足する品質のシステムを開発できることが明らかとなった.以上から,未経験者でも経験者らの支援があれば,工期は標準と比して長くなるが,平均的な費用で有用なシステムを開発できる可能性を示唆した.

報告
  • 安保 秀範, 大澤 高浩, 高橋 章, 櫻澤 裕紀
    2024 年 80 巻 11 号 論文ID: 23-00254
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/20
    ジャーナル 認証あり

     近年,人工衛星SARデータの活用については社会インフラ設備の維持管理などへの研究も進んできており,年間最大10mm程度変位し,外部変形量を連続計測していたロックフィルダムにおいて,PSInSAR解析による恒久散乱点の変位の計測精度の検証がされた.本論文では,年間最大2mm程度の変位で,変形量が小さい,大規模な6基のロックフィルダムを対象に,北行,南行軌道それぞれ2017年4月から2022年12月までの最大5年9カ月間のCバンドのSentinel-1 SARデータを用いてPSInSAR解析を実施し,ロックフィルダムの外部変位量を計測した.PSInSAR解析結果と3カ月間隔で実施している測量による外部変形量を比較して精度の評価をするとともに,変位量が小さいロックフィルダムにおいても,健全性評価にPSInSAR解析による計測が活用できることを示した.

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