本稿では,日系多国籍企業における海外R&D活動の成果指標として,海外研究所所属者によって執筆された英語論文に注目した。英語論文の発表動向をデータベースより検索し,そのR&D活動ネットワークの拡がりと時系列的な変化の分析を通じて,海外研究所個別の特徴を明らかにする事を試みた。その結果,サンプル企業として取り上げた日本電気とキヤノンでは海外研究所から英語論文の発表が活発に行われてきた事が明らかとなった。特に,日本電気のNEC Princeton研究所からは非常に多くの英語論文が発表され,そのR&D活動ネットワークも進出先国である米国だけでなく,世界中の研究機関に拡大しており,技術知識の獲得・吸収先がグローバルに拡大してきた事が確認された。一方,キヤノンの海外研究所の活動は海外研究機関とのR&D活動ネットワークを通じた技術知識の吸収よりは,現地研究者/技術者の雇用を通じた技術能力の形成を志向していると考えられる結果を示した。だが,日本電気,キヤノン両社とも海外研究所と国内拠点,他地域海外研究所間の結びつきは極めて弱く,個々の研究所が独立的なR&D活動を行う傾向が強い。また,日本電気の海外研究所では2000年代に入り英語論文発表件数が低下傾向にあり,海外R&D活動の機能や海外R&D活動ネットワークの方向性に変化が生じていると考えられる。
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