本稿では,国内の移動体通信業界において,通信オペレータが端末ベンダからの技術提供だけに頼ることなく,技術連携を通じていかに自社のコア技術を確立してきたかを論じる。とくに,NTTドコモを中心とした主要ステークホルダーが果たしてきた役割と貢献を明らかにするため,特許データを用いて分析を行った。分析結果から,NTTドコモは他プレーヤーに比べ自社内でコア技術を醸成する戦略に重点的に取り組みながら,技術的価値の高い基盤技術を数多く輩出していることが明らかになった。また,NTTドコモが保有するコア技術は,他オペレータ,端末ベンダに技術継承され,多種多様なイノベーションを生み出す結果をもたらしていることが分かった。さらに,NTTドコモは,日本電気,富士通,パナソニックモバイルコミュニケーションズ,三菱電機の端末ベンダ4社と技術連携を通じて役割分担を行い,強力なエコシステムを形成することでイノベーションスピードを加速させてきたことが伺える。しかしながら,第3世代システム導入後は,国際標準技術の採用が進んだ結果,第2世代で形成されたエコシステムに変化が見られた。具体的には,携帯電話の域を超えて多様なニーズに応えるため,NTTドコモのR&D活動においても基盤技術のインキュベーションからの方針転換が図られたこと,および応用技術に注力して自社内での技術蓄積に継続して取り組んでいることが明らかになった。
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