症例は50代,女性.先天性無フィブリノゲン血症にて通院,加療されていた.202X年10月,C型慢性肝炎の既往に対する腹部超音波検査において腹部大動脈の右腎動脈分岐部付近に偶発的に11×6 mmの血管壁と等輝度の構造物を認め,腹部大動脈の壁在血栓が疑われた.その後施行した胸腹部造影CTにおいても腹部大動脈の壁在血栓が疑われたが,治療適応はなく経過観察となった.同年11月,塞栓源不明の脳梗塞を発症し,MRIにおいて右中大脳動脈領域に散在性梗塞巣,右頸動脈洞に軽度狭窄を認め,入院加療となった.入院中に行った頸動脈超音波検査では,右頸動脈洞に4 mmの低輝度プラークを認めたが,血液検査では高脂血症,糖尿病などの動脈硬化因子は認めず,12誘導心電図検査ならびに経胸壁心臓超音波検査においても異常所見は認めなかった.脳梗塞の原因は頸動脈低輝度プラークに起因することが疑われたため,フィブリノゲン製剤の定期補充とともに,アスピリンによる抗血栓療法が開始され,翌年の超音波検査で腹部大動脈壁在血栓の縮小,右頸動脈洞のプラークにおいても縮小を認めた.右頸動脈洞の低輝度プラークは,治療開始から2週間後に明らかに退縮を認めた臨床経過から,先天性無フィブリノゲン血症が要因で生じた血栓であると推測された.今回の症例では,Superb microvascular imaging(SMI)の活用により従来法であるBモードやカラードプラ法では得られなかった動脈血栓の性状ならびにプラーク内出血を評価したことが,適切な診断や治療効果判定に繋がった.
腸間膜デスモイド型線維腫症は,緩徐に成長するまれな線維腫症の一種である.腸間膜腫瘍は,特徴的な画像所見がないことから術前診断は困難なことが多い.今回我々は,まれな疾患である腸間膜デスモイド型線維腫症の1例を経験したので報告する.症例は60代,男性.他院の人間ドックで腹腔内腫瘍を指摘され,当院消化器内科紹介受診.腹部超音波検査で右腹部に59×50 mmの類球形低エコー腫瘤像を認めた.輪郭整,内部不均一で一部に血流シグナルを認めた.体位変換で可動性を認め,小腸もしくは腸間膜由来と考えた.腫瘤は小腸筋層と連続している印象があり,小腸由来の消化管間質腫瘍を第一に考え,鑑別に線維腫,線維肉腫など腸間膜由来の腫瘍を考えた.精査の結果,小腸由来の消化管間質腫瘍疑いで手術となった.病理組織検査では核分裂像を認めない線維芽細胞と膠原線維の増殖像を認め,腫瘍は小腸筋層に浸潤していた.免疫染色ではCD34, c-kit, S100, SMAがいずれも陰性,β-catenin陽性で,デスモイド型線維腫症と診断された.