緒言:トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)におけるApical sparing現象の有用性は十分に検討されていないため,99mTc-ピロリン酸シンチグラフィ(PYP)検査との比較や,一般的な心エコー図パラメータとの相関について検討を行った.
対象:ATTR-CMが疑われ,PYP検査が実施された,70歳以上,洞調律症例の135例を対象とした.
結果:多変量ロジスティック回帰分析では,左室後壁壁厚(PWT)とApical sparingの指標であるRelative apical LS index[Apical LS/(Mid LS+Basal LS): RapLSI]は,PYP検査陽性に有意に関連していた(PWTオッズ比2.38, 95%信頼区間1.09–5.21, p<0.05, RapLSIオッズ比3.50, 95%信頼区間1.59–7.69, p<0.01).ROC解析では,PWTのArea under the curve(AUC)は0.83, 至適cut-off値は12.7 mm, RapLSIのAUCは0.79, 至適cut-off値は0.81であった.PWT高値(≧12.7 mm)かつRapLSI高値(≧0.81)では,72%(31/43)がPYP検査陽性,PWT低値(<12.7 mm)かつRapLSI低値(<0.81)では,95%(42/44)がPYP検査陰性であった.
結論: Apical sparingは左室壁肥厚と組み合わせることで,ATTR-CM症例におけるPYP検査の検査前確率を上げるために極めて有用であった.
症例は70代男性,右下腹部痛と発熱で当院紹介受診となった.他院の単純C Tでは,回盲部と虫垂に強い炎症を認めるが,炎症の主座の特定が困難であった.当院超音波検査で,虫垂に三つの外側へと突出する腫瘤像とその周囲脂肪織にエコー輝度上昇域(周囲脂肪織炎)を認めた.根部側の腫瘤の輪郭は不明瞭で,周囲に貯留液を疑う無エコー域を認めた.また,腫瘤の輪郭に沿った弧状の血流シグナルを認めた.これらの所見から虫垂憩室炎と診断し,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.病理組織診断は,腹膜炎を伴う虫垂憩室炎であった.本症例は超音波検査で虫垂憩室炎の所見が明瞭に描出できたことにより,迅速に治療へと移行できた症例であった.虫垂憩室炎は急性虫垂炎と診断され,術中もしくは術後に虫垂憩室炎と判明することが多いが,穿孔のリスクが高く,早急な診断が望ましい.超音波検査で系統的走査により虫垂を正確に同定し,分解能が高い高周波プローブで詳細な観察をすることで,今回のように虫垂憩室炎の診断が可能となった.超音波検査で診断ができれば,患者負担や放射線被曝も少なく,スムーズに治療へと移行することが期待できる.
患者は20代女性.心窩部痛で前医を受診し,CT検査で膵腫瘍を認めたため,当院紹介となった.超音波検査(Ultrasonography: US):膵頭部に膨張性発育を示す64×56 mmの境界明瞭,輪郭整な低エコー腫瘤を認めた.腫瘤内部は石灰化像や無エコー域があり,高感度ドプラ法ではわずかな血流シグナルを認めた.肝臓の両葉に多数の辺縁低エコー帯を伴う等エコー腫瘤を認めた.造影US:膵腫瘤を造影し,動脈優位相で不均一な濃染を認めた.造影CT・MRI検査:膵頭部に外方性に膨張性の発育を示す腫瘤を認めた.横行結腸や十二指腸との境界が不明瞭であり,一部浸潤が疑われた.内部は不均一で広範な出血壊死と石灰化を認めた.他,多発肝転移,リンパ節腫大を認めた.以上より,Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)の高度悪性転化が疑われたが,神経内分泌癌や腺房細胞癌(Acinar cell carcinoma: ACC),退形成癌の否定ができないため,肝腫瘤より肝生検が施行された.病理組織学的所見は好酸性の胞体と類円形の核を持つ比較的均一な細胞が,乳頭状に増殖し,一部に管状構造も認めた.免疫染色ではBCL10は陽性でありACCの肝転移と診断された.SPN, ACCは腫瘍性状のみの画像上の鑑別は困難であり,免疫組織学的所見も含めオーバーラップしている可能性が報告されている.これらの腫瘍は,常に鑑別診断として念頭におき,各種所見を総合して慎重に判断する必要があると考えられた.
症例:80代男性.鼠径部腫脹を自覚し,他院で悪性リンパ腫と診断された.1か月後,下肢浮腫が出現し,体動困難のため当院へ入院した.
経過:入院時心電図で異常を指摘され,経胸壁心臓超音波検査(TTE)を施行し,両心室と心房壁の著明な肥厚を認め,悪性リンパ腫による心転移が疑われた.入院翌日から化学療法が開始された.第9病日のTTEで両心室と心房壁の肥厚は退縮した.しかし,第15病日に胸部X線で肺うっ血を認め,TTEにおける左室流入血流速波形(TMF)の拡張早期波(E波)と心房収縮波(A波)の比(E/A),E波と僧帽弁輪速度(e′)の比(E/e′)から,左室充満圧上昇が示唆された.がん治療関連心機能障害(CTRCD)の可能性が考えられた為,化学療法は中断された.第29病日のTTEで諸指標は改善した.
考察:悪性リンパ腫の心転移はまれではないが,心症状や心電図変化が乏しく発見されにくい.心転移は右心系に多いとされるが,本例は両心室・心房壁の著明な肥厚を認めまれな転移所見と考えられた.心転移を伴う場合,化学療法の早期段階で致命的な合併症を伴うことがあり,慎重に経過を観察することは重要である.
結語:心電図異常の精査としてTTEを行い,両心室・心房壁の肥厚を呈した悪性リンパ腫と診断された症例を経験した.経時的なTTE観察により治療による浸潤病変の消退とCTRCD発症の経過をとらえた貴重な症例と考える.