目的:心外膜下脂肪(Epicardial adipose tissue: EAT)は心臓周囲に付着した異所性内臓脂肪であり,冠動脈疾患(Coronary artery disease: CAD)進展と密接な関連がある.我々は過去に,リニア型探触子を使用して前室間溝(Anterior Interventricular Groove: AIG)でEAT厚を測定する手法(EAT-AIG厚)を考案した.また,EAT-AIG厚のカットオフ値を7.1 mmと設定した場合,最も感度・特異度高くCADの有無を判別できることを単施設で報告した.そこで本研究では,EAT-AIG厚のカットオフ値7.1 mmを用いた場合のCAD予測の有用性について,多施設における新たなコホートを対象として検証することを目的とした.
対象と方法:多施設前向き研究として,2017年4月1日~2018年3月31日までに心臓カテーテル検査が施行された216例(平均年齢67±12歳,男性134例)を対象とした.EAT-AIG厚は,心臓カテーテル検査を施行する前に,リニア型探触子を用いて計測した.EAT-AIG厚のカットオフ値7.1 mmに基づいて2群に分類した.
結果と考察:CADを有した症例は97例(45%)であった.EAT-AIG厚>7.1 mmの患者では,EAT-AIG厚≦7.1 mmと比較して有意にCADの罹患率が大であった(66% vs. 23%,p<0.001).EAT-AIG厚>7.1 mmは,感度75%,特異度68%でCADの有無を予測できた.陽性的中率,陰性的中率および正診率はそれぞれ66%,77%,71%であった.EAT- AIG厚>7.1 mmは,従来の冠危険因子(年齢,性別,Body mass index, 高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙歴)に加えてCADを予測する指標である.
結語:EAT-AIG厚のカットオフ値7.1 mmは,CADの予測に有用であることを多施設共同研究でも確認できた.
目的:経胸壁心臓超音波検査における一般的計測指標である上行大動脈径が腹部大動脈瘤の予測因子として有用か検討した.
対象と方法:2016年1月から2017年8月の間に当院で経胸壁心臓超音波検査を施行した4,154例(男性2,526名,女性1,628名,平均年齢67±14歳)を対象に上行大動脈径と腹部大動脈径の関係を検討した.腹部大動脈径は30 mm以上を腹部大動脈瘤と定義した.
結果と考察:全4,154例中168例(4.0%)に腹部大動脈瘤を認めた.腹部大動脈瘤群は非腹部大動脈瘤群と比較して高齢で,男性が多く,虚血性心疾患および高血圧性心疾患の合併が多かった.腹部大動脈瘤群では非腹部大動脈瘤群と比較して有意に上行大動脈径,左房径および左室心筋重量係数が高値であった.多変量ロジスティック解析では,上行大動脈径が腹部大動脈瘤の独立した予測因子であった.ROC曲線解析では,上行大動脈径のカットオフ値は31 mm, ROC曲線下面積,感度および特異度はそれぞれ0.675, 69%および59%であった.年齢,性別,心疾患,左室心筋重量係数を含めた腹部大動脈瘤の予測モデルに上行大動脈径を加えると,ROC曲線下面積,総再分類改善度および統合判別改善度が有意に上昇した(p<0.0001).従来の危険因子に上行大動脈径を加えることで,腹部大動脈瘤の予測能が改善した.
結論:上行大動脈径は積極的に腹部大動脈瘤を検索するかを判断し得る有用な計測指標であり,腹部大動脈瘤の早期発見および早期治療に繋がる可能性が示唆された.
症例は70代女性.胸痛にて救急搬送され,心臓CTで左冠動脈主幹部から左前下行枝にかけて高度狭窄と左室内に異常隔壁様構造物を認めた.心臓超音波検査にて隔壁は左室を2分するように基部から心尖部までの下壁中隔から下壁にかけて存在し,乳頭筋レベルで複数の切れ込みを有して心基部で大きく開口していた.さらに大動脈弁輪部左室流出路側には膜様構造物を観察し,ひも状構造物により僧帽弁前尖弁腹に繋がっていた.また多胞性膜様部心室中隔瘤を認めた.以上より僧帽弁副組織及び膜様部心室中隔瘤が併存する左室二腔症と診断した.急性冠症候群にて来院し,心臓CTおよび心臓超音波検査にて診断しえた貴重な症例と考え報告する.