日本健康教育学会誌
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巻頭言
原著
  • 中村 彩希, 稲山 貴代, 原田 和弘, 荒尾 孝
    2024 年 32 巻 3 号 p. 136-147
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    目的:野菜摂取行動と態度,主観的規範,自己効力感,行動変容ステージとの関連について構造的に検討し,世帯収入による違いの有無を検証すること.

    方法:横断研究として2014年2月にインターネット調査を実施した.対象者は30~59歳の男女とした.調査項目は性,年齢区分,婚姻状況,居住形態,就業状況,最終学歴,世帯収入を用いた.観測変数は野菜摂取行動,他に主食・主菜・副菜のそろった食事を食べる,副菜を食べる,緑の濃い野菜を食べる,果物を食べるという4つの食行動に対する態度,主観的規範,自己効力感,行動変容ステージを問うた.世帯収入300万円未満,300~700万円未満,700万円以上の3群とし,世帯収入別に多母集団同時分析を行った.

    結果:多母集団同時分析の最終モデルにおいて,いずれの世帯収入層でも,自己効力感から野菜摂取行動への標準化パス係数(低収入層0.35, 中収入層0.30, 高収入層0.35)は,行動変容ステージからの値よりも高値であった.自己効力感から行動変容ステージへの標準化パス係数(低収入層0.59, 中収入層0.56, 高収入層0.56)も,態度や主観的規範と比べて高値であった.

    結論:世帯収入の違いによらず,野菜摂取行動と最も密接に関連する要因は自己効力感であった.野菜摂取行動の改善を目的とするポピュレーションアプローチにおいては,自己効力感の向上を主な標的とすべきであろう.

  • 増岡 里紗, 佐藤 清香, 赤松 利恵, 井澤 修平, 中村 菜々子, 吉川 徹, 池田 大樹, 久保 智英
    2024 年 32 巻 3 号 p. 148-155
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    目的:不眠と朝食欠食の組合せによって,労働生産性が異なるのかを検討することを目的とした.

    方法:2022年に20~59歳の労働者20,000人を対象に実施されたインターネット調査「WELWEL」のデータを二次利用した.対象者を不眠と朝食欠食の有無によってそれぞれ2群に分け,カイ二乗検定を用いて属性の比較を行った.従属変数を労働生産性,独立変数を不眠と朝食欠食の有無とし二元配置分散分析を実施した.さらに,すべての属性を調整変数として強制投入した二元配置共分散分析を実施した.

    結果:解析対象者15,731人のうち,不眠ありの者(アテネ不眠尺度6点以上)は5,883人(37.4%),朝食欠食ありの者は5,260人(33.4%)であった.不眠の者と朝食欠食ありの者に共通する特徴として,若年者,一人暮らし,労働時間が週50時間以上であることなどがあげられた.二元配置共分散分析では,不眠と朝食欠食の主効果および交互作用が認められた(不眠:F=964.43,朝食欠食:F=24.39,各々P<0.001,交互作用:F=4.94, P=0.026).

    結論:不眠があり朝食を欠食する者は,労働生産性が最も低かった.睡眠の確保や朝食摂取推進のための支援や労働環境の整備が求められる.

  • 檀原 三七子, 岩田 昇
    2024 年 32 巻 3 号 p. 156-165
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    目的:地域の健康づくりを推進する住民組織育成のための研修内容や実施実態を明らかにし,その研修の多寡から組織を分類すること,さらに研修実施程度に関連する要因を探索することを目的とした.

    方法:2017年10月から11月に,全国1718市町村の保健師を対象に郵送法による質問紙の横断研究を実施した.各自治体には3部調査票を配付した.調査項目は住民組織概要,研修プログラム有無,研修内容,活動の主体性等で構成された.研修内容35項目の実施程度は5件法で回答を求めた.カイ二乗検定,因子分析,クラスタ分析,重回帰分析等を行った.

    結果:489自治体から回答を得,健康づくりに関する444の住民組織を分析対象とした.研修プログラムがある組織は126(29.2%)であった.実施程度の因子分析により,研修内容は『健康問題・活動目標の対話と共有』『学習資源の提供』『活動展開の方法と評価』『活動目的・役割の説明』『実践活動の説明』の5領域に整理された.5領域の実施程度をクラスタ分析すると,住民組織は6群に分類された.住民組織の主体性および研修5領域の実施程度は,研修プログラムがある方が有意に高かった.重回帰分析による主体性の関連要因は,市(参照:町村)および『活動展開の方法と評価』の実施程度であった.

    結論:健康づくりに関する研修内容は,実施程度に基づくと5領域に整理された.研修プログラムがある方が,住民組織の主体性や研修実施程度が高かった.

  • 宮城 十子, 岡本 希
    2024 年 32 巻 3 号 p. 166-179
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    目的:学校の感染症対応における教師の負担感尺度(教師の負担感尺度)の開発と,属性・感染症対応の実施状況と教師の負担感との関連の検証である.

    方法:公立小学校教師を対象に質問紙調査による横断研究を実施した.教師の負担感尺度の全項目回答者224名について探索的および確認的因子分析を行い,クロンバックα係数を算出し,基準関連妥当性検証のために既存尺度との相関係数を算出した.属性・感染症対応の実施状況による尺度得点について,t検定と一元配置分散分析を行った.

    結果:教師の負担感尺度は3因子10項目の構造となり,各因子は「感染予防に費やす労力」「感染症対応における多忙」「職員間の連携に費やす労力」と命名され,弱い適合度を認めた(GFI=0.938, AGFI=0.893, CFI=0.949, RMSEA=0.080).クロンバックα係数は0.72~0.85,基準関連妥当性の検証では弱~中程度の相関であった.児童数200人未満の学校の教師は「感染症対応における多忙」得点が有意に低く,20歳代の教師は「職員間の連携に費やす労力」得点が有意に高かった.保護者対応,児童への指導の非実施群は「職員間の連携に費やす労力」得点が有意に高かった.

    結論:教師の負担感尺度は3因子10項目となり,信頼性・妥当性が確かめられた.教師の負担感尺度と学校規模,年齢,対人的な感染症対応との関連が示唆された.

特別報告
  • 鷲尾 幸子
    2024 年 32 巻 3 号 p. 180-186
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    この特別報告は2023年の日本健康教育学会学術大会のシンポジウムでのインセンティブを用いた行動変容の発表を基にとりまとめたものである.本稿では徐々に保健医療の現場において適用されつつあるインセンティブを用いた行動変容について概要から始め,インセンティブ使用の際のコツを行動の定義およびインセンティブ内容の面から記述した.さらに使用にあたって心に留めておくべきインセンティブの限界について述べるとともに,インセンティブを適用した研究事例をいくつか紹介した.今後,インセンティブが行動変容支援の方法論として,保健医療の現場で活用されることを期待する.

特集:初等・中等教育におけるヘルスリテラシー教育の取り組み
  • 山田 浩平, 上地 勝
    2024 年 32 巻 3 号 p. 187-190
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー
  • 西岡 伸紀
    2024 年 32 巻 3 号 p. 191-198
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    学校健康教育においてもヘルスリテラシー(以下HL)の育成が求められている.本稿では,学校健康教育においてHLを育成することの意義,方策,課題を明らかにすることを目的とした.HLは「健康情報を入手し,理解し,評価し,活用するための知識・意欲・能力」と捉え,健康情報にサービスを含むものとした.分析資料は,日本のHLの定義,内容,育成に関する論文・著書,海外のHL育成のレビュー論文から選択し,米国健康教育基準National Health Education Standards(以下NHES),同基準に対応した米国の中高生用プログラムを参照した.日本の学校健康教育では「保健の授業」の目標,内容を中心に分析し,中高の学習指導要領解説保健体育編等のHL関連内容とNHES等との比較も行った.その結果,保健の授業では課題解決的な学習の重視が確認できた.また,課題発見から解決までの過程と,情報収集から活用までのHLの過程の間に共通性が認められた.したがって,今後,課題解決的学習やHL育成が強く求められると推測された.ただし,課題解決的学習については,学習指導要領解説,実践とも,解決の過程における具体的方策の記述が不十分と判断された.また,その改善には,HLの過程での具体的方策,国外のスキルベースの健康教育の学習過程が参考になり,学習方法として参加型学習の充実が必要と判断された.

  • 森 慶惠
    2024 年 32 巻 3 号 p. 199-205
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    現代社会においては,真偽不明の健康情報が溢れ,適切な健康情報を得る困難さは増している.これからの情報社会を生きていくためには,情報を収集する力より,健康情報を批判的に吟味して適切な情報を選択する力を,患者や当事者になる前の学校教育において育成することが重要である.健康情報を判断,選択して,意思決定するヘルスリテラシーの中核をなすものが,健康情報リテラシーである.メディアリテラシー,科学リテラシー,統計リテラシーは,批判的思考とともに,健康情報リテラシーを支えている.一方,批判的思考による健康情報の判断には,信念バイアスの影響が予想され,その限界も懸念される.そこで,批判的思考の構成要素と信念バイアスの修正を取り入れた,これからの健康情報リテラシー教育モデルを提案した.授業時間数の削減などにより保健教育に十分な時間を確保できない学校の現状と,今後起こりうる新たな健康課題にも対応するためには,健康課題毎に保健教育を行うのではなく,子どもたち自身が健康情報を収集,批判的に吟味し,科学的根拠に基づいて適切な情報を選択し,健康課題の解決に活用する健康情報リテラシー教育を活用することが有効と考える.今後,初等・中等教育の場でこの教育モデルを活用して健康情報リテラシー教育の実践検討を重ね,発達段階に即した健康情報リテラシー教育が充実することを期待する.

  • 山本 浩二
    2024 年 32 巻 3 号 p. 206-211
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    平成29年・30年告示学習指導要領では,学習の基盤となる資質・能力として「情報活用能力」が示され,保健教育で育成すべき情報活用能力としてヘルスリテラシーの育成が期待されている.学習指導要領に示された「情報活用能力」とヘルスリテラシーの関連を示し,日本の学校教育におけるヘルスリテラシー研究を紹介し,その成果と課題について考察した.学習指導要領では,予測困難な社会に対応する資質・能力として,コンテンツ・ベースからコンピテンシー・ベースの学力観への転換が期待されている.日本の学校教育におけるヘルスリテラシー研究は,特定の題材に対するコンテンツ・ベースの授業研究は多く見られるようになり成果を挙げている.今後の課題としてコンピテンシー・ベースの視点より汎用的能力を育成するための包括的なカリキュラム・マネジメントに寄与する研究が期待される.

  • 中山 和弘
    2024 年 32 巻 3 号 p. 212-219
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    ヘルスリテラシーは,健康のために必要な情報を「入手」「理解」「評価」して適切に「意思決定」するという4つの力である.そもそもリテラシーとは,基本的な人権すなわち自分らしく生きる権利であり,ヘルスリテラシーでも同様であることを忘れてはならない.日本人は,欧州やアジアと比べて,「評価」「意思決定」が難しい傾向であり,学校教育の段階から建設的に議論して意思決定する習慣を学ぶことを重視してきている国のように,これらのスキルの向上が課題である.

    日本の高校生においては,情報の信頼性の評価ができるほど,また意思決定が熟慮型すなわち合理的であるほど,より望ましい健康行動をとりやすいという調査結果がある.情報評価のスキルで,5つのポイント「か・ち・も・な・い」の確認によってエビデンスとナラティブを見極める力と,合理的な意思決定のスキルで,そのプロセスの構成要素である選択肢(オプション)・長所・短所・価値観を表す「お・ち・た・か」で決める力が必要である.人生の選択を始めつつある児童生徒において,自分の価値観を明らかにしながら自分らしい意思決定ができるようになるためにも,これらのスキルを身に付ける機会に恵まれて欲しい.

    2つのスキルの普及のための動画を作成したので,活用していただけたら幸いである.実際に学校においてどのように導入すれば効果が得られるかの評価研究が進むことを期待したい.

日本健康教育学会奨励賞受賞記念特集
  • 小岩井 馨
    2024 年 32 巻 3 号 p. 220-225
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    背景:国外では,食品・料理の加工度に基づき,加工食品を分類するNOVAシステムが提案され,加工食品の利用と食物摂取状況や健康状態との関連が検討されている.こうした世界の動向を踏まえ,著者はNOVAシステムに基づき日本人の食事を分類し,栄養素等摂取状況や健康状態との関連等を明らかにしてきた.本稿では,これまでの研究結果を踏まえた今後の研究課題並びに健康教育とヘルスプロモーションへの展開について考察する.

    内容:NOVAシステムのうち,最も加工度が高いultra-processed foods(以下,UPF)に該当する市販弁当,惣菜等,すぐに食べられるように調理加工された食品の利用が多いことは,日本人でも,望ましくない栄養素等摂取状況と肥満に関連する可能性が示唆された.減塩対策を検討する上で,食塩摂取源の視点に家庭内由来・家庭外由来の視点を取り入れること,男性では中食への減塩対策が必要であることが示唆された.食塩摂取源の把握に,NOVAシステムが活用できる可能性が示された.

    まとめ:手づくりの食事と組わせてUPFが健康的に活用されるには,健康教育と健康に配慮されたUPFが入手できる食環境づくりの両方が必要である.そのために自ら研究活動を継続し,UPFも含め健康増進につながる食環境づくり等の栄養政策に携わり,環境づくりを目的とした研究がより進むよう研究活動の支援も行っていきたい.

  • 島袋 桂
    2024 年 32 巻 3 号 p. 226-233
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/09/05
    ジャーナル フリー

    目的:第32回日本健康教育学会学術大会奨励賞受賞記念講演にて,筆者が2010年から2018年まで所属していた琉球大学健康づくり支援プロジェクトLibと市町村,住民による地域のつながりを活かしたヘルスプロモーション実践の成果について報告する.

    内容:A市の健康教室参加者は,教室終了後に健康づくり推進委員となり,地域で特定健診受診勧奨の活動や,地域の環境改善として空き地を整備した花植えの活動など,住民主体の健康づくりと地域づくり活動の中心を担った.B市の介護予防事業では,参加者相互援助型の動作法により,高齢者の不活性の原因にもなる痛みを改善させたことに加え,3つの事業が連携し,動作法による高齢者の生活支援のネットワークづくりが行われた.D村では,楠の経営戦略モデルを参考に,コンセプトを「パートナーづくり」,しかけを「競走」とした健康づくり戦略モデルが作成・実践され,戦略変更後に住民による積極的な事業参加や住民同士の事業参加呼びかけなどが行われた.

    結論:実践者や研究者が地域住民とパートナーシップを形成し,健康づくりの仲間を増やしていく視点を持って実践を進めることで,より広く住民に健康づくりを波及させる可能性は高まる.加えて,地域の健康づくりを介した住民との交流は,多くの学びと健康づくりのアイディアを実践者や研究者にもたらすことを報告した.

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