グリシン受容体チャネルの機能に対する亜鉛イオン (Zn
2+) の効果をラット初代培養ニューロンとアフリカツメガエル卵母細胞に電気生理学的手法を適用して解析した.ラット培養ニューロンが惹起するグリシン作動性Cl
-電流 (グリシン電流) はZn
2+ (1μM) 存在下で約2倍に増強された.これに対しγ
-アミノ酪酸 (GABA) により誘発される電流はZn
2+ (10μM) により抑制された.Zn
2+によるグリシン電流の増強作用は, ラット脊髄から抽出したメッセンジャーRNA (mRNA) を注入した卵母細胞を用いた実験でも観察された。さらにグリシン受容体α1サブユニットをコードする相補的DNAを鋳型にして合成したRNA (cRNA) を単独で注入した卵母細胞を用いてZn
2+の作用を検討した結果, Zn
2+は0.1-10μMの濃度域で効果を呈し, 10μMではグリシン電流を2-5倍に増大させた.Cd
2+, Co
2+, Ni
2+, Mn
2+, Mg
2+およびCu
2+ (1-10μM) にはグリシン電流を増大させる作用は認められなかった.グリシンとZn
2+の同時適用を行ったところ, グリシン反応は直ちに増大した.以上の結果から, Zn
2+はグリシン受容体のαサブユニットに作用点を持ち, 細胞外から作用してグリシンの結合親和性を高めることにより受容体機能を亢進させることが示唆された.
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