日本地球化学会年会要旨集
2011年度日本地球化学会第58回年会講演要旨集
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口頭発表(第一日目)
セッション2 古気候・古環境解析の地球化学
セッション2 古気候・古環境解析の地球化学
  • 山崎 敦子, 渡邊 剛, 角皆 潤
    セッションID: 1A13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    サンゴ礁への陸起源の栄養塩の負荷はサンゴ礁を衰退させる原因のひとつとして考えられている。本研究では、造礁性サンゴ骨格に含まれる微量の有機物中の窒素同位体比がサンゴ礁に流入した陸起源物質の指標となるか検討するため、石垣島白保サンゴ礁轟川河口の造礁性サンゴ骨格の窒素同位体比の分布を調べ、礁内の海水および河川水の硝酸の窒素同位体比分布と比較した。その結果、造礁性サンゴと硝酸の窒素同位体比が一致することを発見した。次に、同研究地点で採取したサンゴ骨格コアの窒素同位体比の季節変動を復元した。その季節特性は石垣島の降水量の季節変化と同じパターンを示しており、また硝酸の窒素同位体比の季節変動とも一致していた。本研究の結果から、造礁性サンゴの窒素同位体比はサンゴ礁に流入する陸起源硝酸の変動を復元する指標に利用可能であることが示唆された。
  • 井笹 純平, 渡邊 剛, 中村 隆志, 阿部 理, 野村 恵一
    セッションID: 1A14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    温帯域の造礁性サンゴは地球温暖化に伴う海水温上昇や大気二酸化炭素濃度上昇による海洋酸性化の影響を敏感に受けている生物であると注目されている。しかし、温帯域での造礁性サンゴ骨格を用いた古環境復元の報告例は少ない。なかでも、本研究地域の和歌山県串本は温帯に属し、太平洋側における大型造礁性サンゴの生息の北限であると考えられている。このように過酷な海洋環境に生息している大型の造礁性サンゴ(以下サンゴ)の骨格成長パターンや経年変化を明らかにすることにより、熱帯・亜熱帯のサンゴと同様に古環境指標として使用できるかの検討が求められる。 本研究では和歌山県串本に生息しているサンゴ骨格の現生部位と1800年代後半の小氷期末の部位の酸素・炭素安定同位体比と海洋環境データの比較により、北限域に生息するサンゴを用いた古環境指標の確立を目指した。
  • 河村 卓, 渡邊 剛, 村山 雅史, 山野 博哉
    セッションID: 1A15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    造礁サンゴは熱帯から温帯まで広く分布するが、日本周辺の温帯域は造礁サンゴ分布の北限にあたり、そこに分布するサンゴは環境の変化に対して非常に敏感に応答すると考えられる。しかし、これまでの温帯域の造礁性サンゴ骨格を用いた古環境解析への応用例は極めて少ない。本研究では、鹿児島県の西部、東シナ海上に位置する甑島列島より採取されたハマサンゴのコアを用いて過去106年間の東シナ海の環境変動及び造礁サンゴの成長特性の変化を明らかにする。骨格の酸素同位体比の結果からこの海域の温暖化の傾向と太平洋10年スケール振動が、炭素同位体比からは人為起源CO2の海洋への溶け込みが示された。一方で、甑島のサンゴはそれらの環境変化に適応して骨格を成長させ続けていた。1.8℃ / 100年の温暖化ならサンゴが耐えられたという結果は、将来のサンゴの分布や生体を予測する上で重要な指標となりうるであろう。
  • 林 恵里香, 石村 豊穂, 中村 崇, 井口 亮, 岩瀬 晃啓, 酒井 一彦, 鈴木 淳, 岡井 貴司, 川幡 穂高
    セッションID: 1A16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    複数のハマサンゴ(Porites australiensis)群体を1.5 cm角の立方体状に切断し、約6年に及ぶ長期飼育実験を行い、骨格の成長速度および骨格の酸素同位体比、Sr/Ca比の変動と水槽で実測された水温等の環境パラメータとの精密対比を行なった。酸素同位体比は、この切断後の成長速度低下時に増大する傾向が認められたが、Sr/Ca比の変動は一定であった。これは、サンゴの健康状態あるいは代謝状態の変化により成長速度に変化が生じた際に、酸素同位体比はSr/Ca比よりも敏感に影響を受けることを示す。
  • 井上 麻夕里, 小崎 沙織, 井口 亮, 酒井 一彦, 鈴木 淳, 川幡 穂高
    セッションID: 1A17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    近年、海洋酸性化が懸念されており、これまでに造礁サンゴ類に対する海洋酸性化の影響について多くの研究結果が報告されているが、対象サンゴ種や実験期間、実験条件等の違いによって異なる結果が報告されている。本研究では、対象サンゴとしてコユビミドリイシの成体と初期プリプ、またハマサンゴを用い pH制御下で造礁サンゴの飼育実験を行った。また、その期間に成長した骨格についてU/Ca比を測定した結果、海水のpHとサンゴ骨格中のU/Ca比に逆相関関係が認められ、pH指標としての可能性が示唆された。
  • 尾崎 和海, 田近 英一
    セッションID: 1A18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    顕生代における気候変動に共通した現象として、気候の温暖化、海洋酸性化・貧酸素化が注目されている(Tr-J境界、OAE1a、OAE2)。本研究では新しい大気‐海洋物質循環モデルを開発し、その応用として大気へのCO2流入に伴う気候変遷について調査した研究結果を報告する。とくに海洋の酸性化、貧酸素化について、その発生から終焉に至るシナリオを炭素やリン、窒素などの物質循環にのっとって議論し、また地質記録として得られる炭素同位体比変動記録などとの比較により、どれだけの規模のCO2流入現象が要求されるかなどの点についても検討する予定である。
  • Tejada Maria Luisa, 鈴木 勝彦, 石川 晃, 野崎 達生, 仙田 量子, Ravizza Gregory, 木村 純一
    セッションID: 1A19
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    Os isotope and platinum group elements (PGE) analysis have been increasingly used now for tracing geologic events that are reflected in the geochemistry of contemporaneous sedimentary sequences. The use of PGEs only as extraterrestrial tracer became important since the discovery of Ir anomalies at the Cretaceous-Tertiary boundary (KTB). Since then, numerous sites have been found with reported Ir anomalies although only a few had been confirmed to be impact sites based on sedimentological, mineralogical, and discovery of associated impact craters. A potential problem for marine sediments as recorders of extraterrestrial event is that the behavior of the PGEs in oceanic environment is largely unknown and can be different depending on the Eh condition and the effect of volcanogenic hydrothermal activity and post depositional remobilization. The use of Os isotopes in combination with the PGE determination can help better constrain the origin of PGE anomalies in marine sediments (1-2). We apply a similar method of combining Os isotopes and PGE determination to investigate whether a bolide impact had something to do with the contemporaneous massive volcanism (Ontong Java Plateau event) and oceanic anoxic event (OAE 1a) in Early Cretaceous, 120 million years ago.
  • 黒田 潤一郎, Rachael H. James
    セッションID: 1A20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    クロムは4つの安定同位体50Cr, 52Cr, 53Cr, 54Cr を持ち,53Cr/52Cr比の標準物質(SRM979)に対する偏差千分率δ53Crで表される.クロムは酸化還元変化に敏感な元素であり,酸化還元反応で同位体分別が起こることが知られている[1].ほとんどの大陸地殻や海洋地殻の岩石,頁岩などのクロム同位体比は-0.3から0‰の狭い範囲に収まる[2].一方,海水は+0.5~+0.7‰という重い値を持つ(Bonnand et al. in prep.).海水の溶存クロムのほとんどは6価として存在し,還元されると3価になる.3価のクロムは沈降粒子に吸着して海洋から除去される.この還元の際に同位体分別が起こり,軽い同位体が選択的に還元されるため,海水には重い同位体が残る.バハマバンクのウーイドのクロム同位体比は+0.7‰と,海水のクロム同位体比に近い値を持つ[3].方解石の共沈実験では,方解石中にクロムが取り込まれる際,溶液中のクロムが6価のままクロム酸イオンとして炭酸イオンを置換する形で取り込まれることが分かった[4].このことから,炭酸塩中のクロム同位体比は,海水の溶存クロムに由来すると考えられる.つまり,炭酸塩中のクロム同位体比から,地質時代の海水のクロム同位体比変動が復元できる可能性がある.6価から3価への還元は,比較的高い酸化還元電位で起こる(脱窒が起こる程度)ため,酸化的な海洋環境から還元的になる過程の初期段階で大規模な海水のクロム同位体比の変化が起こると予想される.筆者らは,現在,炭酸塩堆積物のクロム同位体比の酸化還元指標としての可能性を評価している.その一環として,白亜紀アプチアンに太平洋のMid-Pacific Mountains に堆積したチョーク(DSDP Site 463)と,Resolution Guyotに堆積した浅海性石灰岩(ODP Site 866),テチス海西部の陸棚遠洋域に堆積したイタリア・マルケ州のチョークの炭酸塩相(酢酸リーチング)のクロム同位体比を測定した.アプチアンには,世界各地で有機質黒色頁岩が形成する海洋無酸素事変(OAE)-1aが起こっており,海水の酸化還元電位がドラスティックに変動している.太平洋の浅海性石灰岩のクロム同位体比は,+1.3~1.7‰と重い値を持ち,最も重い値は黒色頁岩の堆積が始まる直前のアプチアン最初期に認められた.一方,遠洋性チョークでは-0.3~0‰と,地殻と同じ値となった.本講演では,これらの石灰岩のクロム同位体記録と,微量元素や希土類元素のデータから,続成の影響や古環境指標としての可能性について議論する.引用文献: [1] Ellis et al. (2002) Science 295, 2060-2062; [2] Schoenberg et al. (2008) Chem. Geol. 249, 294-306; [3] Bonnand et al. (2011), JAAS 26, 528-535. [4] Tang et al. (2007) GCA 71, 1480-1493.
  • 丸岡 照幸, 上野 昂幹, 磯崎 行雄
    セッションID: 1A21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    ペルム紀末の大量絶滅は顕生代最大規模であったとされているが、この絶滅イベントは単一の事象ではなく、ペルム紀中期-後期(Guadalupian-Lopingian; G-L)境界、狭義のペルム紀-トリアス紀(Permian-Triassic; P-T)境界の二つのイベントからなることが指摘されている。ペルム紀末の大量絶滅を本質的に理解するためには、G-L境界に関する研究は不可欠であり、本研究でもこの境界について取り扱う。本講演ではG-L境界に関する同位体比などを使った研究をレヴューするとともに我々の研究で得た硫黄同位体比に関する議論を組み合わせてG-L境界における海洋環境の変遷を議論する。
  • 長谷川 精, 安藤 寿男, 長谷川 卓, 太田 亨, 山本 正伸, 長谷部 徳子, Li Gang, Ichinnorov Niiden
    セッションID: 1A22
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    本研究はモンゴルのアプチアン期湖成層(シネフダグ層)を対象に,OAE1a時の陸域環境変動の解明を試みている.シネフダグ湖成層は,頁岩とドロマイトのリズミカルな互層(数10cm,数m,10~20 mサイクル)からなる.本研究では,その堆積メカニズムを解明するため,堆積相解析,鉱物組成分析,有機地球化学分析を行った.C/N比およびロックエバル分析の結果,シネフダグ湖成層の有機物は主に湖内の藻類に由来することが示唆された.またドロマイト層準では藻類やバクテリアが卓越するのに対し,頁岩層準では藻類に加えて湖岸からの高等植物起源有機物の流入も寄与していたことが示唆された.これらの結果と堆積相解析から,シネフダグ湖成層に見られる頁岩とドロマイトのリズミカルな互層(数千年,数万年,数10万年サイクルに相当)は,地球軌道要素の変動に起因した湖水位の変動,すなわち湿潤-乾燥といった気候変動に対応している可能性が示唆された.
  • 小林 大祐, 山本 正伸
    セッションID: 1A23
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    本研究では、北太平洋亜寒帯域に位置するOcean Drilling Program Site 882の海底堆積物コアから採取された試料から、北太平洋亜寒帯域の過去580万年間の水温を復元した.水温の復元はTEX86古水温推定法(Shouten et al., 2002)を用いて行った.TEX86古水温は過去580万年間で-1℃から12℃の水温の変動を示した.TEX86古水温は100万年スケールの長周期変動に10万年スケールの短周期変動が重複したような変動を示した.
  • 吉村 寿紘, 谷水 雅治, 川幡 穂高
    セッションID: 1A24
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    本研究では,近年測定可能となったMg同位体比(δ26Mg)を用いることで,陸棚堆積物と間隙水の反応における詳細なMg 動態を解明することを目的とした。試料はIODP Exp317の掘削サイトU1351ならびにU1352で得られた間隙水と堆積物を用いた。試料は陽イオン交換樹脂を用いてMgを分離した後,多重検出器型ICP-MSでMg同位体比の測定を行った。Mg同位体比は海水標準試料IRMM BCR403に対する千分率偏差(‰)として表す。U1351の間隙水のδ26Mgは-1.8~-0.1‰,U1352は-2.2~1.0‰を示した。陸棚と陸棚斜面のプロファイルの違いは海水準変動に起因する堆積履歴の違いに由来すると考えられる。U1352の上部200mではδ26Mgが1.20‰増加し,200~350mでは1.25‰減少した。このことはコア上部200mでは有機物の分解に伴うドロマイトの沈殿反応が卓越するが,コア深度の増加に伴ってMgの除去源がドロマイトから粘土鉱物が卓越する反応に移行することを示唆する。
  • 小林 まどか, 沢田 健, 関 宰
    セッションID: 1A25
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    陸上高等植物に由来するテルペノイド(HPT)は、植物の分類によって異なる構造を持つことが知られており、陸源物質の海洋への輸送の供給源や後背地を特定するための有用なバイオマーカーになり得ると考えられる。本研究では、レテン、カダレン、フリーデリンという3種類のHPTに着目して、北西太平洋の表層堆積物中での化合物分布を調べ、それぞれの化合物の起源と輸送過程について考察した。
    分析の結果、レテンの分布からは後背地の植生の影響以外に、化石燃料を含む都市大気による影響がみられた。フリーデリンは北西太平洋日本沖で特に多く、陸から遠く離れた外洋域のコアからは総じて微量しか検出されなかったことから、主に河川経由で輸送されていると考えられる。一方でカダレンについては地域・海域による傾向はあまり見られなかったが、これはカダレンが主に大気経由で広範囲に輸送されていることを示唆している。
  • 山下 剛史, 北 逸郎, 長谷川 英尚, 千代延 俊, 佐藤 時幸
    セッションID: 1A26
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    北大西洋アイルランド沖で掘削された第四紀(現在-110万年前)の堆積物コア中の水銀量と石灰質ナンノ化石群集の変動関係を検討した。バハマ沖と同様に北大西洋でもコア試料中の水銀量には、明確な気候変動が観測され、その変動にはミランコビッチ周期に対応している。このコア試料に含まれるナンノ化石の上部種/下部種の比は、過去50万年前を境にして急激な変化をしており、若い期間で上部種が卓越している。また、バハマ沖と同様に、上部化石種量と水銀量の変動関係には逆相関の関係が得られている。このような水銀量変動と、石灰質ナンノ化石の上部・下部種量と有機物量および窒素・炭素同位体比の変動関係に基づき、北大西洋アイルランド沖の水銀量変動のメカニズムと気候変動の関係等について発表する。
セッション1 大気微量成分の地球化学と相互作用
  • 谷 晃
    セッションID: 1B01
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    炭化水素ガスの中には,植物から放出されるイソプレンやモノテルペンからなるテルペン類も含まれる。植生からのテルペン類の放出は、その様子が目に見えないためイメージされにくいが,実は地球レベルでのその放出量は化石燃料の燃焼等の産業活動によって発生する人為起源の非メタン系炭化水素(AVOC)の排出量より多いと見積もられる.本講演では,植物によってイソプレンを放出するもの,モノテルペンを放出するもの,両方のガス種を放出しないものがあり,それぞれの放出特性を紹介すると共に,今後の地球環境の変化に対する植物のテルペン類放出応答に関するこれまでの研究である程度わかってきた知見について解説する.
  • 宮崎 雄三, フ ピンチン, 河村 公隆, 山野井 克己
    セッションID: 1B02
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    北方森林生態系における水溶性有機エアロゾルの主要な発生源を明らかにすることを目的とし、落葉広葉樹演習林の観測タワーで約1年半以上にわたり採取した大気エアロゾルサンプルを用いて水溶性有機炭素(WSOC)とその安定炭素同位体比(δ13C-WSOC)の測定を行なった。δ13C-WSOCは、初夏から秋季にかけて値が減少する明瞭な季節変化を示し、純生態系CO2交換量との相関からWSOCへの森林植生寄与を表す指標として有用であることが示唆された。WSOC濃度や植生起源有機物トレーサーの季節変動や鉛直勾配から、森林植生の成長期である初夏を中心に地表付近の植生や土壌を含む林床が森林キャノピー層内における水溶性有機エアロゾルの発生源として重要であることが示唆された。
  • 豊田 栄, 下島 涼介, 山田 桂太, 吉田 尚弘
    セッションID: 1B03
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    地球温暖化やオゾン層破壊をもたらす一酸化二窒素(N2O)は天然および人為の発生源が種々知られている。バイオマス燃焼に伴うN2Oの放出は人為発生源の約10%を占めると推定されているが、その不確実性は大きく、生成機構も明らかにはなっていない。本研究では、草本および木本試料を密閉チャンバー内で燃焼させる模擬実験を行い、燃焼後にほぼ均一となったガスを採取し、N2Oの濃度とアイソトポマー比(15N分子内分布も考慮した窒素、酸素の同位体比)等を分析した。バイオマス燃焼起源N2Oのアイソトポマー比は、他の発生源と異なる特徴を示した。さらに、草本と木本ではN2O生成機構も異なることが示唆された。
  • 小松 大祐, 角皆 潤, 中川 書子
    セッションID: 1B04
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    土壌吸収は大気水素の大きなシンクであるが、土壌では水素の分解だけでなく生成も同時進行している可能性があるため、濃度の観測だけでは複雑な水素の挙動を把握することは難しかった。そこで本研究では濃度と同時に安定水素同位体比指標を観測し、土壌による水素の生成・分解過程について調べた。観測は北海道大学構内の農場においてチャンバー実験を行った。その結果、全ての実験において正味の吸収が観測された。求めた吸収速度は文献値と同程度の値であった。しかし数時間後のチャンバー内の水素濃度は数十ppbvであり、吸収が卓越するものの生成の寄与が予想された。同位体分別係数を求めたところ、森林土壌で得られた文献値と比較して矛盾のない結果であった。また、生成時の水素は大気水素に比べ非常にDに乏しいことが分かった。
  • 中山 桃子, 吉川 久幸, 廣川 淳, 入野 智久, 兒玉 裕二, 谷本 浩志
    セッションID: 1B05
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    温室効果気体であるオゾンは二酸化炭素、メタンに次いで3番目に地球温暖化に寄与する気体である。そのため全球のオゾン濃度を把握することやオゾンの吸収源と放出源を把握することが重要である。積雪内でオゾンが分解され、積雪がオゾンの吸収源になり得るという研究が近年盛んに行われるようになってきた。本研究は中緯度地域にある季節雪氷域である北海道・利尻島で積雪内間隙空気中オゾン濃度及び大気中オゾン濃度を計測し、利尻島の積雪がオゾンの吸収源になり得るか調べると同時に、積雪内で起こるオゾン分解反応のメカニズムと反応速度について調べた。
  • 斉藤 拓也, 横内 陽子, 橋本 茂, 向井 人史
    セッションID: 1B06
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    大気中で最も多量に存在する含硫黄ガスである硫化カルボニル(COS)は、成層圏の硫酸エアロゾルの前駆体として働くことで、地球の放射収支や成層圏オゾンの化学に大きな影響を与えている。本研究では、大気中COSの連続観測データを用いてCOSの大気動態の解明を試みた。観測されたCOSの時系列データには、季節変動に加えて、数時間~数日間程度の顕著な濃度変動が見られた。こうした短周期の濃度変動について解析を行ったところ、秋から春にかけて、COSの濃度増加は主に東アジア等からの人為的な放出の影響によることがわかった。夏季については海洋からのCOSあるいは前駆物質の放出による増加に加え、夜間の陸域生態系による吸収に起因すると考えられる変動が捉えられた。そこで、観測されたCOSとCO2の関係性と土壌呼吸量の推定値に基づいて、陸域生態系による夜間のCOS吸収量を試算した。
  • 坪井 一寛, 松枝 秀和, 澤 庸介, 丹羽 洋介, 中村 雅道, 久保池 大輔, 斎藤 和幸, 大森 英裕, 岩坪 昇平, 西 秀紘, 花 ...
    セッションID: 1B07
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    気象庁は、上空の温室効果ガスの分布と変動を解明するため、南鳥島へのC-130H 輸送機を利用して、高度約6km における二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、一酸化炭素(CO)および一酸化二窒素(N2O)の濃度の観測を2011 年2 月から実施している。この観測を開始するにあたり、気象庁と気象研究所が共同して、CRD 分光法を用いた航空機フラスコサンプルの高精度分析システムの開発を行った。本研究では、分析システムの特徴とともに、CRD 分光法について実施した詳細な性能試験結果を報告する。
  • 奈良 英樹, 谷本 浩志, 野尻 幸宏, 向井 人史, 町田 敏暢, 遠嶋 康徳
    セッションID: 1B08
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    国立環境研究所では1995年より民間貨物商船を用いた太平洋上大気中の一酸化炭素(CO)の観測をフラスコサンプリングによって行ってきた。フラスコサンプリングによる観測は日本-オセアニア、日本-カナダ、日本-アメリカ、日本-東南アジアの4航路で観測が行われてきたが、2007年より新たに日本-アメリカを除く3航路でCOの連続観測が開始された。本発表では一酸化炭素の船上連続観測システム、取得したデータの品質管理体制、そして各航路で観測されたCOの分布の特徴について紹介する。
  • 朱 春茂, 吉川(井上) 久幸, 松枝 秀和, 澤 庸介, 丹羽 洋介, 和田 晃, 谷本 浩志
    セッションID: 1B09
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    ユーラシア大陸上の大気中ラドンのソース/シンクの輸送過程を調べるために、利尻島で大気中ラドンの測定や解析を行った。ラドン濃度は、夏期に最小値が午後、最大値は夜明け前になる明確な日変化を示したが、それ以外の季節は明確な日変化を示さなかった。季節変動に関しては、日平均ラドン濃度は5~7月が低く、12~2月に高い値が観測された。低いラドン濃度は北太平洋西部での影響を空気塊が起源であり、高いラドン濃度は40~60 Nのユーラシア大陸で影響をうけたためであることが分かった。後方流跡線やラドンのソース/シンクを用いて大気中ラドン濃度を計算し、観測値と比較した。
  • 松枝 秀和, 和田 晃, 坪井 一寛, 丹羽 洋介, 澤 庸介, 村山 昌平, 田口 彰一, 大原 利眞, 黒川 純一
    セッションID: 1B10
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    ラドン-222(以下ラドン)は半減期3.824日でα壊変する放射性希ガスである。ラドンは主に土壌からほぼ一定の速度で発生して大気中へ拡散し、海洋からの放出は少ないことから、大陸起源の空気塊の輸送過程を調べる化学トレーサーとして有用である。我々の研究グループでは、高精度のラドン測定装置を開発し(Wada et al., 2010, J. Meteor. Soc. Japan, 80, 123-134)、北西太平洋上の南鳥島と与那国島観測所に設置して低濃度環境下における大気中ラドンの濃度変動の観測を実施してきた。本研究では、大気中ラドンと同時に観測された微量気体(CO2,CO,CH4)との関係から、東アジア大陸における微量気体の放出量評価を行った。
  • 滝川 雅之
    セッションID: 1B11
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    3月11日の東日本大震災によって発生した福島第一原子力発電所からの放射性物質の放出は、複数回の爆発の後現在も継続していると考えられている。原子力安全委員会では、4月初頭までにヨウ素131が150PBq程度放出されたと推定しており、これはチェルノブイリによる放出の8%程度と見積もられている。我々は領域化学輸送モデルに放射性物質の壊変および沈着過程を組み込み、福島原発からの放射性物質の輸送過程および沈着過程の推定を行った。その結果、飯館方面での線量増大には3月15日 03Zからの放出がもっとも大きな寄与をしていると推定された。
セッション1 大気微量成分の地球化学と相互作用
  • 松本 祐介, 木川田 喜一, 大井 隆夫, 廣瀬 勝己, 五十嵐 康人, 藤原 英司, 野村 雅夫, Dulam Jugder
    セッションID: 1B12
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    我々のこれまでの研究により、1964~2000年の福岡大気降下物に天然とは異なる同位体比を有するウランが見出された。これは核実験により汚染された中国大陸の土壌粒子を含む風送塵に由来する可能性が高い。そこでモンゴルの表層土壌の化学組成を日本の大気降下物、ならびに広く黄砂粒子の起源と認識されている中国黄土高原の表層土及びタクラマカン砂漠の砂と比較し、異常ウラン同位体比を有するウランの起源としての可能性を検討した。モンゴル表層土壌を化学的に分解し、ウラン同位体比や化学組成を分析した。Mg-Ca-Feの三成分図からはモンゴル表層土壌は相対的にCaに乏しく、タクラマカン、黄土、福岡大気降下物とは区別された。また、モンゴルの表層土壌のHNO3抽出液、抽出残渣のウラン同位体比は共に天然比であった。その結果から2000年春の福岡大気降下物とモンゴル表層土壌との間には今のところ明瞭な相関は認められていない。
  • 南 秀樹, 藤本 良太, 見波 はるか, 的場 澄人, 植松 光夫
    セッションID: 1B13
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    北海道の大気エアロゾルは,道内で放出された化学物質だけでなく,大陸や海洋から飛来した化学物質も含んでおり,北海道は大陸から北太平洋やオホーツク海への物質輸送の通過点としても重要な場所である。北海道において年間を通じて大気エアロゾルのモニタリングを行うことは,極東大気の南下,大陸からの黄砂や人為起源物質の飛来など,世界の気候変動に影響を及ぼす現象を季節的に議論できる点にある。本研究は北海道において環境の異なる2つの観測点で,2008年~2010年に採取した大気エアロゾル中の微量金属元素の経年および季節変動について考察する。
  • 赤峰 生朗, 木川田 喜一, 大井 隆夫, 廣瀬 勝己, 野村 雅夫
    セッションID: 1B14
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、福岡で採取された各年代の大気降下物の化学組成とその変動をもとに、福岡の大気環境の動態を検討した。試料は1964年の1~12月、1965年の1~12月、1966、73、77、78、82、91、2000年の3月の大気降下物の合計30試料である。求めた化学組成について多変量解析(主成分分析)を行い元素間の相関とその寄与因子を検討した。また、現代と過去での大気降下物組成の違いについても検討した。1964、1965年の24ヵ月の試料においてはここでの成分1、3、4は工業生産活動由来であり、成分2は炭酸塩を連想させる元素の組み合わせであることから黄砂由来の可能性がある。一方、1964~2000年の3月の試料に対するPCAでは、成分1は土壌粒子由来であると考えられるが、成分2~4については様々な考え方が可能である。また、Mg/Al、Ca/Alとの関係をプロットしたことにより70年代以降の方が相対的に黄砂の影響を高く受けていることが考えられる。
  • 牧内 秋恵, 本多 照幸, 木川田 喜一
    セッションID: 1B15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    2009年春季に採取したフィルター試料に含まれる微量元素を定量し、発生起源や挙動について考察した。フィルター試料の観察結果から、サンプリング後のフィルターでは繊維の隙間や表面に粒子状のものが多く付着しており、これらが大気粒子状物質であると考えられる。また、定量できた元素の濃縮係数を求めた結果から、黄砂観測時に値が上昇していることがわかった。これは黄砂の飛来によると考えられる。さらに、各陰イオン元素の水溶性成分濃度がCaと高い類似性が見られた。それらは黄砂と共に関東に飛来していると考えられる。
  • 藤原 将智, 古川 丈真, 谷水 雅治, 高橋 嘉夫
    セッションID: 1B16
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    エアロゾル中には亜鉛(Zn)が多量に含まれており、エアロゾルによるZnの移行は地球化学・環境化学的に重要である。エアロゾル中のZnの起源や挙動の解明には、化学種、同位体比、大気中濃度の情報からアプローチでき、本研究では、これらに粒径毎の情報も加えて複合的な考察を行った。その結果、休山トンネルにおける粒径0.43 µm以下のエアロゾル中のZnには軽い同位体分別が見られ、ガソリンの燃焼時に一部のZnが気化したことが示唆される。一方、それ以上の粒径ではZn同位体分別は見られず、化学種の検討からはタイヤの摩耗由来のZnの一次粒子の存在が示唆された。このことは、気化を経ない場合にはエアロゾル中のZn同位体比に大きな分別が生じないことを示唆している。また、つくばでの大気中のZnはほとんどが人為的な気化を経た軽い同位体比をもつ成分であることが分かった。
  • 松本 潔
    セッションID: 1B17
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    大気由来の窒素負荷が森林などの生態系に与える影響が注目されているが、その沈着量の評価においては、特に乾性沈着量の見積もりの不確かさが大きい。エアロゾルの沈着は粒径に大きく依存し、特にNO3-Nは粗大粒子への分配が高いためエアロゾルとしての乾性沈着量は大きい。エアロゾルの観測では粒径10μm以下の粒子に注目が集まるが、粒径10μm以上の粒子(PM>10)の乾性沈着への寄与に関する観測事例は少ない。本講演では、PM>10のNO3-Nの乾性沈着への寄与を評価したので報告する。エアロゾル中のNO3-Nは観測期間中の平均濃度で1.25μg/m3であり、このうちおよそ9.5%がPM>10に含まれていた。微小粒子中のNO3-が揮発しやすい夏季には、エアロゾル中NO3-Nのおよそ17%がPM>10に検出された。Inferential法で見積もったエアロゾル中NO3-Nの乾性沈着量は、平均で4.26 mg/m2/dayとなった。このうちPM>10の寄与はおよそ47%、夏季にはおよそ51%に達した。このことから、NO3-Nの乾性沈着を議論する上でPM>10の動態が重要であることが確認された。
  • 吉川 久幸, 亀山 宗彦, 吉田 怜, 緑川 貴, 石井 雅男, 笹野 大輔, 中岡 慎一郎, 橋田 元
    セッションID: 1B18
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    気象研究所や国立極地研によって取得されてきたインド洋・太平洋セクターでの海洋二酸化炭素分圧等の炭酸系観測データを用いて、季節変化、長期的な傾向について解析してきた結果を発表する。特に、夏季に昭和基地沖の季節海氷域で得られた熱力学が支配的な海洋二酸化炭素分圧の空間分布と太平洋・インド洋セクターの海洋二酸化炭素分圧とpHの長期的傾向について詳しく述べる。
  • 古川 丈真, 高橋 嘉夫, 植松 光夫
    セッションID: 1B19
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    海洋表層の鉄濃度が植物プランクトンの活動を制限している海域を高栄養塩-低クロロフィル(HNLC)海域と呼び、この海域は全海洋の約20%を占める (Martin and Fitzwater, 1988)。エアロゾル中の鉄は、HNLC海域への鉄の重要な供給源であり、海洋一次生産の増加は、光合成による大気中二酸化炭素濃度の減少に繋がるため、エアロゾル中の鉄に関する研究は盛んに行われている。しかし、植物プランクトンは大気経由の鉄を全て利用でいる訳ではなく、利用できるか否かは、鉄の溶解性、つまり鉄の化学種に依存する。そのため、このようなエアロゾルを介した生物地球化学サイクルや炭素循環の解明には、エアロゾル中の鉄化学種の解明が必要である。そこで本研究では、XAFS法によるエアロゾル中の鉄化学種の同定と、MQ水による鉄抽出実験を組み合わせる事により、鉄の溶出メカニズムを明らかにした。
  • 亀山 宗彦, 谷本 浩志, 猪俣 敏, 奥沢 和浩, 角皆 潤, 石井 雅男, 笹野 大輔, 吉川 久幸
    セッションID: 1B20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    海洋は大気DMSの主要な放出源であり、植物プランクトン生体内で作られるDMSPがDMSの主な前駆体物質といわれているが、DMSの生成・消失には様々な生物地球化学過程が関係するため極めて複雑であり、その包括的な理解には至っていない。生成・消失過程の理解は今後の地球環境変化に対する海洋から大気へのDMS放出量の変化の見積もりを行うためにも重要な課題である。我々はバブリング型気液平衡器とPTR-MSを組み合わせた溶存揮発性有機化合物の連続定量装置(EI-PTR-MS)を開発し、北太平洋高生物生産海域で高時空間分解能のDMS濃度分布を取得した。本研究ではDMSの濃度分布とpCO2の連続測定から計算される純群集生産との間に良い相関(r2 = 0.68、n = 279)があり、純群集生産が本研究海域のDMSの分布を決めるキーパラメータとなる可能性を見出した。
  • 岩本 洋子, 持田 陸宏
    セッションID: 1B21
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    自然海水を直接バブリングして発生させた海洋一次エアロゾル(PMA)の雲凝結核(CCN)活性化粒径を計測し、PMAに含まれる有機物の質量割合を見積もった。CCN活性化粒径から見積もられたPMAの吸湿成長パラメータから、PMAの組成に粒径依存性があり、特に小さい粒径範囲において吸湿性の低い有機物の寄与が大きいことがわかった。PMAに含まれる有機物の質量割合は、最大で45%と見積もられ、海洋生物生産の指標であるクロロフィルa濃度との間に相関がみられた。
  • 河村 公隆, 立花 英里
    セッションID: 1B22
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
    会議録・要旨集 フリー
    2006年1月から12月に父島で採取した海洋エアロゾル試料から低分子ジカルボン酸分離し、その安定炭素同位体比をGC/IRMSを用いて測定した。シュウ酸のδ13C値は、-20‰から+3‰の範囲で変動した。冬に低く夏に高い季節変化を示した。夏の高いδ13Cの値は、これまでアジア大陸近傍の赤道域海洋エアロゾルで報告された値よりも更に高いことがわかった。外洋大気中では、生成されたシュウ酸の光分解の過程で12Cと13Cの間で同位体分別が起こっていることが示唆された。
  • 大山 拓也, 角皆 潤, 小松 大祐, 代田 里子, 中川 書子, 野口 泉, 山口 高志, 佐藤 啓市, 大泉 毅, 坪井 一寛, 木戸 ...
    セッションID: 1B23
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/09/01
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    NOxはオゾンやOHラジカルとの光化学反応を経由して最終的に硝酸となり、乾性沈着や湿性沈着を通じて大気中から除去される。近年、人為活動に伴うNOxやその他の化合物の放出量が東アジア域で顕著に増加しつつあり(Akimoto et al., 2003など)、その結果、硝酸の沈着量が増加する可能性や大気中の光化学反応過程が変質する可能性が示唆されている。しかし、光化学反応過程の変質を定量化するのは容易ではない。
    そこで硝酸の三酸素同位体組成(Δ17O≒0.52×δ18O-δ17O)を指標に用いて、NOxの光化学反応過程の解析を試みた。酸素原子には16O、17O、18Oの3つの安定同位体が存在し、ほとんどの含酸素化合物のδ17O値とδ18O値の間にはδ17O≒0.52×δ18Oの関係が成り立つが、オゾンの酸素同位体組成は例外的にこの関係が成り立たないことが知られている。硝酸の前駆体であるNO2は(R1)式で示される反応で生成されるため、そのΔ17O値はオゾンの同位体異常を受け継いでいる。
    またここから硝酸が生成する過程には、主に(R2)、(R3)、(R4)式で示される各過程があるが、(R2)式で生成される硝酸のΔ17O値は同位体異常の小さいOHラジカルの影響を受けて、相対的に小さくなるのに対し、(R3)や(R4)式で生成される硝酸は、オゾンとの反応(R3a)を再度経由するため、相対的にΔ17O値が大きくなる。従って、これを利用して硝酸が経由してきた光化学反応過程を推定することができる。
    試料は利尻(45°N)、佐渡関岬(38°N)、小杉(37°N)、南鳥島(24°N)といった緯度の異なる4つの観測点において採取された湿性沈着試料を用いた。利尻は2008年6月-2009年5月、佐渡関岬は2009年4月-2010年3月、小杉は2010年3月-2011年2月、南鳥島は2009年10月-2010年9月の各期間に、月1回以上の頻度で採取・回収されたもので、南鳥島の試料は気象庁から提供していただいたものである。図1に各観測点における硝酸のΔ17O値の時間変化を月毎の加重平均値で示す。利尻・佐渡関岬・小杉のΔ17O値は冬に高く、夏に低い明瞭な季節変化を示した。夏季には(R2)式の反応で生成する硝酸の割合が相対的に大きくなるため、Δ17O値が相対的に小さくなったものと考えられる。Δ17O値の年平均値は利尻(+24.7‰)、佐渡関岬(+25.3‰)、小杉(+26.7‰)、南鳥島(+23.3‰)であり、N沈着量が多い小杉や佐渡関岬で、より高緯度に位置する利尻より大きなΔ17O値が観測された。この傾向は特に冬季に顕著であった。これは東アジアの大都市を起源とする汚染気塊中では、(R3)や(R4)を経由した反応の寄与率が相対的に大きくなることを反映している可能性がある。
    NO + O3 → NO2+ O2 (R1)
    NO2 + OH + M → HNO3 + M (R2)
    NO2 + O3 → NO3 + O2 (R3a)、 NO3 + HC → HNO3 + products (R3b)
    NO2 + NO3 ⇔ N2O5 (R4a)、 N2O5 + H2O → 2HNO3 (R4b)
セッション9 初期地球のダイナミクスと生命
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