トウモロコシ群落内外での微細気象ならびに炭酸ガスに関する観測データを空気力学的方法で処理して, 群落内外におけるCO
2-流束の実態を明らかにすることを試みた。えられた結果を要約すると下のようになる。
1. 群落上・下のCO
2-流束の計算, ならびに群落内の流束の計算には熱収支法 (3, 4式) で求めた積分交換係数を用いた。これは普通の熱収支観測データから容易に求められるので, 風速分布資料を使用するより便利である。
2. 群落の純光合成量 (
PH-PS) と全短波放射との関係は数学モデルの結果と大体一致することがわかつた。群落の茂りの悪い時は,
PHの日変化に日中低下現象がみられるが, よく繁茂してくると
PHは大体全短波放射の日変化に似ていることがわかつた。
PHは風速の変化に著しく支配され, 風速が強いと増加する傾向がみられた。
3. 日中期間としてみると, 地面からのCO
2-流束はその期間の純光合成量の10~20%となり無視できない大きさであることがわかつた。
Psは日変化を示し, 朝・夕に小で日中大きくなつた。
Psは地面温度につれて増加し, その関係は
Ps=PsoQT/10で近似できることがわかつた。
Psの絶対値はMONTEITHらの関係を外挿したものと大体一致した。
4. 日中期間の純光合成量は5~9mg/cm
2となり, 現在まで報告されている値と一致している。エネルギー利用率は3~7%となり, 日中期間の値としては妥当な値である。利用率は風の強い日に増加する傾向がみられた。日中期間の蒸散係数は40~90の間にあつて, 現在までに報告されている値 (200~300) よりかなり低くなつた。この値を一日間に換算すると70~140となり, YCTEHKO らが群落条件下でえた値に近いことがわかつた。
5. 群落内におけるCO
2-流束の変化から群落の下層は土壌から, 上層は大気からCO
2供給をうけていることがわかつた。日中期間の流束合計値が0になる高さ
ztは群落の生長繁茂につれて次第に高くなることが見出された。各葉層の群落光合成への寄与をみるために第7図が作成された。
Ft=2.5で過度に繁茂していない群落では, 光合成への各葉層の寄与は大体葉面積密度に比例するが,
Ft=4.2の群落では上層葉の寄与が卓越することがわかつた。
6. 群落内の葉の光合成強度は日射強度の余り強くない時刻には上層から下へと大体単調に減少するが, 日射強度の強い時には中層に最大強度がみられるようになつた。これは上層葉の光合成機能が葉内水分の不均衡のために低下したためと思われる。葉層による蒸散係数の変化は上下で大で中層で小になる傾向となり, 日射の強い時刻にはそれが顕著であつた。これは上層葉と下層葉とが水を不経済に消費していることを物語つている。
以上の説明からわかるように, 空気力学的方法は群落内外のCO
2-流束の決定および群落光合成の成立機構の研究にとつて非常に有効である。これらの方法による知識の集積は光合成の観点からよりすぐれた群落構造を解明するうえに非常に役立つものと思われる。最後に本研究をなすにあたつて多大な便宜を与えられた谷信輝博士 (農技研気象科) と一戸貞光博士 (農試畑作部) に厚く感謝する。なお, 本研究は文部省特定研究 (生物圏の動態) の一部としてなされ, 研究費の援助をうけたことを記しておく。
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