日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の165件中151~165を表示しています
  • 田上 善夫
    セッションID: P729
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    1.  はじめに
    近年強風の出現とそれに伴う風害の増加がみられる。そこでは地域的に大被害を生ずる一方,被害の少ない地域もみられる。風は地域差が大きく,局地的強風にみられるように山地や谷などの地形の影響が大きい。さらに台風のように規模の大きな擾乱でも,風向と地形の影響で,強風出現に地域差が大きくなると考えられる。ここでは日本列島における近年の顕著な強風について,その出現の傾向や地域性の解明を試みた。
    2. 強風の出現傾向
      顕著強風日の出現は,34年間にも出現に大きな経年変動がみられる。1979年,1991年,2004年にピークとなり,その前後にも多い。さらに日別に全国の顕著強風日出現地点総数を集計すると,出現地点数がきわめて多い,すなわち広域に強風が現れる日があることが示された。その上位事例での強風地点分布からは,強風は近隣同士とは限らず遠隔地点同士にも類似の出現傾向のあることが示された。この地点間での強風出現の類似性を明らかにするため,まず日本列島の全アメダス地点間で,顕著強風日の出現について一致係数を求めた。それにもとづき,中央日本付近の地点について,クラスター分析を適用して分類を行った。その結果大きく2タイプに分かれ,A型は太平洋側に多く、B型は日本海側に多い。ただし,周辺域とは異なる型に属する地点があり,たとえばA2型は日本海側の富山湾や若狭湾周辺,岡山県奈義,滋賀県南小松などに現れる。
    3.  強風出現の要因
      この顕著強風日出現の遠隔地同士での関係について,事例日から分析を行った。2011年5月29日には,台風2号が南岸沿いに東進し,中部地方から西ではとくに強風となった。この日には岡山県奈義,兵庫県神戸,滋賀県南小松などでは著しい強風となった。これらの地点はいずれも背後に山地を控え,当日の風向に対して山地の風下に位置しており,広戸風,六甲おろし,比良おろし(比良八荒)などの局地的強風群が各地に発生したと考えられる。一方,富山県魚津などでは,周辺地点が強風となる時間帯には風速が極めて弱くなった。周辺地点の風向からは北アルプスの風陰に入ったことが考えられる。このように吹走範囲の限定された局地的強風や局地的弱風が,広域内の各地に同日に出現することは,大規模場での大気の状態のもとで,地域的な要因が強風発生に大きくかかわることを示すと考えられる。
  • 渡邉 敬逸
    セッションID: 605
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに 2004年10月23日に発生した新潟県中越地震では,被災住民の生活再建の一手法として防災集団移転促進事業等を用いた住居の移転復興事業が実施された.ただし,これらの事業の多くは「集団」もしくは「個人」による移転であり,「集落」移転ではない.つまり,集落に残ることを選び,そこで今も生活を営む住民がいる.地震から8年が経とうとする現在,「将来の展望とか新しい事業なんてちょっと考えられない」「集落を持続しろと言われても,おれらにしたら存続しづらい状況にさせられたというジレンマがある」と残った住民が吐露するように,集落に残ることを選んだ住民たちの生活,特に集落維持の見通しは明瞭とは言い難い. その一つの背景には,移転復興事業の多くは,従前の宅地を「災害危険区域」として指定するため,跡地の宅地利用が困難となっているところにある.つまり跡地に「移転住民がいつか帰ってくる」あるいは「新住民が都会から転居してくる」といった期待が持てず,結果として,人口増を想定しない村づくり,というこれまでにない課題を突き付けられることとなっている.加えて,不在地主が増加したことにより,農地を中心とする土地管理についてのビジョンが定まらず,耕作放棄地の増加等に手の打ちようがない,という無力感も指摘できよう. 新潟県中越地震における住居移転に関わる先行研究では,移転復興事業を利用した人々の意思決定プロセス,移転先での生活適応や,移転への評価が厚く検討されているが,事業を適用した集落の現状や住民生活について論じたものは数少ない.石川ほか(2008)も中越地震における住宅再建が落ち着いてきた現状の課題として,集落に残った住民の生活やその地域の維持管理を挙げているように,その現状の検討は社会的に意義深い. 本発表では,新潟県中越地震で甚大な被害を受けた小千谷市東山地区を事例に,地区内で実施された防災集団移転促進事業のプロセス,宅地跡地および付随する農地の現状,および,こうした諸問題に対する残された住民たちの対応について検討する.
  • 人間の体力を考慮した避難体制の試み
    岩船 昌起
    セッションID: 412
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    新燃岳(1,421m)は,霧島屋久国立公園の核心地である「えびの高原」から東南約6?qに位置する。2011年1月以降の火山活動の活発化で立入規制区域が拡大し,3月後半以降では規制が解除されつつある。しかし,噴火時に噴石から身を隠すシェルターがない韓国岳等では登山者の安全が確実に担保されたとは言い難く,入山規制の解除には至っていない。本研究では,噴火活動の推移とそれに対応した危機管理をまずは概観する。そして,えびの高原の諸施設関係者が構築した「自主防災的な避難行動マニュアル」の検証を行い,避難対象者の体力を想定した実験結果を交えてえびの高原での避難行動の時空間的な展開を検討し,新燃岳周辺地域での危機管理を総合的に考察する。
    新燃岳の火山活動が活発化した1月26日以降2月半ばまでの危機管理については,火山活動の実態把握に関わる観測網の未整備,新燃岳周辺地域の人々への噴火情報の周知の遅れ,諸機関での「噴火警戒レベル」や「噴火警戒範囲」の理解の不一致などから,噴火活動に応じた危険域を見極めての立入規制等を迅速に実施する対応が十分であったとは言い難かった。一方,噴火活動が見かけ上沈静化してきた3月半ば以降では,規制解除の方向へと動き,鹿児島県等では立入規制区域を半径3km圏内に縮小した。そして,6月1日に県道等の一部の通行規制が解除され,高千穂河原でも昼間の利用が可能になった。しかし,新燃岳に近い韓国岳等への登山では安全対策が不十分であり,噴石等への対策が講じられるまで規制を継続する意向が示されている。
    そのような中で,えびの高原では,環境省自然保護官事務所を中心に高原内の諸施設が連携して自主防災的に「避難マニュアル」を作成した。これに沿った防災対応は6月29日の噴火時に実施され,噴火後約10分で施設周辺にいた全ての人々を建物内に避難させた。これは,えびの高原の施設関係者等で連携したほぼ「満点」での避難誘導であった。鹿児島県と宮崎県にまたがり,霧島市やえびの市や小林市などに区分される山岳地域という特性から,霧島山では危機管理を統一して実施する難しさがあるが,両県および各市町,国立公園行政を広く管轄する環境省は,密に連携して一つにまとまり,火山地域の安全体制を構築する必要がある。
    当日は,避難対象者の体力を想定した避難行動に関わる実験結果なども交えて総合的に考察します。
  • 多田 忠義
    セッションID: 604
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    2003年以降回復に転ずる日本の木材自給率は,森林資源の生産・流通・消費構造が再編しつつあることを示唆する.もちろん,地球温暖化対策や再生可能な資源の利用促進といった観点から,成熟し蓄積が進む国内森林資源に対して間伐等の施業を政策的に後押しした結果という側面がある.他方,国際的森林資源の需給構造が変化し,さらには資源輸出国が輸出税を課し,結果国内の森林資源に回帰せざるを得ない一面も事実である.もちろん,2000年代は輸入材と国産材の取引価格が同程度であった.
    これまで述べた構造再編は,用材部門によって様々な対応を示すことが指摘されている(伊藤ほか 2004, 嶋瀬 2007, 番匠谷 2009).製材,合板,製紙・パルプの三大用材部門のうち6割を占める製材は,その多くが住宅建設資材として供給されるため,森林資源の生産・流通・消費構造に与える影響が大きいと考えられる.もう一方で考慮すべきは,住宅建設を取り巻く制度や消費者選好の変化である.これも,森林資源の生産・流通・消費構造を再編する要因と考えられる.
    そこで本発表は,住宅供給の実態を製材・住宅建設部門の事例分析から明らかにすることを目的とする.特に,これまで述べてきた再編下でより激しい市場競争に巻き込まれがちな中小規模の工務店や製材業者に着目し,これら事業体が構造再編下で住宅供給をどのように変化させてきたかを明らかにする。事例として取り上げる福島県会津地域は木材産地で,かつ郡山市や栃木県,さらには関東までを事業展開地域とする工務店が存在し,「産直住宅」(嶋瀬 2002)や「地産地消」による家造り(奥田ほか 2004, 柿澤 2007)が展開する地域である。他方,大手ハウスメーカーが会津地域の市街地だけでなく奥地にまで進出しつつあるため,今日の日本が経験する住宅供給の多様なあり方に検討できる地域である。
    2.「地域材」の利用を促進する施策・組織と今後の課題
    本発表では,製材業者,工務店に対するアンケート調査,聞き取り調査を基に,現在及びこれまでの住宅供給の実態を定量的,定性的に分析する。また,福島県における県産材利用促進制度と「地域材による家造り」を推進する組織(表)を取りまとめ,対象地域の住宅供給がどのような再編を迎えつつあるかを考察する.
  • 山縣 耕太郎, 室岡 瑞恵, 春山 成子
    セッションID: 207
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    アムール川(黒龍江)は,全長4350km,流域面積2百万km2以上という広大な流域を持つ世界有数の大河川である.三江平原は,アムール川の主要な支川である松花江とウスリー川が合流する位置にある面積10万km2以上の大規模な盆地である.本研究は,三江平原周辺における水文環境変化を検討するための基礎資料として,三江平原周辺の地形条件を把握するとともに,その形成環境について検討を行った.調査にあたって,地形図および空中写真の入手が困難であったため, Shuttle Radar Topography Mission (SRTM)の標高データと,リモートセンシングデータの解析に基づき,三江平原の予察的な地形分類図を作成し,現地調査の結果をもとに修正を行った.現地調査では,各地形面上における露頭やピットの作成,ジオスライサーによる地層抜き取りによって堆積物を観察した.さらに,断面から採取した泥炭試料数点について放射性炭素年代測定を行った.三江平原は,河口から800km以上内陸に位置するが,大部分が標高60m以下と極めて低平な盆地である.しかし,SRTM標高データから作成した標高分布図を詳しく見ると,いくつかの地形面が区別できる.現地調査と併せて地形分類を行った結果,三江平原の地形は,現河床,現成氾濫原,高位氾濫原,低位段丘面,中位段丘面?T,?U,高位段丘,山麓緩斜面,丘陵・山地に分類された.盆地の大部分は段丘が占め,現在の河川は,低位段丘を僅かに開析して狭い氾濫原を形成し,その中を蛇行しながら流れている.中位段丘が平野の周縁部に分布し,中央部に低位段丘が広がることから,平野中央部を中心とした沈降活動が継続していることが示唆される.各地形面上の堆積物断面を見ると,中位段丘および低位段丘では,最下位に砂礫層があり,それを覆って2~3mのシルト粘土層があり,最上位を泥炭層が覆っている.これは,堆積から離水までの一連のプロセスを反映しているものと思われる.しかし,現成の氾濫原では,シルト粘土層を覆って最表層に再び砂層が堆積している.三江平原は,アムール川流域において近年の土地利用変化が最も顕著に行われた地域である.環境同位体の分析から,こうした最近の堆積物粗粒化は,最近数十年間に起こった事が確認され,人為的な影響を反映しているものと推察された.アムール川本流および松花江,ウスリー川の現河床および氾濫源の堆積物は,砂および粘土,シルトから構成される.これに対して厚い砂礫層から構成される中位段丘は,気候条件,水文条件が現在と異なる氷期に形成されたものと考えられる.また,三江平原に見られるような段丘地形は,これより下流には見られない.これは,氷期以降の海面変化,気候変化に対する応答の仕方が,三江平原とそれより下流の部分とでは異なるからではないかと考えられる.現成氾濫原を除く河成面の上には,泥炭層が確認される.低位段丘,中位段丘および,段丘を開析する谷の中では,最大2mほどの厚さを示す.楊(1988,1990)による泥炭の放射性炭素年代測定結果を見ると,高位氾濫原および段丘開析谷では,5~6千年前に泥炭の生成が開始している.これは,段丘の開析に伴う河床低下が安定した段階で生成が開始したのであろう.一方,低位段丘上の泥炭層は,約1万年前に生成を開始している.低位段丘上の泥炭は,パッチ状に分布していて,段丘上に見られる緩やかな凹凸地形の凹部で厚く堆積しているようである.こうした凹凸地形は,サーモカルストの名残ではないかと考えられる.約1万年前に永久凍土の融解に伴って段丘面上にサーモカルストが発達し,その凹地にできた湿地に泥炭が形成されたのであろう.
  • 山縣 耕太郎, 澤田 結基, 曽根 敏雄
    セッションID: P724
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
     日本と同様に環太平洋火山帯に位置するカムチャツカ半島には,多くの活火山が存在し,半島の広い範囲が火山灰土に覆われている.こうした火山灰土は,広域風成塵,一次テフラ,近傍の裸地からもたらされた風成粒子など,複数の給源から飛来した風成粒子から構成されている堆積性の土壌である(山縣・曽根,1997).また,カムチャツカ半島は,高緯度に位置するため,植生に乏しい高山帯の占める割合が広い.現在の高山帯は,比較的新しい時代まで,活発な氷河,周氷河作用のため植生が存在していなかったものと考えられる.したがって,本地域の高山帯における土壌発達の状況を比較することによって,火山灰土の生成開始と地表環境条件との関係について検討することが可能である.そこで本研究では,カムチャツカ半島中央部エッソ周辺の高山帯において,様々な地表環境の地点の土壌断面を観察し,各地点で採取した土壌試料について粒度組成,鉱物組成,粘土鉱物組成,灼熱損量の分析を行った.こうした土壌の特徴と各地点の地表環境条件を比較し,火山灰土の生成開始条件について検討を行った.  調査対象のエッソ地域は,スレディニー山脈の中央部に位置する.エッソ周辺には,標高1000m程度の平坦な溶岩台地が広がり,その中に形成された火山体が,標高1500m前後の稜線をなしている.本地域では,標高1000m前後に高木限界があり,それより上位が高山帯になっている.高山帯の植生は,ハイマツ群落,ミヤマハンノキ群落,草地,裸地が,それぞれ地形や表層地質に対応して分布している.裸地の多くは岩礫地で,崖錐や,現成および化石の岩石氷河からなる. 高木限界の上下で土壌断面を比較すると,高木限界より上の地点では,ほとんどの場所で約2000年前に降下したスーダッチ火山灰(Ks-1)の堆積直前かそれ以降に土壌の形成が開始している.一方,高木限界より下の地点では,多くの地点でスーダッチ火山灰の下位に20cm以上の土壌層が認められた(図1).おそらく,現在の高木限界より上の部分では,約2000年前まで周氷河作用が活発に働いていたが,Ks-1テフラ降下の少し前から気候の温暖化に伴い,斜面が安定化し,土壌の生成が開始したものと考えられる.このとき,土壌の生成と植生の侵入は同時に進行したのであろう.高山帯の中でも,地形や植生に対応して各地点の土壌断面は,異なる特徴を示す.マトリックスに富む堆積物からなる緩斜面では,50?p以上の厚い土壌層が認められる.これらの地点では,KS-1テフラの下位にも数?pの土壌層が認められることから,斜面が安定化した後,速やかに土壌の生成が開始したものと考えられる.一方,岩礫地では土壌層の厚さは比較的薄く,砂質である.また,KS-1テフラが礫の直上にのるのが特徴である.岩礫地では,表面流が生じないため,土壌は風成粒子のみから構成されていて,成長が遅い.また, Ks-1テフラが土壌層の基底にあるのは,このテフラの堆積に伴って大量の砕屑物が一時期に供給され,これを契機に土壌の形成が始まったことを示しているものと考えられる
  • 長崎県長崎市を事例に
    寺床 幸雄
    セッションID: 601
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    社会関係資本の研究は社会科学全体で増加している。農業・農村に関する研究も蓄積されているが、分析指標として利用したものが中心で、地域的文脈の説明はあまり行われていない。そこで本発表は、ビワ栽培地域の存立構造とその持続可能性を、社会関係資本に注目して考察することを目的とする。なお、本研究で用いる社会関係資本とは、「地域内の主体が何らかの社会的関係性を構築することによって得ることのできる利益」を示すものとする。 対象地域であるC地区は、長崎市中心部から車で30分程度の位置にあり、地区内の多くの世帯がビワ栽培に従事している。C地区を含む旧茂木町では、明治期以降急速にビワ栽培が発展し、現在でも全国有数の生産地である。伝統的品種の「茂木」をはじめとして、作業労力の分散を目的に開発された「長崎早生」、さらに近年では大玉系の新品種の栽培も拡大している。 露地ビワの収穫は5月下旬から6月上旬の約3週間に集中し、東京をはじめとする大市場に出荷されている。交通条件が不便であった明治期から大市場への出荷体系を確立した背景には、集落単位の出荷組合の存在が重要な意味を持っていた。近年では農家数の減少で組合の統合・再編が進んでいるが、C地区をはじめ3地区では現在でも集落単位の組合を存続させている。 対象地域におけるビワ栽培の存立構造は、社会関係資本に注目すると以下のように説明できる。 第一に、組合を中心とした地域の強固な結束が重要な意味を持っていた。それは、ミカンの価格下落期にビワの生産を拡大して離農を最小限にとどめるとともに、早生品種の導入で収穫労働力の分散を可能とし、ビワ栽培の安定的存立に寄与した。このように、組合の存在に基づく地域内農家の意識の共有によって得られた利益は、結束型の社会関係資本としてとらえることができる。 第二に、地域外の主体である農業改良普及センターとの関係性が果たした役割も大きい。C地区では先覚的な農家を中心に、普及センターとの間で強固な関係性を構築してきた。相互の信頼に基づく関係性がハウス栽培の導入を可能とし、結果として産地全体に広く普及するきっかけをもたらした。さらに、近年の台風被害からの復興においても、緊密な連携のもとで対応がなされた。このような地域外との関係性から得られた利益は、橋渡し型の社会関係資本としてとらえることができる。
  • -石垣市におけるA氏と家族のライフヒストリーを事例に-
    井口 梓
    セッションID: 309
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、沖縄県石垣市および竹富町を事例に、ミンサーを生産するA氏とその家族のライフヒストリーや語りを通して、ミンサー生産の変容と地域文化として確立された「八重山ミンサー」の特徴について明らかにすることを目的とする。 第2次世界大戦以降、八重山諸島のミンサー生産は、竹富島において数名の技術保持者が存在するのみであった。1958年に外村吉之介ら民芸運動の支援を受け、竹富島で技術復興のためのミンサー織りの講習会が実施され、島内の技術保有者が徐々に増加した。本土復帰後は、竹富島における観光化と民芸ブームが相まってミンサーの需要が伸び、女性たちは民宿経営の傍ら、土産品としてミンサー帯を生産した。一方で、技術が途絶えていた石垣島では、竹富島出身のA氏がミンサー織りの技術を学び、1971年にミンサー生産と加工、販売を手掛けるA社を設立した。1989年に八重山諸島のミンサーは「八重山ミンサー」として体系化され、国指定伝統的工芸品に指定された。 近年、いずれの琉球染織産地も反物や帯地生産で厳しい状況にある中で、「八重山ミンサー」の特徴はミンサー生地を用いた小物商品の開発によって急成長した点である。石垣島に立地するA社を含む3企業が、1970年代からハンドバックや財布・名刺入れ、かりゆしウェアなど商品開発を進め、現在では「八重山ミンサー」の総生産額のうち80%以上を占める。八重山諸島を訪れる観光客の増加に伴って土産品の需要は拡大し、販売される小物商品は多岐にわたる。観光客にとって、「八重山ミンサー」は伝統的な帯地よりも小物加工品のイメージが定着している。
  • 小山 拓志, 青山 雅史
    セッションID: P736
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震によって,茨城県南東部に位置する潮来市および神栖市では,液状化現象(以下,液状化)が発生し,構造物に甚大な被害が生じた.本研究では,両地域において液状化による被害を記載し,GPSを使用して詳細なマッピングをおこない,精度の高い液状化被害分布図を作成した.神栖市における液状化被害分布図の一部は既に発表している(小山,2011)が,本発表では,追加調査で得られた成果を加筆したものを示す.また,液状化の発生要因とされる軟弱地盤(地盤構成物質)と地下水位(地表から2~3m以浅:例えば,今村,2004)は,地形および近現代の土地履歴と密接に関係している.また,一般的に液状化は,沼地や湿地などの水部を整地・造成した年代が若い程,生じる可能性が高いと考えられているため(國生,2009),それらの具体的な時期を知ることは重要である.本発表では,両地域における液状化被害分布と近現代の土地履歴との関係を,明治初期の迅速測図や旧版地形図,空中写真,歴史資料に基づいて照査し検討した.なお,本研究は,ESRIの震災対応による無償ライセンスを利用した. 
  • 杉本 興運
    セッションID: 304
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ハイキングは自然観光地での一般的なレクリエーション行動であり,ハイキング体験における満足度形成に関する研究は,観光地の管理・計画のための基礎的研究として数多く蓄積されてきた.しかし,ハイキング体験における満足度の形成要因をシークエンスによって説明した研究は少ない.本研究ではハイキング利用者の1日の体験から,観光心理のシークエンス変化を分析し,それらの特徴と公園環境との関係について考察する. 調査日は2011年5月3日で,調査地は秩父奥多摩甲斐国立公園の御岳山,日の出山,つるつる温泉を順に巡るコースである.当日は大学生14人を対象に,ハイキング行程全体のうち7地点で計7回のアンケートを行った.アンケートの内容では,評価地点における心理状態17項目(魅了,退屈,挑戦,混雑,楽しい,興奮,期待,失望,疲労,孤独,やる気,喜び,安らぎ,憂うつ,緊張,驚き,興味)それぞれを5段階評価してもらった.心理評価データに対しMDSを使用し,それぞれの心理項目間の類似性・非類似性を計測し2次元座標に求めた.MDSによって個体間の類似性・非類似性を視覚的に把握することができた.次に,心理項目のデータをクラスター分析により5つのクラスターに分け,各クラスター別に各心理項目の平均値のシークエンスの特徴をみた.クラスター1(魅了,楽しい,喜び,疲労)は行程初期から徐々に上昇して日の出山の山頂到達時にピークに達するが,下山時に一次的に下がる.しかし,温泉施設の利用で再び上昇し,バス乗車で帰りの駅に到達する間に大幅に下降していた.クラスター2(興奮,期待,興味)は,同様に日の出山の山頂まで上昇し下山時に下降するが,温泉利用時には上昇せずにそのまま下降する傾向にあった.クラスター3(挑戦,やる気,驚き)は行程初期には値が比較的高いが,全体的に下降する傾向にあった.クラスター4(退屈,失望,孤独,憂うつ,緊張)は他のクラスターに比べて,行程全体で値が低い状態が連続していたが,日の出山の下山時に全ての心理項目の値が上昇した.クラスター5(安らぎ,混雑)は,2つの感情の動きが同じ箇所と相反する箇所がみられた.以上のように,ハイキング体験における感情の動きは一様ではなく,それぞれに独自のシークエンスパターンを形成していく.  
  • 室戸ジオパークGGN現地審査を通して
    柚洞 一央
    セッションID: 105
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    2011(平成23)年7月に行われた室戸ジオパークのGGN現地審査の動向を報告するとともに、室戸ジオパークの現状と、今後の課題について報告を行う。
    GGN現地審査では、住民の熱意や説明看板に一定の評価を受けたものの、一方で長期的な運営体制の整備が不十分な指摘を受けた。また、イルカと触れ合える観光施設がユネスコの思想に抵触するという指摘も行けた。また、住民の反応では、現地審査をふまえて広く住民向けに販売された室戸ジオパークポロシャツが約2000枚を売り上げるなど、一定の盛り上がりが見受けられた。一方では、「岩で地域経済が活性化するわけがない」と冷ややかな声もある。
    地域の持続的な発展を目指すジオパーク活動は、住民・行政・研究者との協働で行わなければ、地域に定着することは不可能である。行政と研究者には、住民に対して一方的に枠組みを押し付けるだけでなく、住民とともに枠組みを作っていく姿勢が求められる。また、今後は地質学だけではなく、他分野を専門とする研究者の参画が必要である。特に地理学の役割が重要である。
  • 中島 弘二
    セッションID: 306
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    沖縄をはじめとする軍事基地、軍事演習場をかかえた日 本の多くの地域では基地・演習場の問題が様々な補償事業 や防衛施設関連整備費の支給、地域開発政策、さらには首 長選挙や議会選挙をめぐる政治的かけひきの問題と複雑に 絡み合い、ややもすれば「基地反対か、それとも経済振興 か」という二項対立的な問題に矮小化されてきた。こうし た状況が基地・演習場受け入れの見返りに当該自治体や関 係者に莫大な補助金を支給するといういわゆる「アメとム チ」の防衛施設政策によって築き上げられてきたものであ ることは多くの論者の指摘するところである。しかしなが らそうした基地・演習場のエコノミーがいかにして成立し、 その過程で地域住民の抵抗運動がどのように展開し、また 潰えていったのかを具体的に明らかにした研究は少ない。 そこで本発表では陸上自衛隊演習場が立地する大分県日 出生台における軍事化の実態と人々の抵抗運動の検討を通 じて日常生活に対する軍事暴力の行使が体制化されていっ た過程を明らかにするとともに、そうした軍事化に対する 地域住民の抵抗を検討することを通じて、生活世界のレベ ルから軍事化を批判する手がかりを探ることを目的とする。
  • 熊木 洋太, 金 幸隆, 佐竹 健治
    セッションID: P725
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    相模湾を震源とする関東地震は,1923年大正関東地震と1703年元禄関東地震がよく知られている.海岸に沿いの離水波食台および化石生物遺骸の分布に基づくと,三浦半島ではこれらの地震によってそれぞれ最大約2m隆起している[Matsuda et al. (1988),Shishikura et al. (2007)].こうした関東地震の平均再来間隔に関しては,主として房総半島の離水海岸地形の年代や変位量,津波堆積物の年代および測地学的データに基づき様々な議論・推定がなされ,地震調査研究推進本部地震調査委員会(2004)は平均的に200~400年としている.三浦半島では,標高約10 m~15 mに海岸段丘面が3段認められ,それらは上位より野比1面(~5200 cal. BC),野比2面(~3300 cal. BC),野比3面(~1500 cal. BC)としている[熊木(1982);Kumaki (1985)].これらの段丘面は,地震性の隆起運動により形成された可能性がある.しかし,元禄関東地震の一つ前の関東地震に関する地形の物証は乏しく,地震の発生履歴は十分に明らかにされていない.我々は,1946年米軍撮影ならびに1963年・1966年国土地理院撮影の空中写真判読および,1921年(大正10年)測図の旧版地形図を用いた現地調査から地形分類図の作成を行った.その結果,大正地震の直前の海岸線は,現在の海岸線が従来よりも正確に復元される.また,谷底平野には海岸線に平行に形成された1~2mの小崖とそれに画された段丘面が,熊木(1982)・Kumaki (1985)により認定された野比3面の高度と現在の海岸線との間に,3段~5段形成されていることが今回の調査で判明した.
  • 金 玉実
    セッションID: 301
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    国際・国内諸状況が大きく変化しているなか,インバウンド観光とアウトバウンド観光の極端なアンバランス状況に置かれている日本では,「ウェルカムプラン21」(訪日外国人旅行者倍増計画)をはじめ,VJC(Visit Japan Campaign)など,インバウンド観光(外国人の訪日観光)振興を狙った活発な動きが見られるようになった。また,地域活性化を巡る様々な取り組みのなかで,インバウンド観光の振興による交流人口の地域活性化においても期待が寄せられている。しかし,インバウンド観光の実態においては大都市圏や従来の有名観光地への集中,地域間の格差などの問題点も顕在化している.如何にインバウンド観光振興を地方の活性化につなげるのかは,観光立国の実現における重要な課題であり,地方スケールでの具体的な検討が必要であろう.そこで本研究では,北海道道東地域における中国人の観光に注目し,斜里町を事例に,中国人の観光行動空間の展開過程を需要と供給の双方から分析し,地方におけるインバウンド観光振興の可能性と課題を明らかにすることを目的とする.研究方法としては,「非誠無擾」テーマの旅行に参加した旅行者,ガイドへの聞き取り,町役場・観光協会・宿泊施設への聞き取り調査と現地調査を行った.
  • 後藤 健介, 上繁 義史, K'OPIYO James, 田中 準一, 金子 總
    セッションID: 612
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    長崎大学がケニアおよびラオスにおいて実施しているHDSS(Health and Demographic Surveillance System;人口登録・動態追跡調査システム)では、PDA等のIT機器を駆使して、広域エリアにおいて、効率よく大規模な人口の静態動態を調査している。現在、今後のHDSSのデータ収集をより効率が良いものとし、また病院の患者データ等とのリンクをしやすくするために、静脈認証装置の応用を検討している。しかし、ケニア人の静脈認証に関する基礎データは、国内には存在しておらず、静脈認証装置の企業もケニアを含むアフリカにおける適用についてのデータを有していない。 そこで、長崎大学の拠点があるケニアにおいて、実際に現地の人に被験者となってもらい、静脈認証の適用性について調査した。病院での応用も鑑み、病院等に来院した患者に対しても調査を行った。これらの調査によって、今回用いた静脈認証装置に関する課題についても検討した。
    静脈認証装置には指静脈認証型と手のひら静脈認証型の2種類を用いた。屋外や病院等で調査した結果、日光の影響を受けること以外においては、両装置ともに認証結果は良好であり、認証精度に大差はなかったものの、登録する側としては、登録時におけるスキャニングの体制維持の容易さなどから指静脈認証型の方が使いやすいことが分かった。しかし、手のひら静脈認証型も2歳以下の幼児の認証率の高さという点では優れており、スキャニング時における体制についての課題(スキャニングする度に手を離す必要がある点)が改善されれば、使いやすいものとなることが期待される。両装置とも一長一短があり、認証ソフトウェアの改善と言う課題もある。被験者の性差や年齢による認証率には差がなかったため、今後は、前述したような課題をどのように克服できるかが重要になると考えられる。
feedback
Top