1.はじめに
2003年以降回復に転ずる日本の木材自給率は,森林資源の生産・流通・消費構造が再編しつつあることを示唆する.もちろん,地球温暖化対策や再生可能な資源の利用促進といった観点から,成熟し蓄積が進む国内森林資源に対して間伐等の施業を政策的に後押しした結果という側面がある.他方,国際的森林資源の需給構造が変化し,さらには資源輸出国が輸出税を課し,結果国内の森林資源に回帰せざるを得ない一面も事実である.もちろん,2000年代は輸入材と国産材の取引価格が同程度であった.
これまで述べた構造再編は,用材部門によって様々な対応を示すことが指摘されている(伊藤ほか 2004, 嶋瀬 2007, 番匠谷 2009).製材,合板,製紙・パルプの三大用材部門のうち6割を占める製材は,その多くが住宅建設資材として供給されるため,森林資源の生産・流通・消費構造に与える影響が大きいと考えられる.もう一方で考慮すべきは,住宅建設を取り巻く制度や消費者選好の変化である.これも,森林資源の生産・流通・消費構造を再編する要因と考えられる.
そこで本発表は,住宅供給の実態を製材・住宅建設部門の事例分析から明らかにすることを目的とする.特に,これまで述べてきた再編下でより激しい市場競争に巻き込まれがちな中小規模の工務店や製材業者に着目し,これら事業体が構造再編下で住宅供給をどのように変化させてきたかを明らかにする。事例として取り上げる福島県会津地域は木材産地で,かつ郡山市や栃木県,さらには関東までを事業展開地域とする工務店が存在し,「産直住宅」(嶋瀬 2002)や「地産地消」による家造り(奥田ほか 2004, 柿澤 2007)が展開する地域である。他方,大手ハウスメーカーが会津地域の市街地だけでなく奥地にまで進出しつつあるため,今日の日本が経験する住宅供給の多様なあり方に検討できる地域である。
2.「地域材」の利用を促進する施策・組織と今後の課題
本発表では,製材業者,工務店に対するアンケート調査,聞き取り調査を基に,現在及びこれまでの住宅供給の実態を定量的,定性的に分析する。また,福島県における県産材利用促進制度と「地域材による家造り」を推進する組織(表)を取りまとめ,対象地域の住宅供給がどのような再編を迎えつつあるかを考察する.
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