副成分鉱物の微量元素・同位体局所分析は, 分析技術の発展とともに岩石成因や形成メカニズムを議論するために必須の研究手法となってきている . 私はこれまでに , レーザーアブレーション ICP質量分析(LA-ICP-MS)や二次イオン質量分析(SIMS)による副成分鉱物の年代・同位体・微量元素分析を駆使した地殻成長に関する研究に取り組んできた. 本発表では , 副成分鉱物の中でもジルコンやモナザイトの局所分析を組み合わせた地殻進化に関する研究と, 地球化学データ解析へ数理・データサイエンスの手法を応用する試みについて紹介する. 苦鉄質岩石中ジルコンを用いた下部地殻成長タイムスケールの制約ジルコンは U.Pb年代測定に最適な鉱物の1つであり, LA-ICP-MSの普及による迅速かつ高精度な局所分析が可能になって以降 , その重要性は不動のものとなっている .ジルコン U.Pb年代が地殻進化の理解に大きく貢献した1つの例としては ,花崗岩の形成が単一のマグマ形成・輸送・定置プロセスによって作られるものでなく ,断続的に数百万年から数千万年かけた多段階的なものであることの発見が挙げられる . しかし , 多くの火成活動タイムスケール制約を目的とした研究は化学進化を経た花崗岩質マグマ由来のジルコンを用いており、熱・物質の供給源であるマントル起源マグマの供給・貯蔵期間の直接的な制約は得られてこなかった.そこで,飛騨帯に産するポイキリティックな組織を持つ角閃石カンラン岩 [1]に含まれるジルコンから苦鉄質なマグマ供給系が保持されるタイムスケールの解明を試みた [2]. SIMSによる U.Pb年代分析・酸素同位体分析と LA-ICP-MSによる Hf同位体分析を組み合わせることで ,ジルコン粒子内部に保存されたマグマ活動履歴を読み解くことが可能となる. ジルコン粒子のカソードルミネッセンス像(CL像)において, 暗色の中心部は希土類元素や Sc, Ta, Th, Uに富む一方で ,明色の縁辺部はこれらの元素濃度が低い特徴を持つ. 角閃石カンラン岩の成因がカンラン石主体の集積岩形成とその後の含水苦鉄質マグマによる角閃石形成の2段階であったこと [1]を考慮すると , 暗色部ジルコンは単斜輝石や角閃石不在条件で苦鉄質メルトからの結晶化 , 明色部ジルコンは角閃石の結晶化により作られる珪長質な間隙メルトからの結晶化によるものと解釈される .これらの暗色部からは約 196.1 ± 0.9 Ma , 縁辺部からは 186.3 ± 1.1 Maの U.Pb年代が得られた.年代差は 1000 万年に及ぶにも関わらず, 同様の酸素・ Hf同位体組成 (δ18O = 7.7‰ ± 0.8‰, εHf = 10.3‰± 1.7‰)を保持していることから , ジルコンを形成したマグマ活動は同一のマグマ起源物質を共有していたとことが示唆される .したがって , 1000 万年間にも亘り連続的、あるいは断続的に苦鉄質マグマ供給系が活動していた物的証拠を得たと考えられる.砕屑性モナザイトを用いた造山運動史の解明モナザイトはジルコンと同様に U.Pb年代局所分析が可能であることから , 砕屑性モナザイトを用いた研究例が近年増えている . 主流である砕屑性ジルコンを用いた研究の仮説検証には, 異なる情報を保持する砕屑性モナザイトを用いた研究は重要となる.しかし, 火成岩だけでなく変成岩に豊富に含まれるモナザイトの多様な起源は得られる情報量の多さをもたらすと同時に , 年代や同位体記録の解釈が困難になるという欠点も含む .この欠点を補うために , モナザイトの微量元素を組み合わせた研究手法の確立にこれまで取り組んできた.砕屑性モナザイトの U.Pb年代に微量元素情報を組み合わせることで , 砕屑性モナザイトの起源岩石の推定を行い , 造山運動の時期と性質を制約する新たな研究アプローチを提案した [3].砕屑性モナザイト年代ピークは火成活動だけでなく変成活動も含めた造山運動の推移を捉えており , 砕屑性ジルコンよりも衝突型造山運動の履歴を詳細に保存していることが明らかになった . モナザイトの微量元素については , LA-ICP-MSを用いたモナザイト希土類元素分析手法 [4]や磁鉄鉱系列 /チタン鉄鉱系花崗岩中モナザイトの微量元素システマティクスについての研究 [5]など多方面へ研究が展開された .その中でも地球化学データの多変量解析は現在の研究の柱の1つとなっており , 鉱物の微量元素組成データによる起源岩石分類モデルの構築に取り組んできた [6, 7].データサイエンスや機械学習の手法を用いることで , 回帰や分類問題における推定の不確実性をより定量的に評価することが可能となる . 大量の地球化学データへ容易にアクセスできる現在こそ , 探索的データ分析によって新たな知見を創出するチャンスも眠っていると言える . 鉱物化学組成データでは測定時の検出限界に関わる非ランダム欠損値や不均衡データなどの問題も残されており , 今後は地球化学データの性質に合わせた最適なデータ解析の改善に取り組んでいく. [1] Itano et al. (2021) Lithos; [2] Itano et al. (2024) Geology; [3] Itano et al. (2016) Precam. Res; [4] Itano & Iizuka (2017) J. Anal. At. Spectrom.; [5] Itano et al. (2018) Chem. Geol.; [6] Itano et al. (2020) Geosciences; [7] Itano & Sawada (2024) Math. Geosci. Crustal evolution revealed by microanalysis of accessory minerals *K. Itano1, 2, (1Akita Univ., 2Univ. Granada)
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