日本地球化学会年会要旨集
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S2 地球掘削かがく
  • 佐川 拓也
    専門分野: S2 地球掘削かがく
    p. 251-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    第四紀に繰り返し起こった氷期―間氷期変動は大陸氷床の消長によって最大で130 m程度海水準を変化させた。そのため、低海水準の氷期には日本海への対馬暖流流入量が減少し、塩分供給が絶たれたことによりベンチレーションは停止した。しかしながら、そこにいたるまでの対馬暖流の流入量減少や表層成層状態の変化については具体的に明らかになっていない。本研究では、統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)の第346次航海で日本海南部のSite U1427で掘削された堆積物に含まれる底生有孔虫と浮遊性有孔虫の酸素同位体δ18Oを分析し、その差(Δδ18O)を取ることで対馬暖流の流入量変化の復元を試みた。両者のΔδ18O(底生-浮遊性)は0−3‰の範囲で変化し、氷期に小さく、間氷期に大きい傾向を示した。このことは、海水準の高い間氷期に対馬暖流の流入が多く、表層―低層の水温勾配が大きくなったことを反映していると考えられる。全球的海水準変動と比較し対馬暖流の流入強度について議論する。

  • 木下 正高, 島 伸和, 益田 晴恵, 江口 暢久, 斎藤 実篤
    専門分野: S2 地球掘削かがく
    p. 252-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    2025年、新たな海洋科学掘削プログラムIODP3 (International Ocean Drilling Programme cubed) が始まる。欧州と日本がコアメンバーとして掘削船等を提供し、透明性、柔軟性、国際性を持つ組織により、世界の研究者が利用できる体制を構築中である。掘削実現のために掘削提案を提出する必要がある。IODP3では、これまでと違って、調査期間の制約はなくなったが、全体の航海日数には予算面などから制約がある。Climate, Deep Life, Geohazards, Deep Earth分野の研究者が協力してして、これまでにない、かつ実現可能な提案を作成することが必要である。本発表では、地震発生帯掘削の成果と今後の体制などを紹介し、掘削提案やレガシーコア・データ解析提案の提出につながるための一助とする。

  • 吉田 健太
    専門分野: S2 地球掘削かがく
    p. 253-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    小笠原諸島の火山島である西之島が今後バイモーダル火山活動により巨大噴火へと進むのか,安山岩マグマの大量生産により大陸地殻形成場となるのかを予測するためには,過去の玄武岩マグマの活動を理解する必要がある.海洋研究開発機構では,西之島の古期活動の理解を目的として,海底広域研究船「かいめい」の持つ海底掘削装置BMSを利用した海底ハードロック掘削を計画している.かいめいBMSは最大60mの掘削能力を持つ海底設置型掘削装置である.本計画では,古い玄武岩が露出している側火山を対象とした掘削により,安山岩マグマに多量に被覆される前の西之島がどういったマグマ活動を見せていたのかを探ることを目的としている.講演では,海底火山や陸域火山の掘削事例を紹介しながら,60mの掘削能力で何が期待できるかを議論したい.

  • 掛川 武
    専門分野: S2 地球掘削かがく
    p. 254-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    地球史においてシアノバクテリが「いつ」「どこで」発生し繁茂したのかは未解明の大問題である。この問題はしばしば、大気大酸化事変と関連つけて議論されてきているが、曖昧なままである。本発表では、国際大陸掘削計画 (ICDP)で行われたMoodies層群の掘削 (BASE project)とそれに関連した調査、分析結果をもとに、大酸化事変よりもはるか前の32億年まえの陸域から沿岸域にかけてシアノバクテリアの活動があった事例を紹介していく (1)。Moodies層群は32億年前の陸域から沿岸域で形成された堆積岩を主体にしている。その中には微生物マットの痕跡が残される岩石も多くある。特に陸域扇状地の礫岩マトリックス部分には、多量の有機物や成層構造の顕著な黒色チャートも見られる。これら礫岩中には化学合成に必要な物質は見出されず、光合成微生物を一次生産者とした陸域生態系の可能性を示すものである。この発見は、Moodies層群からのシアノバクテリア痕跡の報告とも整合的である (2,3)。Moodies層群のもう一つの大きな特徴は沿岸域砂岩に縞状鉄鉱層やジャスパーが胚胎し、沿岸域が酸化的であったことを示していることである。ホストの砂岩中からも有機物が検出され、縞状鉄鉱層が微生物生産性の高い環境で形成されていたことを示す。有機物の窒素同位体は典型的な微生物による窒素固定の特徴を有する。掘削で得られた新たな知見や地球化学的データを統合すると、32億年前の陸域から沿岸域にかけて、シアノバクテリアの活動は既に活発であった可能性を示している。ただグローバルスケールで酸化的環境が蔓延していたのかは不明である。さらにMoodies層群堆積時期は、バーバートン地域における大規模なTTG形成及び隆起時期とも一致している。同時に陸域から沿岸域では浅部マグマ活動に起因する熱水活動も活発であった。こうした初期大陸環境の形成や浅部熱水活動ともリンクし、初期シアノバクテリアが活動していた可能性も新たに見出された。References: (1) Heubeck et al., 2024, Scientific Drilling 33, 129-172; (1) Javaux et al., 2010, Nature, 463, 934-936; (2) Homann, 2019, Earth-Sci. Rev. 196, 10.1016/j.earscirev.2019.102888.

  • 秋澤 紀克, Cunningham Emily, Sanfilippo Alessio, Morishita Tomoaki, Pandey ...
    専門分野: S2 地球掘削かがく
    p. 255-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    背弧海盆の成長・進化は、沈み込みシステム全体の理解において重要なファクターとなる。特に、マグマのソースとなるマントルの実態解明は、背弧におけるマグマ生成のメカニズムやその非定常性を明らかにする上で重要である。しかし、背弧由来のマントル物質を採取できる場所は限られており、これまでその理解が遅れていた。近年地中海の背弧海盆であるティレニア海盆では深海掘削が実施され、マントル物質であるカンラン岩の採取に成功した。カンラン岩は変質を被っているが、薄片観察したところ初生的な鉱物であるカンラン石や輝石、スピネル、斜長石を観察することができた。岩石記載結果と化学組成結果から、ティレニア海盆のマントルは、溶融や交代作用による化学不均質性が生じていることが明らかとなった。本発表では、より詳しくその化学不均質性を生じるメカニズムを論じる。

  • 黒田 潤一郎, 太田 映, 関 有沙, 池原 実, 村山 雅史, 松崎 琢也, 久保 雄介
    専門分野: S2 地球掘削かがく
    p. 256-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    国際深海掘削計画は2025年から新しいフェーズに入り、IODP-cubedが始まる。その一方で、これまで50年以上続く科学海洋掘削で得られたコアサンプルやデータは、今後も研究に利活用される重要な科学資産であり続ける。特に、アーカイブハーフ試料は掘削回収されたままの姿で保管されており、生物大量絶滅などのサンプルリクエスト圧の高い層準であっても、非破壊分析が可能である。今回の発表では、インド洋メンテレー海盆において掘削回収された白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界の層準と、南太平洋ロードハウ海台において掘削回収されたK-Pg境界の層準の非破壊分析の結果を紹介し、その利活用の可能性と課題を探る。

S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
  • 平野 直人, 町田 嗣樹, 秋澤 紀克
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 257-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    世界最大の面積を誇る太平洋プレートは、180 Maから現在まで中央海嶺・ホットスポット・プチスポットの各玄武岩の活動によって作られ、それらが示す起源マントルの化学組成の特徴を記録している。これらデータを統合し、表層からマントルにかけて沈み込む太平洋プレートの化学組成変化を考察する。プチスポットをはじめとする最近の化学組成データによって、沈み込む太平洋プレートの地質、地殻およびマントルは大きく改変されていることが分かってきた。

  • 田中 えりか, 見邨 和英, 安川 和孝, 大田 隼一郎, 中村 謙太郎, 宮崎 隆, ヴァグラロフ ボグダン, 加藤 泰浩
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 258-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    海洋循環 (特に熱塩循環) は、大陸配置、海峡の開通・閉鎖に伴い、大きく変化し、地球上の気候に大きな影響を与えてきた。これまで、このような過去の海洋循環を復元するためのプロキシとして、海水中のNd同位体比が広く利用されている。特に、過去の海水のNd同位体比は、魚類の歯、マンガン酸化物、有孔虫 (それに付着するマンガン酸化物粒子や有機物) に記録されていると考えられており、それらの値をコンパイルすることで、いつどの海域にどこから由来する海水が影響しているかを議論することができる。太平洋域では、これまでに、炭酸塩堆積物中の有孔虫や魚類の歯、マンガンクラスト、遠洋性粘土中の魚類の歯を使用した研究がなされている。本発表では、遠洋性粘土を用いた海洋循環復元に着目し、従来研究の問題点と、今後の海洋循環の議論を行う上での課題について議論を行う。

  • 町田 嗣樹, 芦田 果奈, 中野 泰紀, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 平野 直人, 加藤 泰浩
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 259-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    海水起源の鉄マンガン酸化物には、その成長過程における起源海水のNdおよびPb同位体組成の変化が記録されている。南鳥島周辺の日本の排他的経済水域において高い密集度で分布するマンガンノジュールは、5,000 m以上の大水深域に存在し、その成長を通じて底層水のNd-Pb同位体比長期変動を記録していると考えられる。本研究では、1.5 mm径のタングステン製マイクロドリルを用いて試料の切断面から採取した粉末試料を用いて、一連のカラム処理により分離したNdおよびPbの同位体比を分析した。ノジュール表面から核近傍にかけての同位体組成分析の結果を報告し、これらの同位体比の変化が示唆する北西太平洋底層水の特徴の変遷について議論を行う。

  • 吉村 由多加
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 260-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    海洋プレートの形成過程や海底火山活動の実態、そして地球の深海盆環境の理解にあたって海底の火山活動史を解明することが必要である。しかし、10万年よりも最近に形成された海底玄武岩の絶対年代の測定は一般に難しい。一方で、過去の地磁気の強さ(古地磁気強度)は、特徴的な年代指標の一つとして海底玄武岩の年代推定に応用可能だと期待されている。本研究(Yoshimura and Fujii, 2024, EPS)では、中央インド海嶺の海底拡大軸部に位置する円錐状の火山体から採取された全岩海底玄武岩を対象にTsunakawa-Shaw法を用いた古地磁気強度復元と岩石磁気実験を実施した。玄武岩試料は全て深海潜水調査船支援母船よこすか(YK05-16航海)の有人潜水調査船「しんかい6500」によって2006年に採取されたものである。8つのサイトからそれぞれ2〜3個ずつ、合計18個のスペシメンを用いて実験を行った。異なる形態(枕状溶岩とシート状溶岩)を持つ2つのサイトからの6スペシメン(各3スペシメン)が合格基準に合格した。古地磁気強度のサイト平均値はそれぞれ33.0+-1.0と35.8+-1.7μTであった。サイト平均値が類似していることから、これらの溶岩は短期間に噴出したことが示唆される。これらのサイト平均値は、サンプリングサイトにおける現在の地磁気強度46.0μTの約0.7〜0.8倍である。合格した試料は不合格の試料に比べて、キュリー温度が高く、自然残留磁化強度が低く、飽和残留磁化と飽和磁化の比(Mrs/Ms)が高く、より硬い磁性鉱物のシグナルを示した。2つのサイト平均値と1590年〜現在のIGRF-13+gufm1モデルとの間の主要な比較から、火山体の噴火時期が1590年よりも古いと制約することができる。また、地磁気モデルBIGMUDI4k.1およびArchKalmag14k.rから計算された古地磁気強度曲線と2つのサイト平均値を比較したところ、紀元前7575年〜紀元前1675年または紀元前25年〜1590年でオーバーラップすることから、これらが火山体の噴火時期の候補だと解釈することができる。以上のように、海底環境における10万年より若い火山体の噴火時期は適切な岩石磁気の選択と古地磁気強度の精査により推定可能だと考えられる。

  • 三國 和音, 石川 晃, 横山 哲也, 平野 直人, 町田 嗣樹
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 261-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    地球の大部分を覆う海洋地殻の代表的な化学組成は主に中央海嶺玄武岩(MORB)によって定義されてきた一方、沈み込む海洋地殻の化学的特徴の理解にはより年代が古く、より深部の地殻構成岩を調べる必要がある。本研究では、北西太平洋海域のプチスポット火山に産する苦鉄質捕獲岩10試料について、オスミウム同位体比、強親鉄性元素および親銅元素を含む微量元素の定量を行った。予察的実験により得られたRe-Osアイソクロン年代は、苦鉄質捕獲岩が白亜紀海洋地殻物質であることを裏付けた。年代に加え、海洋地殻の形成・進化に伴う強親鉄性元素と親銅元素の挙動について議論を行い、沈み込む海洋地殻の化学的性質に制約を与える。

  • 藤江 剛
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 262-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    日本海溝や千島海溝から日本列島に沈み込む太平洋プレートの実態把握を目指して、海洋研究開発機構では2009年から大規模な地下構造探査研究を進めてきた。その結果、海洋プレートが沈み込む直前に折れ曲ることに伴い含水化など構造が変質していることが明らかになったことに加えて、実は海洋プレートは従来考えられているほど均質ではないことが明らかになってきた。たとえば、水深約6000メートルの大洋底における数百メートルといった数パーセントの水深差が、実はプレート形成時に由来する海洋地殻の厚さの不均質を示していることなどが分かってきた。そのような不均質な場の一つで最近の火山活動であるプチスポットが見つかっていることは、プレート形成時の太古の古傷が現在の地殻活動にも影響を与えている可能性を示している。

  • 佐野 真, 平野 直人, 奥村 聡, 秋澤 紀克, 田村 明弘, 森下 知晃
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 263-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    プチスポット火山ではこれまで得ることが出来なかった沈み込む直前の古いプレート下のアセノスフェアの情報を得ることができる。本研究では北西太平洋プレート下の上部マントル化学組成を同定するために、プチスポット玄武岩中の急冷ガラスについて主要、微量元素組成、揮発性成分の分析を行い、MORBやOIBと比較した。マントル部分溶融時のH2Oの挙動を求める際にはH2O/Ceが用いられている。プチスポット玄武岩のH2O/Ceおよび微量元素比はEM成分を示すホットスポット玄武岩と類似していた。また、東北日本沖のプチスポット火山の一部にBa/La、K/La比の高異常を示すものがあり、EMマントルの特徴とは異なる別の成分の付与があることが示唆される。北西太平洋のプチスポット火山を通して、OIBにのみ確認されていたEM成分が上部マントルにも存在していることが予想される。

  • 西尾 郁也, 秋澤 紀克, 上木 賢太, 板野 敬太, 田村 明弘, 森下 知晃
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 264-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    海洋プレートのほとんどは中央海嶺で形成されるが、その一部は海洋プレートの沈み込み開始に伴う拡大 (Ishizuka et al., 2020)、背弧拡大(Martinez et al., 2007)で形成されるため、海洋プレートの物理・化学特性は多様である。 拡大軸では、基本的にマントルの部分溶融、メルト輸送・反応、結晶分化などのプロセスを通して海洋プレートを構成する地殻・リソスフェリックマントルが形成される (Warren, 2016)。それぞれの拡大軸で形成された火山岩の研究から沈み込むスラブ起源流体の影響などによって、マントルの溶融条件・酸化還元状態は拡大軸毎に若干異なることが示唆されている(Cottrell et al., 2021)。したがって、海洋プレートの多様性の理解には拡大軸マントルの組成の多様性を明らかにする事が重要である。さらに、拡大軸マントルの組成情報はオフィオライトの形成過程を議論する上でも重要である。本研究では、拡大軸マントルの組成の多様性とオフィオライトの形成過程の制約を目的に、中央海嶺・背弧海盆・オフィオライトのマントルセクションから得られたかんらん岩中の鉱物化学組成の比較を行う。部分溶融度の指標となるスピネルのCr#と単斜輝石中の微量元素組成において、オフィオライト・背弧海盆かんらん岩の組成のほとんどは中央海嶺かんらん岩の組成幅内であることが示された。しかし、オマーンオフィオライトやカリブ海周辺のオフィオライトの一部の試料には、 中央海嶺かんらん岩の組成よりも数%高い溶融度を経験したと考えられる枯渇した組成を示すものが確認された。中央海嶺かんらん岩中の単斜輝石のSm/Yb対数比分布は 正規分布に近い。一方で、オマーンオフィオライトのかんらん岩中の単斜輝石のSm/Yb対数比分布は肥沃な組成と枯渇した組成のバイモーダルな分布を示す。サンプリングバイアスの可能性は否定できないが、オマーンオフィオライトの肥沃なかんらん岩と枯渇したかんらん岩の存在は2つの異なる溶融プロセスを経験していることが考えられる。酸化還元状態、流体の指標となる単斜輝石のTi/V比、Sr/Ti比には、火山岩で見られるような違い(Shervais, 2022)が中央海嶺・背弧海盆・オフィオライトのかんらん岩には見られなかった。背弧拡大や沈み込み初期の拡大軸のマントルは沈み込むスラブ起源流体の影響によって酸化的になることが期待されるものの、マントル物質であるかんらん岩自体の記録には違いが見られないことは拡大軸マントルの酸化還元状態には大きな違いがない可能性が示唆される。

  • 中野 泰紀, 平野 直人, 町田 嗣樹
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 265-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    本研究では、北西太平洋プチスポット下のEM1マントルの成因を議論するため、新たに9試料についてSr-Nd-Pb同位体組成を分析した。プチスポットのEM1組成はホットスポットで見られるものと比較してunradiogenicな鉛同位体比 (low-μ) を示すことから、よりU/Pb、Th/Pb、Th/Uが低い起源物質が想定される。また、先行研究において指摘されていた同位体組成とBa/Nbの相関に加えて、K/U、Pb/Ceなどの微量元素比と同位体比との相関関係が確認された。この結果は東北沖プチスポット玄武岩の微量元素パターンに見られるBa、K、Pbの正異常がEM1の起源物質の特徴を反映していることを示唆している。本発表では、新たに得られた組成についてプチスポットをはじめとする上部マントル起源のEM1玄武岩と比較し、考えうる成因モデルについて更に検証する。

  • 深瀬 芙紅, 小木曾 哲, 石川 晃, 秋澤 紀克
    専門分野: S3 太平洋プレートの変遷史~深海底からマントルまで
    p. 266-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    南太平洋ポリネシア地域はスーパープルームの存在が示唆されており、当地域のカンラン岩捕獲岩について調べることで、マントルのより深い部分の情報を知る手掛かりが得られると期待される.本研究では、ツブアイ島のカンラン岩捕獲岩について、岩石組織観察、鉱物化学組成分析および温度圧力履歴の復元を行い、当地域のマントル物質の特徴と起源について議論する.岩石組織、鉱物化学組成はバリエーションを示し、他の海洋域(タヒチ・ハワイ・海洋底)のカンラン岩にはない特徴も見られる.推定される温度範囲は~650-900℃で、他のホットスポット(タヒチ・ハワイ)のカンラン岩捕獲岩のうち、浅い海洋リソスフェア起源と考えられるものの範囲と重なる.ツブアイ島のカンラン岩捕獲岩は中央海嶺で形成された海洋リソスフェア起源であり、ツブアイ島での火成活動時の様々な組成のメルトとの反応によって輝石の化学組成のバリエーションが形成されたと考えられる.

S4 工学や農学と地球化学の接点
  • 光延 聖
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 267-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    水田は世界30億人の主食を生産する場所であり、水田土壌は日本を含めアジアの人々にとって最重要な農業資源の1つである。アジア稲作地域では水田土壌のヒ素汚染が頻発しており、水田環境におけるヒ素の挙動解明が急務とされる。しかし、水田土壌中のヒ素を含めた元素-鉱物-微生物相互作用には未解明な点が多い。とくに、微小領域での元素分布や反応機構についてほとんど知見がない。我々はこれまで、μmサイズに集光したX線をもちいて、高空間分解かつ非破壊直接的に水田土壌の元素イメージングおよび化学種決定を可能とする方法を確立し、研究を進めてきた。また最近では、ヒ素に汚染された土壌から環境修復に応用できる鉄酸化菌を単離する研究についても進めている。本講演では、以下に示すような我々の研究成果を紹介しながら、直接観察、さらには微生物培養も利用しながら、水田土壌中のヒ素-鉱物-微生物相互作用を解き明かす試みについて紹介する。

  • 勝見 尚也
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 268-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    これまで農業生産現場では様々なプラスチック製資材を使用することで、高品質な農作物の生産、農作業の省力化、環境負荷低減が達成されてきた。一方、近年のプラスチックごみ問題に端を発して、農用地で使用されたプラスチック製資材の適正処理や流出防止など新たな課題への対応が求められている。加えて、国際的には土壌に混入したマイクロプラスチック(5 mm以下の微細なプラスチック片)が新興リスクとして注目され、土壌生態系や農作物へ与える影響が活発に研究されている。本発表では、農用地で使用される被覆肥料(プラスチックでコーティングした肥料)に由来する一次マイクロプラスチック(被膜殻)に着目し、農用地から海洋への移行プロセスをモニタリングした成果を報告する。

  • 所 千晴
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 269-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    カーボンニュートラルと共にサーキュラーエコノミーに対する関心が高まっている.サーキュラーエコノミーの本質は,長寿命化,小型化,集約化,高機能化,多機能化といった機能の向上を,省資源,省エネルギーに達成する「資源効率の向上」を経済的に実施することである.そのためには,1次資源,2次資源によらず,純度の高い素材を創り出すために不純物制御が必要となり,筆者らはそのための分離工学研究を実施している.高効率な分離を達成するためには,熱,圧力等の変化をもたらす様々な外力下での反応速度制御など,固気液界面での微量元素の収着現象を含む種々の反応の高度な制御が必要となる.一般に時間スケールは大きく異なるものの,そのような分離現象は地球化学で理解が進んでいる様々なの反応を加速過程であるととらえることもでき,地球化学から得られる知見が革新的な分離技術プロセスの創出につながることが期待される.

  • 清水 佑馬, 牧田 寛子, 小山 恵史, 三浦 響, 所 千晴, 淵田 茂司
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 270-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
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    銅鉱石の浮遊選鉱プラントでは用水確保のため海水の利用が検討されている。しかし,脈石である黄鉄鉱の除去に必要なpH調整(>10)において,緩衝作用によるアルカリ剤添加量の増加や親水性粒子の生成による選択性の低下といった問題が生じる。そこで,本研究では2株の海洋性鉄酸化細菌(Thalassospira sp.,Mariprofundus sp.)を用いて,酸化促進作用や菌体の吸着による黄鉄鉱の効率的な親水化の可能性および黄銅鉱に与える影響を確認した。その結果,酸化促進作用による黄鉄鉱表面の化学性状の差はほぼ見られなかった一方,細菌の細胞膜の特性による鉱物表面の改質が示唆された。すなわち,親水性の細胞膜を持つ細菌を用いることで黄鉄鉱の浮遊抑制が達成できると考えられる。

  • 昆 慶明, 綱澤 有輝
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 271-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    鉱物の単体分離は、原料鉱石(原鉱)を粉砕し有用鉱物を回収するプロセスである『選鉱』の効率を決定づける重要な因子である。これは、粒子に複数鉱物(あるいは複数成分)が混在している状態(片刃粒子)であるよりも、単一鉱物から成る状態(単体粒子)であるほど、選鉱において、理想的な分離が可能となるためである。粒子がある単一鉱物で存在する度合は単体分離度と定義され、選鉱の全体効率や有用鉱物の回収率を決定づけるため、有用鉱物の単体分離度を正確に測定し評価することは、鉱床の継続的な開発判断に必要であるだけでなく、従来廃棄していた低品位鉱石や廃石などの未利用資源の開発可能性の判断に利用できる可能性がある。従来、単体分離度の測定・評価には電子顕微鏡ベースの装置(MLA、QemSCAN等)が広く用いられてきた。同装置では、まず樹脂封入した試料表面の反射電子像を撮影し、粒子の形状と輝度の差に基づいて個々の粒子を自動認識する。次に、各粒子の代表点に対しEDSスペクトルを取得し、ライブラリとのスペクトルマッチングにより鉱物相を同定する。結果として試料表面の鉱物相の2次元分布が得られ、そこから各鉱物の単体分離度等の鉱物分離に資する指数を評価している。しかしながら、鉱物に副成分として含まれる銀などの有用元素のように、鉱物粒子中の濃度が比較的低い場合、既往の電子顕微鏡ベースの装置による測定では、これらの検出が困難になることがある。そこで本研究では、微小域微量元素分析を迅速に行うことができるレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICPMS)を用い、微小域微量元素に基づいた単体分離分析を試みた。測定試料として銅鉱物を含有する岩石試料粉末を用意し、粒度調整した試料を封入した、樹脂試料表面にレーザーを走査し、位置座標ごとに得られる試料表面の質量スペクトルから、100%規格化法により元素組成を位置座標ごとに計算した。試料を構成する各鉱物相は、相同定に用いる元素組成条件に基づいて、位置座標ごとに分類することで、試料を構成する鉱物相を同定した。結果として、微量元素組成を考慮に入れた鉱物相の2次元分布が得られ、そこから各鉱物の単体分離度等の鉱物分離に資する指数の評価を試みた。

  • TAKEUCHI TAISEI, 竹内 宏太, 板倉 光, 横内 一樹, 白井 厚太朗
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 272-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    資源量の維持・増加のためにニホンウナギの放流が行われているが、資源維持への効果は不明であり、さらに天然個体の本来の分布を撹乱したり、天然・養殖個体の割合を不明にしたりする恐れがある。また、既存の天然・養殖判別手法は判別精度や簡便性に欠ける。そこで水晶体の炭素・窒素の安定同位体分析することで天然・養殖個体を判別する手法の開発を目的とした。水晶体は内側から時系列で形成されるため餌に違いがある期間の部位の組成を比較することで、天然・養殖個体を判別できる。試料は放流前の養殖個体と放流のない河川の天然個体を使用し、水晶体の炭素・窒素同位体組成を分析した。その結果、天然・養殖個体間では炭素・窒素の同位体比の分布は明瞭に異なっており、天然・養殖個体判別が可能であることを示唆している。本手法は養殖個体の産卵への寄与、天然個体の本来の分布域、各河川の天然・養殖個体の比率、などの推定に応用することができる。

  • 伊地知 雄太, 高橋 嘉夫
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 273-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    農業における化学合成肥料の生産は世界的に増加傾向にあり、窒素肥料の合成には多大な電力を要する。そこで近年では合成窒素肥料に代わり土壌中に存在する鉄還元菌の窒素固定を利用する低環境負荷農業が提案されている。本研究では粘土鉱物の一種であるスメクタイトを鉄源あるいは補助鉄源として提案する。スメクタイト構造中に含まれる鉄は還元され二価になっても溶脱せず、さらには散布された鉄が還元された場合でもスメクタイトへの吸着が期待できる。この効果を実証するため、水田を模擬した土壌カラムにスメクタイトを添加し、鉄流出挙動の違いをX線吸収微細構造解析(XAFS)によって分析する。XAFS測定の結果、特にカラム下層でフェリハイドライトの存在度が高くその位置での粘土鉱物中鉄の二価/三価比が相対的に高くなっていた。これは上層で還元溶解したフェリハイドライトが下層へ流れる途中でスメクタイト中の鉄に酸化されて固定化されたと考えられる。

  • 鈴木 聡馬, 杉野 友香, 池江 蒼, 谷水 雅治
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 274-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    循環型社会の実現に向けた土壌浄化技術の一つとして, 汚染土壌から重金属元素を除去するために, 植物を用いて土壌浄化を行う手法が期待されている。本研究では, 不良土壌である蛇紋岩土壌と石灰岩土壌, 植物が生育しやすい花崗岩土壌とその地域で生育している植物の元素濃度を分析し, 土壌から選択的に植物に移行する元素を把握することを試みた。分析の結果, 植物の葉中の元素濃度を比較したところ, MgとNiは蛇紋岩土壌の方が高く, 石灰岩土壌と植物のCa濃度は同程度であった。蛇紋岩土壌の植物は, 土壌の基盤となるMgとNiを多量に含む蛇紋岩の影響を受けている可能性と, 石灰岩土壌の植物は過剰なCaの吸収を抑制する可能性が考えられた。

  • 浅原 良浩, 土屋 隆志, 山本 鋼志
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 275-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    瀬戸内海は、窒素・リンなどの流入負荷削減の施策効果で水質改善が大幅に進んでいるが、このリンや窒素などの栄養塩の減少が一部海域での養殖ノリの色落ちや漁獲量の減少に繋がっている可能性が指摘されている。そのため、栄養塩供給を目的として、海底堆積物を人為的に巻き上げて堆積物中の栄養塩を海水中に再溶出させる海底耕耘などが検討されている。しかし、海底耕耘は、栄養塩だけでなく堆積物中に存在する重金属元素も海洋環境中に放出する可能性がある。本研究では、可溶性の重金属元素量を評価することを目的とし、逐次溶解法によって大阪湾表層堆積物を5つの画分に分け、それぞれの画分の主成分および微量成分元素の定量分析を行った。

  • 三浦 響, 清水 佑馬, 牧田 寛子, 北川 こころ, 鈴木 裕史朗, 淵田 茂司, 小山 恵史, 所 千晴, 齋藤 貴
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 276-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    銅鉱石の浮遊選鉱において海水の直接利用が検討されているが、pH調整剤として使用される消石灰の多量投与や親水性粒子の生成による実収率の低下が問題となっている。これらの解決策として、海洋性鉄酸化細菌を用いることで, pH無調整の海水中で細菌の酸化作用または吸着により脈石鉱物である黄鉄鉱を効率的に親水化し除去することが期待できる。本研究では,深海および浅海環境から単離した海洋性鉄酸化細菌2株(Tharassospira sp. TF-1株およびMariprofundus sp. E-4株)の増殖に適したpHや温度環境の調査を行った。その結果, 両菌株とも海水と同様のpH8において十分な増殖を示した。また, 温度帯についても両菌株とも25~30℃で最も増殖が良い結果が得られた。

  • 惟村 晴太郎, 野島 佑悟, 麻野 涼央, 鈴木 華, 三平 将貴, 三木 良太朗, 山中 寿朗, 高橋 恵輔, 笠谷 貴史, 杉村 誠, ...
    専門分野: S4 工学や農学と地球化学の接点
    p. 277-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年、我が国では海底資源の獲得や広大な排他的経済水域の有効利用のため、深海インフラ構造物の構築が計画されている。深海インフラ構造物の建設にはコンクリート等のセメント系材料の使用が必要不可欠である。しかし、陸上環境と異なり、深海に曝されたセメント系材料は、通常より早く劣化が生じることが明らかとなっており、深海環境がセメント系材料に与える影響の詳細な評価や、深海環境で耐久性を長期間維持可能なセメント系材料の開発が求められている。本研究では、高いアルカリ耐性を有しセメント表面で生育可能な海洋性細菌の形成するバイオフィルムに着目し、セメント系材料の耐久性に与える影響を調査した。その結果、材料表面にバイオフィルムが形成されることで塩化物イオンの浸透を抑制する効果が示され、セメント系材料の耐久性を向上させる可能性が示唆された。

S5 プレナリーセッション(基調講演のみ)
  • 圦本 尚義
    専門分野: S5 プレナリーセッション(基調講演のみ)
    p. 278-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    本発表では,演者が地球化学における基本3要素としてとらえている「分配・拡散・年代」について,自然界で起こった現象の実証という観点から論じてみたいと考えている.「分配・拡散・年代」を使って試料を正しく解析するためには,反応の成分系を決定し,現れる各相とその間の関係についてキャラクタライズし,適用する化学を選択する必要がある.この適用する化学の選択のために,3要素の定量的な正確度の理解が必要となる.キャラクタリゼーションには,解析に必要な化学分析能力を見極める力が大事である.

受賞講演1
  • 板野 敬太
    専門分野: 受賞講演1
    p. 279-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    副成分鉱物の微量元素・同位体局所分析は, 分析技術の発展とともに岩石成因や形成メカニズムを議論するために必須の研究手法となってきている . 私はこれまでに , レーザーアブレーション ICP質量分析(LA-ICP-MS)や二次イオン質量分析(SIMS)による副成分鉱物の年代・同位体・微量元素分析を駆使した地殻成長に関する研究に取り組んできた. 本発表では , 副成分鉱物の中でもジルコンやモナザイトの局所分析を組み合わせた地殻進化に関する研究と, 地球化学データ解析へ数理・データサイエンスの手法を応用する試みについて紹介する. 苦鉄質岩石中ジルコンを用いた下部地殻成長タイムスケールの制約ジルコンは U.Pb年代測定に最適な鉱物の1つであり, LA-ICP-MSの普及による迅速かつ高精度な局所分析が可能になって以降 , その重要性は不動のものとなっている .ジルコン U.Pb年代が地殻進化の理解に大きく貢献した1つの例としては ,花崗岩の形成が単一のマグマ形成・輸送・定置プロセスによって作られるものでなく ,断続的に数百万年から数千万年かけた多段階的なものであることの発見が挙げられる . しかし , 多くの火成活動タイムスケール制約を目的とした研究は化学進化を経た花崗岩質マグマ由来のジルコンを用いており、熱・物質の供給源であるマントル起源マグマの供給・貯蔵期間の直接的な制約は得られてこなかった.そこで,飛騨帯に産するポイキリティックな組織を持つ角閃石カンラン岩 [1]に含まれるジルコンから苦鉄質なマグマ供給系が保持されるタイムスケールの解明を試みた [2]. SIMSによる U.Pb年代分析・酸素同位体分析と LA-ICP-MSによる Hf同位体分析を組み合わせることで ,ジルコン粒子内部に保存されたマグマ活動履歴を読み解くことが可能となる. ジルコン粒子のカソードルミネッセンス像(CL像)において, 暗色の中心部は希土類元素や Sc, Ta, Th, Uに富む一方で ,明色の縁辺部はこれらの元素濃度が低い特徴を持つ. 角閃石カンラン岩の成因がカンラン石主体の集積岩形成とその後の含水苦鉄質マグマによる角閃石形成の2段階であったこと [1]を考慮すると , 暗色部ジルコンは単斜輝石や角閃石不在条件で苦鉄質メルトからの結晶化 , 明色部ジルコンは角閃石の結晶化により作られる珪長質な間隙メルトからの結晶化によるものと解釈される .これらの暗色部からは約 196.1 ± 0.9 Ma , 縁辺部からは 186.3 ± 1.1 Maの U.Pb年代が得られた.年代差は 1000 万年に及ぶにも関わらず, 同様の酸素・ Hf同位体組成 (δ18O = 7.7‰ ± 0.8‰, εHf = 10.3‰± 1.7‰)を保持していることから , ジルコンを形成したマグマ活動は同一のマグマ起源物質を共有していたとことが示唆される .したがって , 1000 万年間にも亘り連続的、あるいは断続的に苦鉄質マグマ供給系が活動していた物的証拠を得たと考えられる.砕屑性モナザイトを用いた造山運動史の解明モナザイトはジルコンと同様に U.Pb年代局所分析が可能であることから , 砕屑性モナザイトを用いた研究例が近年増えている . 主流である砕屑性ジルコンを用いた研究の仮説検証には, 異なる情報を保持する砕屑性モナザイトを用いた研究は重要となる.しかし, 火成岩だけでなく変成岩に豊富に含まれるモナザイトの多様な起源は得られる情報量の多さをもたらすと同時に , 年代や同位体記録の解釈が困難になるという欠点も含む .この欠点を補うために , モナザイトの微量元素を組み合わせた研究手法の確立にこれまで取り組んできた.砕屑性モナザイトの U.Pb年代に微量元素情報を組み合わせることで , 砕屑性モナザイトの起源岩石の推定を行い , 造山運動の時期と性質を制約する新たな研究アプローチを提案した [3].砕屑性モナザイト年代ピークは火成活動だけでなく変成活動も含めた造山運動の推移を捉えており , 砕屑性ジルコンよりも衝突型造山運動の履歴を詳細に保存していることが明らかになった . モナザイトの微量元素については , LA-ICP-MSを用いたモナザイト希土類元素分析手法 [4]や磁鉄鉱系列 /チタン鉄鉱系花崗岩中モナザイトの微量元素システマティクスについての研究 [5]など多方面へ研究が展開された .その中でも地球化学データの多変量解析は現在の研究の柱の1つとなっており , 鉱物の微量元素組成データによる起源岩石分類モデルの構築に取り組んできた [6, 7].データサイエンスや機械学習の手法を用いることで , 回帰や分類問題における推定の不確実性をより定量的に評価することが可能となる . 大量の地球化学データへ容易にアクセスできる現在こそ , 探索的データ分析によって新たな知見を創出するチャンスも眠っていると言える . 鉱物化学組成データでは測定時の検出限界に関わる非ランダム欠損値や不均衡データなどの問題も残されており , 今後は地球化学データの性質に合わせた最適なデータ解析の改善に取り組んでいく. [1] Itano et al. (2021) Lithos; [2] Itano et al. (2024) Geology; [3] Itano et al. (2016) Precam. Res; [4] Itano & Iizuka (2017) J. Anal. At. Spectrom.; [5] Itano et al. (2018) Chem. Geol.; [6] Itano et al. (2020) Geosciences; [7] Itano & Sawada (2024) Math. Geosci. Crustal evolution revealed by microanalysis of accessory minerals *K. Itano1, 2, (1Akita Univ., 2Univ. Granada)

受賞講演2
  • 鹿児島 渉悟
    専門分野: 受賞講演2
    p. 280-
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/30
    会議録・要旨集 フリー

    良い試料と適切な化学分析手法を組み合わせることで、我々は直接観察するわけでもなく、地球の内部で起きている現象をある程度まで推測することができる。これは偉大な先人たちと活動中の研究者らによる知見・知恵の積み重ねに基づくもので、大変ワクワクすることなので、公金で活動をさせて頂いている立場ではあるものの純粋に楽しむ心を持ちながら研究に臨んで良いと思う。私のこれまでの研究成果は主に固体地球科学に関するもので、プレート境界における火山活動や断層を通じた物質循環に関する報告が多い。これらは希ガス同位体などをトレーサとして用いた研究であるという共通点を持ち、研究対象は様々だが専門性が活かされている。本講演では、以下に記載する研究成果について紹介をさせて頂く予定である。 (1)中央海嶺―沈み込み帯を通じた揮発性元素の物質循環に関する研究全球的な揮発性元素の物質循環や各リザーバにおける滞留時間に関する知見は、地球史を通じた大気・海洋の化学組成や環境の変動を紐解く上で重要であり、将来の環境変動の予測などにも役立つと考えられる。マントル起源成分をよく保存する物質の化学・同位体組成は、固体地球内部―地球表層の物質循環に関する重要な情報を与えてくれる。たとえば、中央海嶺玄武岩の急冷周縁相を破砕することで揮発性元素を抽出することで、元素濃度と希ガス同位体組成を測定することができる。すると、ヘリウム-3の固体地球内部から地球表層へのフラックスはよく制約されているため、3Heとの濃度比に基づき揮発性元素の物質循環を議論することが可能となる(e.g., Kagoshima et al., 2012)。私たちは世界中の MORBや海底熱水・火山ガスの化学・同位体組成に基づいて、中央海嶺と沈み込み帯の火山活動を通じた硫黄のフラックスを推定し、固体地球内部―地球表層における全球的な硫黄の物質循環像を制約した。また、火山ガスに含まれる硫黄の大部分は沈み込んだ物質由来であり、マントル起源の割合は僅かであることを示した(Kagoshima et al., 2015)。 (2)火山の地球化学的観測研究日本には多くの活動的な火山が存在する。火山で放出されるガス・地下水の化学・同位体組成は、流体の起源を反映するため熱水系構造の推定に役立つ。また、化学データはマントル起源物質の混入率などに応じて変動するため、マグマ・熱水系の状態・活動度を評価する上でも有用である。私たちは活動的な火山の地球化学的観測を実施し、熱水系構造や火山噴火に伴い山体内部で発生した現象を解明してきた。たとえば 2014年 9月の木曽御嶽山の噴火や、2015年 6月の箱根山大涌谷の噴火の前後でガス試料に含まれる希ガス・炭素・窒素などの同位体組成を測定し、時系列データに基づいて噴火に伴う熱水系状態の変動を明らかにした(Kagoshima et al., 2016; Kagoshima et al., 2019)。また、このような研究で得られる観測データは、それぞれの火山において活動度のトレーサとして有用な元素・同位体が何であるかという情報を示すため、その後の観測研究に役立つ。火山観測を通じて熱水系の構造・状態を解明することは地球科学的に重要であるとともに、減災・防災の観点からも高い意義を持つものであり、現在に至るまで調査を実施している。 (3)海溝近傍の断層を通じた流体循環に関する研究海溝近傍では沈み込む海洋プレートの屈曲に伴い地形的高まりが生じ、断層やプチスポット火山の形成など様々な現象が発生する。このような現象に伴う流体循環はマグマの発生や地震活動、プレート沈み込み過程を通じた地球深部―表層のリザーバの化学進化に影響すると考えられ、その規模や時間変動を解明することは重要である。私たちは 2019年から研究航海を通じて、三陸沖日本海溝近傍の海底断層の堆積物・間隙水試料を採取して希ガスの同位体組成などを測定し、間隙水の起源と化学データの時空間分布を調査してきた( e.g., 鹿児島ほか , 2022; Park et al., 2021)。得られたデータは当該海域の海底下の広範囲に高い 3He/4He比を持つリザーバが存在することを示唆しており、海溝近傍における流体循環の実態を明らかにするため、今後も観測を継続する計画である。(本講演の関連研究) Kagoshima et al. (2012) Geochem. J. 46, e21-e26.; Kagoshima et al. (2015) Sci. Rep. 5, 8330.; Kagoshima et al. (2016) J. Volcanol. Geotherm. Res. 325, 179-188.; Kagoshima et al. (2019) Geochem. Geophys. Geosyst. 20, 4710-4722.; Park et al. (2021) Sci. Rep. 11, 12026.; 鹿児島ほか (2022) 日本地球化学会 2022年度年会基調講演. Research of geochemical cycles of volatile elements at plate boundaries *T. Kagoshima1(1Univ. Toyama)

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