本稿は, 経済地理学において知識の問題を議論する際に, 社会ネットワーク論の視点が有効であることを指摘し, その展開方向について整理した. 社会ネットワーク論においては, 対象はアクターの関係のネットワークとしてとらえられ, 結合の内容やネットワークの構造が, アクターの行為に影響を与えると考える. 知識の移転・学習におけるアクターの多様性・流動性の意義の問題は, 社会ネットワーク論の視点からは, アクターの結合の質やネットワークの構造の問題ととらえることができる. 具体的には, 弱い紐帯, ブリッジの存在, ランダムで偶然な結合の形成が, 新しい有用な知識の流通を促すと考えられる. そのような社会ネットワーク論においては空間性は考慮されていないため, 経済地理学においてはアクター間の近接性に焦点を当てる必要がある. ただし, この場合の近接性とは, 地理的近接性だけではなく, 組織的近接性や制度的近接性も含まれ, それらは相互に関連している.
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