本稿は,主として日本語および英語で公表された多国籍企業に関する地理学的な研究の動向を分析し,今後の課題を提示することを目的とする.多国籍企業に関する研究は,経済学・経営学分野において先行したが,近年,地理学的なアプローチからの研究が増加しつつある.その視点は,多国籍企業の分布パターンや直接投資の空間パターンから,多国籍企業の企業内・企業間連関,多国籍企業の進出と地域経済との関係,多国籍企業の経営手法と技術移転,多国籍企業と国家・地方政治権力との関係などへ多角的に拡大・深化している.また,業種別では,製造業企業を対象にしたものが大半を占めてきたが,サービス業企業の動向を分析したものも現れるようになった.分析のための空間スケールは,国家スケールが中心であったが,近年,ローカルな場所・空間の持つ意味が注目される中で,多国籍企業研究においてもローカルな立地動態に関する研究が増加しつつある.今後は,先行研究の研究結果を踏まえてそれらをさらに深化させるとともに,多国籍企業の企業文化の考察など企業論的な観点に立った研究を蓄積していくことが求められる.
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