本稿では,地方都市の宅地開発政策にみられる農協の主体的な役割を,政策過程分析の枠組を援用して明らかにしている.事例とした長野県松本市における宅地開発の政策過程は,次のように再構成される.(1)1980年代初め,無秩序な開発による財政需要の増大と,開発を抑制することによる隣接市町村への人口流出という相反する問題に直面していた松本市では,市街化区域拡大によって周縁部の農地を開発し,人口を定着させることが行政課題として正当化された.(2)一方,当初は市街化区域拡大に反対であった農家の立場も徐々に変化してきたことから,行政は農家の利益団体である農協との協働によって「地域開発研究会」を設立し,区画整理事業を推進するという政策を選択した.(3)行政にとっては事業の合意形成などにおける農協の主体的役割は不可欠であり,農協にとっても市街化区域拡大による事業は組合員の農外所得創出,資金運用や不動産取引に関する利益があった.このような,両者の利益の接点となる政策実現のため,農協の主体的な役割は地域開発研究会によって制度的に維持されていた.
抄録全体を表示