本稿では,九州と北海道・東北を対象地域とし,情報技術者の移動と技術水準という二っの側面から,地方圏における情報サービス産業の労働市場の特徴を明らかにする.地方圏において,広域中心都市の周辺地域から広域中心都市へと向かう情報技術者の移動は,進学や就職に伴うものか,大都市圏での勤務を経験した後の還流移動が中心である.転職に伴う移動は,県内で行われるローカルなものが中心であり,これに大都市圏一地方圏間移動といったナショナルな空間スケールの移動が続き,その中間に位置する地域ブロックレベルでの県間移動は,活発ではない.大都市圏と地方圏を比較した場合,情報技術者の技術水準は大都市圏の方が高い.しかし大都市圏での勤務経験を有する情報技術者は,大都市圏の高度な技術を地方圏にトランスファーする媒体となり得ていない.むしろ高い技術水準を持った情報技術者は,大都市圏にとどまったままである可能性が強い.つまり技術水準に基づく選択的な人口移動の存在によって,大都市圏と地方圏の情報サービス産業の間に存在する技術水準の格差が維持・拡大されていると考えられる.
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