本稿では, 日本的な規範や価値観との関係において, シンガポールで働く日本人女性の海外就職の要因, 仕事と日常生活, 将来展望を分析する. 彼女たちは, 言語環境や生活条件が相対的に良く, かつ移住の実現性が高いことから, シンガポールを移住先に選んでいる. シンガポールでの主な職場は日系企業であり, 日本と同様の仕事をしている. 彼女たちは, 日本においては他者への気遣いが必要とされることに対する抵抗感を語る一方で, 日本企業のサービスの優秀さを評価し, 職場では自ら日本人特有の気配りを発揮する. 結婚規範の根強さは, 海外就職のプッシュ要因となる可能性があるが, 対象者の語りからは, こうした規範をむしろ受け入れる姿勢も読み取れる. 彼女たちは, これら「日本的なもの」それ自体というよりは, それを強制されていると感じることを忌避すると考えられ, 海外就職はこうした強制力から心理的に逃れる手段であると理解できる. 日本の生活習慣や交友関係のあり方は, むしろ海外での生活でも積極的に維持される.
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