本研究では,多摩ニュータウンの早期開発地区を対象地域に,外出時に障壁に直面した下肢不自由者が,活動機会へのアクセスを確保するため用いる行為の実効性について考察した.その結果,被調査者は一様に,対象地域に遍在する高低差を障壁と認識する一方,建造環境の改変や有効な移動・交通手段の使用,他者が提供する介助の享受により,アクセスを確保していた.ただし,それらの実効性は,場所や財の所有関係,家族の形成段階や社会関係,地域生活の知識に条件付けられていた.特に,階段室式中層集合住宅が卓越する対象地域では,その居住者が受障後に自宅の出入りの問題を改善しようとすると長距離の転居が発生し,アクセス確保に寄与する既成資源が無用化される可能性が高まる.しかし,現住居にとどまるならば,自宅の出入りの問題が継続する.このようなジレンマ的状況を解決できず,生活空間の断片化を余儀なくされた場合,身体の障害が生活実現の剥奪に帰結する危険性が高まるであろう.
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