本稿は大都市圏郊外地域を対象とし,地域社会において新たな社会関係作りを試みようとする男性退職者の郊外コミュニティへの参加を考察し,これを通して明らかになった彼らの社会関係再構築の可能性と課題を検討した.近年,郊外地域に住む多くの勤労者が定年退職を迎え始め,居住地で過ごす時間が多くなった.しかしながら,郊外コミュニティとの接点を持てない孤独な男性退職者の存在が社会問題となっている.だがその一方で,郊外コミュニティで自発的に社会関係を築こうとする男性退職者たちの存在も見逃せない.そこで本稿は,男性退職者が郊外コミュニティに向き合う一つの手段としてコミュニティ活動に着目し,活動への参加状況を把握するためにアンケート調査,および彼らがこれらの活動に参加するプロセスを検討するために聞取り調査を行った.その結果,男性退職者のコミュニティ活動では,「自己の生活の充実」を目的とした活動への参加が,またこれに至る過程では妻など仲介者に依存する側面が大きいことがわかった.しかし活動に参加する退職者の中には,「コミュニティの充実を図る」という目的で活動を行う一面もみられた.彼らは,勤め人として培ってきた知識や経験を活かすかたちで新たに郊外コミュニティへの参加を可能にしているのである.
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