本稿では,イラン・ヤズド州メイボド地域における1980年代以降のズィールー(綿絨毯)の衰退過程を,現役生産者32名への聞取り調査とメイボド・ズィールー生産者協同組合所蔵の資料調査に基いて検討した.生産量・生産者数ともに激減する中で,ズィールーの生産構造は,少数の主力生産者と多数の兼業者という二極分化が生じた.近年のズィールー生産の特徴の一つは,専業の生産者数がきわめて少なくなったということであり,もう一つの特徴は多くの生産者は日雇労働などと兼業でズィールーを生産するという多就業化である.このように,メイボド地域のズィールー生産は,本業から多就業の一選択肢へと位置づけが変化した.それは,ズィールー生産は単体では存在し得ず,多就業の一環として存続し得るにすぎなくなったことを意味する.そして,こうした多就業的なズィールー生産を可能としているのは,外的な要因としては,イランの経済構造の変化による臨時・日雇の就労機会の増加であり,内的な要因としては,ズィールー製織の柔軟性と産地の集積の利益としての組合の存在にある.
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