本研究は旧東ベルリン市・インナーシティ地区プレンツラウアーベルクおよびミッテ地区に跨る街路カスタニエンアレーを舞台とし,そこに表出する言語景観(Linguistic Landscape)を当該地域の歴史的背景および地域的特性とその変化と併せて考察した。その結果, 当該街路の言語景観は観光地化とジェントリフィケーション双方の影響を受けていること, また前者は言語種の英語化や多言語化と関連付けられるのに対し, 後者はドイツ語へと回帰する傾向にあることから, 観光地化は言語景観のグローバル化を, またジェントリフィケーションの進行に伴いローカル化する傾向にあることが実証的に明らかとなった。また, 再統一まで社会主義国家体制に属していた旧東ベルリン市の言語使用状況と比較しても, カスタニエンアレーの言語景観の変化は極めて顕著であり, 言語は都市変容を理解するうえでの指標となるだけでなく, 言語がヘリテージとしての一側面を有していることが分かった。
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