地理空間
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8 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
  • 櫻井 明久
    2015 年 8 巻 2 号 p. 181-195
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     本稿は,もともと小,中,高等学校における教育経験のなかった筆者が,「地理学研究と地理教育」との間で行った自身の地理教育の試みを反省したものである。筆者は社会科教育講座所属となり,急に小学校社会科の授業方法を教授し,小中高の現職教員の教育研究指導に当ることになった。そのため,地理学研究と学校教育のなかの地理教育との違いにも悩むことになった。こうした経験をもとに,地理教育を考えてみたい。地理学を学んでいる教職志望の多くの学生は,地理教育は地理学を易しく教えることと理解しがちである。しかし,地理学と教科科目・社会科ないしは地歴科地理との間には大きな違いがある。そのことを認識したうえで,地理教育にあたる必要がある。学校現場経験のない筆者が試みることができたのは,一つは,現職教員の研究仲間の研究を評価したことであり,それぞれの仮説に沿ってデータを収集し,それをテコに具体的に児童・生徒の認識を推し測り,その変容から授業を評価し,地理教育などの授業方法・内容の改善の手がかりを得るという試みであった。もう一つは,自身が地理学で学び,フィールドワークで感じてきた地理教育の改善提案を,とくに教材化の試みの中で行ってみたことである。最近の地理教育については,筆者自身の大学における専門科目,教養科目,地歴科教育法の講義科目で試みた自由記述による授業の感想・意見,及び期末試験・レポート評価から,地理教育改善の手がかりを得ようと試みている。また,至らなかった筆者の地理学研究ではあるが,そのフィールドワークから得た地理教育改善のアイデアを考えてみた。
  • 大阪市生野区新今里地区における花街から韓国クラブ街への変貌
    福本 拓
    2015 年 8 巻 2 号 p. 197-217
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     本稿の目的は,大阪市生野区の今里新地を事例に,花街として栄えた地域がエスニック空間へと変容する過程を解明し,その含意を考察することにある。分析に際しては,在日朝鮮人による土地取得とその後の韓国クラブの集中経緯に着目し,①資本の由来,②建造環境の変容,③人口移動との関係,④既存住民との接点,の4 つの観点から検討した。1960 年代以降,花街の関係者から在日朝鮮人への土地移転が進み,特にバブル期以降は賃貸マンションに加えスナックビルも建設され,「ニューカマー」の経営する韓国クラブが急増した。その背景には,花街の衰退のほか,バブル期以前に形成された在日朝鮮人の遊興空間へのニーズ,そして韓国から移入された労働者が居住しうる住宅の存在があった。また,在日朝鮮人の土地取得過程では,エスニック・ネットワークを介した土地取引があり,民族金融機関による融資も一定の役割を果たしていたことを指摘できる。
  • コミュニティ研究から経済地理学的研究へ
    片岡 博美
    2015 年 8 巻 2 号 p. 219-237
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     本稿では,エスニック・ビジネスの立地要因について,日本におけるブラジル系ビジネスの,同一エスニック集団の「異なる地域」における立地展開の差異,同一エスニック集団の同一地域における「異なる時期」における立地展開の差異,展開される業種ごとの差異の3つの側面から検討し分析した。その結果,エスニック・ビジネスの立地要因は,エスニックな要素が大きく関わる「エスニック立地因子」と,外部一般経済と同様の,いわゆる一般因子に近い「非エスニック立地因子」の2種があること,そしてこれら2種の立地因子が組み合わさりエスニック・ビジネスの立地や集積がもたらされることを明らかにした。また,本稿では,エスニック・ビジネスをとりまく「ホスト社会における機会構造」もあわせて検討し,エスニック集団のホスト社会への同化やエスニック集団の生活空間の縮小といった「負の機会構造」と,エスニック集団の集住や核店舗・核施設の存在といった「正の機会構造」の存在を提示し,これら2つの機会構造のバランスにより,エスニック・ビジネスは盛衰し,また,その立地場所や集積の様態を変化させることを明らかにした。
  • 鹿嶋 洋
    2015 年 8 巻 2 号 p. 239-266
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     本稿は,大分県の半導体産業集積地域の特質を解明するため,その形成過程と企業間連関の空間構造を分析した。当県の半導体産業は,1970年の東芝大分工場の進出を端緒とする。東芝は進出当初から人件費削減のため労働集約的な工程を担う地元企業群を育成した。その後,生産の自動化とともに製造装置関連の地元機械加工業者や後工程専門の東芝子会社が協力企業となり,1990年代中期までに東芝の影響力の強い産業集積が確立された。しかしこの時点では県内の集積は技術的多様性を欠き,専門的な部門を県外,とくに京浜地域に依存した。その後,関連企業の増加と技術的多様性の高まり,東芝の影響力低下に伴う地元企業の自立化と企業間連関の広域化,後工程企業の淘汰・再編が進行した結果,当県の半導体産業集積は,局地的生産体系から,次第に地方新興集積へと移行しつつある。以上より,産業集積の実態解明に際し空間的重層性への留意が必要であることが示唆された。
  • 大竹 伸郎
    2015 年 8 巻 2 号 p. 267-287
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     2006年以降,東北地方を中心に大規模な地域営農の設立によって,水稲作の地域内分業体制の確立や担い手組織への経営面積の集約化といった水田稲作農業地域の再編が進められている。しかし,農地や作業を委託する一般農家には,新たな農業収益を確保する手段が講じられていないことから,一般農家の離農化の進行や担い手不足による耕作放棄地の拡大といった問題が顕在化している。本研究の目的は,地域営農の推進とともに,公益的価値の創出によって一般農家に新たな経済基盤の設立を進めるJAいわて中央の取り組みを分析することで,地域営農による水田稲作農業地域の再編に対して単位農協が果たすべき役割を明らかにすることである。農家やJAいわて中央への実態調査の結果,JAいわて中央の消費者との連携や地域内の自然環境保全を意識した様々な取り組みによって,新たな作物の栽培や販売経路の拡大などが実現し,それが農家所得の向上に繋がっていることが明らかとなった。
  • 小島 大輔, 谷口 佳菜子, 城前 奈美
    2015 年 8 巻 2 号 p. 289-303
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     本稿では,唐津市呼子町における「呼子朝市」について,観光化の変遷と出店者の構成から,その存続基盤を検討することを目的とする。「呼子朝市」は地域の変化に合わせて移動しており,また法律への対応のために組織化するなど柔軟に対応してきた。さらに,「呼子朝市」では「生活市」としての機能が低下していくなかで,「観光市」としての機能が増した。「呼子朝市」の出店者調査で,①鮮魚にイカが付加された呼子独特の出店品目構成による集客,②加工・乾物水産物販売による保存が可能な土産品の提供,③野菜販売者による賑わいの補強,④その他の販売による土産品目の多様性の創出,が把握され,いずれも「観光市」としての機能であった。ただし,この存続基盤の背景には,「生活市」としての機能が消失されず,賑わいの補強につながっていること,出店者同士の交流が出店者の出店意欲を維持させていることがある。
  • 植村 円香
    2015 年 8 巻 2 号 p. 305-313
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     本論は,「増田レポート」によって「消滅可能性自治体」のひとつとされた東京都利島村を事例に,高齢者の農業とその意義を明らかにすることを目的とする。利島は,東京都心の南方約130kmに位置する人口300人の離島である。主要農作物は,生産量日本一のツバキ油で,そのほかアシタバ・シドケなどの葉物がわずかながら栽培されている。利島村の農家に聞き取り調査を実施したところ,農家は主に60~80歳代の高齢夫婦であった。高齢夫婦は,ツバキ油の原料となるツバキ実を拾うことと,葉物を生産することで年間100万円程度の所得を得ていた。こうした年間100万円程度の「小さな農業」は,青壮年層ではなく,年金を生計の基盤としている高齢者だからこそ可能である。つまり,高齢者による「小さな農業」が,利島村の地域農業を支えている。
  • 脊振山麓の集落調査をとおして
    藤永 豪
    2015 年 8 巻 2 号 p. 315-321
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     本報告では,佐賀県脊振山麓の集落を事例に,人口減少・担い手不足の進む中山間地域における高齢者農業の存続実態と意義について検討した。事例集落では,1990年代までハウスを利用した小ネギ生産が盛んであった。その後,小ネギ栽培を行っていたハウスを再利用した軽量野菜を中心とする少量多品目栽培への転換,さらに近年では,稲作への回帰や労働負担の少ない干し柿生産がみられるようになった。こうした変化の背景には,高齢化による限られた労働力と資源を前提とした,あくまで世帯の維持を最低限の主目的とする農業の展開,さらには農作業の受委託や土地の貸借・売買関係にみられるような集落内おいてほぼ完結する地縁的関係に依拠した非経済的動機にもとづく地域社会全体の維持に対する住民の意識が作用していた。
  • 郡上市和良町での「経験」とそれをもとにした「反証」
    林 琢也
    2015 年 8 巻 2 号 p. 321-336
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     本論は,著者が岐阜県郡上市和良町において同僚の教員らとともに携わってきたT型集落点検の実践と地域づくりに係る住民有志との交流をもとに,農村の存続可能性について考察することを目的とする。郡上市和良町の地域づくり活動は,集落維持のための活動のあり方を住民自身に問うものである。農村の抱える問題は,農地や林地の相続,屋敷の維持など,最終的には個々の家族の問題でもある。こうした事実を住民に再認識してもらうとともに,他出子とのネットワークを強化することで内と外の両面から地域づくりを進めていく手法は,これまでの観光振興や人口増加を目指した農村振興策と組み合わせることで集落の存続にとってきわめて現実的かつ効果的な対策を描く際の一助になる。
  • 市川 康夫
    2015 年 8 巻 2 号 p. 337-350
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/04/04
    ジャーナル オープンアクセス
     フランス農村は,19世紀初頭から1970 年代までの「農村流出(exode rural)」の時代から,人口の地方分散と都市住民の流入による農村の「人口回帰」時代へと転換している。本研究は,フランス農村における過疎化の展開を,人口動態や政策,ツーリズムとの関係に注目して論じることを目的とした。1990年代からの農村人口回帰は,通勤極や小都市との位置関係から,人口減少地帯である「空白の対角線」に新たな過疎化の格差を生み出した。そのなかで過疎地域の維持に重要となるのはコミューンであり,その持続性は行政範囲を補完する柔軟な領域に支えられていた。また,過疎解消に向けた政策対象は農業から農村へと転換し,法定年次休暇制度や早期離農政策は高齢者を農業から解放しツーリズムへと向かわせた。ツーリズムの展開に関わる過疎地域持続の背景には,フランスの労働観や農業文化,そして消費対象としての農村の存在があり,別荘地や二地域居住地としての役割が人々の還流を生み出していることが重要である。
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