地理空間
Online ISSN : 2433-4715
Print ISSN : 1882-9872
3 巻, 1 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 山下 清海, 小木 裕文, 松村 公明, 張 貴民, 杜 国慶
    2010 年 3 巻 1 号 p. 1-23
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/04/11
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究の目的は,日本における老華僑にとっても,また新華僑にとっても代表的な僑郷である福建省の福清における現地調査に基づいて,僑郷としての福清の地域性,福清出身の新華僑の滞日生活の状況,そして新華僑の僑郷への影響について考察することである。1980 年代後半~ 1990 年代前半における福清出身の新華僑は,比較的容易に取得できた就学ビザによる集団かつ大量の出国が主体であった。来日後は,日本語学校に通いながらも,渡日費用,学費などの借金返済と生活費確保のために,しだいにアルバイト中心の生活に移行し,ビザの有効期限切れとともに不法残留,不法就労の状況に陥る例が多かった。帰国は,自ら入国管理局に出頭し,不法残留であることを告げ,帰国するのが一般的であった。1990 年代後半以降には,福建省出身者に対する日本側の審査が厳格化された結果,留学・就学ビザ取得が以前より難しくなり,福清からの新華僑の送出先としては,日本以外の欧米,オセアニアなどへも拡散している。在日の新華僑が僑郷に及ぼした影響としては,住宅の新改築,都市中心部への転居,農業労働力の流出に伴う農業の衰退と福清の外部からの労働人口の流入などが指摘できる。また,新華僑が日本で得た貯金は,彼らの子女がよりよい教育を受けるための資金や,さらには日本に限らず欧米など海外への留学資金に回される場合が多く,結果として,新華僑の再生産を促す結果となった。
  • ロサンゼルスのエスノバーブ,アルテジア・セリトスの事例
    斎藤 功
    2010 年 3 巻 1 号 p. 24-42
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/04/11
    ジャーナル オープンアクセス
     アルテジアとセリトスはカリフォルニア州ロサンゼルス郡の南東端にある。近郊農業地域として始まったが,酪農家が1930 年頃から本地域に集まり,酪農保護区に変わった。1950 年代末に市政を布いた結果,酪農家はより外側に追われ,酪農保護区は細分され,住宅地等に変わった。1960・70 年代にフィリピン系,韓国系,中国系などの多くの人びとが本地域に集中し,エスノバーブとなった。1923 年のサンボーンマップによると,パイオニア街に面し立地した学校,病院,教会,郵便局,役場,商店が周囲の近郊農業地域から人を集めていた。1962 年の電話帳と空中写真によると,パイオニア街の支配的な文化景観は病院と公共施設であった。1980 年前後から多くのショッピングプラザが交差点や病院跡地に建設された。各ショッピングプラザはエスノバーブを反映し,民族系の商店とその組み合わせを特色とする。最も大きな文化景観の変化は商業中心地区が1995 年頃からリトルインディアに変わったことである。最初のインド人の店は1979 年に立地し,サリー店,レストラン,宝石店,食料品店が集積するようになった。
  • 日本での研究を中心に
    久保 倫子
    2010 年 3 巻 1 号 p. 43-56
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,日本においてマンションを扱った地理学的研究を供給,需要の両面から分析・検討し,1990 年代後半以降に日本の居住地構造が変容してきたことに関して,マンション研究をもとに議論することを目的とした。地理学においてマンションを扱った研究は,高層集合住宅の立地にともなう都心周辺部の土地利用変化,住民構成や人口動態の変容,マンション供給者の戦略などの視点で行われた。また,マンション居住者の特性や人口移動に関する研究,居住地選択や世帯特性による居住選好の違いや,マンション居住者の居住地選択に関する意思決定過程を扱った研究も行われた。一方,1990 年代以降のマンション供給増加によって,都市中心部が居住空間として再評価を受けるようになり,都市の居住地構造が変容してきた。マンション需要者の住宅ニーズの変化に対するマンション供給の変化,全国や都市圏レベルでのマンション供給動向,世帯構成による居住選好の差異や郊外第二世代の住宅取得行動に対する研究が今後必要であろう。マンション居住者の現住地選択過程についても,都市の規模や供給時期に応じた多様な研究が待たれる。
  • 仁平 尊明
    2010 年 3 巻 1 号 p. 57-69
    発行日: 2010年
    公開日: 2018/04/12
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,グローバル化にともなう作物産地の変容を捉える農業地理学の一端として,とくに小麦に注目して,グローバル化に対抗しうる産地の対応と今後の展望を考察した。小麦は国際的な取引量が最も多く,グローバル化が最も進んでいる農産物である。日本は,1960 年代以降,とくにアメリカ合衆国より大量の小麦を輸入するようになった。2006 年においては,国内生産量の約7 倍(550 万t)の小麦が輸入されている。農産物流通のグローバル化が進むなかで,今後も日本の小麦産地が維持されていくために次の2 点を指摘できる。一つめは,農家レベルでのさらなる生産コストの削減であり,二つめは,消費者と生産者が食料供給作物としての小麦の重要性を再評価することである。これらを達成するための行政の補助として,従来の補助金政策に加えて,遊休農地の活用など,生産のインプット面を拡充する必要がある。
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