地理空間
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Print ISSN : 1882-9872
15 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
  • 特集号の趣旨
    田林 明
    2022 年 15 巻 3 号 p. 155-157
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
  • 田林 明
    2022 年 15 巻 3 号 p. 159-190
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    日本農業の存続・発展の可能性を考える場合,地域的条件に応じた農業形態を想定することが必要である。そのために,日本各地における活力のある最近の農業についての既存の報告から,存続・発展戦略の内容を,(1)経営者と農業労働力の確保,(2)経営の拡大・充実・合理化,(3)農業技術の確立と機械化,(4)安定した高い収入源の確保,(5)販売網の確立,(6)ネットワークの構築,(7)農業の多機能化に整理した。次に,既存の農業地域区分研究の分析から,新しい農業地域区分のために,学術目的に実用目的を加えること,多指標を前提として多変量解析を用いること,現在の市町村を単位地区として,(1)収益性の高い農業という方向性からの農業地域区分を試みることが妥当と考えた。さらに,(2)農業と他産業との組み合わせと,(3)環境・地域コミュニティ維持のための農業といった異なった二つの方向性の農業地域区分も必要なことがわかった。
  • Consideration from the Case of the Hokuriku Region
    Takaaki NIHEI, Akira TABAYASHI, Wahid ULLAH, Zaheer AHMED
    2022 年 15 巻 3 号 p. 191-208
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    This article is a technical note that describes a conventional agricultural regionalization method and its problems, using the Hokuriku region as an example. The method is a multivariate analysis that combines factor analysis and cluster analysis. Finding agricultural regions requires the following 12 steps; 1) selecting variables, 2) preliminary calculations, 3) omitting variables, 4) weighting factor scores, 5) exponentiating factor scores, 6) selecting a scale of statistical unit, 7) interpretation of factors, 8) map design, 9) displaying maps for factor analysis, 10) interpretation of clusters, 11) displaying a map for cluster analysis, and 12) regionalization. We then discussed these problems. (i) How many variables should be selected? (ii) Which statistical unit should be selected? (iii) How can the calculation be adjusted? (iv) How can regions be classified subjectively?
  • 主に2015年農林業センサスの結果を用いて
    駒木 伸比古
    2022 年 15 巻 3 号 p. 209-225
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,日本農業の存続・発展戦略を念頭に置き,日本全国を対象とした農業地域の類型化を行うとともに,得られた農業地域類型の特徴と分布パターンに基づき農業地域区分を試みることである。市町村を単位地区とし,主に2015年農林業センサスに基づき,農家,農業労働力,経営,土地利用,耕地の貸借,稲作請負,農業機械,生産性,作目に関する37指標を選定してデータベースを作成し,多変量解析を行った。その結果,「一般的畑作型」,「小規模畑作複合型」,「小規模稲作複合型」,「稲作中心型」,「大規模野菜中心型」,「大規模畑作畜産型」の六つの地域類型に分類された。これらの結果より,①今回の農業地域区分の結果は,従来の研究で示された基本的な農業地域構造とほぼ同じであった点,②存続・発展に向けた北海道の農業に関する優位性が浮き彫りになった点,③北海道を除き,収益性の高い経済的側面からみた農業発展地域は,面的ではなくスポット的に分布し農業島として現れた点,そして④最終的に主観も交えた地域区分を行うことを考えると,多変量解析の過程での「可視化」が必要となる点,の4点を指摘することができた。
  • 存続・発展のもう一つの方向性からみた日本の農業地域区分の新たな試みとして
    菊地 俊夫, 野田 瑞希
    2022 年 15 巻 3 号 p. 227-247
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本報告は首都圏を対象に「農」資源の観光活用に基づく,新たな農業地域区分を試み,その有用性を検討する。首都圏の市区町村における「農」資源の観光活用率の特化係数を「農」資源の特化係数で除して,「農」資源の観光活用ポテンシャル係数を求めた。その係数が高いことは,保有する「農」資源が十分に観光利用されており,低いことは,「農」資源の観光利用が進んでいないことを示している。この観光活用ポテンシャル係数の等値線図では,高いポテンシャル係数の地域が東京西郊の都市近郊地域から中央線沿線と京浜東北線沿線に広がっていた。その地域を取り囲むようにしてポテンシャル係数の中位地域が,さらにその外側にポテンシャル係数の低位地域が圏構造的に分布していた。このような「農」資源の観光活用ポテンシャルの空間的な分布によって,客観的な地域区分の線引きが可能であり,対象地域を全国に広げることもできるため,新たな農業地域区分として提案できる。
  • 中国山地を事例に
    大石 貴之, 駒木 伸比古
    2022 年 15 巻 3 号 p. 249-274
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    農業・農村の有する多面的機能が注目されるなかで,本稿は集落営農に注目することで,農地や地域社会維持という観点から現代日本の農業地域区分の可能性を示すことを目的とした。市町村において集落営農が盛んとなる条件と役割を踏まえた指標を検討し,従来の多変量解析を用いた農業地域区分の手法を援用した地域の類型化および地域区分を行った。その結果,東西区分や地形,都市圏からの距離などが反映された地域類型および地域区分を導出することができた。その根底には水稲作を基盤とする伝統的な農業が行われているか否かという地域的特徴があること,そして都道府県による政策動向が区分に現れることの2点があることが明らかとなった。このことは,集落内での伝統的な農業が行われている地域では地域コミュニティや農地管理が比較的行いやすいが,政策主導の集落営農という性格上,各種の関連施策の状況によっては集落営農の活動が左右されることを意味していると考えられる。
  • 特集号のまとめ
    田林 明
    2022 年 15 巻 3 号 p. 275-278
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
  • 高齢化・都市縮退を乗り越えて
    久保 倫子
    2022 年 15 巻 3 号 p. 279-282
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    大都市圏の外延的拡大と大都市圏内の機能分化に特徴づけられた20世紀の都市の構造は,21世紀に入り大きな転換期を迎えている。この中で生じてきたのが,長期的に衰退傾向が継続する縮退都市化,大都市圏内での分断化,これに加えて日本では1970~80年代に開発された外部郊外での住民および建造環境の高齢化が顕著となっている。地方都市では,空き家や空き地の増加,中心市街地の衰退などが問題視されてきた。この背景には,グローバリゼーションにともなう都市間競争に打ち勝つため,規制緩和と都心再開発を好む起業家的都市化が進んだことがある。その結果,継続的に都市への投資が続いた都心部と続かなかった郊外,特に大都市圏の外延的拡大が最大限となって生じた外部郊外とでは,居住環境上の明暗が生じている。本特集号では,東京大都市圏の外部郊外にあたる龍ケ崎市における事例研究により,郊外住宅地の将来像を検討する。
  • 竜ヶ崎ニュータウンの事例
    岩井 優祈, 岡田 晃暉, 中村 瑞歩, 久保 倫子
    2022 年 15 巻 3 号 p. 283-293
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は東京大都市圏の外部郊外に位置する竜ヶ崎ニュータウンを事例に,郊外住宅地に暮らす高齢者の帰属意識を明らかにしたものである。調査参加者は郊外第一世代に相当し,都心通勤を経験した男性と専業主婦の女性で構成される。分析の結果,調査参加者の帰属意識は主に住民同士の社会的つながりによって形成されていたことがわかった。女性居住者は入居当初から交友関係を長く形成してきた一方,男性居住者は退職後に新たな関係を構築する傾向が確認された。また本研究では,竜ヶ崎ニュータウンの緑豊かな景観を故郷の風景と重ねることで帰属意識を感じ取る調査参加者の姿が捉えられた。外部郊外の自然環境は,地域との深い結びつきを取り戻すための「鍵」として機能していることが示唆された。以上より,外部郊外における第一世代の高齢者が有する帰属意識は,彼らが経験してきた伝統的社会規範およびライフコースと深く関わるものであると結論づけられる。
  • 薄井 晴, 石井 久美子, 宇野 広樹, 王 倚竹, 洪 珺, 松井 茜, 佐々木 悠理, Yaqian MAO, 久保 倫子
    2022 年 15 巻 3 号 p. 295-308
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,竜ヶ崎ニュータウンにおける地域コミュニティの将来的な展望を提示することを目的とし,(1)男女差と地区間の差異および(2)住民自治組織の果たす役割の2点に着目しつつ,居住地域スケールにおける社会関係の構築状況とその過程を検討したものである。その結果,竜ヶ崎ニュータウンでは,高齢期に社会関係の構築を図る男性住民と,社会関係を縮小させる女性住民という男女差がみられた。退職以前の住民の場合,居住地域スケールにおける社会関係の構築過程は,郊外住宅地の開発経緯に基づく先天的な条件に大きく規定されていることが示唆された。ただし,竜ヶ崎ニュータウンでは住民自治組織を契機とする社会関係構築の量に地区間の差異が存在し,これが退職後の男性住民による社会関係の構築に関する地区間の差異にも反映されていた。このように地域コミュニティの課題は住宅地ごとに異なるため,高齢期に住み続けられる環境の実現にはさらなる事例研究が求められる。
  • 清水 友輝, Yaqian MAO, 久保 倫子
    2022 年 15 巻 3 号 p. 309-320
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,COVID-19パンデミック下での茨城県龍ケ崎市の高齢者の日常行動を,特にICTおよび活動仲間に着目して分析したものである。調査対象者では,単独あるいは配偶者との行動,外出を伴わない行動が主であった。ただし,外出を伴う行動では生活必需品の購入目的でのサービス施設への訪問が最も多い。別居する成人した子とは,電話やソーシャルメディアアプリなどを用いたコミュニケーションも行われた。日常行動の男女差として,女性は活動仲間および訪問先が多様であること,移動距離が長く自家用車の利用率が高いことが挙げられる。この背景として,女性は主に近隣地域で日常行動をしており,COVID-19パンデミックの影響を男性より受けにくいことが考えられる。
  • 龍ケ崎市の事例
    久保 倫子, 清水 友輝, Yaqian MAO, 岩井 優祈
    2022 年 15 巻 3 号 p. 321-331
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    急激に高齢化が進行する日本においては,中小規模の地方都市や外部郊外での空き家増加,フードデザート問題,公共交通網の縮小や撤退,さらに徒歩圏内での福祉を含めた生活必需施設へのアクセス低下などの問題が生じている。このような地域では,高齢者の生活の質も低下しつつある。都市の空き家問題に代表される,高齢化と関連する諸問題は,政策や制度,慣習,個人を取り巻く環境や能力など,複雑な要因が長期的に絡みあい表出したものである。よって,相続時の個人の意思決定などの表層的な要因だけでは,都市の空き家問題を理解することは不可能である。日本においては,家事や育児,住宅の継承や維持管理などの福祉は,家族内で賄われる傾向があり,この領域にあるサービスの外部化は十分になされているとは言い難い。子世代は,家庭内の福祉を賄う代わりに,住宅をはじめとする資産を親世代から継承することが通例であり,それが意味を持った時代が長かったといえる。しかし,近年の社会変化,とりわけ未婚化や夫婦共働きの増加,都心部における住宅供給の増加などにより,子世代がこの役割を担うことは困難となり,「負動産」と揶揄されるように世代間で継承されてきた資産の価値も変わってきた。 本研究では,龍ケ崎市のニュータウン地区,中心商業地区,農村地区において,3世代にわたる家・家族・福祉の実態に関する聞き取り調査を実施し,約100世帯の回答を得た。この分析を通じて,家・家族・福祉の関係性の経年的な変化を明らかにする。
  • 特集号総括
    久保 倫子
    2022 年 15 巻 3 号 p. 333-335
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢化が進む日本の都市,特に外部郊外においては,高齢期にも安心して住み続けられる都市を目指すことが求められる。高齢者に優しい都市の実現には,福祉へのアクセスを確保するだけでなく,一度転入した居住者が長期間,高い生活の質や利便性を維持しながら尊厳をもって住み続けるための,物質的・社会的な環境の総合的な観点が求められる(久保ほか,2020)。高齢化が進む日本の郊外住宅地に求められるものは,物質的な居住環境を衰退期のニーズに合わせていくこと,地域コミュニティとのつながりをもつことなどを通じて,住み慣れた地域に尊厳をもって生活し続けられる環境を作っていくことである。岩井ほか論文が示した通り,地域のコミュニティに参加したり,地域の自然に触れたりすることで,自分と場所とのつながりを結び,もしくは結び直し,地域に愛着を感じるようになる例もある。関係的要因と自伝的要因の重要さは,薄井論文にもつながる視点であった。 外部郊外は,高齢化と空き家化が進み衰退傾向にあるものの,そのあり方は一様ではない。薄井ほか論文は,開発時期や住宅の所有形態などにより居住者の特性が異なり,それによって地域に合った社会的関係の構築の仕方があることを指摘した。ある地区では,住民が積極的に物質的環境の改善にも取り組む。また,他方では地域よりも家族や職縁などを重視する人が多い地区もある。 地区の特性に合った関係性と自然・物質的環境を考えることが重要である。そのためには,適切なスケールにおいて,今そこに居住する住民のニーズに合わせていくことが「誰もが住み続けられる郊外」の条件となると考える。このような条件が整ってこそ,高齢者の幸福度や生活の質を高めることが可能になる。 清水ほか論文は,COVID-19パンデミック下にあって,高齢者の生活がどのように維持されていたのかを明らかにした。できるだけ単独行動を要請されていたこともあり,家族や友人,知人との電話やビデオ通話などが心理的な支えになった面もあった。自宅で過ごす時間が長い中であっても,屋外での散歩やボランティア,趣味の活動などを取り入れながら,安全かつ朗らかに生活しようとする高齢者の姿があった。 本特集号に限らず,高齢期に安心して住み続けられる環境と,家・家族・福祉の強固な関係が揺らぐ中で求められるサービスや制度を問うことが,より良い都市居住の実現に不可欠であるという立場で研究活動を行ってきた(久保ほか,2020; Kubo et al. 2020)。しかし,COVID-19パンデミック下でも,生活の中に喜びや楽しみを見出そうと創意工夫する高齢者,特に女性高齢者の生活の在り方に,現行の制度・サービスの不備・不足が助けられているのではないかと思えてならない。東京大都市圏の発展を支え,リタイアした彼らが,安心して住み続けられるよう,外部郊外の居住環境,そして21世紀の都市居住そのものを探求し続けたい。 久保ほか論文が明らかにしたのは,今後はニュータウン・中心商業地・農村の別を問わず,家族間で住宅の維持管理や家事・介護などの福祉を賄うことは一層難しくなるという現実である。家族の問題に押し込めたままでは,多くの家族が家や墓,資産,そして家庭内で賄われてきた福祉の「問題」で苦しむこととなる。しかし,社会が大きく変わっている現在,これらは家族から社会の問題へ捉え直されるべきではないだろうか。その上で,サービスや制度を充実させることが,「都市の空き家問題」をはじめとする家・家族・福祉の相互関係に関わる諸問題の解決には不可欠であろう。 長期的な傾向として人口減少と高齢化が進む日本においては,若年世帯の争奪戦のような対症療法的な行政サービスを提供することよりも,今いる居住者が幸福に暮らしていけるように物質的・社会的環境を整える本質的な視点が求められる。高齢期に住み慣れた家や地域で,幸福に暮らしていける都市であれば,地域への愛着も育まれるであろう。愛着ある地域であれば,自然と地域に目が届く。地域を見守り美しくしていくことが,家から近隣,地域,都市全体へと拡大していくことで,幸福に住み続けられる都市の条件が蓄えられていく。 こうした正のサイクルを生み出す原動力となるのは,今いる住民が幸福に住み続けられることだと考える。郊外住宅地や地方都市の多くが衰退期にあるからこそ,今いる居住者の幸福,生活の質,尊厳を大切にする,衰退を受容した政策が求められると考える。 本特集号では,外部郊外の居住環境が有する課題,特に家・家族・福祉の相互関係の変化の中で,家庭内で賄われてきた福祉を外部化するための制度やサービスが求められることに加え,親族間で継承されてきた資産の在り方にも変化が求められていることが示された。さらに,外部郊外の居住環境を支える要素として,地域への愛着,帰属意識,地域における社会関係の構築,家族や友人との交流などが示された。この成果を活かして,21世紀に適した都市居住の実現を目指した政策提言や実践へと繋げていくことを,今後の課題としたい。
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