地理空間
Online ISSN : 2433-4715
Print ISSN : 1882-9872
7 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 田林 明, 大石 貴之
    2014 年 7 巻 2 号 p. 113-148
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/04/05
    ジャーナル オープンアクセス
    この報告では,首都圏とその周辺を含む15の都県の観光と農政の担当者から,それぞれの都県における農村空間の商品化による観光活動の種類と分布状況,そして地域差について聞き取り,さらに統計や既存の研究,そして観光パンフレット等の分析を加えて,現代社会で活発に行われているか,あるいはその潜在的可能性が高い,重要とみなされる観光活動を抽出した。それらは,散策と市民農園,農産物直売所・農家レストラン,観光農園,ハイキング,農林業・農山村生活体験,避暑,スキー,登山,そしてマリンレジャーの10種類であった。これらの分布に基づいて地域区分を行った結果,基本的には東京都心部を中心とした同心円状のパターンがみられた。それは,農村空間の商品化による観光活動は,主として大都市からの近接性や交通利便性によって,さらには自然環境や農林水産業の内容,既存の観光地の存在によって規定されるからである。
  • 呉羽 正昭
    2014 年 7 巻 2 号 p. 149-168
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/04/05
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究の目的は,オーストリアアルプスにおけるスキーリゾートの継続的な発展にみられる諸特徴を明らかにし,それらに係わる要因を探ることである。オーストリアアルプスおいては,海抜高度が高く,大規模なスキー場を有するスキーリゾートで継続的発展がみられた。とくに,4・5星宿泊施設における宿泊数の増加が顕著で,施設の高級化も進んでいる。さらに,多様な施設やサービスに基づいてスキーを「楽しむ」ことのできる空間としての性格を強めている。しかし,伝統的な高級リゾートは停滞傾向にあった。スキーリゾートの発展を支えているのは,ドイツやオランダに加えて,近接性に基づいたスイスや東ヨーロッパ諸国からの宿泊数増加である。さらに,特定の出発国からの顧客が特定のリゾートを好み,継続的に訪問している。これらの背景には,オーストリアのスキーリゾートでの滞在費用が,スイスなどと比べて安価であることが指摘された。
  • 池永 正人
    2014 年 7 巻 2 号 p. 169-184
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/04/05
    ジャーナル オープンアクセス
     本稿では,スイスアルプス世界自然遺産のアレッチ地域における自然環境に配慮した多様な観光の取り組みと,サンモリッツにおける冬季観光の多様性の実態について明らかにした。アレッチ地域では,多数の官民関係者の積極的な参加によって,自然・文化景観の多様性と固有性,生態系が保全されている。世界遺産の大アレッチ氷河を間近で眺望できるベットマーアルプは,四季の自然や夏季の家畜放牧,住民の伝統文化を観光資源として有効活用し,年間を通じて各種スポーツや文化的催事が行われている。また,冬季スポーツの発祥地と称されるサンモリッツは,冬季スポーツ競技の国際大会を積極的に誘致・開催することで,住民の生活基盤やスポーツ・宿泊・交通など各種施設が整備され,多様な冬季スポーツの体験や観戦,各種観光催事による冬季観光が発展した。以上のように,両地域では自然環境に適応する観光業が成立している。
  • R.L. スティーブンソン『旅はロバを連れて』
    市川 康夫
    2014 年 7 巻 2 号 p. 185-202
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/04/05
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究は,19世紀末の紀行文『旅はロバを連れて』(R. L. スティーブンソン著)に着目し,フランス中央高地におけるランドネとツーリズムの関係を文化的資源とのかかわりから論じたものである。スティーブンソンの道は,フランスランドネ連合(FFR)によるルート整備が契機となり,スティーブンソン組合の結成によって実現した。組合はEUや国,地域からの補助金によって成り立ち,さらに営利を主目的としないことでオルタナティブなツーリズムが形成された。一方,ランドネ旅行者は,文化的資源だけではなくランドネを通じて得られる自己の体験,あるいはイメージに旅の動機を向けていた。まだ見ぬ土地への何かを求める欲求,そしてテロワールを感じる場所としての山村イメージが,セヴェンヌのランドネへと旅行者を駆り立てている。スティーブンソンの道は,ランドネ旅行者と文化,自然,テロワールとの相互作用の過程にあるツーリズムということができよう。
  • 長野県佐久地域を事例として
    渡邊 瑛季
    2014 年 7 巻 2 号 p. 203-220
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/04/05
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では,長野県佐久地域を事例に,スケートリンクやスピードスケートの競技者の減少の後,小学生競技者を取り巻く育成基盤がどのように変化したのかを,スケートリンクの分布およびその役割の変化,育成主体が基盤とする地域範囲の変化の2 点から明らかにした。1990 年頃を境に,佐久地域内ではスケートリンクの数が大きく減少し,少数の人工リンクへと競技者の練習拠点が移行した。減少したスケートリンクの多くは小学校区に1カ所以上存在した天然リンクであった。また,育成主体は各小学校の授業やスケートクラブであったが,人工リンクの台頭および天然リンクの減少もあって,佐久市や南佐久郡の北部の町村では各小学校での育成機会は減少し,地域横断型クラブへと育成主体が集約された。一方,南佐久郡の南部では,小学校を基盤とする育成主体が存続している。この背景として小学生競技者の保護者の職業により異なる時間的制約の存在が指摘できる。
  • 矢ケ﨑 太洋, 吉次 翼
    2014 年 7 巻 2 号 p. 221-232
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/04/05
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     東日本大震災による被害の大半は低地部における津波災害であり,被災市町村の行政や住民は,将来の津波に備えて集団移転やかさ上げによる住宅再建に取り組んでいる。本研究では,こうした住宅再建の動きに着目し,岩手県陸前高田市を対象地域として,震災以前と復興過程,復興事業完了後の3期に区分し,現地調査の結果を踏まえて都市復興に伴う都市の再編成について考察を行った。津波被害を受けた陸前高田市中心部は低地部に立地し,チリ津波以降に形成された。被災した公共施設・商業施設等は,仮設形態で周辺の丘陵地帯に分散立地し,住宅は集団移転団地・災害公営住宅を除き,拡散立地していることが明らかになった。陸前高田市による復興計画では公共施設・商業施設は中心部のかさ上げ地区へ,住宅は集団移転先等へコンパクトに集積する計画である一方,自主再建住宅が分散立地することで震災前より低密度分散化する可能性が示唆された。
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