日本看護科学会誌
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26 巻, 4 号
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論壇
  • ──組織的知識創造理論に基づく活動モデルの提案
    麻原 きよみ
    原稿種別: 論壇
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_3-4_10
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    組織的知識創造とは,個人の暗黙知を組織の形式知として組織的に創り上げていくプロセスである.本論文では,組織的知識創造理論を用いて保健師活動を説明することを試みた.これにより,(1)すべての保健師活動を有機的に説明する基本的メカニズムが提示でき,(2)保健師活動を理解するための新しい視点が提供された.すなわち,主体および動態としてのコミュニティ,コミュニティの一メンバーとしての保健師,プロセス志向の創造的活動としての保健師活動である.変動しつつある社会において,保健師には,従来の既存の枠組みにとらわれることなく,新たな視点を身につけ,創造的活動を行うとともに自己変革していくことが求められると考えられた.
原著
  • 大塚 静香, 鎌倉 やよい, 米田 雅彦, 深田 順子, 金田 久江, 篠田 雅幸
    原稿種別: 原著
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_11-4_18
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,術後せん妄症状の発現,睡眠覚醒パターンおよび夜間尿中プロスタグランジン(prostaglandin: PG)排泄量の関係を明らかにすることである.対象は,右開胸胸部食道全摘術を受け,ICUに入室した男性19名(平均年齢64.7歳)であった.術後3日目まで,20時から翌朝8時までの間,1時間ごとに11せん妄症状および睡眠覚醒状況を観察した.さらに,2時間ごとに尿検体を採取し,EIAキットを用いて尿中PG E2排泄量を測定した.
    結果から,せん妄症状が発現した対象者をせん妄症状群(9名)に,その他を非せん妄症状群(10名)に分類した.非せん妄症状群は規則的な睡眠覚醒パターンを示したが,せん妄症状群は術後1日目から不規則であった.また,9せん妄症状が睡眠覚醒パターンの乱れと同時または先行して発現した.PG E2排泄量は,非せん妄症状群では術後1日目のみ増加したが,せん妄症状群では術後日数に従って増加した.
    術後せん妄症状を発現した対象者が全員睡眠パターンの乱れを呈したことから,睡眠覚醒パターンの乱れと尿中PG E2排泄パターンが関係していることが示唆された.
  • 沖中 由美
    原稿種別: 原著
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_19-4_29
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は,身体障害をもつ高齢者が老いと身体障害をもつことについていだく自己意識を明らかにし,介護老人保健施設入所中の高齢者9名に面接を行い,比較分析した結果を記述した.
    身体障害をもつ高齢者の自己意識は7カテゴリーに分類された.高齢者は,【身体障害や老いることについての過去の意識】をもちながら,身体障害をもつという逃れられない現実を【「蜘蛛の巣」に絡まる身体】と意識し,施設で生活する自分を【籠の鳥】と意識していた.また,【支えてくれる家族と帰れる家】があることによって不安定な自己を支え,一方では帰る家がないことで生きる意味を見出せないでいた.さらに,高齢者は過去の自分との比較で【「輝いていた」ときと「輝かない」今】と意識し,他の高齢者との比較で【先行きは不安でも今の自分は幸せなほう】と意識していた.高齢者はこうした自己意識をいだきながら自らの【生と死】について考え,生きる意味を探していた.
    この結果から,身体障害をもつ高齢者が自己実現を目指し前向きに老いを生きるためには,ケア提供者が高齢者にできる自分を意識させ,施設内の高齢者同士の関係性を築けるようにし,高齢者が自分の居場所を確保できるように援助する必要性が示唆された.
  • ──病的多飲水患者と非多飲水患者との相違
    佐藤 美幸, 作田 裕美, 小林 敏生, 片岡 健
    原稿種別: 原著
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_30-4_36
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は,統合失調症患者のうち,病的多飲水患者と非多飲水患者,健常者の体内水分量の差異について,多周波数インピーダンス法(BIS法)を用いて探ることを目的とした.精神科病院入院中の,30~50歳代の統合失調症男性患者を対象としBIS測定を行った.比較対照群として,30~50歳代の健康な男性を対象とした.患者群の中から,独自に設定した基準に合致する者を多飲群とし,全く該当しない者を非多飲群とした.3者間で一元配置分散分析,多重比較を行った結果,体内水分割合は%ICFにおいて非多飲群が29.04±2.91と最低で,健常者群が35.15±3.77と最高であり,健常者群と多飲群,健常者群と非多飲群に有意差がみられた(p<0.01).以上から,統合失調症患者における体内水分量の特徴として,細胞内脱水傾向にあること,患者の口渇は%ICFの減少に伴う,生理的な欲求である可能性が示唆された.患者の体内水分量の分布は,非多飲群に比べて,多飲群のほうが広い範囲に分散していた.
研究報告
  • 寺﨑 明美, 間瀬 由記, 辻 慶子
    原稿種別: 研究報告
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_37-4_45
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    喉頭摘出者のセルフヘルプ・グループ(SHG)参加で得ている支援内容とストレス対処パターンとの関連を検討することを目的とした.銀鈴会会員710名を対象とし,自記式質問紙を用いた郵送調査によって有効回答が得られた216名(回収率30.4%)を分析対象とした.SHGからの支援内容は【積極性の獲得】【具体的能力獲得】【情緒的支援】であった.食道発声が上達するにつれて支援内容の得点も上昇し,支援の感じ方は食道発声の獲得というSHGへの参加目的の到達状況に影響を受けていた.喉頭摘出者のストレスの対処として【対人情緒的対処】【問題解決対処】が確認された.【対人情緒的対処】【問題解決対処】をともに多く使用する者ほど支援を得ていると感じる程度も強かった.また【対人情緒的対処】を多く求める者は,食道発声が上達するにつれて【情緒的支援】への満足感が増していた.ストレス対処パターンが〈情緒低・問題高〉群は,代用音声獲得の期待が高いと考えられ,「初心」クラスでは支援を受けていると認識しにくかった.
  • ──喉頭摘出者患者会会員の場合
    小竹 久実子, 鈴鴨 よしみ, 甲斐 一郎, 佐藤 みつ子, 今留 忍
    原稿種別: 研究報告
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_46-4_54
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,喉頭摘出者のフォーマルサポート(FS)とインフォーマルサポート(IS)の実態を明らかにし,心理的適応との関係からその意義を検討することである.喉頭摘出術を受け,患者会(喉摘会)に所属する450名が,ソーシャルサポートに関する質問や喉頭摘出者用Nottingham Adjustment Scale(NAS-J-PAL)を含む調査票に回答した.ソーシャルサポートと心理的適応の関係の解析には一般線形モデルを用いた.その結果,FSのニーズがあるにもかかわらず,医師・看護師のフォーマルサポートやシステムが不足していることが明らかになった.FSは,「失声の受容」「不安・うつ」と関連した.ISは,これらに加えて「自己効力感」「LOC」「自尊感情」とも関連した.喉頭摘出者に対する継続したFSシステムの不足が,喉頭摘出者の心理社会的な不適応を生じさせる可能性が示唆された.また,FSは喉頭摘出者の社会統合の促進に,ISは失声の受容などの認知的側面に対して重要な役割を果たす可能性がある.
  • 種吉 啓子
    原稿種別: 研究報告
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_55-4_63
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,摂食障害のある子どもとその親を支援する病棟看護師が,看護師の役割をどのように認識しているのかを明らかにすることである.3年目以上の看護師25名を対象に半構成的面接を行い,面接記録を質的帰納的に分析した.看護師は『キャストの用意』『プチ安全社会の調整』『社会生活のオリエンテーション』『家族に力をつける』『キャストの要件』という5つのカテゴリーから構成された「プチ安全社会のキャスト」という役割を認識していた.「プチ安全社会」とは,子どもにとって安全基地のような環境であり,看護師はその「キャスト」となり,子どもに対して社会生活のリハーサルを行っていた.「プチ安全社会のキャスト」は,役割を遂行するための看護師の準備や条件が表現された側面と,子どもとその親に対する役割の果たし方が表現された側面が存在した.「プチ安全社会のキャスト」という役割は,子どもとその親のライフスキルの向上につながることが考えられた.
  • 西田 志穗
    原稿種別: 研究報告
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_64-4_73
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は,NICUから小児病棟に転棟し継続入院する乳児の母親が,転棟後の小児病棟でどのような体験をしているのかを明らかにするために,民族看護学の方法を用いて行った.主要情報提供者であるNICUから小児病棟に転棟し継続入院する乳児の母親7名への参加観察と面接,一般情報提供者(小児病棟看護師・NICU看護師・医師・小児病棟に入院する子どもの母親・主要情報提供者の夫)17名への面接により得られたデータを分析した結果,6つのテーマと1つの大テーマが抽出された.
    母親にとって転棟は,「異空間」からの脱出と同時に,子どもが「生かされている存在」から一歩前進し,「生きている自分の子」になることだった.小児病棟では子どもの存在を実感し,安堵感を得ながら,子どもを世話するのは自分だと思うようになっていった.それは,看護師や母親同士の関係を通して確かなものになっていくという,母親になるプロセスでもあった.
    以上のことから,NICUから転棟してきた子どもの母親に対して,小児病棟では,①転棟時におけるNICUと小児病棟との連携,②習得速度に合わせたケアの移譲,③ケア習得に関する環境の整備,④母親同士が交流できる場の提供,が重要であることが示唆された.
  • ──術後せん妄症状の構造化
    石光 芙美子, 鎌倉 やよい, 深田 順子
    原稿種別: 研究報告
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_74-4_83
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は術後せん妄を観察するための術後せん妄症状を構造化することを目的とした.方法は,国内で報告された術後せん妄症状を網羅的に収集し,看護師の観察によって把握できる81項目を抽出した.この81項目から質問紙を構成し,861名の看護師を対象に「臨床場面で出会った頻度」を5段階の順序尺度で調査した.298名が分析対象となり,因子分析の結果,9因子51項目が抽出された.9因子は「拘束からの逃避」「認知の混乱と攻撃性」「訴えの亢進と減退」「幻覚」「乏しい表情」「関心の欠如」「活動の亢進」「不眠」「反応の低下」であった.すべての因子が,米国精神医学会の精神疾患診断統計マニュアル(DSM-IV)に記載されたせん妄の特徴に含まれる構造であった.因子毎のCronbach's α係数は,「関心の欠如」では0.58であったが,他の8因子では0.7以上を示し,一定の信頼性を確認できた.
  • ──保健センターで展開される健康教育の場において
    村田 淳子, 荒木田 美香子, 白井 文恵
    原稿種別: 研究報告
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_84-4_92
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,Health Literacy(以下HLと記す)の測定尺度を開発するために,HLの概念を明らかにすることである.分析は概念分析法の中のHybrid Modelを用い,文献検討と,成人を対象とした健康教室への参加観察によるフィールドワークを実施し,最後に両者の結果を統合した.
    両者の結果を統合した結果,HLは,Functional HL:《読み書き・計算》,Interactive HL:《入手》,《知覚・認知・理解》,《分析・選択・評価》,《活用》,Critical HL:《応用》,《他者への提供》の計3階層,7段階が抽出された.また,HLはこれらの段階を何度も繰り返すサイクルの過程を経て向上し,さらに,他者との会話や目標設定から課題の遂行までの教育プログラムや体力・身体測定はHLが向上する要因となることが明らかとなった.
    HLの各段階は健康学習理論と合致しており学習効果の測定に有用であると考えられるため,今後は本研究の結果を活用し,臨床で使用可能な測定用具の開発が求められる.
  • 岡田 佳詠
    原稿種別: 研究報告
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_93-4_101
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は,日本における,女性うつ病患者の認知の特徴と症状との関連を記述することを目的とした.性別による比較分析を行う意図から男女合計10名の対象者に対してインタビューを行い,オープン・コード化,カテゴリー化,さらにカテゴリー精錬のため理論的サンプリングを行った.その結果,中心となるカテゴリーには【依存対象へのしがみつき】が抽出され,女性うつ病患者の場合,《関係性における過剰な役割意識》《世話されることへの浸かりすぎ》《関係性・コミュニケーション上のコントロール喪失》の3つの特性で構成されていた.またそれらはうつ病の症状と相互に関連し,悪循環もみられた.今後,女性うつ病患者へのケア技術の開発の際には,女性の性役割とうつ病との関連を考慮すると同時に,3つの特性と症状との相互関係,悪循環を断ち切るため,認知療法によるアプローチを活用することが有効と示唆された.
  • ──コンジョイント分析を用いて
    姉崎 久敬, 阿曽 洋子, 大日 康史
    原稿種別: 研究報告
    2006 年 26 巻 4 号 p. 4_102-4_109
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2011/09/09
    ジャーナル フリー
    本研究は,看護師が,実施しているケアに対してどのように価値づけを行っているのかを経済的な観点から明らかにする.
    無作為抽出した500床以上の5総合病院に勤務する総数1,000名の看護師を対象に質問紙を配り,郵送による回収を行った.調査は,全身清拭,バイタルサイン測定,点滴管理,給与の4項目について実施回数および支給率を変化させた2つの仮想病院を提示し,二者択一で好ましい職場を回答するものである.それらの回答をコンジョイント分析し,ケアの労働量と同程度の金額がいくらになるのか推定を行った.
    以上の結果から,ケアを金額換算すると,月給が25万円の看護師の場合,全身清拭1回あたり93.38円,バイタルサイン測定は1回あたり35.98円,ルート管理1回あたり42.25円と推定された.
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