日本助産学会誌
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32 巻, 2 号
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巻頭言
総説
  • 石川 智恵
    2018 年 32 巻 2 号 p. 85-100
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    [早期公開] 公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    自信の概念を概念分析によって明らかにし,この概念を適用して中堅助産師の自信の構造とその構造を用いた研究の方向性を考察する。

    方 法

    助産学,看護学,教育学,心理学分野に関する国内外の論文を検索し,Walker & Avant(2008)の方法に沿って概念分析を行った。そして,①自信の概念の用いられ方,②関連する概念,③自信の属性,④自信の概念的定義,⑤モデル例,境界例,相反例,⑥自信の先行要件,帰結,影響因子を明らかにし,この概念を適用して中堅助産師の自信の構造とその構造を用いた研究の方向性,及び今後の課題について考察した。

    結 果

    自信は,ある特定の行動や能力に対する確信と,自分の価値に対する確信を含む包括的な概念であり,状況や文脈によって変化するという不確実性を持つ。

    属性は,①ある特定の行動や能力に対する確信,②自分の価値に対する確信,③不確実性である。先行要件は,ある役割や課題に取り組んでいる中で,それについて周囲から期待を寄せられたり,自分の目標を持つが,同時に周囲の期待に応えたり自分の目標に到達するのに不安を抱く状況である。帰結は,自分の思考や感情が肯定的に変化し,自分の成長を実感し,困難な状況や変革に挑戦できるようになることである。影響因子は,①困難な状況を克服する経験や成功体験を含む経験の内容とその意味づけ,②経験による熟達,③専門的知識と技術の保有,④自らを客観的に評価できる能力,⑤他者期待及び自己期待の充足度,⑥他者からの評価,⑦周囲のサポート,⑧職場等その人を取り巻く環境である。

    結 論

    自信の概念を適用して中堅助産師の自信の構造を提示することで,今後の研究の方向性として,それを用いて中堅助産師の自信を明らかにするための尺度開発が示唆された。また,自信の不確実性という特性を活かして,自信とそれに影響する因子との関係性を明らかにすることによって,現在の中堅助産師の自信に影響する課題も明らかにすることができる。

    今後は,中堅助産師が「自信がない」と語る言葉に込められた意味について明らかにし,中堅助産師に必要な自信について,さらに検討する必要がある。

原著
  • 宍戸 恵理, 八重 ゆかり, 堀内 成子
    2018 年 32 巻 2 号 p. 101-112
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    [早期公開] 公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    出産体験における痛みの予測と現実および疲労の予測と現実のギャップについて,ギャップと出産満足度がどのように関連しているか探索し,この関連について無痛分娩者と自然分娩者とを比較することで,分娩方法による違いがあるのか探索する。

    対象と方法

    同一対象者を産前・産後の2時点を追跡・比較する質問紙を用いた縦断的量的記述研究であり,都市部の総合周産期医療センター1施設で調査した。2時点のデータを確保できた609名のデータを用いて,統計学的に分析を行った。

    結 果

    1. 陣痛のギャップについて,「予測より痛かった」と回答した者が,自然分娩者に多かったが,会陰部痛のギャップは,「予測より痛かった」と回答した者が,無痛分娩者に多かった。

    2. 産後の疲労感の平均値は,無痛分娩者が60.1(SD=27.2),自然分娩者は52.2(SD=28.0)であり,無痛分娩者の方が有意に高かった(P<0.001)。また,無痛分娩者,自然分娩者ともに痛みと疲労感が「予測より痛かった/予測より疲れている」と回答した者は,「予測より痛くなかった/予測より疲れていない」,「予測通りだった」と回答した者よりも,産後の疲労感の得点が有意に高かった。

    3. 出産満足度の平均値は,無痛分娩者7.61(SD=1.85),自然分娩者8.65(SD=1.43)であり,自然分娩者の出産満足度は,無痛分娩者よりも有意に高かった(P<0.001)。陣痛のギャップ,分娩転帰と出産満足度について,分散分析した結果,陣痛のギャップと分娩転帰の交互作用は有意ではなかったが,それぞれ主効果は有意であった。また,無痛分娩者では,陣痛のギャップと出産満足度との間に負の関連が認められたが,自然分娩者では関連が認められなかった。

    結 論

    無痛分娩,自然分娩のどちらの場合も,痛みや疲労感に関する予想と現実とのギャップを小さくする方策が求められる。出産満足度を改善するためには,ギャップに着目する必要があり,それは無痛分娩でより重要である。

  • 佐藤 恵, 佐藤 眞理, 小山田 信子, 佐藤 喜根子
    2018 年 32 巻 2 号 p. 113-124
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    [早期公開] 公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    帝王切開による出生数は2014年には19.7%と増加している。日本において,経腟分娩で出産した母親と帝王切開術で出産をした母親の出産体験を同一の尺度で比較するための適切な尺度は見当たらない。そこで本研究では,出産体験の分娩様式による違いを比較するためにSalmon's Item Listの日本語版を開発することを目的とした。

    方 法

    まず,世界保健機関(WHO)が推奨する手順に沿って翻訳したSalmon's Item Listの日本語版を使用し,産後1ヶ月健診を受けた22名の女性にプレテストを実施した。次に5つの二次救急病院において産後1ヶ月健診を受けた女性401名が,プレテストで内容を確認したSalmon's Item Listの日本語版を実施した。分析にはSPSSver.23を使用し,有意水準は5%未満とした。

    結 果

    有効回答数は344名(68.8%)であった。信頼性を示すCronbach α係数は合計点において0.849,下位尺度では0.654–0.90であり,概ねオリジナル版と同様の結果であった。この尺度は,得点が高いほど肯定的な出産体験であることを示す。最も高得点であったのは予定帝王切開術であり,続いて自然分娩,緊急帝王切開術,吸引分娩であった。

    結 論

    このSalmon's Item List日本語版はどの分娩様式においても出産体験の客観的な評価のために使用できる。今後はさらに使用症例を増やし下位尺度の構成要素等,検討を重ねていく必要があると考える。

資料
  • 尾栢 みどり
    2018 年 32 巻 2 号 p. 125-137
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    [早期公開] 公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊娠期の妻への夫のサポート行動及び胎児への関心において,助産院・病院健診での違い及びその関連要因を明らかにする。

    対象と方法

    対象者は,正期産・経膣分娩(双胎を除く),出産後1週間以内の褥婦の夫328名で回収数は137名(回収率42.4%)であった。内訳は関東地方の助産院5ヶ所70名,総合病院の産科病棟1ヶ所67名であった。平成26年7~10月に無記名自記式質問紙調査を実施し,調査内容は妊娠期の妻への夫のサポート行動及び胎児への関心,夫婦間の愛情関係,妊婦健診・両親学級への同行に対する妻の希望などとした。差の検定はMann-WhitneyのU検定,二元配置分散分析などを,相関分析にはスピアマンの順位相関を用い,いずれも有意水準は5%とした。

    結 果

    対象者の年齢は26~52歳,平均36.2±5.3歳であった。助産院・病院健診の比較では,助産院健診に第2子以降が,病院健診に第1子が多かった(p<.01)。そのため,助産院・病院健診と第1子・第2子以降の2要因による二元配置分散分析を実施し,胎児への関心には第1子であることが影響していた(主効果,p<.001)。一方,妻へのサポート行動は,買い物の荷物を持つことは病院健診の場合に,散歩の付き添いや妻へのマッサージは第1子であることが影響しており,質問項目により結果が分かれた。

    妊娠期の妻への夫のサポート行動および胎児への関心の関連要因では,夫婦間の愛情関係得点が高いほど夫は妻へのサポート(ρ=.197~291,p<.05)をし,胎児への関心(ρ=.276~.313,p<.01)を示していた。

    結 論

    胎児への関心は,助産院と病院健診の違いではなく第1子の父親であることが影響していた。一方,妻へのサポート行動は質問項目により結果が分かれた。また,妻へのサポート行動や胎児への関心の関連要因は夫婦間の愛情関係などであった。

  • 中井 かをり, 齋藤 いずみ, 寺岡 歩
    2018 年 32 巻 2 号 p. 138-146
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    [早期公開] 公開日: 2018/11/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    現在,正常新生児は保険診療報酬の対象外であり,正常新生児への看護人員配置の基準はない。正常新生児への看護の安全性と質を上げるための看護人員配置を検討するための基礎的資料が求められている。本研究の目的は,出生直後から生後4日までの正常新生児に対し,産科の病棟内で実施している看護行為と看護時間を明らかにすることである。

    方 法

    産科の病棟を有する3施設において,マンツーマンタイムスタディ法により生後0日は出生直後からの8時間,生後1~4日は午前8:30~16:30までの8時間に看護者が正常新生児に対し実施した看護を111日間調査した。

    結 果

    対象は正常新生児64名と看護者122名であった。提供の多い看護行為には生後日数による変動がみられた。平均看護時間は,測定8時間のうち児1人当たりに約2時間を費やし,生後日数間に有意差はなかった。

    結 論

    本研究により,正常新生児への看護行為と看護時間が明らかになった。今後,さらに正常新生児への看護に専念できる人材の必要性を検討するためのデータの蓄積が望まれる。

  • 藤田 景子, 片岡 弥恵子, 石川 紀子, 井村 真澄, 福井 トシ子, 唐沢 泉, 菊地 敦子, 日隈 ふみ子, 松村 恵子, 真野 真紀 ...
    2018 年 32 巻 2 号 p. 147-158
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究は,助産外来と院内助産の開設,組織体制,運営,評価に関する実態を記述することを目的とした。

    方 法

    本研究は助産外来と院内助産の実態を記述する量的・質的記述的研究である。研究対象施設・対象者は,助産外来と院内助産の両者を設置し分娩の取り扱いがある病院・診療所とその施設の助産師とした。データ収集は,対象者にヒアリング前に質問紙に記入,その事前質問紙を用いた構成的面接を行った。期間は2017年9月から12月であった。調査内容は(1)助産師数とアドバンス助産師数(2)助産外来・院内助産の担当助産師の要件(3)対象妊産婦の基準,等とした。量的データは記述統計量を算出し,質的データは類似データをカテゴリ化した。本研究は,聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(17-A 054)。

    結 果

    全国28施設の助産師から同意と回答を得た。院内助産の年間分娩数は,平均45.5(SD65.2)件であったが,0から255件と幅があり中央値は13件であった。施設全体の助産師数は平均40.6(28.9)名であり,アドバンス助産師数は平均13.5(SD9.7)名であった。助産外来に関わる助産師数は平均12.8(SD9.4)名であり,経験年数が10~15年の助産師が最も多かった。一方,院内助産に関わる助産師数は10.1(SD3.9)名であり,経験年数20年以上が最も多かった。助産外来及び院内助産の妊婦の受診基準や医師への報告基準は27施設(96.4%)が設けており,産婦人科診療ガイドラインを参考に作成していた。2施設(7.1%)は,医師と協働して院内助産システムにおいて切迫早産の妊婦や社会的ハイリスク妊産婦に関わっていた。

    結 論

    助産外来や院内助産の対象者の受診や報告等の基準は,産婦人科ガイドラインを基盤に作成し,医師に相談報告がしやすい環境を生かし,助産師が安全にケアを行っている実態が明らかになった。

  • 谷郷 智美, 川村 千恵子, 寺井 陽子, 片桐 未希子, 大橋 一友
    2018 年 32 巻 2 号 p. 159-168
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は養育支援訪問事業に従事する助産師が持つ自身の支援に対する認識について明らかにすることである。

    対象と方法

    研究デザインは質的記述的研究であった。研究参加者はA助産師会に所属し,養育支援訪問に従事している助産師12名であった。半構造的面接により自身の支援に対する認識について尋ねた。得られたデータを質的帰納的に分析した。

    結 果

    養育支援訪問事業に従事する助産師が行っている自身の支援に対する認識は26個のサブカテゴリーと9個のカテゴリー【】が抽出され,『関係作りの大切さ・難しさ』『支援者としての精神的負担・充足感』『支援上の困難・課題』の3つに分類された。助産師は『関係作りの大切さ・難しさ』を認識し,自身の支援に対して【訪問が継続できるように関係作りに力を入れる】【自分の知識と技術と継続訪問の強みを活かす】【対象者の自信を向上させるために対象者を受容し,対象者の現在の力を伸ばす】と認識していた。また『支援者としての精神的負担・充足感』を感じ,【自分の精神的負担をマネジメントする】【自分の支援の成果が不十分に思え精神的負担を感じる】一方,【自分の支援の成果にやりがいを感じる】【視野が広がり自分の助産師活動に深みが増したと感じる】と認識していた。また,『支援上の困難・課題』に対して【支援の責任範囲と支援の限界を見極める】【同事業従事の助産師とのコミュニケーションの必要性を感じる】と認識していた。

    結 論

    助産師は自身の行っている支援は専門性を活かした継続的支援であり,従事によって助産師活動に深みが増し自身の成長につながると認識していた。一方対象者と向き合う為に精神的な負担も大きく助産師に対する支援を求めるとともに,自身の支援の範囲を見極めていた。

  • 大島 和美, 横井 暁, 柴田 幸子, 真野 真紀子
    2018 年 32 巻 2 号 p. 169-177
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    目 的

    バースセンター(以下BC)は,総合周産期母子医療センターに併設する院内助産施設である。BCでは妊娠分娩経過は正常であっても,出産後に予期せぬ多量出血を経験することがある。生殖補助医療(以下ART)妊娠は癒着胎盤のリスク因子と言われており,且つ癒着胎盤は産科危機的出血の原因となり得る。当施設ではART妊娠であっても院内助産分娩希望があれば,産科医許可のもとBCで分娩を取扱っている。本研究ではART妊娠(新鮮胚移植妊娠,融解胚移植妊娠)の産後過多出血(以下PPH)を検証し,院内助産におけるリスク評価,及び対応を検討した。

    対象と方法

    研究デザインは症例対照研究である。対象は2013年4月から2016年3月の調査期間中にBCで取り扱った分娩604例で,うち非ART妊娠は567例,ART妊娠は37例(新鮮胚移植9例,融解胚移植28例)であった。非ART妊娠と新鮮胚移植妊娠,融解胚移植妊娠で分娩後出血量,産褥24時間出血量,及びPPH(分娩後出血500ml以上,産褥24時間出血800ml以上)頻度の統計解析を行った。分娩後出血量,産褥24時間出血量を重回帰分析で,PPH頻度を多変量ロジスティック分析により検証した。

    結 果

    融解胚移植妊娠は分娩後出血量,産褥24時間出血量が非ART妊娠より有意に多く,PPHの頻度は非ART妊娠より有意に高かった。PPHのうち4例が産科危機的出血であったが,うち3例は融解胚移植のART妊婦であった。

    結 論

    ART妊婦の中でも融解胚移植妊娠はPPHのリスク因子になることが示唆された。融解胚移植妊娠については医師と速やかな医療連携がとれる体制の確立,及び将来的に院内助産分娩の対象から除外すべきか検討するための調査が必要と考える。

  • 野口 真貴子, 高橋 紀子, 藤田 和佳子, 安積 陽子, 髙室 典子
    2018 年 32 巻 2 号 p. 178-189
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    目 的

    事業初年度に札幌市産後ケア事業を利用した女性の特徴と,利用した産後ケアに関連した産後や産後ケアに対する女性の認識を明らかにする。

    対象と方法

    対象は,2016年度札幌市産後ケア事業を利用し,6か所の委託助産所で産後ケアを受けた女性である。記述的研究デザインで,量的調査と質的調査の方法論間トライアンギュレーションを用いた。量的調査は,基本属性や受けた産後ケアの内容や満足度などを問う自記式質問票を用いた。質的調査は,産後ケアに対する女性の認識を問うインタビューガイドを作成し,半構成的インタビューを実施した。量的データはIBM SPSS Statistic 22を用い記述統計した。質的データは,Rapid Anthropological Assessment Procedure(RAP)に準じた。

    結 果

    2016年9月から2017年3月に札幌市産後ケア事業によるケアを受けた女性57名に量的調査を,21名に質的調査を実施した。49名(86.0%)が,札幌市産後ケア事業でうけたサービス,ケアに対して満足していたが,あまり満足していない,不満だった女性も少数,認められた。質的調査の結果,札幌市産後ケア事業を受けた女性には【出産施設で過ごした産後】,【出産後のつらさ】,【産後ケアを求めた理由】,【産後ケアでの実体験】,【助産院の特質】,【産後ケアに要する費用】,【産後ケアへの要望】という7つのカテゴリーで示される産後ケアにかかわる認識が認められた。

    結 論

    札幌市産後ケア事業を利用したほとんどの女性は,受けた産後ケアに満足していた。女性たちは出産後の育児と自らの生活上の困難を認識し,公的産後ケアの必要性と有用性を実感し,産後ケアの拡充と公的助成の継続を望んでいた。

  • 橋爪 由紀子, 堀込 和代, 行田 智子
    2018 年 32 巻 2 号 p. 190-201
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,初産の母親が退院から産後4か月までの間に,母乳育児において心配や困難だと感じた出来事を明らかにすることである。

    対象と方法

    対象は産後3か月を経過している,母乳育児において心配や困難な出来事のあった初産の母親11名である。1人につき1回の半構成的面接を行い,得られたデータを質的帰納的に分析した。

    結 果

    初産の母親の母乳育児における心配や困難だと感じた出来事として,【母乳育児に順応しない子どもの反応】【うまくいかない授乳方法】【定まらない哺乳パターン】【母乳充足の判断】【順調に増えない母乳分泌量】【乳房・乳頭に発生する苦痛】【母乳育児による日常生活の変調】【母親の意向に沿わない周囲の関わり】の8カテゴリーが抽出された。

    母乳育児において心配や困難な出来事のあった初産の母親が,母乳育児についての不安が減り,自分なりの母乳育児ができるようになったと感じた時期は,早い者では産後1か月,遅い者では産後3か月であった。

    結 論

    本研究の結果より,助産師は,吸着困難など母乳育児がうまくいっていない母親には,退院後も入院中からの継続した支援を行っていく。また,助産師は母親の抱く母乳不足感に対して,子どもの体重や哺乳量を測定するという,母乳が足りていることを実感させる援助を行う。さらに,助産師は希望する母乳育児ができなかった母親に対して,心理的ケアを行うことが大切である。

    初産婦は,産後2~3か月まで母乳育児に慣れていないだけではなく,子どもとの生活そのものに慣れていない。そのため助産師は母乳育児支援において,母乳育児の手技や方法だけではなく,母と子2人の生活を考慮して行うことが大切である。

  • 金澤 悠喜, 加納 尚美
    2018 年 32 巻 2 号 p. 202-214
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    目 的

    第1子誕生に伴う夫からみた夫婦関係の変化の過程を明らかにすることを目的とした。

    対象と方法

    生後1~3ヶ月の第1子のいる父親に,Focus Group Interviews(以下,FGIと略す。)を用いて質的帰納的研究を行った。承諾を得た市町村保健センターに,研究協力者の募集を依頼した。研究協力者は,5名と4名の2組のグループに別日程で承諾を得た上で,録音と録画を行いながらFGIを実施した。FGI内容は,逐語録にし,一定比較法と自然主義的探査法手続きを参考に分析を行った。本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得た。

    結 果

    第1子誕生に伴う夫からみた夫婦関係は,5つの過程で変化していた。子どもの誕生により,2人で子どもを育てるという【夫婦共通の目標への歩みの開始】をし,夫は【育児の大変さを理解し妻をサポートする役割の追加】をする。夫が妻をサポートする役割の追加をすることにより,夫婦は【夫婦関係のバランスを保つ工夫や再調整の実施】を行う。それにより,夫婦双方は【親になるお互いを受け入れようとする姿勢の出現】が生じる。これらの変化の過程を繰り返しながら,夫婦は共に2人で子どもを育てていくという【責任感の芽生えによる家族意識の向上】をするという変化の過程が生じていた。

    結 論

    夫からみた夫婦は,これまで明確ではなかった夫婦共通の目標を持ち歩み始める。共通の目標への歩みの開始は,夫に妻をサポートする役割を再認識させ,それに伴い夫婦は夫婦関係の再調整を行う。夫婦は再調整を行うことにより,親になるために共に成長していくことの必要性に気付き,双方が親になることを受け入れようとする姿勢を持つ。親になるという姿勢の出現により,夫婦で共に子どもを育てていこうという夫としての責任感が芽生え,夫からみた夫婦は徐々に子どもを含めた家族意識を高めていく。第1子誕生後の夫婦は,以上のような変化の過程を踏み,家族発達をしていくことが示唆された。

  • 田中 利枝, 堀内 成子
    2018 年 32 巻 2 号 p. 215-225
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル フリー

    目 的

    産科病棟での早産児の母親の母乳分泌を促すケアの現状と課題について母親の搾乳実施状況と看護者によるケアの現状の両側面から探索する。

    対象と方法

    早産児(在胎週数28,30週)の母親2名の産後1ヶ月間の搾乳実施状況(毎回の搾乳開始時間と終了時間,1日の搾乳回数,搾乳量,搾乳方法,搾乳場所,搾乳前後の出来事,毎日の気分)を調査し,搾乳の実態を記述した。また産科病棟で働く経験年数4年目の助産師4名に,早産児の母親の母乳分泌を促すケアの現状と課題についてフォーカスグループインタビューを実施し,語られた内容を質的帰納的に分析した。

    結 果

    母親2名の産後1ヶ月間の搾乳実施状況は,初回搾乳開始時期が分娩後1時間よりも遅延していた。出産当日を除き1日平均搾乳回数は,母親Aが6.83回,母親Bが6.67回であった。両者とも出産後1ヶ月間で安定的に1日500ml以上の搾乳量を維持することが困難な状況にあった。また助産師に対してフォーカスグループインタビューを行った結果,早産児の母親の母乳分泌を促すケアの現状および課題として【暗黙のケア方針】,【帝王切開分娩後の早期搾乳開始の難しさ】,【母親の搾乳リズムを確立させる難しさ】,【退院後に関わる機会のなさ】,【NICUと連携してケアする困難さ】,【母親の搾乳へのモチベーションを維持する難しさ】のカテゴリーが抽出された。

    結 論

    早産児の母親の搾乳実施状況は搾乳開始時期が分娩後1時間よりも遅延し,搾乳回数が不足していた。産科病棟における母親の母乳分泌を促すケアにはいくつかの困難があり,特に搾乳開始時期の遅延は帝王切開分娩後だけでなく経膣分娩後にも生じており,看護者の認識と実際にギャップが生じていた。今後はこれらの現状を踏まえ,産科病棟で働く看護者が早産児の母親の母乳分泌を促すケア基準を設け,早期搾乳開始,頻回搾乳の支援に取り組めるような教育プログラムを開発していく必要がある。

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