帯状疱疹後に腹壁偽性ヘルニアを発症した2症例を報告する.症例1は,60歳代男性.左腰腹部(胸髄神経T11-T12領域)に疼痛を自覚し,その後に紅暈を伴う水疱が発症.アメナメビル400 mgを7日間投与した治療7日目に,左側腹部の無自覚性の膨隆に気づいた.CT検査の結果,腹水,腫瘤,腸管ヘルニアなどの症状はなく,腹筋の麻痺による腹壁偽性ヘルニアと診断した.症例2は,70歳代女性.左腰腹部(胸髄神経T11-T12領域)の疼痛の1週間後に同部位に紅暈を伴う水疱が発症.アメナメビル400 mgを7日間投与した.治療開始から14日目の再診時に左側腹部の膨隆に気づいた.問診と臨床所見から帯状疱疹後に生じた腹壁偽性ヘルニアと臨床診断した.症例1, 2共に腹痛,便秘などの自覚症状はなく膨隆部の皮下の腹筋の膨隆を触れた.症例1は大学病院ペインセンターで知覚神経障害の治療をして3か月経過時に,疼痛は軽快した.さらに腹壁偽性ヘルニアも無治療で同時期に改善した.症例2は帯状疱疹の疼痛は治療により軽快した.また,腹壁偽性ヘルニアは発症後4か月経過時には無治療で改善,消失した.帯状疱疹の合併症として,知覚神経障害はよく知られており,また,運動神経障害としては顔面神経麻痺を起こすRamsay Hunt 症候群やその他の胸髄神経障害による腹壁偽性ヘルニアおよび,腰髄や仙髄神経障害による直腸・膀胱障害などの運動神経障害については,皮膚科医の間では周知のことである.しかし,運動神経障害については,知ってはいても開業医が実際に臨床経験する機会は少ない.腹壁偽性ヘルニアは,腸の膨張による真のヘルニアではなく,帯状疱疹に伴う腹筋の運動神経障害によって発生する.腹筋麻痺の正確なメカニズムはよくわかっていないが,後根神経節から前角細胞,前神経根への炎症拡大による運動神経の障害が推測されている. 確定診断は,CTスキャン,MRI,筋電図などによって行われる.しかし,既往歴や問診および臨床所見により,特別な検査をせずとも確定診断が可能である.積極的な治療の必要はなく,通常,平均4.9ヶ月で79.3%の症例で自然回復するため,経過観察すればよい.腰腹部(胸髄神経T10-T12領域)の帯状疱疹の患者を診察する際には,皮疹や痛みだけでなく,腹壁の膨らみにも注意が必要である.
抄録全体を表示