日本臨床皮膚科医会雑誌
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39 巻, 5 号
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論文
  • 髙橋 博之
    2022 年 39 巻 5 号 p. 660-666
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/18
    ジャーナル フリー
    90歳,女性.初診の約3ヶ月前から左母趾にあった腫瘍に対して疣贅として近医内科で治療を受けていたが病変が増大したため他院皮膚科を受診した.精査を希望されなかったため液体窒素で加療するも感染や出血を繰り返し,歩行障害が出現したため当科紹介受診となった.初診時に腫瘍の基節側に不整形色素斑を認め,また左下肢の著明な浮腫と左鼠径リンパ節腫脹を伴っており悪性黒色腫や悪性リンパ腫などの悪性腫瘍を考え精査した.病理組織検査では,不整形色素斑には悪性黒色腫細胞を認めず,腫瘍部真皮内には炎症細胞とともに紡錘形でクロマチンに富む核異型を呈する腫瘍細胞と分裂像を認めた.腫瘍部の免疫組織化学染色では各種抗体のうちS100蛋白およびSOX10は大部分の腫瘍細胞に陽性であったが,MITF やH3K27me3を含めMelan-A,HMB45,cytokeratin染色は陰性であり,悪性末梢神経鞘腫瘍と診断した.CT検査による全身検索では左鼠径リンパ節腫脹以外に異常所見はなく,腫瘍表面からの細菌培養ではMRSA感染を認めたため局所処置をしたところ感染は軽快し鼠径リンパ節腫脹も縮小した.治療として患趾切断を含めた手術を勧めたが希望されなかったため,Mohs paste処置により腫瘍を削り縮小させた.腫瘍部が平坦化したため再度局所麻酔下での単純切除を提案したところ同意が得られたため残存部を切除した.術後病理組織では残存部には壊死組織とリンパ球や組織球の混在する炎症所見のみでS100蛋白やSOX10陽性細胞は認めなかった.抜糸後,歩行の支障も改善し退院後は2年間の経過観察中に再発や転移を認めず,その後は施設入所となり来院されなかったが,手術の約8年後に老衰で死去された. 皮膚に発症する悪性末梢神経鞘腫瘍は表在型とされ,軟部悪性腫瘍のなかでも比較的稀な腫瘍であり手指や足趾から発生する例は少ない.今回,高齢者の足趾に発生した悪性末梢神経鞘腫瘍の治療に関し,Mohs pasteによる術前処置後の切除により良好な経過が得られた症例を経験したので報告する.
  • 佐藤 俊次, 大原 國章
    2022 年 39 巻 5 号 p. 667-672
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/18
    ジャーナル フリー
    帯状疱疹後に腹壁偽性ヘルニアを発症した2症例を報告する.症例1は,60歳代男性.左腰腹部(胸髄神経T11-T12領域)に疼痛を自覚し,その後に紅暈を伴う水疱が発症.アメナメビル400 mgを7日間投与した治療7日目に,左側腹部の無自覚性の膨隆に気づいた.CT検査の結果,腹水,腫瘤,腸管ヘルニアなどの症状はなく,腹筋の麻痺による腹壁偽性ヘルニアと診断した.症例2は,70歳代女性.左腰腹部(胸髄神経T11-T12領域)の疼痛の1週間後に同部位に紅暈を伴う水疱が発症.アメナメビル400 mgを7日間投与した.治療開始から14日目の再診時に左側腹部の膨隆に気づいた.問診と臨床所見から帯状疱疹後に生じた腹壁偽性ヘルニアと臨床診断した.症例1, 2共に腹痛,便秘などの自覚症状はなく膨隆部の皮下の腹筋の膨隆を触れた.症例1は大学病院ペインセンターで知覚神経障害の治療をして3か月経過時に,疼痛は軽快した.さらに腹壁偽性ヘルニアも無治療で同時期に改善した.症例2は帯状疱疹の疼痛は治療により軽快した.また,腹壁偽性ヘルニアは発症後4か月経過時には無治療で改善,消失した.帯状疱疹の合併症として,知覚神経障害はよく知られており,また,運動神経障害としては顔面神経麻痺を起こすRamsay Hunt 症候群やその他の胸髄神経障害による腹壁偽性ヘルニアおよび,腰髄や仙髄神経障害による直腸・膀胱障害などの運動神経障害については,皮膚科医の間では周知のことである.しかし,運動神経障害については,知ってはいても開業医が実際に臨床経験する機会は少ない.腹壁偽性ヘルニアは,腸の膨張による真のヘルニアではなく,帯状疱疹に伴う腹筋の運動神経障害によって発生する.腹筋麻痺の正確なメカニズムはよくわかっていないが,後根神経節から前角細胞,前神経根への炎症拡大による運動神経の障害が推測されている. 確定診断は,CTスキャン,MRI,筋電図などによって行われる.しかし,既往歴や問診および臨床所見により,特別な検査をせずとも確定診断が可能である.積極的な治療の必要はなく,通常,平均4.9ヶ月で79.3%の症例で自然回復するため,経過観察すればよい.腰腹部(胸髄神経T10-T12領域)の帯状疱疹の患者を診察する際には,皮疹や痛みだけでなく,腹壁の膨らみにも注意が必要である.
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