黒色菌糸症は免疫不全患者の皮膚に好発する,黒色真菌による深在性真菌症である.今回,黒色菌糸症を2症例経験し,うち1症例で膿のKOH鏡検により迅速に診断を行えたので報告する.症例1は,87歳男性.肺小細胞癌(stageⅣB)に対して緩和治療中.初診の3か月前に転倒による外傷歴があり,抗菌薬による加療を受けたが,左環指基部腹側の発赤・腫脹が継続するため受診した.波動を触知し,超音波検査で皮下に境界明瞭な低エコー領域を認めた.膿汁の直接鏡検で多数の菌糸が観察された.症例2は,80歳男性.コントロール不良の2型糖尿病あり.1年前より右母指基部背側の小結節が出現,排膿を繰り返し,抗菌薬内服で改善しないため受診した.皮膚生検ではHE染色で両例とも肉芽腫性細胞浸潤を形成し,症例2では茶褐色調の菌糸を確認した.両例ともにGrocott染色で菌糸を多数認め,深在性皮膚真菌症と診断した.真菌培養及び遺伝子解析の結果から,症例1はPleurostomophora richardsiae,症例2はExophiala xenobioticaによる黒色菌糸症と最終診断した.両例とも切開排膿および,抗真菌薬テルビナフィン内服にて軽快した.黒色菌糸症は近年増加傾向にあることから,免疫不全患者で手指に膿貯留を伴う抗菌薬無効の肉芽腫性病変をみたときには,膿の直接鏡検を行い,菌糸陽性であれば本疾患を念頭に鑑別する必要があると考えられた.
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