作業療法
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38 巻, 1 号
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巻頭言
学術部報告
研究論文
  • ─若年者との比較─
    内田 智子, 長尾 徹
    2019 年 38 巻 1 号 p. 18-27
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,利き手交換訓練を高齢者に行う際のポイントを,若年者の筆圧および握り圧と比較し明らかにすることである.方法は,タブレット上に縦に提示された8個の図形を,ペンで上から順になぞる課題を10回繰り返した.計測データは平均・最高・最低筆圧,ペンの柄の平均・最高・最低握り圧であった.高齢者と若年者の各回のデータを群間比較した結果,筆圧は描画の前半で高齢者が低かったが,ペンの柄の握り圧では高齢者が高かった.高齢者は加齢による影響で,ペン操作時にペンを握り込む特徴がみられた.これらに配慮し,ペンの柄を握りやすい太さや形状にするなど,問題を解消するためのプログラム開発の必要性を示唆する結論となった.
  • 藤本 侑大, 松本 鉄也
    2019 年 38 巻 1 号 p. 28-36
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,救命救急センターにおける作業療法の実施状況および実施にかかわる問題点を調査することを目的とした.救命救急センターを有し,作業療法士が在籍する全国の260施設に対してアンケート調査を実施し,そのうち90施設(34.6%)から回答を得た.救命救急センターにおける作業療法実施施設は78施設(86.7%)であったが,介入状況は各施設で違いが認められた.非実施施設では人的要因が介入の障壁となっていた.また,実施・非実施施設とも救急・集中治療領域における作業療法の必要性の認識は高かった.今後は,救命救急センターへの介入体制の構築や本領域の医学的知識の教育体制の充実,作業療法の有用性の蓄積が課題である.
  • 久堀 佐知, 飯塚 照史, 児島 範明, 惠飛須 俊彦
    2019 年 38 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)退院後の脳血管疾患患者のADL能力は低下するとされ,退院前が最も高い能力を有するとされる.一方で慢性期脳血管疾患患者のADL能力と生活範囲,IADL能力やQOLは関連性があるとされるが,回復期病棟退院前を基準とした経時的変化との関連性の言及はない.本研究は脳血管疾患患者の退院前を基準とし在宅時とのFIM得点の比較,維持・改善と悪化に関わる因子探索を行った結果,移動項目に有意な低下を認め(p<0.05),FIM得点の維持・改善に関わる因子に生活範囲が関連していた.回復期の退院支援では,在宅時の活動範囲拡大を意図した指導でADL能力の維持・改善に寄与する可能性がある.
  • 北村 新, 宮本 礼子
    2019 年 38 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,脳卒中片麻痺者12名を対象に,彼らが生活のなかで麻痺手の使用・不使用にいたる主観的体験をインタビュー調査により明らかにした.分析は,戈木版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた.結果,脳卒中片麻痺者は【麻痺を呈した身体での生活場面】のなかで,【麻痺手を使う必要性の実感】,【健側手で生活ができることの実感】,【意識的な麻痺手使用の試み】,【意識する他者の視線】という経験を通して,【麻痺手を使用する手段・場面の選択】と【麻痺手を使用しない手段・場面の選択】に帰結することがわかった.麻痺手使用を支援するうえで,対象者が行う作業の特性や,個人的意味づけを考慮した関わりが重要であると考える.
  • 野口 卓也, 京極 真
    2019 年 38 巻 1 号 p. 54-63
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,ポジティブ作業に根ざした実践のプログラム(POBP)を開発し,適用方法を検討することであった.研究方法は2段階の手順を踏み,手順1で作業に根ざした実践に精通する作業療法士3名で学習教材を作成し,手順2でPOBPを精神障害者6名に実施した.効果指標はポジティブ作業評価15項目版(APO-15),ポジティブ作業の等化評価(EAPO),一般性セルフ・エフィカシー尺度を用い,解析はベイズ推定による一般化線形混合モデルで行った結果,手順1で学習教材が33種類作成され,手順2でAPO-15のエンゲージメント,EAPOのポジティブ作業の2因子で効果を認めた.POBPは精神障害者の幸福の促進に寄与する可能性があると示された.
  • 富士 しおり, 倉澤 茂樹, 宍戸 聖弥, 高田 哲
    2019 年 38 巻 1 号 p. 64-71
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;以下,ASD)児の感覚や運動,操作技能の問題は報告されているが,ASDの高校生年代の報告はほとんどない.そこで,ASD青年の作業遂行技能と感覚,自己効力感等との関連を,定型発達(Typical Development;以下,TD)青年と比較した.その結果,ASD青年は作業遂行技能に問題があり,感覚処理では感覚探求でTD青年より有意に低かった.また,ASD青年の作業遂行技能は感覚や自己効力感等と相関はなかったが,自己効力感等は感覚過敏と相関があった.これらより,高校生年代のASD青年にも継続した作業遂行技能と感覚処理の評価・支援が必要と言える.
実践報告
  • 齋藤 みのり, 佐野 伸之, 小林 隆司
    2019 年 38 巻 1 号 p. 72-77
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    自閉症スペクトラム児の対人社会性を阻害する要因の一つに,ファンタジーへの没入現象が指摘されている.今回,ファンタジー没入行動により,様々な日常生活の遂行に支障をきたしていた広汎性発達障害男児に対し,ファンタジーを外在化する作業活動を通した支援を行った.本児は,架空のカードゲームを頭の中で展開する遊びに,様々な日常生活場面で没頭していた.作業療法では,頭の中に描いているファンタジーを外在化し,それを用いて一緒に遊べるよう模索した.また,徐々に交流の場が広がるよう促した.これらの支援により,本児の頭の中のファンタジーが整理され,現実とのつながりを築いていき,生活障害が軽快したと考えられる.
  • 松嶌 ありさ, 竹林 崇, 竹内 健太, 島田 眞一
    2019 年 38 巻 1 号 p. 78-86
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    脳卒中発症後1ヵ月で麻痺側手指の随意伸展が不可能な場合,上肢の機能予後は悪いと報告されている.今回我々は,脳卒中発症後7週の時点で手指の随意伸展が見られない重度の上肢機能障害を呈し,予後不良と予測された症例に対してロボット療法を実施した.さらに上肢機能の改善後,麻痺手の機能を実生活に反映させるために,Constraint-induced movement therapyにおけるTransfer Packageの簡易版を実施した.結果,上肢機能は改善し,実生活で麻痺手が使用可能となった.上記から,重度の上肢機能障害に対してロボット療法を用いた複合療法は,一手段となる可能性がある.
  • ─家事や育児の困難により入退院を繰り返していた事例を通して─
    真下 いずみ, 四本 かやの, 角谷 慶子, 橋本 健志
    2019 年 38 巻 1 号 p. 87-95
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    併存障害を有する成人期ADHD患者に訪問作業療法を実施した.症例は40歳代の女性で,家事や育児を遂行できず入退院を繰り返していた.訪問作業療法では,注意の持続困難を考慮した片づけの工程の簡素化,視覚優位の特性を活かした視覚的手掛かりの設置などを行い,症例の遂行能力に適合するように環境を調整した.同時に,同居家族に心理教育を行い,多職種連携を行った.結果,症例は家事と育児を遂行できるようになり,介入後2年間入院しなかった.以上から,成人期ADHD患者の訪問作業療法の意義は,作業療法士が障害特性に関する医学的知識と作業の専門的知識を活用して,患者の生活を再建することであると考えられた.
  • 青山 克実, 豊嶋 明日美, 小林 暉尚
    2019 年 38 巻 1 号 p. 96-102
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    今回,筆者らは生活行為向上マネジメント(以下,MTDLP)を用いて,統合失調症の40代男性(以下,A氏)の地域生活移行支援を経験した.MTDLPの補助ツールとして,運動技能とプロセス技能評価(AMPS)を用いた.我々は,多職種連携支援をマネジメントし,A氏が退院後に必要で大切な食事の準備に焦点をあてた介入や,退院後の再発予防に対する心理教育などを行った.その結果,生活に対する有能性や認知機能障害が改善し,地域生活にスムーズにつながった.MTDLPは,統合失調症者の地域生活移行支援として有用なマネジメントツールだと考えられた.
  • 南 庄一郎
    2019 年 38 巻 1 号 p. 103-109
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    今回,筆者は疾病理解と服薬の必要性に関する理解の乏しさから病状が悪化し,精神科急性期病棟に入院となった統合失調症の事例に関わる機会を得た.介入経過の中で,事例が健康であった時に経験した「陶芸」が意味のある作業であることが発見され,陶芸を続けることで疾患と服薬に対する意識が変化し,自分らしい生活を送るためには服薬を継続し,健康維持を図ることが重要との認識を持つに至った.本論から,対象者の意味のある作業を中心とした「健康的な部分」に着目してアプローチすることは,「リカバリーモデル」や「ストレングスモデル」と共通性を持つと考えられ,統合失調症の急性期作業療法においても重要な視点となると考えられた.
  • ─ギター演奏という意味のある作業を生かして─
    南 庄一郎
    2019 年 38 巻 1 号 p. 110-116
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    今回,筆者は当院の医療観察法病棟において,重篤な精神病症状と衝動的な暴力によって,治療が停滞していた統合失調症の長期入院事例に関わる機会を得た.介入としての対話の中で,ギター演奏が事例にとって意味のある作業であることを見出した.事例はギターを演奏することを通して,治療に対する動機づけを高め,前向きに治療に取り組むことで地域生活を再開させた.医療観察法という強制医療の枠組みにおいて,対象者の意味のある作業に着目することは,対象者との関係性を構築し,ケアの進展を図る上で有用であり,長期入院化を打開する有効な手段となりうることが示唆された.
  • ─右腕神経叢損傷後疼痛を有する1症例での検討─
    田中 陽一, 大住 倫弘, 佐藤 剛介, 森岡 周
    2019 年 38 巻 1 号 p. 117-122
    発行日: 2019/02/15
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー
    地域在住の慢性疼痛症例に対し,疼痛強度の日内変動と日々の心理状態・身体活動量の調査を行った.症例は事故により右腕神経叢を損傷し,受傷以降右上肢に自発痛を有していた.14日間の調査の結果,疼痛の日内変動と身体活動量との関連では,低強度活動(家事や歩行などの立位を含む運動)が多いと疼痛強度が低下し,低強度活動が少ないと疼痛強度が増加する傾向が確認された.今回の低強度活動は,症例が日々の生活において重要度が高いと判断した「散歩」や「デイサービスの利用」などであることから,本人が重要と感じ,かつ低強度の運動時間を維持できる活動を行うことが,疼痛強度の低下に寄与したのではないかと考えられる.
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