作業療法
Online ISSN : 2434-4419
Print ISSN : 0289-4920
42 巻, 5 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
巻頭言
  • 花岡 秀明
    2023 年 42 巻 5 号 p. 551
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    約十数年間,病院や通所リハビリテーションの職場で臨床を経験した私には,ある出会いによって転機が訪れた.それを好機と捉え,通信制大学から大学院へ進学した.そして現在,大学で教鞭をとっている.大学院時代から興味を持ってこれまで継続して回想法の研究をしているために回想するわけではないが,学術活動との初めての接点は,養成校を卒業して間もなく日本作業療法学会が松山で開催された時期であったと言える.その時のテーマは確か「再び作業療法の核を問う」であったと思う.当時の自分は,臨床1年目の新人として県士会で事例報告をしたのみで,調査や研究活動を本格的に行った経験がなかった.そのため,学会とは作業療法に関する新しい知見を学ぶ集いの場としか思っていなかった.本来,学会とは専門職がその学術活動の成果を発表し,専門職としての成果を内外に発信し,お互いに知的好奇心を刺激しあい,より高めあう場であるのだが,こうした学会の意義や学術活動の重要性に全く気づくことができていなかった.それからしばらくは,これまでと同様に研修会に参加することはあったものの,主体的に学術活動に取り組むことはなく,臨床に役立つ情報とは,先人の著した著書から得るものだという固定観念から抜け出せていなかった.

原著論文
実践報告
  • ─箸の把握形態の学習により疲労が軽減した介入報告─
    豊田 拓磨, 佐々木 克尚, 清水 大輔, 沖田 学
    2023 年 42 巻 5 号 p. 622-629
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    失行症状を含む高次脳機能障害と運動麻痺を呈した症例は,「箸を使ったら疲れる」と訴え食事に1時間かかった.各評価および動作特性から,主な病態は症例がイメージする適切な箸の把握形態の構成が難しく,努力的な箸操作につながっていた.さらに箸の使いにくさを感じながら運動の誤りに気づけず,自己修正が困難で疲労感の増大を助長させていると解釈した.介入方針は,症例が最適な箸の把握形態が構成できて,その把握形態を定着することとした.介入は体性感覚情報を基に自己の運動に置き換えることと,物品から把握形態を想起し構成することを実施した.その結果,症例がイメージした箸の把握形態が定着し,箸操作の疲労感や食事時間が改善した.

  • ─障壁やその対処方法に関する質的研究─
    山口 桜子, 友利 幸之介, 齋藤 佑樹, 高畑 脩平
    2023 年 42 巻 5 号 p. 630-637
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    学校作業療法が円滑に実施できるまでには様々な障壁があることが先行研究にて明らかとなっているが,作業療法士はその障壁をどのように乗り越えているだろうか.今回,複線径路・等至性アプローチ(TEA)を用いて,学校作業療法を円滑に実践するためのプロセスの理論化を目指した.その結果,広範囲に安定的に学校作業療法を実施するためのターニングポイントとなる6つの分岐点と,分岐点での行動選択を方向づける5つの信念や価値観が抽出された.これらの価値観に共通する概念として,作業療法士は常に相手の理解に努め,利他的に相手を活かす姿勢を貫いており,これが学校作業療法の障壁を乗り越えていく基本となっていると推察された.

  • 山元 直道, 古賀 誠, 野村 照幸
    2023 年 42 巻 5 号 p. 638-646
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    医療観察法の対象者の中には,精神疾患以外に知的障害や認知機能障害の併存が認められ,家事や調理の基本的技能の低さから生活が安定せず病状悪化につながる事例も多い.本事例にも知的障害と認知機能障害が認められ,健康や生活に無関心で不健康な生活を続けていた.作業療法や外泊訓練を通して,健康管理と家事や調理の技能獲得に向け,本事例が遂行できた内容に対して肯定的なフィードバックを用いて効率的な見本の提示や助言を行った結果,健康管理や生活技能の改善が図れた.医療観察法下における本事例への健康管理や生活技能への介入は,社会生活への価値を高めると共に再他害行為防止に作用し,社会復帰につながると考える.

  • 木田 聖吾, 由利 拓真, 加藤 早紀子
    2023 年 42 巻 5 号 p. 647-654
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    脳卒中後高次脳機能障害者の復職率は低く,復職支援には課題が残っている.本報告では,回復期リハビリテーション病棟にて脳卒中後高次脳機能障害者を対象として元の職業への復職を目的に模擬的就労訓練と段階的な定着支援を行い,模擬的就労訓練の適応方法と効果,および定着支援の段階付けについて検討した.その結果,脳卒中発症後11ヵ月で時短勤務,12ヵ月でフルタイム勤務にて元の職業へ復職となった.この結果から,回復期リハビリテーション病棟において模擬的就労訓練で実務に近い業務経験を行い,段階的に元の職場での定着支援を行うことが復職支援として有効である可能性が示唆された.

  • ─脳損傷者を対象とした事例報告─
    田中 創, 吉原 理美, 伊藤 恵美
    2023 年 42 巻 5 号 p. 655-662
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    【目的】ドライブレコーダーを用いて包括的に運転行動を評価し,対象者の運転再開を支援することを目的とした.【方法】脳損傷者1名を対象に実車運転評価を実施した.作業療法士は評価結果を書面にまとめて対象者へ郵送し,その内容について感想の返送を求めた.【結果】実車運転評価実施後のアンケートでは,自身の運転行動を客観的に振り返る機会を得たことに対する肯定的な感想が記載されていた.【結論】ドライブレコーダーを併用した運転評価を行い,その評価結果を書面にて呈示したことは,対象者本人が運転行動を振り返る機会となり,かつ,家族が対象者本人の運転能力を理解してもらう際に役立つ情報提供となった可能性が考えられた.

  • ─単一事例研究─
    小澤 弘幸, 渡邊 愛記, 石井 杏樹, 川上 祥, 小林 健太郎
    2023 年 42 巻 5 号 p. 663-669
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    視空間認知障害を呈した左片麻痺症例に対し,単一事例実験研究による応用行動分析学に基づいた上衣の着衣練習の有効性を検証した.着衣動作を6つの工程に分割し,それぞれに対して介助量によって点数付けをし,その得点と着衣動作の遂行時間を計測した.ベースライン期では試行錯誤による着衣練習,介入期では時間遅延法と視覚的プロンプト・フェイディング法による着衣練習を行った.その結果,介入期ではベースライン期に比べて着衣の遂行時間と得点が有意に改善し,その後も着衣動作が継続的に可能となった.これらより,応用行動分析学に基づいた着衣練習は,視空間認知障害を呈した片麻痺患者に対する有効な訓練方法であると示唆された.

  • ─認知機能に相違がある2例へCAODを用いて─
    酒井 四季子, 古桧山 建吾, 長谷部 将大
    2023 年 42 巻 5 号 p. 670-677
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    今回,回復期リハビリテーション病棟に入院した超高齢の2事例へ,CAODを用いた作業機能障害の改善を目指した作業に根ざした実践を行った.2事例は整形疾患を受傷し,ADLに介助が必要な状態であった.認知機能が良好なA氏は目標共有がしやすかった.一方,認知機能の低下を認めたB氏はA氏より作業の意味に気づきにくく,作業機能障害の改善にも時間を要した.視覚的な情報を用いて作業の再認識をすることで,A氏と同様に作業機能障害の改善を認めた.CAODを用いた作業機能障害の改善を目指した介入は対象者の作業の問題を捉えやすくし,超高齢事例の作業療法を展開するうえで有用な視点の一つになると考えられる.

  • ─事例報告─
    後藤 一樹, 野口 卓也
    2023 年 42 巻 5 号 p. 678-686
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    本実践の目的は,ポジティブ作業への関与状態を5段階評価できる関与度推定システム(以下,推定システム)を活用したポジティブ作業に根ざした実践(Positive Occupation-Based Practice;以下,POBP)の有用性を検討することであった.方法は,精神障害者2名のクライエントを対象に,推定システムを適用したPOBPを3ヵ月間実施した.介入は,推定システムの結果から推奨されるポジティブ作業を参考にPOBPを展開した.その結果,2事例はポジティブ感情の向上や精神状態の安定に肯定的な影響を示した.これより,本実践は推定システムをPOBPに適用できることを例証できたと考えられる.

  • 長倉 侑祐, 尾川 達也, 古賀 優之, 竜江 哲培
    2023 年 42 巻 5 号 p. 687-694
    発行日: 2023/10/15
    公開日: 2023/10/15
    ジャーナル フリー

    事故後の外傷性頸部症候群による慢性疼痛,重度の中枢性感作症候群,心的外傷を呈し,日常生活に支障をきたした事例を経験した.Aid for Decision-making in Occupation Choiceを用いて目標を設定し,Goal Attainment Scalingにて段階的作業療法プログラムを実施した.結果,VASとPCS,PSEQの改善は認められなかったものの,GASの達成度が向上し,目標と関係するPDASの「腰を使う活動」に改善を認め,行動変容に繋がった.本事例を通して,外傷性頸部症候群による慢性疼痛患者に対する目標に基づいた作業療法が行動変容の促進に繋がる可能性が示唆された.

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